集中して読めなくなった、というお便りから
新年最初の放送は、ペンネームShowさんからのお便りで始まります。
以前は通勤電車や病院の待ち時間など、少しの空き時間があれば本を読んでいたけれど、最近はなかなか集中して読めなくなった、という内容です。
読書をするにはカフェに行くなど意識して時間を作らないといけません。そんな僕でも気軽にサクッと読めるようなライトな文庫本をリクエストさせていただけたら嬉しいです。
バタやん自身も、以前の放送で読書イップスのような状態に陥っていると話していました。だからこそ、このお便りに強く共感したようです。
今夜の一冊、山本文緒『絶対泣かない』
今年最初の「勝手に貸し出しカード」に選ばれたのは、山本文緒さんの『絶対泣かない』です。
ごく短い小説が収められた短編集で、1995年に刊行されたあと文庫化され、昨年末に新装改訂版の文庫が出たばかりだといいます。
バタやんは新しい文庫が出たと思って買って読み始めたところ、Showさんのお便りと重なる感覚がよみがえってきたと話します。
昔は病院の待ち時間とか、ちょっとした空き時間にこういう文庫を読んでたなっていうのをすごい懐かしく思い出したんですよね。
中高生の頃、歯の矯正で通っていた歯医者さんの待合室でよく本を読んでいた記憶が、この本を読むうちに鮮やかに蘇ってきたそうです。
実際にこの本を待合室で読んだわけではないのに、スリッパのある待合室や独特の匂いまで記憶が重なってくる。その不思議さから、Showさんにこの本を紹介しようと思ったといいます。
働く女性たちの、心が動く瞬間を切り取った15編
この本には、ショートショートに近い短い小説が15編ほど並んでいます。
体育の先生、銀行員、デパートの店員、秘書など、さまざまな職業に就いた女性の日常を切り取った短編集です。
お客さんとの葛藤、同僚とのちょっとした出来事、昔の友達と会って少し引っかかった記憶。大事件ではないけれど、主人公の心境が変わる瞬間をすくい取っている、とバタやんは説明します。
主人公はどれも女性なので働く女性向けの印象もあるものの、Showさんもあまり気にせず楽しめるだろうと話します。
意識をしてこれから読むぞみたいな気合いを入れなくてもサクッと読める。私もこういうのが今読みたかったんだって思えた一冊なんです。
渾身の長編とは違う、負担のかからない読書
ここ最近の放送で紹介してきた本は、渾身の長編が多かったとバタやんは振り返ります。
受け止める側にもかなりの気力や体力が必要な本ばかりだったといいます。それはそれで貴重な体験でした。
一方で、この短編集を読んで「こんなに負担のかからない読書があるんだ」と改めて感じたそうです。
当時が1995年前後、90年代前半だったことも記憶と重なった理由のひとつだといいます。とりわけ大きかったのは、スマホがなかったことでした。
ちょっとした時間をつぶすのにスマホを眺めるという選択肢がなかった分、文庫本の、しかもこんな感じのショートショート、短い、どっから読んでもどこでやめてもいいようなのをよく読んでた気がします。
原田宗典さんや清水義範さんなど、短くてちょっとシュールでオチがある小説を好んで読んでいたそうです。新幹線に乗る前に東京駅で文庫を選ぶのも楽しみでした。
今は、ちょっとした電車の中でもついスマホを見てしまう。そんな今だからこそ、この一冊が響くのかもしれません。
予想を少しずらす、絶妙なエンディング
15編の中でバタやんが特に好きなのは、表題作の「絶対泣かない」です。
主人公は女社長に雇われたばかりの秘書。会食のために予約したレストランがひどかったと社長から怒られる場面から始まります。
気に入られているのかいじめられているのかわからない社長と主人公の間には、実は雇われる前からのつながりがありました。
この本の魅力は、その終わり方にあるとバタやんは語ります。わかりやすいオチではなく、予想を少しずらしたところに着地するものが多いのです。
着地らしい着地じゃない、フッて終わるみたいなのもあったりして、そこがなんとも絶妙で。
バタやんは読み始めてすぐ「この本を読んだことがあるかも」と感じたものの、結末が一つも思い出せなかったといいます。
そのおかげで新鮮な気持ちで読めた、と笑いながら振り返ります。読んだ後にどんと重くならない、負担をかけない読後感に、改めて山本さんのすごさを感じたそうです。
「あなたはあなたの仕事が好きですか?」あとがきの神フレーズ
最後に、バタやんは文庫のあとがきから神フレーズを紹介します。
恋に落ちるように仕事に没頭するのも素敵だけれど、例えば感じのいい友達みたいな仕事、あるいはそんなに仲良くないけれど一緒に暮らしている家族みたいな仕事。そんなふうに自分と仕事に距離を持って接するのもいいなと最近思うようになってきました。
この本は、いわゆるお仕事小説が集まった短編集でもあります。
働く女性が、恋愛や結婚、プライベートと仕事の間で揺れながら、自分なりのプライドを持ってどう働き、どう生きていくかを描いた物語が詰まっています。
だからこそ、お正月明けのように仕事のエンジンがかからない時期にちょうどいい短編集だ、とバタやんは話します。
頑張ろうという気になれる一方で、活を入れられすぎない。そのあたたかい距離感がちょうどいいのです。
あとがきで山本さんは「あなたはあなたの仕事が好きですか?」と問いかけ、まず「必ずしも好きである必要はない」と答えたうえで、この文章を続けているといいます。
バタやんは、この仕事との距離感の話を読書にも重ねます。読んだそばから忘れちゃうみたいな距離感の付き合いもいい、そう思えたと語ります。
恋愛のように夢中になり、身も心もしばらく持っていかれるような体験
時間つぶしに読み、読んだそばから忘れてもいい、負担のかからない体験
サムネイル変更のお知らせと、タイトルへのこだわり
番組からの小さなお知らせも語られます。各回のサムネイルを、紹介した本の表紙の写真になるべく変えてみたそうです。
過去回を遡ったときに、どの回でどの本を紹介しているかが聞かなくてもわかりやすくなりました。
これまでタイトルに著者名を入れていなかったため、バタやん自身もどの回で誰の本を紹介したかわからなくなることがあったといいます。
一方で、タイトルに本や作家の名前をあまり入れないことには、バタやんなりのこだわりがあります。
読んでない人を、知らない人を排除しないようにって思っていて、読んでなくても、その本に興味がなくても、その作家さんの名前を知らなくても、聞いていただけたら嬉しいなと思ってます。
読んだことがある気になってもらえたら、という思いも込められています。使いやすさとこだわりの両方を大切にしながら、今年も番組を続けていきたいと語られました。
まとめ
新年最初の放送は、集中して本が読めなくなったというリスナーの相談に、山本文緒さんの短編集『絶対泣かない』を通して「負担のかからない読書」の心地よさを届ける回でした。
- 集中力が続かないときは、サクッと読めるショートショートが心強い味方になる
- 『絶対泣かない』は働く女性を主人公にした15編。予想を少しずらす絶妙な終わり方が魅力
- 没頭する読書だけでなく、隙間を埋めて読み流す読書の距離感もいい
- あとがきの「自分と仕事に距離を持って接するのもいい」という一文が、読書にも重なる
- 仕事のエンジンがかからないお正月明けにちょうどいい、あたたかい一冊





