反響が出てきたポッドキャスト、記事化への構想
本編に入る前に、2人はまず番組の反響を振り返ります。桺本さんによると、公開しているエピソードはこの時点で4本ほど。始めてから1ヶ月ほどの段階です。
なんかちょこちょこ聞いてますって言われることが増えたかなと思います。ポッドキャストとnoteと、読んでますとか聞いてますとか、そういうのは僕の個人的にはちょこちょこあったかなって感じでしたね。
たまたま京都でイベント出たら、「実は聞いてるんです」って、「めっちゃ面白いです」って言ってもらえたりとかしてるので。
桺本さんは、XなどのSNSほどの拡散力はないものの、毎回100回以上再生されている手応えを語ります。
一方で小平さんは、ポッドキャストが流れていく「フロー」の情報である点にも触れます。ナレッジをストックとして残すために、noteなどでより深くまとめていく構想があると話されています。
新規事業には「名刺代わり」と「事業再定義」の2種類がある
話題は本題の新規事業へ。小平さんは、新規事業には大きく2種類あるという整理を示します。
なんかある程度こう投資も最小限で、経営者の後継の名刺代わりになる、少し派手目のただ軽いパンチの新規事業と、もう一個はしっかり本業自体をシフトさせる、10億、100億ぐらいの投資を行ってやる新規事業が2つあって。
小平さん自身は、会社の利益構造をかなり変えてきた立場です。会社の価値定義のフレームそのものを変える方向に取り組んでいると話します。
一方で30代の頃は、本業とまったく関係ない農業系の事業など、自分が楽しければいいという発想の取り組みが多かったと振り返ります。
桺本さんも、この2軸で自社を整理します。名刺代わりの側では、IT・テクノロジー・AIと自社資源を掛け合わせる足がかりとして、個人的に起業して収益を立てる取り組みをしてきたと語ります。
本業を伸ばす側では、昨年のM&Aを挙げます。桺本さんの家業は環境計測機器の分野で、市場のパイがすでに埋まりつつあり、あまり伸びない領域だといいます。
だからこそ、既存のリソースを使いつつ新しいテクノロジーを掛け合わせたり、海外に出たりして事業を転換しないと生き残れない、という危機感を語りました。
投資は最小限。少し派手で軽いパンチ。話題づくりや後継ぎの印象づくりに使う
大きな投資を伴う本気の事業。本業のフレームや価値定義そのものを変える
既存顧客の7割を残す「本気の新規事業」の考え方
小平さんは、2つのタイプにアプローチの共通点があると整理します。既存の顧客の7割ほどを残しつつ、まったく違うアイデアで商品を届けるのが「本気」の方だといいます。
反対に、まったく関係ない分野でも、今伸びているところに届けるのが「軽いパンチ」の側だと説明します。
具体例として、中部アトツギ甲子園でグランプリを取った前飴の中村さんの取り組みを挙げます。既存の飴にカーボンオフセットを付け、広告的な商材として販売するものです。
それとかは多分全体の売り上げの5パーとかそんな感じなんで、多分軽めの新しい名刺代わりの新規商材で、彼のメインの内容である飴の生産とか菓子の卸を海外展開にするっていうのは本気の方のやつなのかなっていう違いがあるかなと思ってますね。
桺本さんも、この事例のわかりやすさに同意します。ファブレスで運営し、普通の駄菓子である飴を広告という領域へと昇華させることで、企業側の予算感も変わってくると解説します。
それでハマって、海外である程度の数量がまとまってくれば、本業の方にも大きいプラスになるので、そこのシームレス感みたいなところも綺麗に設計できてるなと思ったりします。
インフラ企業がどう新規事業を選ぶのか
桺本さんは、インフラ企業は一般的に新規事業が難しいとされる点に触れ、小平さんに始める時の基準をたずねます。
小平さんはまず、エネルギー事業の事例を挙げます。もともとはLPガスの卸と小売りの会社でしたが、15、16年前に叔父が電気販売を始めたといいます。数万世帯のガス顧客がいるため、電気を仕入れられれば販売できる構造でした。
仕入れコストを下げるため再エネに投資し、固定買い取り制度で投資分を回収する。制度期間が終われば無料の電気を社内やお客さんに販売できる、という設計です。
新規事業を選ぶ基準として、小平さんは社会変化への対応と、それがないと生活が成り立たないほど困っている人がいるかどうかを挙げます。
田舎の電気屋さんとか水道屋さんがバンバン潰れてるんですよ、高齢化で。だったらうちらで水道屋始めようぜとか、リフォームもやっちゃおうとか、クーラー取り付けまでやっちゃおうみたいなのは、絶対にお客がいて、払う人らがいて、しかも域内でシェア戦略を取れる。
既存顧客とのシナジーまであるなら、迷わずそちらへ打つと話されています。
新規事業は本業と「7割重なる」べき理由
小平さんは、本気の新規事業について1つの目安を持っています。今の事業と7割重なっていないといけない、というものです。
ガス事業から工事などへ広げる場合、重ならないのは3割ほどで、7割は重なると説明します。既存の資源を、そのまま他社の参入障壁にできる点が大きいといいます。
なぜ7割なのか。桺本さんが問うと、小平さんは自身の農業事業の失敗を根拠に挙げます。
最後の方とか農業資材を海外から輸入したり輸出したり、貿易の事業部との重ねは作ったんだけど、あんまりにも関係なさすぎて、社内のリソースの転用ができなかったっていうのが結構負けた理由だと思ってんですよ。トマト作るのにガスも関係ないじゃないですか。
桺本さんは、7割という数字を別の角度から評価します。それくらい重なっていないと、従業員が仕事についてこられないのではないか、という指摘です。
それだったらもう全然別の資本で外でやった方が良くて。
小平さんは、自社ITの事例も挙げます。もともとガスの販売管理や配送管理のソフトウェアを作るところから始まったため、社内が最初の顧客という状態でスタートできたといいます。
そのソフトを他のガス屋さんに導入して広げ、最近は既存ソフトへのAI導入や、保守・新規機能開発でのクラウドコード活用へとつなげています。既存事業と重なる形で、会社の幅を広げられていると話されています。
後継ぎM&Aと、撤退しにくい事業という基準
桺本さんは、自社でM&Aを続けたい理由に製造業の後継者不足を挙げます。誰も継がないが、黒字で利益が出ている会社が数多くあるといいます。
利益出てて続けられるけど、社長がもう年やから後継ぎもいないからもう辞めますみたいなケースやっぱ多くてですね。
京都は製造業の街で、小さな工場が数多くあります。そうした会社を救えれば互いにwin-winであり、会社の広がりにも、後継者不足というペインにも刺さると桺本さんは考えを語ります。
小平さんは、もう1つの基準として撤退率の高くない事業を選ぶことを挙げます。飲食は参入障壁が低く、すぐ撤退してしまうため難しいといいます。
過度な競争にならず、大きな利益が出なくても、ゆるゆると続けられる領域を意識していると話されています。
ビジョンとの整合性と「場に根ざしたイノベーション」
小平さんが挙げるもう1つの基準が、ビジョンとの整合性です。昨年8月に、エリア開発・街づくりの会社「日本村ビレッジ」を作った事例を紹介します。
地元に作る大きめの複合施設の建設やメンテナンスに加え、地域交通、空き家の改修、高齢化で管理が難しくなった温泉街の掃除代行などを担う構想です。
この会社は、若さあふれる街を作るというビジョンと整合し、かつ仕事もありそうだから始めたといいます。単体での成長や営利を強く求めるものではありません。
それは単体で成長や営利を求めるのではなく、ビジョンと重なり、間接的に本業へ返ってくるとわかるから、別会社で一旦始めてみようということか。
桺本頌大 さんからの質問
小平さんは中期的な視点を示します。空き家を改修して人が増えれば、その分エネルギーの顧客も増える。街の活性化そのものが、最終的に顧客の維持につながるというふわっとした関連性があると話されています。
さらに小平さんは、田村先生が提唱するという考え方を紹介します。
小平さんは自社周辺が課題だらけだといいます。昨年は空き家改修に特殊な膜を使う改修技術を開発し、今はモジュール化して販売する計画もあると語りました。自社で空き家工事までできるため、建材開発と組み合わせれば面白いビジネスになるといいます。
流行りに飛びつく失敗と、撤退のしやすさ
桺本さんは、ビジョンがないままいろいろな事業に手を出して失敗するケースについて問います。サウナやタピオカなど、流行っているからと始めるやり方をどう見るか、という問いです。
田舎の経営者がプレジデントとか雑誌見て、今これが流行ってんのかって言って、いきなり始めて、フランチャイズの元のところだけが儲かるみたいなことってものすごくよくあるので。
わかってやっているならいいが、そうでなければやめた方がいい、というのが小平さんの見方です。
桺本さんは、流行りに乗る場合でも在庫を持たないビジネスなら撤退が早いと補足します。AIコンサルのように自分1人で回せる事業を例に挙げました。
この流れで、桺本さんは撤退のしやすさを基準にするか小平さんにたずねます。小平さんは、撤退のしやすさに加え、自社の人材だけで回せるか、固定費がかからないかも考えると答えます。
今度作る複合施設も、基本はオフィスとして入居でペイする設計だといいます。だからこそ踏み切れると話されています。
人材リソースの配分と、新規事業を走らせる体制
桺本さんは人材のリソース配分をたずねます。既存の仕事がパンパンな中で、新規事業に人を回す余裕をどう作るのか、という問いです。
小平さんは、社内のビジネスの枠組み自体を大きく変えている最中だと答えます。将来的に成長しない産業は見直し、そこで生まれた余力を新規事業に回すパターンが多いといいます。
さらに、小平さん直下でひたすら新規事業を回す人材がいると明かします。
もうそれはもうひたすらに、毎週壁打ちしながら、こんだけアポ取れるまで帰ってくんなみたいな。
体制としては、小平さん自身がプロジェクトマネージャーを担い、そこに優秀な人材を全速力で走らせる形だといいます。
仮説設定と、社長がPMを担う意味
桺本さんは、新規事業がどう進展していくのかをたずねます。小平さんは、仮説を設定し、KGIとKPIを決めるところから始めると答えます。AIを壁打ち相手に使うこともあるといいます。
小平さんが自ら入る理由は、社内にどんなリソースがあるかを最もよく把握しているからです。
ここのガスのお客さんにターゲットするマーケットの偉い会社がいくつかあるから、じゃあそこに行くっていうのを、その部署の新入社員の子とかって絶対アクセスできないし、社長に紹介されたらその担当の人も紹介せざるを得ないので、そっちにつなげちゃう。
桺本さんは、ゴーを出す基準となるしきい値を問います。小平さんは、自分がやるものは7割から8割の確度で判断すると答えます。
一方、若手に任せるものは2割から3割でもとりあえず飛び込ませるといいます。
若手に不確実な領域へ飛び込ませるのは、それによって社内にどんな化学反応が起きるかを意識しているからだといいます。担当する人材は元プロスポーツ選手で、無限の体力と営業力があると小平さんは語ります。
ここにとりあえず行って、ダメだったらピボットしよう。ピボットする先は一緒に考えようかっていう感じで、ひたすらトライアンドエラーをいろんな方向にさせてる感じですね。
後継ぎが帰ってきた直後にやるべき新規事業
桺本さんは、後継ぎや新規事業を考える時に、どう考えて始めるかや人材リソース、ゴーの基準を聞きたかったと意図を語ります。
小平さんは、後継ぎが帰ってきた直後の新規事業は基本すべて自分でやれ、という考えを示します。
お金も補助金を取ってきたり、アトツギ甲子園とかで賞を取ってネームバリューを出して、100万、200万会社の金を使いつつ、3分の2ぐらいは補助金で取って、5、600万ぐらいの事業を1個回して、地元紙に顔付きで写真が載ればもう成功。
そこから本業へのグリップにつながるため、名刺代わりならそのイメージでよいといいます。一方で本業の方は、石橋を叩き、全員体制でガチでやらないといけないと話されています。
家業の利益構造を「フレーム替え」で変える
桺本さんは、自社の利益構造の変化を語ります。もともとメーカーとして製品販売が売上の多くを占めていましたが、5年前ごろから計測に使う薬品を自社で作って販売し始めました。
さらに部品販売の強化や、メンテナンス人材の採用にも取り組みました。その結果、製品販売よりもメンテナンス・部品・試薬の売上が大きくなり、複合機のカートリッジのような構造に近づいてきたといいます。
小平さんは、後継ぎ企業の一番の問題は、本業のマーケットが今後小さくなると見えている点だと整理します。それをどう変化させるかが本丸だといいます。
小平さんは、桺本さんの事例を材料の販売から薬品・部品・メンテナンスのサブスクリプションへの「フレーム替え」だと解説します。
自社についても、ガスを運ぶ会社から、生活すべての面倒を見る「トータルライフサポート」へと入れ替えていると語ります。ガスはその一部で、訪問のついでにさまざまな提案や修理ができる形です。
このフレームや考え方の違いを作ることが、後継ぎにとって最も大事な本丸だと話されています。
名刺代わりの事業が本業に戻ってくる循環
小平さんは、本業が斜陽で社内の空気が沈んでいる段階について語ります。後継ぎに対する社内の空気を変えるために、名刺代わりの新規事業が役立つといいます。
例えばサツマイモ農家なら、自動化という本丸に取り組む前に、海外向けのサツマイモのプロテインバーを作って少しバズる、といった形です。自分が今どちらのフェーズなのかを俯瞰して進めればよいと話されています。
桺本さんも、名刺的な事業から得た印象で本業に戻ってくるケースをよく見ると語ります。BtoBの会社がBtoCで何かを作り、それが評価されてBtoBの売上や仕事も増えるという循環です。
物が変わらなくても、ちょっと掛け合わせるだけで価値を生み出されたりとかすると思うんで、その辺を意識すると多分いいですもんね。
BtoBからBtoCへ、技術を生かす勝ち筋
小平さんは、BtoBからBtoCへの展開を最近の勝ち筋の1つに挙げます。例として、水門の会社である典臣鉄工所の事例を紹介します。
鉄工技術を使ってアート作品を手伝ったり、バーベキューグリルを作って海外で販売したりする取り組みです。会社のビジョンを社会に伝えることになり、採用にもつながるといいます。
BtoB事業はその技術を生かしたBtoCをやるっていうのはすごく有効な手段かなとは思いますね。
桺本さんは、こうした事例がSNSでも発信されている点に触れます。事例を見て研究し、自社でできることをやるのがよいと2人は話します。会社のストーリーや強み、気持ちを乗せられれば、よいものができるとまとめました。
まとめ
新規事業は「名刺代わり」と「事業再定義」の2種類に分けて考えると整理しやすい、というのがこの回の軸です。本業と7割重なるか、ビジョンと整合するか、撤退や運営がしやすいかといった基準を持ちながら、後継ぎのフェーズに応じて使い分けることが語られました。
- 新規事業は、投資が軽く話題づくり中心の「名刺代わり」と、本業を作り替える「事業再定義」の2種類で考える
- 本気の新規事業は、今の事業と7割重なり、既存資源をそのまま参入障壁にできることが目安になる
- ビジョンとの整合、撤退のしやすさ、自社人材で回せるか、固定費の低さも重要な判断基準になる
- 後継ぎ直後は補助金や賞を活用した名刺代わりの事業で社内の空気を変え、本業は全員体制でフレーム替えに取り組む
- 材料販売をサブスク型に、BtoBの技術をBtoCにと、同じリソースの価値の見せ方を変えることが後継ぎの本丸になる






