創業者でも配当を受け取らない、ボーダレスのお金の流れとは?
ボーダレス・ジャパンには、利益配当について一般的な会社とは大きく異なるルールがあります。樋口さんがこの点を尋ねると、田口さんは、仲間との信頼関係は人としての感謝だけでなく、仕組みによるところも大きいと答えました。
田口さんによると、ボーダレス・ジャパンには37社の社会起業家の会社が集まっています。どの会社もボーダレス・ジャパンの100%子会社で、各社の社長は株を1株も持っていません。
各社で出た余剰利益は「共通のポケット」に集められ、新たな社会起業家が立ち上がるための資金と、その支援費用に使われます。株式会社間でお金を動かすには配当が最も簡単なため、配当という形でこの循環を作っているそうです。
各社が利益を出す
社会起業家が率いる37社が事業で利益を上げる
共通のポケットに集める
余剰利益を配当の形で親会社に集める
新しい起業家へ
新たな社会起業家の立ち上げ資金と支援費用に充てる
ただし、事務局であるボーダレス・ジャパン自体には、定款で配当の制限が書かれています。出資額を上回る配当は受け取れない決まりで、たとえば1000万円出資した人は、配当で1000万円が戻った時点でそれ以上は一切受け取れません。
田口さんは、この定款はみんなが使えるようにと書いたもので、実際には自分は配当を受け取っていないと明かしました。本人いわく「出し損」です。
え、配当は出資額までもらえるのに、それ(配当)ももらってないってことですか?
何をやってるんですか?え?
驚く樋口さんに対し、田口さんは、好きで自分が始めたことなので、自分にはそうしたお金はいらないと答えています。
もう資本主義じゃなくなっ、なんかほんとポスト資本主義なのか、完全に新しい仕組みですよね。
田口さんは、資本主義そのものが悪いとは限らないとしつつ、その本質的な課題は、リスクを取れる体力のある資本家にお金が回り続け、そこが増幅していく点にあると話します。
そのため田口さんは、株式を基本的に既得権益だと捉えています。創業者や大株主としての既得権益を排除し、お金が誰かに帰属するのではなく「みんなのお金」として流通する仕組みを作りたい、というのが配当制限の狙いです。
社会課題は政治の仕事か、ビジネスマンの仕事か
深井さんは歴史の視点から、ボーダレスの取り組みを位置づけます。社会課題は長い間、基本的には政治の問題で、古代にはほぼ無視されていました。近代になって人権的な概念から福祉が充実し、社会課題に目が向くようになった、という系譜があるといいます。
今まで他の人がやってた仕事か、他の人がやるべきだよねと思われてた仕事が、その人たちはできなくて、それを新しい人たちがやり始めちゃうみたいなのって、完全に歴史が転換する時の顕著な例なんですよね。
深井さんは、ソーシャルベンチャー全体がこの転換の動きにあたり、その中で実績を残しているのがボーダレスだと話しました。
田口さんは、社会課題は誰の仕事なのかが重要なテーマだとし、ボーダレスでは社会課題こそビジネスマンがやるべき仕事だと考えていると語ります。理由は、実効性のないことが嫌いで、人生を無駄に過ごしたくないからです。原因に直結した対策を取らなければ、良いことをしても肩透かしに終わる、という考えです。
田口さんが挙げる社会課題の典型的な起こり方は、経済が効率を追求する仕組みであることです。売値を上げるのは難しいため、ビジネスは効率的なオペレーションや安い調達でコストを下げる方向に向かい、非効率なものが取り残されていきます。
具体例として田口さんが挙げたのが耕作放棄地 ── 耕作されなくなり、今後も耕作の予定がない農地のこと。担い手不足や採算の悪さを背景に、中山間地域などで広がっていますです。大消費地に近く、広くて水があり、トラクターが使える土地はむしろ取り合いで、放棄されるのは山間地の狭い土地や飛び地など、効率の悪い場所だといいます。
障害者雇用も同じ構造だと田口さんは話します。優しい人は多くても、効率がどうしても落ちるため、ビジネスの仕組みの中では難しくなり、効率よく働きにくい人たちの雇用が漏れていきます。
こうした領域を助成金などで担保するのは、田口さんによれば対処療法としてはよいものの、本質的な解決ではありません。樋口さんと深井さんも、これまでは自治体や国が福祉としてそれを担ってきたと整理しました。
田口さんの考えるソーシャルビジネスの役割は、非効率も含めて経済が回るよう、ビジネスをリデザインすることです。たとえば障害のある人が同じ給料で働くと生産コストが少し上がるなら、最初からその前提でものづくりをするブランドを作りに行く、という発想です。
効率で取り残された領域を、助成金や福祉で別に担保する
コストが上がる前提で、非効率を含めたビジネスを最初から設計する
樋口さんは、地域創生の仕事でも同じ課題に直面していると話します。
結局人がいなくなったところで仕事をするって、やっぱ非効率的なんで普通はやらないんです。でも、なんでやるかっていうと補助金狙いなんですね、やっぱり。
補助金を狙うために、本当は最初はやりたいことがあってやってたんだけど、どっかからか補助金が取れるような企画書を書ける人間だけが残っていくんですよ。
すごいわかってても、実際の仕組みを考えついて実行して利益を上げるっていうところまでは本当に難易度が高いなっていう感覚があります。
「やめなければうまくいく」、2トライで成功する理由
難易度の高さを指摘する深井さんに対し、田口さんは、ビジネスが成功するかどうかはやめるかやめないかで決まると答えます。
田口さんがソーシャルビジネスを強いと感じるのは、明確な目的と、それに直結したビジネスモデルを組んでいるため、うまくいかなくてもやめる気にならない点です。修正を繰り返しているうちに、人は知恵を出して、どんな人でも最後はなんとか形にしてしまうといいます。
そのためボーダレスが大切にしているのは、どうすれば成功するかではなく、失敗し続けられる環境をどう作るかです。会社の立ち上げでは、初期費用とランニング費用を合わせた一定額の資金が通帳で渡され、それが「1トライ」になります。
通帳の残高が尽きたら一旦ストップですが、続けたい限り何トライでも挑戦できます。3トライで4500万円を使い、疲れたからやめると言っても、それはそれでよいという扱いです。
田口さんは、大体の人は2トライで成功すると考えています。1トライ目は失敗が前提で、難しくても素直で実直なモデルから逃げずに続けると、2トライ目あたりで筋が見えてくるそうです。
「夢」と「志」はどこで分かれるのか?
樋口さんは、諦める人と諦めない人をどう見分けているのかを尋ねました。田口さんの答えは「わからない」です。そもそも新しく誰が加わるかは田口さんではなく、毎月1回ほど開かれる社長会へのプレゼンで決まる仕組みだといいます。
そのうえで田口さんは、続けてきてわかったこととして、志と夢の違いを挙げます。言葉は同じ「社会に良いことをしたい」でも、自分が第一で社会が二番目の人と、社会が第一でそのために自分にできることを探す人がいる、という違いです。
自分や守るものが第一にあり、どうせやるなら社会のためにが二番目。頑張り方もその範囲にとどまる
社会のためが第一義にあり、そのために自分にできることを探すのが二番目
ボーダレスでは各社が助け合いながら経営しているため、個人的な夢の人がいると、互いにギブアンドギブし合う関係が少し崩れてしまいます。そのため田口さんは、この点をとてもよく見ていると話しました。
なるほど。なるほど。志と夢か。面白いですね。確かにありそうやなそれ。
田口さんによると、志とは、みんなに応援してもらえる「みんなの夢」になるようなものです。ボーダレスに多くの人が応援してくれるのも、田口さん個人の夢ではなく、みんながそうあったらいいと思える夢になれているからではないか、と語っています。
深井さんは、テレビで見たボーダレスの社員か社長の方の言葉を紹介しました。
前職から何やったかな、年収が半分になってやりがいが万倍になったって言ってましたもんね。
田口さんによれば、その人物は創業したての、社長1人しかいない会社に2人目のメンバーとして、給料はいらないから一緒にやりたいと入ってきた人だといいます。高い年俸を捨ててでも加わりたい人は増えているのではないか、と田口さんは見ています。
さらに田口さんは、ソーシャルビジネスは最終的にビジネスなので、年俸が低いのは創業期だけで、先が描けることも安心材料になると話します。番組は、次回に田口さんが力を入れるハチドリ電力の話を聞くことを予告して締めくくられました。
まとめ
今回の田口一成さんの話は、お金の流れから人の選び方まで、社会のためという目的に沿って仕組みを組み立てるボーダレス・ジャパンの姿を示すものでした。
- ボーダレス・ジャパンは各社の余剰利益を共通のポケットに集め、創業者を含め出資額を超える配当を受けない仕組みで既得権益を排している
- 田口さんは、効率の追求で取り残される非効率を含めてビジネスをリデザインすることがソーシャルビジネスの役割だと考えている
- 成功を決めるのはやめるかどうかで、失敗し続けられる環境を用意すれば多くの人は2トライで筋が見えてくるという
- 自分が第一の「夢」ではなく、社会が第一の「志」こそが、みんなに応援される「みんなの夢」になるという




