なぜ「ローカル企業経営」を語る番組を始めたのか
番組は、京都と鹿児島の老舗企業を継ぐ跡継ぎ経営者2人が、事業承継と経営の「綺麗事じゃない現実」を、自らの経験をもとに語るというコンセプトで始まりました。
きっかけは、小平さんが9月にX上で「ローカル企業のノウハウを貯めていきたい」と発信したこと。それに桺本さんが反応し、11月に京都で飲んだ席で具体化したといいます。
9月に僕がXでローカル企業のノウハウを貯めていきたいねと話した時に、翔大くんが反応してくれて、11月に京都で飲んだ時に具体化して、あっという間に始まったなという気持ちです。
小平さんがこのテーマにこだわるのは、地方の中小企業が抱える課題や社会的な重要性が、これまであまり語られてこなかったという問題意識からです。
地方の中小企業が面してる課題とか、社会的な重要性って結構重要なんだけど、そこまで今まで語られてこなかったっていうのはあると思っていて。
近年は「アトツギ」がカタカナ表記で注目され、中小企業庁 ── 経済産業省の外局。中小企業・小規模事業者の支援を担う行政機関で、事業承継や後継者支援などの政策を行っている。の支援対象にもなっています。長い歴史を持つ地方企業がイノベーションを生む点にも関心が集まっています。
一方で、その実践を構造化して語るコンテンツは少ない、と小平さんは指摘します。日本の企業のほとんどが中小企業であることを踏まえれば、そのレベルアップ自体が社会にとって重要だと考えています。
99パーセントぐらいが中小企業じゃないですか。なんで、その人たちのレベルアップすること自体が社会にとっても大事かなっていうのはすごい思ってます。
2人が目指すのは、自分たちの持つ実践知と、社会科学としての経営学の理屈を積み重ねること。跡継ぎとか地方ローカル企業経営論みたいな経営学を作っていけたら面白い、と語ります。
誰に聞いてほしいか、なぜこの2人なのか
番組が想定するリスナーは、ローカルの中小企業経営者だけではありません。そこで働く社員にも聞いてほしいと小平さんは話します。
多くの人が中小企業で働いており、「うちの会社うまくいってないな」と感じている人に、意味ややり方があると希望を持ってほしいという思いがあります。
また2人自身、跡継ぎとして育てられつつ、小平さんはコンサル、桺本さんは外資系企業を経て家業に入りました。外から入るとその環境は「異質」に感じられたといいます。
そこからやっぱり入ってみるとすごく異質なので、その異質さとどう向き合い、どうやればうまく経営をグリップして前に進めることができるのか。これから飛び込むような人たちの教材としても使ってもらいたい。
桺本さんも、価値観が真逆の環境に飛び込み、元々の文化を否定せずに自分たちのやり方をインストールしながら進めた経験を重ねます。
2人が一緒に番組を始めた理由は、互いに「構造化が得意」という共通点にあります。小平さんは桺本さんの印象をこう語ります。
ローカルの経営みたいなものがまだ特殊で構造化されてないので、それをちゃんと構造化、言語化していこうっていうのが目標なんで。お互いやっぱり理系肌というか、研究者肌でもあるので。
桺本さんも、初めて会って食事をした時に「似ているな」と感じたと振り返ります。新しい知識を入れることに貪欲で、それを実践に移す姿勢に共感したといいます。
2人の経歴と会社紹介
小平さんは1980年生まれの45歳。鹿児島県出身で、京都大学農学部から大学院はアメリカのイリノイ大学へ進み、品種改良や遺伝子の研究をしていました。
帰国後はITコンサルの会社で4年ほど、グローバルサプライチェーンや統計解析、戦略作りに携わります。その後、農業系の会社を立ち上げ、最終的に国内外で3社ほどを創業しました。
40代まで農業の人としてすごい知られていて。農業界隈の仕事友達がすごく今でも多い。
30代の終わりに実家の会社を立て直す必要から、農業系の会社をバイアウトや清算で区切りをつけ、家業に入ります。それが小平株式会社で、今年で114年目。エネルギーや再エネ、IT、貿易を手がけ、グループ全体で売上65億、従業員125名ほどの会社です。
スタートアップやって、コンサルやって、今地方の経営者という、なんか謎の経歴を持っております。
一方の桺本さんは京都出身の36歳で、4人家族。法政大学理工学部を卒業後、OBC ── 株式会社オービックビジネスコンサルタント。会計ソフト「勘定奉行」などを開発・販売する企業。でエンジニアを数年務めました。
家業を継ぐため京都に帰り、大学院を2つ経て京都大学の経営管理大学院でMBA ── 経営学修士。経営に関する専門知識を体系的に学ぶ大学院の学位。を取得。その間にブロックチェーン系の会社やコワーキングスペースの会社も起業しています。
3年ほど前にはXに注力し、NotionのアンバサダーやオーストラリアのCanvaでコミュニティマネージャーを務めるなど、ITツールの発信を続けた結果、フォロワーは3万人ほどになりました。
家業はアナテック・ヤナコ。京都で今年134年目の会社で、水質を測る環境計測機器を作っています。琵琶湖の水などを計測しており、グループ全体で従業員100名ほど。現在は母が社長を務め、桺本さんが継げば7代目にあたります。
2人の出会いはX。2023年ごろ、桺本さんが人事制度の見直しで相談相手を探し、小平さんにダメ元でDMを送ったのがきっかけでした。
僕が組織のコンサルするというか、色々ノウハウ提供する代わりにNotion教えてみたいな感じで。NotionとかCanva教えてもらったのがスタートかなと思います。
なぜ今、ローカル企業が「熱い」のか
本題である「なぜ今ローカル企業が熱いのか」。桺本さんは、小平さんがLocalZebraや後継ぎのコミュニティ、薩摩会議など、ローカルや後継ぎをリードする場の中心にいると見ています。
小平さんがローカル企業経営に本気になった原点は、意外にもロジカルなものではありませんでした。コロナ後に実家へ戻ると、会社は組織内で大喧嘩が起き、DXも進まず、業績も微妙という状態だったといいます。
自分の親とかじいさんがやってきた会社がなんかダサいのは許せないっていう、全然ロジカルじゃないところからスタートしたんですけど。
では、いま「ローカル企業がかっこいい」と感じる理由は何か。小平さんは、地方に希望が乏しい状況を挙げます。
人口が減れば自治体の予算も減り、インフラや教育・医療の格差も広がる。その中で企業が主導して地域や公共に貢献し、良いサイクルを作ることに可能性があると語ります。
さらに、東京がマーケットとして飽和する中で、スタートアップが地方に市場を広げようとする動きもあります。小平さんが理事を務めるNPOが毎年開く薩摩会議では、「改革は変革から始まる」と話しているといいます。
インフラ企業ならではの社会的な信用の積み重ねがあり、地元だからこそ動きやすい。外部から入るにはハードルがある一方で、跡を継いだ経営者が使命感を持てば会社も地域も一気に変えられる、というのが小平さんの見立てです。
腹を決めた3年、経営者一人が変わると会社が変わる
もっとも、小平さんが最初から自由に動けたわけではありません。実家に戻ったのは2008年ごろ、2010年には社長になったものの、実権はなかったといいます。
ふてくされて、外で会社作りまくってた時期が10年ぐらいあるんですね。
役員として貿易やIT、新規事業に関わりつつも、全体の意思決定をする立場ではありませんでした。転機はコロナ禍。首の手術を経て戻り、「やっぱり俺がやるしかない」と全てを継ぐ覚悟を決めます。
本当の意味で社長になったのはこの3年ほど。腹を決めてからは何でもできるようになり、会社をガラッと変えたといいます。
「とりあえず3年我慢してやりきる」という区切りが、去年10月末に終わったばかり。これを第四創業と呼び、50〜60もの施策を一気にやりきったと語ります。
桺本さんも共感します。2019〜2020年に家業へ入り、ちょうどDXが求められる時代になったことが追い風になりました。
本当に毎月新しいシステムを入れてって、まあ多分中にいる人は大変だったっていう部分もあるとは思うんですけど。今や京都でも結構DXが進んでる会社になってきたのかなっていうのはありますね。
後継ぎとスタートアップ、経営の面白さはどう違うか
話は「スタートアップと後継ぎ、どちらが大変か」という定番の議論へ。桺本さんは、後継ぎには資産や社員、そして信頼という土台があり、新しいことを始めやすい環境だと指摘します。
スタートアップだとキャッシュアウトの心配を常にしないといけないけど、あれがないってすごく経営者としてはありがたいなっていうのは思うかな。
一方で、後継ぎならではの難しさもあります。人や組織を一から引き継ぐ必要があり、多くの跡継ぎがここでつまずくといいます。
桺本さんは、既存の社員と揉めないよう、古い要素も新しい要素もインテグレーションして前に進めるバランス感覚が重要だと語ります。
戦略の組み方の違いも、小平さんが挙げるローカル企業ならではの特徴です。
原則として拡大するマーケットにコミットする
多くの事業がマーケット縮小を前提としており、その中でどのポジションを取るかを再構築する
地方企業って大体後継ぎの人が戻ると、全事業がもうマーケットシュリンク前提だったりする。これを前提に戦略を作り直さないといけないし、出血止めないといけない。
縮小市場を前提に、海外進出、既存事業とAIの組み合わせ、インフラ系ならIPOやM&Aと、選択肢は多様です。桺本さんの会社も昨年M&Aで会社を買っており、ロールアップM&Aのような手法にも触れます。
ローカル企業の「勝ち筋」とデザインの自由度
政策面でも後継ぎを支える動きが広がっています。小平さんは、中小企業庁の後継ぎ甲子園で今年、中部大会の審査員を務める予定だと明かします。
また、社会性と成長性を両立させる企業のあり方として「ゼブラ企業」が注目され、その地方版がローカルゼブラ ── 社会課題の解決と事業の成長を両立させるゼブラ企業の考え方を、地方に根ざした企業に適用したもの。スタートアップのユニコーンに対する概念として提唱されている。です。中小企業庁の支援事業も始まっています。
縮小の中でどんな打ち手を打つか。小平さんはそれを「ゲームとして面白い」と表現します。桺本さんも、まだ解かれていない課題を解く楽しさや、先代や先祖に返せる喜びがあると語ります。
小平さんは、会社を「所有させてもらっていて、次にバトンを引き継ぐために経営している」と捉えています。地元の薩摩焼の宗家の言葉も引きながら、革新の積み重ねこそが歴史だと話します。
昨日と同じことをやるのがローカル企業の経営ではないとは思ってるので、そこは丁寧に説明をしながら、リーダーシップを持って思うようにやっていく。
背景には人口減少の危機感もあります。鹿児島では2040年に労働人口が40パーセント減るとも言われ、同じことを続けては立ち行かない、と小平さんは強調します。
「地方豪族企業」と地域貢献の戦略的な意味
小平さんは自社の目指す姿を「地方豪族系企業」と表現します。桺本さんがその定義を尋ねると、垂直統合型のイメージだと答えます。
元々はエネルギーインフラの会社ですが、水道工事や電気工事のできる会社が地域から消えつつある中で、業務範囲がライフサポート全般へ広がっていくと見ています。
どんどん垂直統合していきながら、会社の全てを、地域の全てを賄っていく。最終的に俺ら多分自然環境の面倒まで見ないといけなくなるよねみたいなことを思いながら。
京都との違いも話題になりました。京都には大企業が多く地域を支えている一方、鹿児島の小平さんの地域では大企業がほぼなく、地域の会社しかありません。
誰が最後、この地域のケツ拭くかみたいなところは、もちろん市役所はありつつも、会社も企業としてもやらないといけないよなっていうのはすごい思ってる。
桺本さんは、京都では自社ぐらいの規模の会社が地域に貢献するのは意外と難しいと語ります。地域によって、中小企業庁が掲げる「百億企業」というロールモデルの意味も変わってくると小平さんは補足します。
利益・社会貢献・地域を「ロジカルに」つなぐ
桺本さんは、利益の追求、社会貢献、地域との関わりの3点が、今後のローカル企業の勝ち筋だと考えています。特に京都では難しい地域との関わりについて、小平さんに尋ねます。
小平さんの答えは明快で、地域への投資は趣味ではなく戦略だというものです。会社の資産として「物語」が重視される時代、地域への貢献はその物語を強化する投資だと捉えています。
鍵になるのが、資本を地域内で循環させる発想です。小平さんは「place based innovation ── 地域に根ざしたイノベーション。その土地の資源や課題に立脚した事業開発を指す考え方。」という言葉を使います。
組み合わせる
地域課題 × 地域資源 × テクノロジーで独特のイノベーションを作る
外で売る
生まれたものを地域外で売って収益にする
再投資する
得た収益を地域内のイノベーションに再投資し、循環を回す
桺本さんは、地域の見せ方やブランディング、物語の作り方が上手いと評しつつ、それが経済合理性にも成り立つ仕組みになっている点を指摘します。
2人に共通するのは、感情に流されすぎない姿勢です。エモさをそのまま出すのではなく、ロジカルに扱うのが2人のスタイルだといいます。
僕ら多分エモさをロジカルにやってますもんね。
これからの会社と、次回予告
最後に、それぞれが自社の推したい部分を語ります。小平さんは、2年前に本社を湯之元というシャッター温泉街に移し、周囲を改造していることを紹介します。
2026年には大きなプロジェクトも控えており、5万人規模の市の新しい勝ち筋を社会に提供する構想もあると話します。貿易やITが伸びており、地方にありながら最先端の会社を目指しています。
桺本さんの会社は今年M&Aを行い、AIやIT、採用にも投資。昨年はインドに現地法人を作るなど海外展開も強めています。帰ってきた弟と一緒に経営する体制を作り、守りが得意な弟に対し、桺本さんは攻めでグループを広げていく役割だといいます。
桺本さんは、京都では難しかった地域貢献にも今年から取り組みたいと語ります。両社とも採用に力を入れており、興味のある人への呼びかけで締めくくられました。
次回以降は、意思決定の裏側や組織、財務、人の話など、より踏み込んだテーマを扱う予定です。第2回のテーマは事業承継とのこと。
まとめ
初回は、京都と鹿児島の跡継ぎ経営者2人が、自己紹介を交えながらローカル企業経営の面白さを語り合いました。縮小する市場や人口減という前提を直視しつつ、経営者一人の変化が会社と地域を動かしうる可能性が示されました。
- 日本企業の大半を占める中小企業の実践知と経営学を結びつけ、地方ローカル企業経営論を作ることを目指す番組
- 後継ぎには資産・社員・信頼という土台があり、オーナー企業では経営者個人の変化が会社全体を変えうる
- 地方企業の戦略は市場縮小が前提で、その中でどのポジションを取るかの再構築に面白さがある
- 地域への貢献は趣味ではなく、物語を強化し本業につなげる戦略的投資として位置づけられる
- 地域課題・地域資源・テクノロジーを組み合わせ、外で稼いで地域に再投資する資本循環が勝ち筋になる





