組織づくりに共通する「3年かかる」という体感値
番組冒頭では、小平さんが最近読んだ2冊の本が紹介されました。1冊はAI時代の購買行動をテーマにした佐藤直之さんの『AIに選ばれファンに愛される』、もう1冊は複雑な問題への向き合い方を扱う山田和正さんの『システムのデザイン』です。
特に後者について、小平さんは組織の話とのつながりを指摘します。
特に今日話す組織の話とかもすごく複雑で、どこから手をつけたらいいのかが分かりづらい部分があるんで、そういった時にはこの本のアイデアはすごく使えるなと思いました。
今回のテーマである組織変革は、採用、報酬、評価制度、メンタルヘルス、エンゲージメントなど切り口が非常に多く、2人は全体像を大づかみに話す形を選びました。
まず両社の現状が共有されます。小平さんの会社は2022年から2025年にかけてMBOや等級制度といった標準的な仕組みを導入し終え、一周回って落ち着いたところ。ただし今年8月にグループ会社と合併するため、もう一周が必要な状況です。
桺本さんの会社では、現社長がかつて一人で人事制度づくりに挑んで頓挫した経緯があり、2023年から桺本さんが加わって人事制度やミッション・ビジョン・バリューの策定に取り組んできました。あと1年ほどで一周する見込みです。
2人が共通して口にしたのが、定着までにかかる時間です。
桺本さんも、計測可能な目標を立てるSMARTの法則を社内で言い続け、やっと3年でできるぐらいの感覚だと振り返ります。近年はAIを使い、目標がSMARTに沿っているかを客観的に確認できるようになってきたといいます。
制度を入れると「船酔い」する人にどう向き合うか
新しい制度の導入では、社長や既存社員の反発が課題になりがちです。桺本さんの場合、社長は人事制度に3年から5年かかることを理解し、全て桺本さんに任せる形で引いてくれたといいます。
古参社員からの強い反発はなかったものの、別の難しさがありました。
ついていきたいけどわからない、というところはどうしても発生してしまうので、そこは丁寧に教えながらやるしかないという感じはありますね。
小平さんはこの状態を「船酔い」と表現します。評価制度を一番できない人に合わせると永遠に変えられないため、理想の形に一気に変え、その後にこぼれ落ちる人をフォローするやり方をとっているといいます。
フォローの難しさについて、小平さんは反応のタイプごとに違いがあると指摘します。
キレる人はわかりやすいんだけど、拗ねる人が難しいよね。拗ねて後ろですごくブツブツ言って、空気がすごく悪くなるとか。
拗ねるタイプはサーベイでも顕在化しにくいため、インタビューで拾いにいく必要があると話されました。桺本さんも、能力が足りないだけならまだしも、制度そのものを疑っている状態だと対応が難しいと同意します。
評価制度が「あぶり出す」もの、そして新陳代謝
話題は、制度導入時のハレーションへのリアルな対応に移ります。小平さんは、こぼれ落ちる人を人事組織部の若いスタッフがカバーする仕組みを整える一方で、想定外の事態も起きたと語ります。
ちゃんとした評価制度や等級制度を入れることで、この人は実は仕事できてなかったんだ、という人があぶり出されるケースが数件あった。
本人が認めず逆ギレしたり、評価そのものが悪いと主張したりするケースもあり、話し合いの末に自主退職に至ったこともあったといいます。小平さんは、これを組織を変える効果でもあり、確実に新陳代謝が起きた点だと捉えています。
桺本さんも、新陳代謝は組織にとって悪いものではないと応じます。人事制度やブランディングを進めるほど会社の方向性が明確になり、合う人と合わない人がはっきりする。合わない人は辞め、対外的な発信で合う人を採用できる好循環が生まれているといいます。
小平さんは、先代の時代との価値観の違いを船にたとえて説明しました。
昔は社員は家族と思っていたので、どんなにダメでも家族は家族だから愛するみたいな感じがあった。でも会社は船なんで、オールを漕ぐのをサボっていたら降りてもらいますよ、という考え方はすごく反発があった。
ただし、辞めてもらう際のやり方には強いこだわりがあります。
桺本さんも、社員の幸せを考えれば自社にいない方が幸せなパターンもあると語り、ポジティブな気持ちで見送ることがほとんどだと話します。
小平さんは、社員が辞めない会社が良いとされた時代から価値観が変わったと補足します。
今は大体7%の社員が年間入れ替わるぐらいが、ちょうどいい新陳代謝が起こるというふうにする。うちはそれを目安にしている。
その代わり、良い人をちゃんと採用できる仕組みを作ることを基準に動いているといいます。
組織が「自走」し始めた手応えの見え方
組織変革の手応えをどこで感じるか、という話題に移ります。小平さんの会社では、全社集会であるビジョンミーティングのアンケートから、辞めそうな人が読み取れるといいます。理念や自己開示を求める場に合わない場合は、業務委託への切り替えも選択肢になると話されました。
組織が変わったと明確に感じた瞬間についても、具体的な場面が語られます。
組織的には30%変わったら、そこから雪崩が起きると言われていて。
直近の全社集会では、それまで小平さんと副社長がほぼ話しっぱなしだった構成が大きく変わったといいます。
僕が話したのは30分ぐらいで、副社長も30分ぐらいで、あとは17人か18人ぐらいが入れ代わり立ち代わりいろんなことを話してくれた。これは30%を超えたなとすごく思った。
桺本さんは、自社ではまだそこまで至っていないとしつつ、DXの場面では似た手応えがあったと語ります。誰かに言えばよかったことを必ずチャットに入れる、予定をカレンダーに入れるといった変化に反発はあったものの、若手が率先し、それに上が感化される形で広がったといいます。
始めて1年半から2年ぐらいで空気感が変わって、むしろDXしていることを誇りに思うような社員が増えていったなという感覚はあります。
小平さんは、期待できる若手社員に対して30分のショートな1on1を継続することが効果的だったと付け加えます。新規事業や地域系のプロジェクトリーダーを任せ、会社の方針との連動度を高める狙いです。
中間管理職という「一番かわいそう」なポジション
人材の登用について、小平さんはプロジェクトベースの手法を紹介します。何かをやる必要が生じたとき募集をかけ、手を挙げた人を1on1や評価の一部で支え、会社の方針との連動度を高めるやり方です。
一方で、2人が共通の課題として挙げたのが中間管理職の問題でした。人事制度を始めると、この層の課題が浮き彫りになると桺本さんは言います。
役員レベルはもともと賢い人だからいいし、若手は適応できるからいいんだけど、中間管理職が一番かわいそう。
小平さんの会社では、トップ営業が自動的にマネージャーになる従来のやり方を見直し、マネージャーに向く人と、スペシャリストとして専門性を発揮する枠を分けました。マネージャーの職務も4つに整理されています。
小平さんは、少なくとも情報収集・情報提供・支援行動はでき、自分で決められないなら上に相談する。それぐらいはチームリーダーや営業所長レベルにできてほしいと語ります。
研修の難しさについて、桺本さんは学校の授業をたとえに出します。同じ授業を受けても頭に入る人と入らない人がいるように、本人が学びたい・変わりたいと思っているかで身になるかどうかが変わる。だからこそ、親身にやりすぎることの是非も考えると話しました。
小平さんは、中間管理職の大変さの本質を、視点の切り替えにあると説明します。
中間管理職は部隊と中枢の概念を行ったり来たりしながら経営とも付き合わないといけないし、スタッフとも付き合わないといけない。その訓練を受けてないとできないことが多い。
向いていない場合は、適材適所でポジションを変えることの方が良いという結論が共有されました。
理念・戦略・組織はどうつながっているのか
後半は、組織の構造化についての話に入ります。桺本さんが、理念と戦略から組織を落とし込む関係性について尋ねると、小平さんはもともと組織へのアプローチを胡散臭いと感じていたと明かします。
転機になったのは、ある講義でした。
組織自体は戦略そのものだから、どういう結果を出したいかによって組織は柔軟に自由に変えていい。
極端に言えば、厳しいマイクロマネジメントであっても戦略を達成できるならそれでよい、という考え方です。小平さんは、理念・戦略・組織は相互に補完し影響し合う関係にあり、組織のあり方は戦略と理念から落とされると捉えるようになりました。
自社の例として、小平さんは相反する2つを両立させる組織像を掲げていると語ります。
成果と幸福を両方やるというのは実は相反する。夜中まで働いて成果を出すと幸せ度が下がる。これをうまく動的にバランシングしながら達成する葛藤内包型組織を目指している。
幸福だけを追えばぬるい組織になり、成果だけを求めればブラック企業になる。そのどちらでもない状態を、理念と戦略から落とし込むという発想です。
理念・戦略・組織
3つの相互関係の中から、目指す組織像を定義する
人事ポリシー
組織像を具体化する憲法として、方針を明文化する
報酬・等級・評価
人事ポリシーに沿って制度を設計する
定期的な見直し
3年ごとのメジャー、年1回のマイナーアップデートで更新する
小平さんの会社では、フラットで自律的な組織を目指すのではなく、まず情報が上下に流通する小さな三角形をしっかり作ることを人事ポリシーで定義しました。その上で報酬・等級・評価の仕組みを憲法として運営しているといいます。
さらに更新のルールも定められています。3年に一度メジャーアップデート、報酬・等級・評価のルールは年に一度マイナーアップデートを行う形です。桺本さんは、そのルールを自社では作っていなかったとして、作った方が絶対いいと強く反応しました。
情報共有という「土台」がなければ組織は変えられない
最後は、DXと組織運営のつながりが語られます。小平さんの会社が最初に取りかかったのは、情報共有ができる状態にすることでした。4年前はメールアドレスもカレンダーもSlackもなかったといいます。
現在はGoogle WorkspaceとSlackを全員に付与し、基本的な情報共有ができる状態になりました。使えない人には定期的に研修を提供しています。
桺本さんも、自社はDXの後に人事制度を作ったため、情報共有や見える化、アクセス権の土台があったからこそ人事制度が作れたと振り返ります。
情報共有が不十分だと、謎の噂が広まると小平さんは指摘します。組織コンサルが入っていることを「宗教家ばかりいる」と言われた例も挙げ、社長からのメッセージを噂が熟成される前に届けることを意識しているといいます。紙しか見ない高齢の社員には回覧板とSlackの両方で伝える工夫もしています。
組織サーベイについても具体的な運用が共有されました。小平さんの会社ではエンゲージメントサーベイを活用していますが、使うにはコツがあると話します。
定量的なデータは出るけど、ちゃんと定性的なインタビューや、実際に現場に足を運んで聞き取りを行わないと、それだけでは測れない。
たとえば「職場はどうですか」という質問でも、職場が会社全体か事業部か部署かで認識がずれ、答えがぶれるといいます。また結果が悪いときにマネージャーへの個人攻撃にしないため、課題を「伸びしろ」と呼び、チームで改善すべきものとして見せる工夫も語られました。
サーベイは先代の説得材料としても有効だと小平さんは言います。古参社員は先代にはいい顔をするため、若手が辞める原因を若者のせいにしがちですが、データがあれば情報共有や判断行動の課題が明確になるからです。
一方で、自分が社長になってから見るとつらいという本音も語られました。
自分が社長になってから使うと毎回すごくへこむんで、大体2、3週間会社が嫌いになる。それを毎回乗り越えて、じゃあ頑張ろうとなる。
それでも小平さんは、会社の舵取りには必要な情報だと結論づけます。社長である以上、一次情報は忖度されて手に入らないからです。
最後に、小平さんはこの日の話をまとめました。
理念・戦略・組織から組織を定義し、人事ポリシーに報酬・等級・評価を決めて定期的に見直す。何かをするときは組織サーベイをもとにする。ただし組織をやる前に情報共有のフローをDXしてからでないとひどいことになる。
まとめ
老舗企業を継ぐ2人の対話からは、組織変革が制度設計だけでも文化醸成だけでも成り立たないことが浮かび上がりました。定着には3年という時間がかかり、こぼれ落ちる人へのフォローや新陳代謝への向き合い方、そして情報共有という土台の整備が、すべて両輪として絡み合っています。
- 人事制度の定着には3年かかり、経営者と人事担当者の根気が問われる
- 制度は一番できない人に合わせず理想形に変え、こぼれ落ちる人をフォローする
- 評価制度は課題をあぶり出し、話し合いを尽くした新陳代謝は組織を健全にする
- 組織は戦略と理念から落とし込み、人事ポリシーと制度を定期的に見直す
- 情報共有のDXという土台がなければ、組織変革は疑心暗鬼を生んで進まない





