老舗の後継ぎ2人が語る「誰もついていけない」AI雑談
この回は、前回に続くAIとDXの話題を掘り下げる番外編として始まりました。
番組は、京都と鹿児島の老舗企業を継ぐ後継ぎ経営者、桺本頌大さんと小平勘太さんが、事業承継と経営の現実を自らの経験をもとに語るものです。
桺本さんは創業134年のアナテック・ヤナコ、小平さんは創業114年のコビラ株式会社を継ぐ立場にあります。
そこら辺をもっと深掘って、もう誰もついていけないような話をしていきたいと思ってます。
一方で、後半では実際の会社でAIをどう組織にインストールするかという実践的な話もする予定だと、小平さんは先に断りを入れました。
うちでAIをどうやって組織にインストールするかみたいな話もしようと思うので、途中で話がつまんない人はちょっと飛ばしてください。
個人の推しは何か。ObsidianとManusの使い分け
まず、それぞれが最近推しているAIサービスの話になりました。
小平さんが使っているのはObsidianというメモアプリです。Obsidian ── Markdown形式でメモを管理するアプリ。ノート同士をリンクでつなぎ、情報のつながりを可視化できるのが特徴。ローカル環境で動く年末年始にGPTと相談し、個人で情報を溜めるならObsidianが合うと判断したといいます。
情報と情報のコネクションみたいのを作れて、なんか細胞みたいになるんですよ、Obsidianって。
その構造をAIに読ませると、関係性の中から適切な情報を持ってくる仕組みが作れると話します。一度は使いこなせずにいたものの、Claude Codeへの理解が上がってから全体を設計し直し、今はほぼ一日中触っているそうです。
桺本さんは、Obsidianがローカル環境で動き、作成されたMarkdownファイルをターミナルやCursorなど複数のツールから同じように見に行ける点を評価しました。ただし構築の難しさも指摘します。
結構その構築するの大変じゃないですか、やっぱり。そこら辺がちょっとめんどくさくて、まだできてなくて。
小平さんは、最初はUdemyの教材でプロンプトを得て基礎を作り、その後はClaude Codeと壁打ちしながら生産性を上げる方法を考えさせ、一つずつ実装していったと明かしました。
一方、桺本さんの推しはManusです。がっつりシステムを組むならClaude Codeが向くとしつつ、単発でAIを使う場面では、AIエージェントとして一番強いのはManusだと考えています。
エージェントがやっぱ長く動いてくれる。一回の処理で結構やってくれるっていうのと、あとは出てくる回答が、割と質が僕に合ってる。
2人は、AIには「合う・合わない」があるという点で意気投合しました。小平さんはGeminiが好きだがGPTのほうが優しく接してくれるとつい話してしまうと語り、回答の質感の違いに触れています。
社内ツールに最適なのはManus、と考える理由
話題は個人利用から社内での使い方に移りました。
小平さんは会社でGensparkを使っていた時期もあったものの、Geminiが賢くなってからはそちらへ移行したといいます。そのうえで、社内の効率化やサービス作りには、Manusに簡単なアプリを作らせるのが一番よいのではないかと話しました。
桺本さんは、経営者の多くにとってManusがちょうどよい選択肢だと考えています。
小平さんは、Manusがアプリを作るときにデプロイまで済ませてくれる点を挙げました。一方で自分はClaude Codeを開発ではなく、エージェント代わりに使っていると説明します。
Manusには会議の録音機能も加わりつつあり、小平さんは有料契約への切り替えを検討していると話しました。
中小企業のDXの最適解はNotebookLM
ここから、会社全体に合うツールとしてNotebookLMの話が中心になりました。
桺本さんは、中小企業のAI・DXに最も適しているのはNotebookLMではないかと述べます。NotebookLM ── Googleが提供する、登録した資料の範囲内で受け答えするAIサービス。PDFやウェブページ、テキストなどを読み込ませ、要約やスライド、音声解説などを生成できる小平さんも、引き継ぎ資料をすべて入れれば質問に答えてくれ、テストのような問題まで作れると評価しました。
あれ最初ある時、何すんだろうと思いながら見てたけど、あれがあんなに育つと思わなかった。
スライド生成やポッドキャスト機能、扱える拡張子や量の増加など、機能の拡張についても2人は話しました。
中小企業のマニュアルみたいな話でいうと、PDF全部ぶち込んでおけばそれで勝手に聞けるAI作れるみたいなとこありますもんね。
小平さんは、NotebookLMが無料でも使い始められること、そして入れた情報の中からしか答えを出さないことが、中小企業にとって使いやすいと指摘しました。
実際にコビラでは、社員が育休などで抜ける際にすべてのリソースをNotebookLMに入れ、後任者がそれと対話しながら引き継ぐ形をとっているそうです。社内の仕分けルールなども登録され、社内で最も使われているサービスかもしれないと語りました。
情報同士をつなげて管理できるローカルのメモアプリ。個人の情報蓄積に向く
長く動くAIエージェント。簡単なアプリ作成やデプロイまで任せられる
粘り強く多動的に動く開発向けAI。エージェント代わりの使い方も
登録した資料の範囲で答えるGoogleのサービス。引き継ぎやマニュアルに強い
Googleに賭けた英断と、残る課題
コビラは約1年半前に会社の環境をGoogleに移行しました。小平さんは、その判断を大正解だったと振り返ります。
当時MicrosoftのCopilotは有料オプションでしたが、これからのAIはGoogleが勝つと考え、思い切って移行したといいます。
桺本さんも、組織のDXが整っていない会社の最適解は、ほぼGoogleだと同意しました。
一方で、2人はGoogle環境に足りないものにも触れています。桺本さんはNotionやSlackのような機能、そしてAirtableやkintoneのようなノーコードデータベースが欲しいと語りました。
小平さんも、社内データの可視化に使っているLookerStudioがそれほど使いやすくはないとし、ノーコードで出力できる形になってほしいと話しています。
リング、AIグラス。ガジェットの未来
話題はソフトからAIガジェットへ移りました。
小平さんが欲しいのは、睡眠を測るリング系のデバイスと、Ray-BanとMetaが作っているようなAIグラスです。日本ではまだ売っていないため、アメリカに行く機会があれば買おうかと考えているといいます。
ここに全部目の前に翻訳とか、見えてるもの、全ての情報がやってくるっていう時代がもう来てる。
桺本さんも、最近はカメラは使えないものの表示や音声の認識ができるおしゃれなAIメガネが出てきたと紹介し、日常使いに馴染む製品が増えていくと期待を語りました。
さらに小平さんは、収録の前日にあたる1月14日ごろに話題になった、AppleとGoogleの提携についても触れます。iPhoneにGeminiが載る見込みだといい、iPhoneユーザーとして嬉しいと話しました。
AppleがAI開発から距離を置く判断について、桺本さんは今から追いつくのは難しいと述べ、2人は「AI戦争は誰も勝者がいないのでは」という見方も共有しました。
MetaのManus買収と、オンプレAIへの期待
続いて、MetaによるManusの買収の話になりました。
桺本さんは、Manusが中華系ではないと対外的に説明しているものの、中国政府はこうした買収を許さないだろうと見ています。中身はClaudeやGeminiを使っているという話も紹介しました。
小平さんは、Metaの狙いはサービスそのものより技術者の抱き込みにあるのではないかと推測します。桺本さんも、AI開発に苦戦するMetaが、うまくいっているバランスを買うのは賢い判断だと評しました。
さらに小平さんは、金融機関でAIの仕事をするオーストリア人の友人の例を挙げました。EUの規制で顧客情報をクラウド上で扱えない場合、LlamaやMistral AIのオンプレ版を使い、保険請求の一次仕分けを1日1万〜2万件処理しているといいます。オンプレ ── オンプレミスの略。クラウドではなく自社の設備やデバイス内でシステムを動かす形態。外部にデータを出さずに済む
この話から、ローカルLLMやデバイス内で動くEdge AIがガジェットで増えることへの期待が語られました。一方で桺本さんは、現状のローカルLLMは重く、高スペックのパソコンが必要で、更新のたびに入れ直す手間もあると課題を挙げています。
もっとも、2人とも飛行機や新幹線でAIを使って仕事をしたいわけではないと笑い、オフラインでまで仕事を追いかけたくないという本音も漏らしました。
大臣制度とAI幼稚園。組織にAIを入れる3層構造
後半は、コビラでのAI浸透の取り組みが語られました。
最も良かったのが「大臣制度」だといいます。社員を「Manus大臣」「Claude大臣」のように指名し、毎週ミーティングで試したことや新しいニュースを共有し続ける仕組みです。
当初は全員に使ってもらおうとしてうまくいかず、まず非エンジニアで好きな人を集めた「AI推進室」を作り、有料版を使えるようにして、できたことのユースケースを共有していったそうです。
こんなのができたっていう、そのユースケースを作って、どんどん共有していったみたいのが最初良かった。
ユースケースを紹介すると、他の人もそれを真似して使い出すという良い循環が生まれるといいます。
取り組みは3つの層で構成されています。トップラインを上げるAI推進室、他社も巻き込んだ勉強会の「AIラボ」、そして誰でもプライベート利用も含めて自由に使える「AI幼稚園」です。
ただし、意外にも投稿が少ないのがAI幼稚園だといいます。手相を見て終わってしまうような使い方より、業務でどう使えるかにこそ関心が集まると小平さんは話しました。
桺本さんも、AIを組織に入れるのは難しく、自社ではまだ本格導入できていないと明かします。予算の面で有料契約に踏み切れていない現状も語りました。
小平さんは、組織が変わる目安について次のように話します。
そのために評価にプラスする仕組みや、好奇心の強い若手に使ってもらう工夫をしてきたといいます。GoogleWorkspaceではGeminiとNotebookLMが学習されない設定で付いてくるため、誰でも使ってよいことにしていると補足しました。
音声入力とAIで、noteやXの発信はどう変わったか
最後に、日々の発信でAIをどう使っているかが話題になりました。
2人とも入力はほぼ音声入力です。小平さんはApple純正の音声入力を使い、精度はそこまで高くなくても十分だといいます。桺本さんも、漢字の変換が多少間違っても問題ないと同意しました。
桺本さんはManusにチャットルームを作り、音声でペラペラと話した内容を構造化・言語化させ、その一部を抜粋してXに投稿しているそうです。
割となんかAIと会話してネタ探すのって多いよね。
小平さんは、運転中にObsidianへメモを書き、着いたらClaude Codeで処理して行動に落とし込むといった使い方を紹介しました。noteの案出しも朝の壁打ちで行うといいます。
一方で、AIにすべてを書かせることには限界も感じています。過去のnoteをObsidianに入れて文体のルールブックを作り、それに沿って自動生成した記事をポストしても、まったく伸びなかったそうです。
音声入力して、こんなアイデアでこんなやつを自動で作ってってやってポストすると全く伸びないのね。
そこで小平さんは、経営論のような自分のnoteはすべて手で書くことにしたといいます。すると「いいね」が10倍近くになったと話しました。
ノウハウ系はAIに向く一方、自分のエピソードや思い、哲学系は手で書いたほうがよいという使い分けです。あえて誤字脱字を残してグルーヴ感を出すこともあると明かしました。
今後は、このポッドキャストの音声もダウンロードして言語化し、エピソードごとにnoteの記事やコミュニティに展開していきたいと2人は語り、番外編を締めくくりました。
まとめ
個人の推しツールから中小企業に合うサービス、組織への浸透の工夫まで、後継ぎ経営者2人の実践に根ざしたAI雑談でした。共通していたのは、道具そのものより「どう使い、どう根づかせるか」を重視する姿勢です。
- 個人利用ならObsidianやManus、Claude Codeなど、目的に応じた使い分けが語られた
- 中小企業のDXの最適解として、無料でも使え情報の範囲を絞れるNotebookLMが推された
- コビラはGoogle環境への移行を英断とし、DXが整わない会社の最適解はほぼGoogleとされた
- 大臣制度・AIラボ・AI幼稚園の3層で、使う人を3割まで増やす組織づくりが進められている
- 発信ではノウハウ系はAIに任せ、思いや哲学系は手で書くという使い分けが効果的だった






