なぜ技術論ではなく「組織論」として書いたのか
この回のテーマは、前回に続くClaude時代の組織論です。桺本さんは金安さんが書いたXの連載記事を「すごく面白い」と評価し、AIやエージェント、Claude Codeの登場で組織や法人格の考え方が変わると感じたと話します。
金安さんによれば、この連載は軽い気持ちで書いたものが、想定以上に多くの人に読まれたといいます。最終的には60万以上のインプレッションがついたと見られます。
書いた動機は、X上に技術論やHowToが溢れていることへの違和感でした。
技術を学んで自分でいじって実装する、楽しいねって終わっちゃうこのサイクルにちょっと飽き始めてきたタイミングだったんですね。
自分一人の感動で終わらせるんじゃなくて、もっと広く、どういうふうに組織の仕組みとか、市場環境がこれで変えられるんだろうかってことを、もう少し抽象レイヤーで考える人たちがいってもいいんじゃないかと思ったのがきっかけで。
普段は組織論を語るより実務寄りが好きだという金安さんが、あえて苦手を我慢し、Claudeを技術論から組織論へ転換して語り直した結果が、この連載でした。
新しい技術が「短命なトレンド」で終わらないために
金安さんは、毎週のようにGeminiやChatGPTの新機能、Claudeのセキュリティといった話題が入れ替わる今の潮流を、過去の商業史と重ねて見ています。
2010年頃のアプリ開発ブームや、1990年代後半のアメリカでのECプラットフォーム乱立を例に挙げます。先行者利益や顧客獲得レースになると、プロダクトのトレンド自体が短いサイクルで終わってしまうと指摘します。
長く使われるものにするには、社会のシステムそのものを変える視点が必要だといいます。組織の話でいえば、面白いから使うというマウンティングのツールではなく、別の可能性に目を向けるべきだと語ります。
今まで組織の中で沈みになってた若手の発言力がないとか、会社の中で停滞しちゃっている中で、ローコストでいかに新しい事業に乗り出して、リスクが少ない状態で市場環境に自分たちが乗れるか。
こうした問題意識から、金安さんはClaudeを組織論として語っています。
エンジニア10人が3人に。組織の「作る民主化」
小平さんは、この収録の後にIT事業部を大きく変える打ち合わせが控えていると明かします。新規事業開発の体制を、エンジニア・マーケター・デザイナーの3人に絞る構想です。
昔なら10人ほどのエンジニアが必要だったところが、Claude Codeを回せばその規模は要らなくなったといいます。空いた人員は、地場を回る営業に振り向ける考えです。
基本的には一人の人にもトークンいくら使ってもいいから作りまくれっていうので、毎月毎月リリースさせて、それをリリースしてマーケティングして、地場でセミナーやったりして売っていく。
変化はエンジニアだけにとどまりません。経理や総務の事務担当者が、自分たちで業務改善のnocodeアプリを組むようになっているといいます。
小平さんは、この「作ることの民主化」が会社全体のスピード感を変え、企業間の差を広げていると感じています。
桺本さんが手がけるプラスチック成形の世界でも、3Dプリンターで部品が作れる時代になっています。廃盤部品を3Dプリンターで作りたいと営業担当が申し出て、その3D CADをClaudeで作る、といった動きも出てきているといいます。
小平さんは、こうした変化に合わせて評価も経営も引っ張られると語り、そのデザインが今こそ求められていると話します。そのトップランナーの一人が金安さんのチームだと見ています。
「作る前に整える」から「作りながら合意する」へ
桺本さんは、記事の中の「作る前に整える組織から、動かす組織へ」という章に触れ、合意形成の前提が大きく変わるという指摘に関心を寄せます。
金安さんは、トークンを気にせず作っていいと言える組織は、これからの時代の福利厚生になると応じます。それだけ若手にかける熱量やリソースの量が、定量的に伝わるからです。
一方で、従来の意思決定には根深い課題があると指摘します。会社の未来構想は経営陣の役割とされ、若手の声を聞いていると言う経営者も、最終的な判断基準は従業員に開示されていないことが多いといいます。
圧倒的にその戦略の解像度が高いのは経営陣しかいないと思うので、その解像度の違いがある中で、いかに現場レベルの人たちに作る機会を与えても、会社の経営と現場のずれが生じたりする。
さらに新規事業は不確実であるほど判断基準が曖昧になり、最後は経営者の腹決めや、根拠なきトレンドの後追いになりがちだといいます。それが組織内の対立や忖度につながる現場を、金安さんは数多く見てきました。
そこでClaudeが解放したのが、創造の民主化だと語ります。
一人の独創から、会社としての共通言語を作った上で意思決定をして、もっと言えば部署を超えた共創っていうのを促していくことができる。
これまでPowerPointの資料や個人の熱量だったものが、具体的な制作物によってコミュニケーションできるようになる。金安さんは、合意形成の仕組み自体も変えていくべきだと提唱します。
桺本さんも、打ち合わせの10分後には提案資料が作れる時代になったと実感を語ります。半年試してダメなら撤退という進め方が、30分から1時間で作って試し、ダメなら潰して再挑戦する形に変わってきていると話します。
撤退したリーダーが口を揃える「本当はやりたかった」
金安さんは、大企業で撤退した新規事業のリーダーにインタビューを続けているといいます。
撤退した事業部のリーダーの方がみんな口を揃えて言うことは、本当はやりたかったことがあったけど、トップが認めてくれなかったっていうんですね。
戦術を聞くと、ハマればマーケットを広げられたと思える案が多い。しかし一定のコストがかかるため、不確実さを認めきれず判断できなかった背景があったといいます。
この消化不良感をなくすために、金安さんは小さく試す進め方を提案します。大きな資本を入れず、まず目の前の100人にプロトタイプを使ってもらい、どれだけキャッシュインするかを見る。その結果をもとに、1000人、1万人へ広げる投資判断を実験していく考えです。
従来のPOCは不確実で定性的な判断になりがちでしたが、実際の結果を持って判断するコミュニケーションに変えることで、現場の情報がそのまま形になり、従業員の独走が強みになると語ります。
小平さんは、こうした挑戦を許す組織に合わせていくこと自体が競争力になり、人を引きつけると応じます。そのうえで、方向性を決めるのが理念や文化だと補足します。
定量化できないようなウェットな部分とか文化的な部分っていうところが、会社の真の競争力にどんどんつながっていく。
AIで一人が20個できる時代に、理念が際立つ理由
桺本さんは、一人が一つのことをできた時代から、一人が10個も20個もできる時代になったと指摘します。経営者がすべてをコントロールするのは難しくなっています。
これまで会社の天井は経営者の天井になりがちでしたが、それを突き破るのがAIだと桺本さんは考えます。だからこそ、ボトムアップの自由をどこまで許容し、成長につなげるかが組織の鍵になると話します。
ただし小平さんは、その「どこまでやっていいか」は理念から規定されると釘を刺します。理念がなければ、ただ好き勝手なことをするバラバラな組織になってしまうからです。
前回話題に上った銚子丸を例に、おもてなしにつながるサービスなら作っていい、おもてなしの時間を確保するためのDXやClaude Codeだ、という方向づけが必要だと説明します。
何も方向が期待されてない360度どこでも行っていいよだと、人は動けないので、逆に。
方向が定まらないと、かえって人は動けない。だからこそ理念という人間的な部分の重要さが増していく、と小平さんは語ります。
理念とは「利益の源泉」を定める価値判断基準
桺本さんは、AIが出てきたことで理念の価値が上がる感覚があるかと金安さんに尋ねます。
金安さんは、理念とは価値判断基準であり、ビジネスの用語でいえば自分たちの利益の源泉がどこかを明らかにすることだと答えます。
理念っていうのは、なんかふわっと共感する居心地のいいスローガンっていうわけではなくて、うちの会社はこれをやってお客様に提供価値を届けるんだってことを示して統一していく。
AIはその理念を強化するツールだといいます。価値判断基準の中で新しい提供価値をどう作るかを定めるものだ、という位置づけです。
利益の源泉となるリソースは会社ごとに異なります。銚子丸なら店舗、製造業なら既存クライアントとのエンゲージメントです。どこが一番伸ばせる領域かを見極め、そこへ新しい価値を届ける対話が、従業員間で必要になると語ります。
トークンは人件費か。新しい組織ガバナンスの課題
理念を言語化する手段としてもAIは使えますが、金安さんはアプリケーション全体をバイブコーディングで作り切るのはまだ先の未来だと見ています。
中小企業でも大企業でも、会社のセキュリティ審査やサーバーへのアクセス制限があり、一従業員がAPIを自由にいじることは認められていないのが実情だといいます。実験したものを市場にリリースするには相当な壁があるという指摘です。
そこで金安さんが需要を見込むのが、意思決定のためのサービスです。機密情報にアクセスせず、クラウドアプリ上に簡易プロトタイプを実装し、既存顧客に提供する。ファンアプリや会社サイトと一部連携させ、セキュリティリスクの低い形で誰もが触れる仕組みが求められると話します。
一方、小平さんが挙げたトークン問題は、エンジニアリングの世界では昔からある課題だといいます。サーバーやAWSの容量と同じで、自由度を従業員にどう与えるかが問われます。
みんなが好き放題作っちゃうと、すぐにトークンっていっぱいになっちゃうので、普通に100万200万飛んでっちゃうと思うんですよ。
そこで金安さんは、従業員ごとに使えるトークン量を配布するような、新しい組織ガバナンスが必要になると提案します。かつてシステム部が担っていた役割を、従業員全体の自律性の設計として考え直す発想です。
桺本さんは、海外でも日本でもAIのトークン費を人件費として捉える考え方が出てきていると補足します。人を雇う固定費の代替として、トークンが位置づけられ始めているという見立てです。
人を雇うか、トークンを増やすか。難しくなる経営判断
金安さんは、AIが進むほど人を雇う判断が臆病になり、特にジュニア層の育成が難しくなると指摘します。
30万の人を雇うよりか、もう10万円分トークンの幅増やしても多分同じ結果だよねみたいになりかねない。
海外輸出のようなホワイトスペースなら、先行者利益を得やすいぶん人件費を削ってもよいといいます。しかし成長産業の乏しい日本では事情が違うと語ります。
人材をカットすると、似たり寄ったりのサービスばかりが並ぶClaude Codeのコモディティ化が起き、かえって利益を獲得しにくくなるという懸念です。
そこで金安さんは、自社のリソースや顧客基盤を活かして入れる新市場はどこかを問い直すべきだといいます。銚子丸なら飲食にエンターテイメント型の付加価値を、OA機器を扱う製造業なら機器の販売益ではなく顧客のAI経営化の支援を、といった発想です。
そして、それをやり切ろうとすると結局は人に行き着くと語ります。
理念経営やビジョン経営を軸に、社員の独創性と守るべき価値観を両立させる。そのうえで従業員の自由度を高め、新しい市場の機会を掴む。金安さんは、このサイクルこそが重要だと締めくくります。
まとめ
Claude時代の組織論の前半として、AIが「作ることの民主化」を進め、合意形成や意思決定のあり方を変えつつある現状が語られました。同時に、自由度が増すからこそ、方向を定める理念の重要性が際立つという逆説が浮かび上がります。
- Claude Codeによりエンジニア10人規模の仕事が数人でも回り、事務担当者まで「作る」ことが民主化されつつある
- 新規事業は小さく試して結果で判断することで、撤退リーダーが抱えた「本当はやりたかった」という消化不良を減らせる
- 理念とは居心地のいいスローガンではなく、利益の源泉と提供価値を定める価値判断基準である
- 従業員ごとのトークン量配布など、自由度と統制を両立させる新しい組織ガバナンスが求められる
- 人を雇うかトークンを増やすかの判断が難しくなる中でも、粒違いの価値を生む人の創造性が最後の鍵になる






