コテンがボードゲームを2つ作った
この回は、通常の歴史解説とは別枠の「コテンの法人からのお知らせ」として配信された特別編です。深井さんは、今後こうした告知を金曜日に不定期で配信していく方針を語ります。
だから歴史の話にしか興味ない人は飛ばしてもらったらいいですわ。
今回の告知は、コテンがボードゲームを作ったという内容です。開発責任者は社内で「T」と呼ばれるメンバーで、この回が初出演になります。
今日はね、ちょっとびっくりすると思いますけど、コテン、実はボードゲーム作ってます。
ゲームは約1年かけて開発され、しかも1つではなく2つ作られました。1つはフランス革命を題材にしたカードゲーム「Libre(リブレ)」、もう1つは人文的な思考を促す「人文知アプローチカード」です。
この開発には、樋口さんの弟が長野県で運営するボードゲーム施設GAW(ボードゲームリゾート)との縁が関わっています。樋口さんの弟の妻が元ゲームマスターで、その繋がりからコテンとのコラボが実現しました。
大人気のフランス革命、カードゲームで遊んでみる
ここから実際に「Libre」をプレイしていきます。カードを使うゲームのため音声だけでは伝わりにくい部分もありますが、まずは3人が遊びながらルールを解説していく流れになります。
このゲームはリブレっていうゲームで、フランス革命をモチーフにしたカードゲームです。
攻めたね。
イラストは、以前コテンの漫画を手がけた漫画家のShimi43さんが担当しています。カードにはブルジョワジー、貴族、王族、聖職者、そしてサンキュロットといったフランス革命の登場人物が描かれています。
日本から出てきたフランス革命のゲームってこれ以外あるのかな?なんか見かけたことないんだけど。
Tさんは、このゲームには歴史的な小ネタが随所に仕込まれていると説明します。たとえば数字カードのマークです。スペードやハートなどのトランプの絵柄はフランススート ── フランスで使われていたトランプの絵柄のこと。スペード・ハート・ダイヤ・クラブの4種類で、スタンプによる大量生産に向いていたため広まったとされますに由来します。
このゲームにはトランプにない5つ目のマーク、三日月(クレッセントムーン)が加わっています。これは1400年代のトランプの前身に使われていたフランスのマークを取り入れたものだとTさんは話します。
数字カードと絵札に込められた歴史
数字カードの7から10が絵になっているのにも理由があります。トランプにはキング・クイーン・ジャックの絵札がありますが、フランス革命のトランプでは王を象徴する絵札がそのまま使えるかという問題があったとTさんは説明します。
フランス革命のトランプ見ると、存在しないキング、クイーン、ジャック。プロパガンダで違うやつに変えてて。
そのため各絵札には、革命期のテーマに合わせた人物やモチーフが割り当てられています。8は自由の女神マリアンヌ、9は友愛を表す天使、10は法律を意味する「La Loi」です。
だから法が一番上に行くじゃん、フランス革命は。だから10、1番強い。だから法律が一番強いっていう。
7には、フランス革命で活躍した黒人のジョン・パピスト・ベレが描かれています。平等(エガリテ)のテーマに沿った人物です。革命の3つの理念である自由・平等・友愛が、カードの絵柄に織り込まれています。
一個一個歴史的な裏付けがある。
派閥を作って革命を乗り越えるゲーム性
ゲームの目的は、フランス革命の5つの身分カード(王族・貴族・聖職者・ブルジョワジー・サンキュロット)を集めて派閥を作り、点数を競うことです。カードには集めた枚数ごとの得点が設定されています。
たとえば王族は、1枚なら5点、2枚なら2点ですが、3枚以上集めるとマイナス15点になります。王族ばかり集めるとフランス革命では都合が悪い、という設定がそのまま得点に反映されています。
| カード | 1枚 | 2枚 | 3枚以上 |
|---|---|---|---|
| 王族 | 5点 | 2点 | -15点 |
| 聖職者 | マイナス | マイナス | 4点 |
| ブルジョワジー | 加点 | 加点 | 加点 |
| サンキュロット | 0点 | 0点 | 15点 |
貴族カードは、2枚集めたときだけ得点になる特殊なカードです。1枚だとマイナス3点、2枚で6点、3枚だとまたマイナス3点になるため、2枚にとどめる駆け引きが生まれます。Tさんはこの貴族カードが一番面白いと語ります。
貴族カードが自分の一番推しカードで、このカードが一番おもろい。ゲーム的に。
このゲームは、革命を起こすのではなく「革命を乗り越える」ゲームだとTさんは説明します。すでに始まった革命の中で、自分が一番影響力を持つ状態を目指します。
革命を起こそうぜっていうよりも、革命を乗り越えようぜみたいな。自分の派閥を作って、自分が一番影響力、政治力を持つっていうゲームになってる。
1から10のカードで駆け引きする基本ルール
各プレイヤーは1から10の数字カードを手札に持ち、毎ラウンド1枚ずつ出します。一番高い数字を出した人が、場に出た身分カードを総取りする仕組みです。全10ラウンドで、数字カードは1枚ずつしか使えません。
欲しくないカードを押し付けられることもあるため、小さい数字を温存する戦略も重要になります。数字が被った場合は、先に出した人が勝ちです。
もう最初に10出されたら、もう他の人絶対負けるから、捨ててもいいカードを出さないといけないとかいうところにも戦略性が出るのか。
場には毎ラウンド2枚の身分カードが出て、勝った人は両方を取らなければなりません。欲しいカードと一緒に、いらないカードも引き受けることになります。深井さんは、序盤に手札を温存しすぎてしまう難しさを実感していきます。
途中で明かされる新ルール、パスと入れ替え
ゲームが進むと、Tさんが「説明しながら遊ぶ」形で新しいルールを追加していきます。自分の番で他の人のほうが高い数字を出している場合、パス(降りる)か、手札を場のカードより高いものに入れ替えるかを選べます。
一つがパス。もう降りますと。この戦いは降りますっていう。で、二つ目が入れ替え。
この入れ替えルールにより、誰かが勝つまで手番が回り続けます。深井さんは、あえてパスして相手に高い数字を使わせる作戦を試みます。
これはね、ヤンヤンに9を使わせるための作戦だったの。
追放・忠誠・ギロチンが加わる終盤戦
さらに、山札には「追放」「忠誠」「ギロチン」という3種類の特殊カードが混ざっています。これらは取った瞬間に必ず使わなければなりません。
- 追放は、自分のカードを1枚他の人に渡せる
- 忠誠は、他の人からカードを1枚取れる
- ギロチンは、自分か相手のカードを1枚消せる
いらない王族を人に押し付けたり、相手が勝ちそうなカードをギロチンで消したりと、駆け引きが一気に複雑になります。深井さんは、勝ちすぎている楊さんを牽制する動きを見せます。
本当にいらないカードがあったらそれを消してもいいし、「あいつこのカードで勝つだろうな」と思ったらそれをギロチンにかける。
深井さんは、いらない王族カードを楊さんではなく樋口さんに渡すという選択をします。後半に攻勢をかけてくるであろう樋口さんの手札に、ノイズを混ぜる狙いです。
本来であれば明らかにやんやんに渡すんだが、ちょっとかわいそうなのでひぐちさんに渡します。
集計で判明した意外な結末
10ラウンドを終えて集計に入ります。序盤に良いカードを次々に取っていた楊さんが、実は王族カードを伏せ持ったまま、王族を率先して3枚集めていたことが判明します。
ヤンヤンさ、王族伏せて持ってたのに、率先して3枚集めてたの?
深井さんは、楊さんが合理的に動いていない可能性を予期していたものの、王族を持っているとまでは読めなかったと振り返ります。相手の意図を読む「人間理解」がゲームの勝敗を左右したことになります。
最終的に僅差で樋口さんが勝ちきれず、序盤に調子に乗っていた樋口さんが悔しがる結末になりました。得点差は最後まで縺れています。
最悪や。めっちゃ調子乗ってたのに。
Tさんは、このゲームを3ラウンド繰り返し、順位に応じた得点を足していく遊び方も紹介します。大差での負けかどうかより、ビリにならないことが重要になる設計です。
もう一つのゲーム、人文知アプローチカード
2つ目のゲームが「人文知アプローチカード」です。コテンとGAWのコラボで作られた、半分ゲーム・半分ツールのカードセットで、コテンラジオが大事にしてきた考え方が簡単な言葉でカード化されています。
コテンが結構コテンラジオでずっと大事にしてきてた考えを簡単な言葉になってカード化されているっていうもの。
カードは9つの視点で構成されています。深井さんが1枚ずつ読み上げていきます。たとえば1枚目のSystems(システム)は「人間の外に原因を求めてみる」というものです。
人間の外に原因を求めてみる。いいことも悪いことも、自分や他人の性格、能力に原因を求めがち。時には規範や制度、構造、システムなどに原因を転嫁して考えてみましょう。
9番の「矛盾を見つけて受け入れてみる」は特別なカードで、コテンゲームズのイベント参加者と一緒に考えて選ばれたものだとTさんは話します。10枚目には「他に思ったことある?」という余白のカードも用意されています。
このカードのイラストは、GAWの元となった「ボードゲームの9つの効能」を手がけた高橋あゆみさんが担当します。番組収録時点ではまだラフ段階ですが、槍と盾を放り投げて矛盾を受け入れようとする9番の絵などが紹介されています。
ゲームの後に人文的態度で振り返る使い方
人文知アプローチカードは、ゲームや映画のあとに振り返りとして使うことが想定されています。3人は、先ほどの「Libre」のプレイをこのカードで振り返ってみます。
たとえば「自分の認識や前提を確認してみる」というカードは、樋口さんが「楊さんは王族を持っていないはず」と思い込んでいたことに当てはまります。相手の文脈に立てていなかったことが、カードを通して言語化されます。
だから俺よりヤンヤンさんの文脈を理解してたのは深井さんやったかも。
Tさん自身がこのカードを一番使うのは、仕事でイライラしたときだと明かします。会議で良い発言ができなかったときにカードを1枚引くと、強制的に人文的な態度へ視点を切り替えてくれるといいます。
樋口さんは、深井さんが以前語った「法具に意味が圧縮されている」という話に近いと指摘します。「相手の文脈に立って理解する」といったことを、一瞬で想起してその思考モードに移るのは実際には難しいからです。
なぜ歴史の会社がゲームを作るのか
ここから、コテンがなぜゲームという手段を選んだのかという話に入ります。まずTさんの経歴です。Tさんはボードゲームチームができるまでコテンのデータベースのプログラマーで、その前はアメリカのGoogleでAIチームにも所属していました。
Tさんは鬱の療養のために日本に来た週、たまたまコテンラジオで社員募集を見て応募したと語ります。アメリカでの運転中にずっとポッドキャストを聴いており、その中でコテンラジオに出会っていました。7歳まで福岡・博多に住んでいたという背景もあります。
鬱になってて。で、日本に鬱直しに来た週に応募がコテンラジオであって。
コテンには元々ボードゲームを作りたいという動きがあったものの、担当する人がいませんでした。Tさんが矢田さんのところ(CNC)への2週間の交換留学を経て、ゲーム作りとコテンの目的を掛け合わせ、深井さんたちにピッチしたのがボードゲームチームの始まりです。
深井さんはビデオゲームが好きで、ゲームは基本的に「世界の縮図」だと感じてきたと語ります。カタンを遊んだとき、資源の奪い合いと勢力の拮抗から、第一次世界大戦の各国の立ち振る舞いが腑に落ちた経験を例に挙げます。
やっぱりゲームにしかできない疑似体験ってあるっていうのをすごく知ってた。
深井さんは、人文知の価値は一度わかった人には自明でも、わからない人には伝わりにくいという非対称性があると指摘します。ポッドキャストではリーチできない層、たとえば中学生より下の子どもや、難しい言葉が苦手な人にも届けたいと考えたときにゲームが有効だと語ります。
ビデオゲームは制作コストが高いため、まずはお金と人数がそれほどかからないボードゲームから作ることになったと深井さんは説明します。アイデア次第で作れる一方、ゲームバランスの調整は非常に大変だといいます。
なぜフランス革命だったのか、開発の裏話
「Libre」は150人以上とプレイテストを重ねて完成しました。3枚集めると何点になるか、数字を1から10にする必要性など、細かいルールはすべてテストの結果として決まっています。
150人以上とプレイテストしてるから、これ。
テーマがフランス革命になったのは後からです。先に数字やメカニクス(ゲームのシステム)を考えており、コテンのCTOのトムさんが「フランス革命テーマがいいのでは」と提案したことでうまく噛み合ったとTさんは話します。ギロチンなどの要素はその後で入りました。
KOTENのCTOのトムが、「これフランス革命テーマいいんじゃない?」みたいな感じで掛け合わせた時に、「あ、本当だ、めちゃくちゃいいな」ってなって。
開発の狙いは、まず「面白さ」を作ることにあったと深井さんは語ります。人文の教育効果を期待しつつも、面白くなければ遊んでもらえないため、面白さを先に作り込む発想で開発されました。
このゲームは「Libre」というタイトルで、バージョン37まで作り直されたとTさんは明かします。当初は歴史のミドルマネージャーを題材にした複雑なゲームでしたが、プレイテストを重ねるほどシンプルになっていきました。
これじゃ架け橋に投げないなっていうのをすごいプレイテストですごいわかって。どんどんどんどんプレイテストやればやるほど簡単になってって、シンプルになってって。
小学5年生の子どもが3回もプレイテストに参加してくれるほど、簡単に遊べるゲームに仕上がっています。Tさんは、日本ではボードゲームの浸透度がまだ低く、大富豪や人生ゲーム以外のルールを飲み込むのに時間がかかる傾向があると指摘します。
ものとして届くことの意味と今後の展望
樋口さんは、このゲームのジャンルを説明します。仕組みとしてはトリックテイキング ── カードゲームのジャンルの一つ。場に出したカードで勝敗を決める小さな勝負を繰り返し、獲得したカードで得点を競う遊び方をしながら、オークションゲーム ── 競りによってカードや資源を獲得していくタイプのゲーム。番組内では説明が伝わりにくいため、あえて前面に出していないと語られていますの要素も持つといいます。
3人は、コテンがこれまで「もの」をほとんど出してこなかったことに触れます。深井さんは、知っていることが「もの」として展開され、手の中で遊べて共有できるフィジカルな効果は大きいと語ります。
Tさんは、ボードゲームなら自分一人がコテンラジオのリスナーでも、リスナーでない人と一緒に遊んで広めていけると話します。人文知を届けるきっかけの「場」を作るアイテムになるという見方です。
人文知アプローチカードの言葉は、バージョン8まで練り直されています。最初はコテンで使っていた言葉をそのまま入れていたため、本人たちでも使いにくいほど難しかったといいます。簡単な言葉にしたことで、誰でも使えるものになりました。
イベント参加者からは「ずっとコテンラジオを聴いていて、言語化できなかった気持ちがこのカードでやっとできた」という感想もあったとTさんは紹介します。行動が変わり、コテンともっと関わりたいと言ってくれた人もいたそうです。
今後の展望として、Tさんは拡張版のルールがすでにできていること、オンライン研修のためにはビデオゲームが必要になることを明かします。深井さんが求めるのは、複数の相反する視点を疑似体験させるようなシミュレーションゲームです。
ゲームで遊んでるだけで勉強になるっていう謎の感覚と、あとはあのラストオブアスツーとかだと二つの全く違う憎み合ってる視点、どっちも経験させられるっていう。
最後に、この音源が公開された時点から「Libre」と人文知アプローチカードの受注生産が始まることが告知されます。コテンゲームズのメールマガジンでは、開発の裏話やイベント情報が配信されるとのことです。
まとめ
コテン特別編では、1年かけて開発した2つのアナログゲームを実際に遊びながら、なぜ歴史の会社がゲームを作るのかが語られました。人文知は一度わかると価値が自明でも、わからない人には伝わりにくい。その非対称性を越える手段として、体感で学べるゲームが選ばれています。
- 「Libre」はフランス革命を題材にしたカードゲームで、身分カードを集めて派閥を作り点数を競う。絵柄や数字に歴史的な裏付けが仕込まれている
- 王族は集めすぎると大幅減点、貴族は2枚だけ得点になるなど、身分ごとの得点設計が革命の力学を反映している
- 人文知アプローチカードは、コテンラジオが大事にしてきた9つの視点をカード化した半分ツール。ゲームや日常の振り返りに使える
- テーマのフランス革命は後付けで、先にゲームのメカニクスを作り、CTOのトムさんの提案で噛み合った。150人以上のテストとバージョン37を経て完成した
- コテンは「もの」として人文知を届けることに価値を見出しており、受注生産とビデオゲーム開発など今後の展開も進められている





