AIが仕事の7割を奪ったあと、会社の何が試されるのか
今回は、これまで広めに扱ってきたクラウド時代の組織論を、ローカルや地方中小企業の現場に引き寄せて話す回です。
桺本さんが最初に投げかけたのは、AI時代にどんな中小企業が残っていくのか、という問いでした。
小平さんは、いま人の働く時間の多くが本業に関係ない繰り返し作業に費やされていると指摘します。
今現状、人の働いてる時間を分解すると、7割ぐらいが本業に関係ない、いわゆるブルシットジョブみたいなもの、誰でもできるような繰り返し作業とか事務作業に追われてると思うんですけど、そこからの解放は起こると思ってます。
AIエージェントが自律的に動けば、これまで本来の価値に使えていた3割が9割まで広がる、と小平さんは見ています。
そのとき試されるのは、人間自体の価値をいかに発揮できる環境に会社がモードチェンジしているかだといいます。
AIやツールはやがてコモディティ化し、中小企業でも経理の自動化などが当たり前に使えるようになる、という前提です。
その時に人の価値をどう会社の目的の中で定義して、それを最大化するような仕組みをどうやって作るかをしっかり考えて設計し抜いた会社っていうのが、そこが差別化要因になって強く増すんじゃないかと思ってるとこです。
さらに会社を1つの法人として見たとき、どれだけ儲けるかだけでなく、文化や地域コミュニティにどう意味価値を滲み出せるかが面白さになる、と小平さんは続けます。
コビラ自身も、AIで歯車仕事をなくしたうえで、数字だけではない多面的な価値へ向かう会社を目指していると話します。
江戸の魚屋に学ぶ「融通」という失われた商いの形
桺本さんは、AIで削減した時間を何に使うかに会社の個性が出る、と受けます。
ゲストの金安さんは、パランティア創業者アレクサンダー・カープの著書を引きながら、技術探求の行き着く先が消費者の欲求を満たすだけになってはいけない、という考えに共感を示しました。
そのうえで金安さんは、中小企業が壊れるべきとは考えず、十人十色のやり方があっていいと前置きします。
個人としてワクワクする未来として挙げたのが、江戸時代の下町の魚屋さんの文化でした。
魚屋さんがその奥様に対して、体調とか顔色とかを見て値付けをしてあげたり、「今日はこういう食材を使った方がより健康になるよ」って言ってあげたり、会話をする中で融通を利かせていくみたいな考え方があったと思うんです。
この「融通」という考え方が、ここ二、三十年の商業のなかで失われてしまった、と金安さんは見ています。
近代マーケティングは、卸が介在して効率化し、消費者の選択コストを下げる方向に進んできました。
一方でAIは、本当に自分に合ったものを自分にだけ提案してくれる、と金安さんは言います。
これから逆に企業側の役割とかは、どれだけ融通を利かせた経営ができるかってことの方が大事じゃないかなと思っていて。今までマーケットの中で卸売業者が入ることで効率化してた部分の常識を一回壊さないといけないんじゃないかなと。
企業側は融通を利かせるためのコミュニケーションの受け皿とチャネルを作る必要があるが、それがまだAIの中にもない、と金安さんは指摘します。
問い合わせフォームに自分向けのサービスを交渉する消費者はまだ少ない、という現状の話です。
エージェント間で企業に交渉して、もっといい商品作ってくださいとか、このぐらいまとめて買うので自分に合った形にしてくださいっていう。探索と交渉と融通が合わせてできるような、新しい商流ができるといいなっていうふうには思っていました。
融通の許される組織はどう作るのか
桺本さんは、融通を利かせるという言葉がこの回のポイントだと受け止めます。
提供するサービスでも、組織のなかでAIをどれだけ自由に触らせるかでも、融通を利かせる経営が大切なのではないか、という整理です。
ただ中小企業にとって融通を利かせるのは難しい面もある、と桺本さんは問いかけます。
小平さんは、人への投資として、自分の裁量で働き方を良くできるところで融通を利かせている例を挙げました。
新人の人事の子を雇ったんだけど、広報もやりたいし、本当は地域のこともやりたいですって言ったので、彼女を70パーセントは人事、15パーセント地域、15パーセント広報ってやって、名刺に一行加えてあげて、それですごいやる気になってるので。
ガス顧客への対応でも、親切であるべきだが商売人であるべき、という一行を行動基準に加え、現場が裁量で判断できる余白を作っているといいます。
それに対していちいちそれで100円、200円の部品使ったりとか、30分使ったからって別に怒んないよって。だってそれがうちの理念に基づいた価値だからっていう。
桺本さんが「結局やっぱ理念に回帰する感じですね」と受けると、小平さんはゴルフのOBゾーンにたとえて説明します。
ここからここまでがOBゾーンですと。ここからここまではOKですと。なのでこの間に打つんだったら、どこでも打っていいよっていうふうな説明をしていて。
OBの外だけを規定し、その内側は自律的に考えてもらう、というやり方です。
これは融通とも深く関わっていて、たとえば劇場型のおもてなしをすると会社が決めれば、その中で自由に動けて評価もされる、と説明します。
小平さんは、自分がどこまでやっていいかをワンフレーズで役割として理解させ、相互に共有させることを意識的にやっていると話します。
社員を歯車にしない組織と、開かれていく境界線
桺本さんは、昔ながらのやり方がダメなものを否定する形だったのに対し、理念があると良い行動が明確になり、人が判断できるようになる、と整理します。
小平さんは、社員は社会の歯車と言われてきたが、歯車の部分はAIが担うからこそ人を歯車にしないことが大事だ、と言います。
マイクロマネジメントされない状態が融通につながり、それは社外のコミュニケーションでも同じだといいます。
長い付き合いなら自分の裁量で少し融通する、その積み重ねが人との関係性を豊かにする、という考えです。
アメリカ式で本当にSalesforceに毎日毎日細かく打ち込みまくって、1円単位でコスト削るのはあんまり僕の会社には合わないし、日本人にも合わないような気がするなと。
続けて小平さんは、AIと組織には似たところがあると言います。ChatGPTが出た当初、自分の情報を開示するのは怖かったはずだ、という話です。
いまでは健康診断の結果や夫婦の悩みまで打ち明ける人もいるといい、パーソナルな情報を開示できる先を社会は失っていたのではないか、と問いかけます。
独創を追求する時代には、組織のなかでそれをどれだけ共有できるかが差別化ポイントになる、と小平さんは考えます。
自分がどれだけパーソナルな情報を伝えて、逆に言うと、その伝えた情報がどこまで伝播されていくのかってことが自分でコントロールできるってことが大事だと思っていて。会社がすごい無機質な関係性からよりウェットな関係性に変わっていくのがすごく大事だなと。
これは顧客基盤にも当てはまる、と小平さんは続けます。金安さんが取り組む薩摩会議のように、町に愛着を持つコミュニティと化した集団があるといいます。
そのコミュニティには発起人の熱量や思想が反映されている、というのがポイントです。
さらに、30点のクオリティのプロトタイプでも許容してくれるファンやコミュニティがいることが、独創性を発揮するうえで重要になる、と話します。
桺本さんは役職や肩書きもなくなっていくのでは、と受け、小平さんは境界線が曖昧になると応じます。
共に創る意味での「競争」が生まれる環境をあえて曖昧にし、地域やコミュニティで生まれるものを大事にする、という発想です。
すぐにプロトタイプを作ってみんなで盛り上げることを許容する、融通のある姿勢を経営者は作らないといけない、と小平さんは話します。
桺本さんは、複数のベン図が重なるような状態をトップが完全にコントロールするのは不可能で、できるのはガードレールの設置くらいだと述べます。
現金の代わりにトークン、そして開かれた会社の所有
金安さんは、そのガードレールの1つとして最近考えていることを持ち出します。クラウドコードの「トークン」という概念です。
トークンがデータの使用量を規定するのに対し、会社経営におけるトークンは現金だ、と金安さんは言います。
現金は使った後に追えず、流通しやすいからこそ便利だったが、従業員が自律的に挑戦する時代にはリスクにもなりうる、という指摘です。
一定の経済圏の中で新規事業を試すのをあなたに許してあげますと。現金だと自分の懐に入れちゃうかもしれないから、プロトタイプ経済圏の中でどのぐらいのトークンを集めてきて、そのトークンが交換できる先は、クラウドコードのトークンだったりとか、新規事業のリソースになるところに再投資できるみたいな。
限られた経済圏を作ることで流動性を高め、経営者が守っていた部分を民主化して開放できるのではないか、という提案です。
桺本さんが「DAO型組織的な感じ」と確認すると、金安さんも同意します。
小平さんは、DAOに近いが価値の交換をトークンで行うイメージだ、と受けます。地域通貨に似た仕組みを、これから作る森の取り組みで試そうとしているといいます。
さらに株式についても、社員持ち株会のような形だけでなく、交換性のあるトークンにする方が面白いかもしれない、と話します。
会社の所有自体はある程度オープンにし、コミュニティにバックしちゃうみたいな、コミュニティとか社員とかも含めて、皆に公開しちゃうみたいな形も面白いなと思ったりもしてますね。
桺本さんも、より開かれた株式会社ができてきてほしいと個人的な期待を述べます。
小平さんは、ローカルファイナンスのシンポジウムで、ローカルゼブラ企業がみんなで持ち株会社を作る構想が盛り上がった話も紹介しました。
ローカルゼブラがみんな一定の持ち株割合をそこに付与して、プロの経営者を送ったりとか、相互にちゃんと社会性と経済性両方を担うようなインパクトを作る経営ができるかの相互監視をする仕組みを作ろうみたいな話でちょっと盛り上がったりして。
曖昧さを扱う経営と、それを支える税制への期待
桺本さんは、これからの経営者は融通や曖昧さといったふわっとした概念を理解して経営しなければならず、難易度は増すと指摘します。
小平さんは、アメリカ式のガチガチな経営を日本に持ち込んだことが停滞につながったとも言われる、と応じます。
アメリカ式のガチガチの経営を日本に持ってきたことが、結局30年の停滞だったみたいな話も、元々日本人には合わないので、この適当な日本人に合わせて、またそういうのに戻るのは得意かもしれないなと。
桺本さんは、曖昧さが当たり前にあった江戸時代のような状態に戻るのかもしれない、と受けます。
金安さんは、流動性の高い税制もできるといい、と課題を挙げます。給料以外で稼ぐと税金が重かったり、暗号資産は記録の仕方が難しかったりする、という現状です。
AI時代の流動性や曖昧さと、それに伴う税制、組織モデルの転換をうまく組み合わせて未来のビジョンを考えたい、と金安さんは締めくくります。
最後に桺本さんが初のゲストとしての感想を尋ねると、金安さんは収録を忘れるほど贅沢な時間だったと振り返りました。
これを聞いてくださってる方も、一緒に興味を持ってくださる方の連帯を広げて、AIにとどまらず、そこからどう組織や経営を変えていくかっていうことは、多くの現場の方と一緒に考えていけるといいなっていうふうに思いました。
まとめ
AIが繰り返しの歯車仕事を担う時代に問われるのは、生まれた時間で人間の価値をどう発揮させるか、という設計だと語られました。鍵になるのは、江戸の商いにあった「融通」と、境界線をあえて曖昧にする姿勢、そして現金や株式に代わる新しい価値交換の仕組みです。
- AIが繰り返し作業を担うほど、人を歯車にしない組織設計が差別化要因になる
- 理念でOBゾーンだけを規定し、その内側は現場の裁量に任せる「融通」の経営が重視される
- 従業員だけでなくファンやコミュニティまで含めてステークホルダーの境界が広がっていく
- 現金の代わりにトークン、開かれた株式やローカルゼブラの持ち株会社など、新しい価値交換や所有の形が模索されている
- 曖昧さや流動性を扱う経営には難しさもあり、それを支える税制の整備も課題として挙げられた





