眼鏡の話から始まる「立場で言えること」
番組の冒頭、けんすうさんは「眼鏡を買った」とだけ報告して話を終わらせかけます。樋口さんは、けんすうさんほどの立場なら眼鏡を買っただけでトピックになると茶化しました。
もうけんすーさんほどの立場の人にもなれば、眼鏡を買っただけでも一個のトピックスになるんですね。すげえわ。
この冗談をきっかけに、けんすうさんは前回の続きとして「立場によって言えること、言えないことがある」というテーマを持ち出します。前回は、ゆる言語学ラジオの堀本さんが「聞かれていない人は、聞かれていないのだから好きなことを喋れる」という趣旨の話をしていました。
けんすうさんは、若いから言える、年を取ったから言える、男性だから、女性だから、人気があるから、人気がないから言えることがたくさんあると挙げます。
樋口さんもこの考えに強く共感し、けんすうさんにとってもこれは特に好きな考え方だと話されています。
背の低さ、地元、家族。その立場だから言えること
樋口さんは、身近な例として背の高さを挙げます。背の高いけんすうさんが背の低い人を「チビ」と言えば、それは誹謗中傷になってしまいます。
まあそうですね、なんか嫌な感じになりますし、少なくても背の低い人の代弁者みたいなコンテンツをやっても。なんで?ってなりますよね。
一方で、身長164cmの樋口さんは、冗談として「チャームポイントは足の長さです」と言えます。本人だからこそ、聞き手が「いやいや」とツッコめる笑いになるわけです。
けんすうさんはこの話から、乙武さん ── 作家の乙武洋匡さん。先天性四肢欠損の障がいがあり、自身の体をネタにしたユーモアでも知られていますが「手も足も出ませんよ」と言ったときの面白さを思い出します。
樋口さんは地元の例も挙げます。福岡の田川出身の樋口さんは「石炭とヤンキーの町です」「田川とかマジでやばいっすからね」と言えますが、他の人が言えば出身地差別になってしまいます。
さらに樋口さんには、障がいのある2人目の子どもがいます。だからこそ障がいの話をリアルにできる、という立場もあると話しました。けんすうさんは、その立場だから考えられること、感じたことは価値あるコンテンツになると応じます。
樋口さんは、こうした「立場で言えること」には2つの軸があるのではないかと整理しました。
その立場の人が話すからこそ、内容に重みやリアリティが出る(障がいのある子の親が語る障がいの話など)
同じ言葉でも、本人や当事者なら笑いになり、他人なら悪口や差別になる(身長や地元のネタなど)
「自分の話なんてつまらない」はもったいない
けんすうさんが一番嫌だと話すのは、「自分は喋る価値がない」「私の話なんてつまらない」と言って、発信したいのにしていない人を見ることです。
樋口さんは、「自分はただの学生で何者でもないから、発信してもしょうがない」というケースを例に出します。けんすうさんは、そんなことはまったくないと返しました。
「スマホのホームアプリこうしてます」って言っても、僕らにとっては多分新鮮なんですよ。
今の大学生がスマホのホーム画面を紹介するだけでも、上の世代にとっては「そんなアプリを入れているのか」「そういう使い方をするのか」という貴重な情報になります。けんすうさんは、本人には当たり前すぎて価値がないと思ってしまうことこそ、当たり前すぎて自分では価値に気づけないという点でもったいないと話しています。
才能は構造上、自分では気づけない
樋口さんはここから才能の話につなげます。樋口さんと『ヒューマノイド最前線』という番組を一緒にやっているたかちんさんは、もともとコテンのメンバーで、「才能博士」として才能に関する活動をしていた人です。
「自分の才能って構造上自分では気づかないんです」って言ってて。
たかちんさんの定義では、才能とは「自分では何の労力もなくやっていること」で、しかも「それが社会的に何かプラスに寄与していること」です。樋口さんが強調したのは前半の部分でした。
本人にとって労力なくできることは特別なことではないので、構造上、本人は気づけません。だから才能は基本的に人に見つけてもらうしかない、というのがたかちんさんの考えだと樋口さんは紹介しています。
樋口さんは、子どもには子どもの目線と当たり前の世界観があり、そこにオリジナリティがあるとも話しました。
勉強が苦手な人にしか話せないこと
けんすうさんは、勉強ができない人が「なぜ勉強ができないのか」を話せば、勉強ができる人には気づけなかった観点がたくさんあるはずだと指摘します。ただ、本人はそれをマイナスだと思ってしまっています。
樋口さんはこれに強く同意し、自身の高校時代の体験を語りました。成績がよかった樋口さんは、3つ下の弟の高校受験のために、親から家庭教師を頼まれて数学を教えることになります。
「普通に考えたら、普通に考えたらここマイナス4やん」って言ってんすけど。「なんで?なんで?」
樋口さんには、弟がなぜわからないのかがわかりませんでした。そこで、自分には家庭教師の才能がないと思ったといいます。けんすうさんは、どこでつまずくのかがわからない状態だと言い換えています。
けんすうさんは、自分が通う英語の教室の話を重ねました。ネイティブに教わるのがよいと思われがちですが、ネイティブには当たり前すぎて教えられないことが多いそうです。
たとえば日本人とアメリカ人では声の出し方そのものが違いますが、アメリカ人は普通に声を出しているだけなので気づきません。舌の動きを直そうとしがちですが、実は喉で発音しているかどうかのほうが重要だといいます。
そのため、けんすうさんの英語教室は、ネイティブではないが喋れるようになった日本人だけが教える体制にしているそうです。
普通に声を出しているだけなので、日本人との声の出し方の違いに気づきにくい
自分も通った道なので、喉での発音など詰まりやすい点を教えられる
だから努力でつかみ取るっていう価値をやったかやってないかですよね。
歴史が苦手なことが、コテンラジオでは才能だった
樋口さんは、自分自身の「歴史弱者」ぶりもまさにこの話だと気づきます。コテンラジオ ── 深井龍之介さんらが出演する歴史を題材にしたポッドキャスト。日本有数の人気番組として知られていますでは、歴史を知らない樋口さんが「え、わからない」と反応することで、誰が聞いてもわかりやすい番組になっているとけんすうさんは評価しました。
樋口さんは、5教科の中で社会がとても嫌いで苦手だったといいます。ただの暗記だと思っていたからです。それがずっとコンプレックスでしたが、大人になってそこに価値が出る環境があったと話しています。
けんすうさんは、人の話を聞くのがうまくMCとして場を仕切れて、頭もよく勉強もできるのに、歴史だけはまったくできない人は非常に貴重だったと分析します。樋口さんは、このことを後に深井さんから言われて気づいたそうです。
(話をすぐ解釈できたり、喋りができる人の)中で知識がないっていう能力を持ってる人がいなかったんです、あんまり。
口さんだけはそこから逃げ続けた結果、才能になってしまって。日本最大級のポッドキャストになってしまうっていうの面白いですね。
樋口さんは、欠けている部分も「絶対値」で見れば尖っているということだと表現しました。けんすうさんも、歴史の知識がないことはマイナスにしか見えないけれど、めちゃくちゃ貴重な才能だったとまとめています。
じゃあ勉強はしなくていいのか?
樋口さんはここで一歩踏み込みます。歴史が苦手なことが才能になったなら「歴史を勉強しなくてもいい」ことになりますが、自分の子どもにそう言えるかというと言えない、と悩みを打ち明けました。
同じように、優秀な人ほどAIを使っている今、身近な人に「AIを使うな」とも言えないと樋口さんは話します。そのラインをどう考えるか、けんすうさんに問いかけました。
けんすうさんの答えは、ポーカーのたとえでした。
ポーカーみたいなもんで、3を持ってて、「3弱いな」と思ってたけど、3、4、5で柄が揃ってるから超強いカードとして使えたっていうのが多分口さんのやつだと思うんですよね。
けんすうさんによれば、樋口さんの場合はMC力やお笑いの経験など他のカードがあったからこそ、歴史が苦手というカードがたまたま強い役になりました。だから基本的には、使える手をたくさん持つために努力するほうがおおむねよいと考えているそうです。
やっぱスキル掛け算なんで、スポーツめっちゃできるし、頭もめっちゃいいけど性格が悪いだったらなんか使えるかもしれないけど、全部悪かったらやっぱり。何にも使えないっていうのはある気がしますね。
樋口さんは確率的にはそうだと認めつつ、社会がひっくり返るような混乱期には「喧嘩が強いだけ」の人が活躍することもあると補足します。
そのうえで樋口さんは、自分の子どもや会社のスタッフには伸ばせるものを伸ばしてほしいと思ってしまう一方、全員がそうなると多様性の面で平均的になっていくとも感じていて、難しいと話しています。
才能を見つけるには、まず人に聞く
けんすうさんは、ポッドキャストを始めたい人には、今あるカードを冷静に見て何の話ならできるかを考えてほしいと話します。ただ、さっきの話のとおり才能には自分で気づけません。
どうすればいいんでしょうね。
樋口さんがまず挙げたのは、人に「何が面白いか」をたくさん聞くことです。ただし、話を聞ける相手は友達であることが多く、友達にとっても当たり前になっていることが多いので、人も意外とわかっていないと付け加えました。
けんすうさんは、コテンラジオも、樋口さんが深井さんを見て「喋ったらいいのに」と思って始まったのではと確認します。樋口さんによれば、深井さんは歴史のイベントをときどきやっていた程度で、それほど話す活動をしていたわけではなかったそうです。
深井さんとかポッドキャスト聞けないし、動画も見れないんで、下手すると自分でポッドキャストの才能があったって気づけなかった可能性高いっすよね。
二人はこの可能性を「怖い」と口をそろえました。
越境する人と、受け入れる人
樋口さんは、ビジネスパーソンしかいない場では、こうした才能が見つからない確率が高いと考えています。深井さんの才能が見つかったのは、芸人をやっていたような樋口さんが、たまたま深井さんと会える場があったからでした。
樋口さんはもともと音楽を作り、芸人をやり、自分で会社を作って[いいかねパルト]を始めたという経歴の持ち主です。ものづくりやエンターテインメントの世界からビジネス界へ越境していったことで、「素材見っけ」という感覚になったといいます。
福岡のスタートアップ界隈には深井龍之介さんもヤンヤンさんもいましたが、コンテンツとしてまとめ上げて世に出すという発想はおそらくなかった、と樋口さんは振り返ります。
だから自分が越境してないだけで、そっち行ったらめちゃくちゃ才能あったみたいなことがあったらどうしようって今思いました。
樋口さんは、もう一つ大きかったのは、深井さんが樋口さんの誘いに応えたことだと話します。ポッドキャスターやラジオスターになりたいわけではないけれど、面白そうだからやってみると決断したのです。
けんすうさんは、なりたい姿でもやりたいことでもないけれど、やったほうがよさそうだからやった、という点が面白いと応じました。樋口さんは、深井さんには越境してきた人を面白がって受け入れる「受け皿」があったと見ています。
異なる世界に自分から入っていく(エンタメからビジネス界へ移った樋口さん)
越境してきた人の誘いを面白がり、試しにやってみる(誘いに応えた深井さん)
越境する側になるか、越境されてきた時に受け入れる側になるかの両方、どっちか、少なくとも1つ以上を持っとくっていう。
40歳を過ぎて柔術にハマった投資家と「嫌なことをやる」
けんすうさんは、知り合いの投資家の例を紹介します。その人はそれまで格闘技にまったく興味がなかったのに、数年前に柔術を始めてすっかりハマりました。
今では柔術を体験できる場所やブランドを作って服を売るなど、ビジネスが2つほど立ち上がり、ライフワークになっているそうです。40歳を過ぎてからのことで、普通に考えればやろうとは思わなかったはずだといいます。
樋口さんは、越境には多少のストレスがあるので、まずはストレスがあること、嫌なことをやるのがよいと話します。その例として挙げたのが深井さんでした。
アイドルとかホストとか、カラオケとか全部嫌いだけど挑戦して、ちゃんと気持ちわかるようになろうってやってんのすごいっすよね。
ここで樋口さんは「嫌なこと」として、けんすうさんに左足の薬指を折ることを提案します。すでに右を骨折していたけんすうさんは、それは越境ですらなく嫌なだけだと笑って返しました。
越境ですらない、別に。嫌なだけで終わる。
けんすうさんは、絶対やらないと思っていたサーフィンも、4回ほど体験に行ったところで別にデメリットはないと話します。樋口さんは、やりたくないと思ったときほどやる、とまとめました。
やりたいのに億劫なことを書いたら、綾小路翔さんからDMが来た
けんすうさんは、もう一つのパターンとして「やりたいと思っているのに億劫でずっとやっていないこと」も挙げます。けんすうさんの場合、それは大学時代から行きたいと言い続けてきた氣志團のライブでした。
さすがに行かないのはおかしいと思ったけんすうさんが、Xに「氣志團のライブに行くことを目標にします」と書いたところ、氣志團の綾小路翔 ── ロックバンド氣志團のボーカリストでリーダー。リーゼントと学ラン姿のヤンキースタイルで知られていますさんからDMが届いたそうです。
面識はなく、話したこともありませんでしたが、おすすめに表示されたのだろうとけんすうさんは推測しています。丁寧に「ぜひ来てください」と書かれていて、来月には行く予定だといいます。
裏口すぎるし、裏口のパイプ太すぎですってそれ。
樋口さんは、この出来事を「発酵」と表現しました。行きたいと思ったときに最短でチケットを取らず、願いを溜め続けている間に、けんすうさんの影響力だけが大きくなっていたというわけです。
大学時代から氣志團のライブに行きたいと言いつつ、億劫で行かなかった
影響力が大きくなった今、Xに書いたら綾小路翔さん本人からDMが届いた
ガスが溜まってたとこにプスって穴開けたらバーンってなったんですよ、多分。
樋口さんは、溜め続けた願いは発酵するので、今やると大きな規模で実現できることがあるかもしれないと話しています。
コテンラジオの公開収録を武道館で
けんすうさんは、樋口さんにも「日本武道館で歌ってみたい」という願いがあるなら、今なら叶えられるのではと持ちかけます。コテンの皆さんを「騙して」武道館で公開収録をやり、最後に樋口さんが1曲歌って終わるという案です。
樋口さんは乗り気になり、歌う曲には尾崎豊の『I LOVE YOU』を挙げました。けんすうさんも、コテンラジオなら実際に客は来ると思うと応じ、「コテンラジオフェスティバル」のような形を提案します。
ただ、「俺武道館で歌ったことあんだぜ」って一生言えますよ。
樋口さんの音楽の原点はBOØWYです。BOØWYのライブで氷室京介さんがMC中に言った「ライブハウス武道館へようこそ」という名言を、自分も武道館で言いたいと語りました。
それを言いたいです、僕は。武道館で。
けんすうさんは、その独りよがりな夢が叶えられるのはとても熱いと話します。最後は、樋口さんは武道館に立つ、けんすうさんは左足の薬指を折る、という2つを冗談まじりに目標にして番組が締めくくられました。
まとめ
この回では、立場や苦手さえもその人にしか話せないことになり、才能は自分では気づけないからこそ、人に聞くことや越境が大切だという話が展開されました。
- 背の低さ、地元、家族など、その立場だから説得力をもって話せること、許されることがある
- 才能は「労力なくできて社会の役に立つこと」なので、本人には当たり前すぎて気づけない
- 歴史が苦手な樋口さんのように、欠けている部分も他のカードと揃えば強い役になる
- 才能を見つけるには、人に聞くか、越境する側か越境してきた人を受け入れる側になるのがよい
- 嫌なことや、やりたいのに億劫なことに手を出すと、思わぬ展開が起きることがある




