なぜ参加型配信をアップグレードしようとしたのか
みずちさんは少し前からMr.Beast ── アメリカのYouTuber。視聴者参加型の大規模なチャレンジ企画で知られ、チャンネル登録者数は世界最大級ですを分析し、参加型配信をアップグレードする企画を練っていました。今回は、その企画を実際にやってみた結果と、反省会で考えたことを自分の中でまとめる回です。
アップグレードの出発点は、今年の目標である黒字化です。みずちさんはショート動画で一度黒字化を達成したものの、その状態を続けるのは難しいと感じていました。
かといって、ショート動画をやめて新しいことを始めるのは時間的に厳しく、すぐに収入につながるとも限りません。そこで、既存の参加型配信をアップグレードし、広告単価の高い長尺動画として出していく方針にしたといいます。
目標
今年の目標は黒字化
現状
ショート動画で一度達成したが、続けるのは難しい
制約
新しいことをすぐ始めて即金を得るのも難しい
方針
既存の参加型配信を動画化し、広告単価の高い長尺動画で出す
視聴者を「傍観者」にしない仕組みはなぜ空回りしたか
新しい参加型配信は、3時間の配信の中で30分ごとにイベントが発生する形にしました。参加できるのはみずちさんを含めて20人で、視聴者さんはアンケートで選択肢を選び、配信に関われるようにしています。
みずちさんがこの形を考えたのは、通常の参加型配信では、みずちさんとゲーム内の参加者が主に喋るため、視聴者さんが傍観者になりやすいからです。そこで、視聴者さんが参加者を妨害したり救済したりできるアクションを用意しました。
(視聴者さんは)他の配信よりも傍観者っていう感じが強くなってしまうんですね。
ところが、実際にやってみると企画はうまくいきませんでした。みずちさんは原因を構造の問題ではなく、自分が決めた難易度設定やイベント内容にあったと見ています。
みずちさんと参加者がメインで喋り、視聴者さんは傍観者になりやすい
アンケートで視聴者さんが妨害や救済のアクションを選べる形にした
いつもの配信と比べて難易度が低く、参加者にとってやりごたえがなかったといいます。イベント自体が面白くないと投票率も下がり、途中から視聴者さんが冷めて人がいなくなってしまったそうです。
机上の空論を越えるのは「数」
大スベリした企画について、みずちさんは「それはそうだろうな」と受け止めています。そのうえでの気づきは、頭の中で想像した企画は、現場に持っていくと机上の空論っぽくなってしまうということでした。
どれだけ「これは絶対当たる」と考えても、考えるだけでは答えが出ない。みずちさんは、試す回数を重ねることが大事だと感じたといいます。
みずちさんは企画が終わった後、配信の中で、本来の企画よりも長い時間をかけてみんなで反省会をしていました。ソロ配信でも、本当にみんなが楽しめている配信になっているのかを考えていたそうです。
熱量の高いフィードバックはなぜ届いたのか
反省会を通じて、みずちさんはリスナーがとても協力的だと気づきました。マシュマロやDMで、長い文章の熱量の高い意見がたくさん届いたといいます。
みずちさんは、意見を伝えるのは本来面倒なことであり、「どうせ変わらない」と思われても不思議ではないと考えています。それでも意見が集まったのは、今は意見を求めているとオープンにしたからかもしれない、と話しています。
すごくね、助かってますっていうことをちょっとここで言いたいなというふうに思いました。
意見だけでなく、MOD ── ゲームに独自の機能や要素を追加する改造データ。参加型配信のゲーム内容を調整するために使われますやMODリストを作ってくれる人もいたそうです。配信中にも、言葉を選びながら「こうした方がいいのでは」という意見が多く寄せられました。
みずちさんが反省会をあえて配信でやったのは、当事者がその場にいる状態で、声で伝えられるからです。文字だと怒っているように誤解されがちですが、声なら誤解が減り、参加していない視聴者さんも当事者意識を持てると考えています。
チャンネルの強みは「みんなが協力的」なこと
参加型配信の企画は今後も続けていく予定です。みずちさんは、みんなが応援してくれる過程そのものを、成長コンテンツとして作っていきたいと考えています。
僕のチャンネルの強みって、みんなが協力的であるってことなんですよね。コミュニティが強いっていうか。
常連、参加者、MOD作成など、いろいろな形で関わる人がいるからこそ、意見を採用されること自体がコミュニティを深める理由になる、とみずちさんは見ています。
初見の人やライト層には「なんだこの配信」と映るかもしれません。それでもみずちさんは、配信者と視聴者と参加者の垣根が曖昧なことを良さととらえ、反省会の配信を自分の中では最適解だったと話しています。
みずちさんにとって今回の大スベリは失敗ではなく当たり前のことで、失敗をみんなで考えられたこと自体が資産だったといいます。
黒字化を目指すのは「エゴ」なのか
最近、配信をいろいろ変えてリスナーを振り回していることについて、みずちさんは綺麗事抜きに理由を語ります。それは黒字化のためであり、黒字化したいのは活動を続けたいから、続けたいのは楽しいから、だといいます。
綺麗事言わないで言うと、僕が黒字化をするためなんですよね。
黒字化したい
活動をずっと続けたいから
活動を続けたい
楽しいから。やりたいことを続けられる環境にしたい
やりたいこと
みんなと遊ぶこと
すべてに紐づくもの
みんなを楽しませること
みずちさんは、やりたいことが「みんなと遊ぶこと」である以上、自分の活動は完全にエゴだと話します。一方で、黒字化にもみんなと遊ぶことにも、結局はみんなを楽しませることが紐づいてきます。
このエゴと「みんなに面白いと思ってもらわないといけない」という部分の気持ちの整理が、まだついていない。応援の言葉は嬉しいのに、後ろめたさを感じているといいます。
「誰かのため」と「自分のため」はなぜ噛み合わないのか
多くのYouTuberは「視聴者さんのため」と言いますが、みずちさんは、エンタメで喜ばせることは特に考えておらず、みんながお互いに楽しめればいいと思っている、と感覚の違いを話します。
対照的な経験もあります。みずちさんは最近、ある人の動画編集の相談に朝7時ごろまで付き合い、自分の知識や経験が役に立つことに本望だと思えるほどのやりがいを感じたそうです。
参加型配信とかソロの配信とかをするのは割と僕のエゴなんですよね。だから誰かのためではないんですよ。
ただ、収益は誰かからもらう以上、誰かのためにやらないといけない。みずちさんはこのつじつまの合わなさが拭えれば、もっと活動に身を入れられるのではと考えています。
仕事だと言い聞かせてはいても、会社員時代のような責任感はあまり感じていないといいます。責任を感じるほど、睡眠時間を削り、やりたいことができずにフラストレーションが溜まる、昔のような悪い方向に行きそうな恐怖もあるそうです。
引っかかりの正体は「友達からお金をもらう」感覚
参加型やソロ配信が盛り上がれば、再生回数や総視聴時間が増え、広告収益やスーパーチャット、メンバーシップにもつながる。みずちさんはそれがWIN-WINだとわかっていても、引っかかりがあるといいます。
自分のお金稼ぎのために誰かを利用しているっていう感覚。これがなんかね、嫌なんですよね。
ショート動画の時は、広く浅く、たくさんの人から低単価のアドセンス収益 ── YouTubeの動画に表示される広告から得られる収益。視聴回数や広告単価によって金額が変わりますを集めていました。一方、今の配信は狭い層に深く刺さる高単価・少人数型で、メンバーシップやスーパーチャットに大きく支えられています。
広く浅く、低単価。たくさんの人から広告収益を集める
狭く深く、高単価・少人数。メンバーシップやスーパーチャットが中心
案件で「10万円でこれをやってください」と頼まれるなら抵抗はない。けれど、距離の近いコミュニティから高いお金を受け取ることには、友達からお金を取っているような「ごめんね」という感覚があるそうです。
友達からお金をもらいながら友達と遊んでるっていうのが、この図が良くないんだな。
リスナーは応援したい気持ちで納得してお金を出しているとわかっている。それでも納得できないのはみずちさん側だ、と話しています。
広告収益を軸にすれば違和感は消える?
話しながら、みずちさんは一つの答えに近づきます。企画を動画化して広告収益を得る形は、自分にとって理にかなっているかもしれない、というものです。
広告の場合、YouTubeは儲かり、広告主は商品をアピールでき、視聴者は自分の意思で面白い動画を見る。その商流の中でクリエイターが全力で取り組むことには、何の違和感もないといいます。
みずちさんは例として、収益の7割がメンバーシップやスーパーチャットだと「すごい、ね」となってしまうが、7割が広告収益なら普通のYouTuberの構造として飲み込みやすい、と話します。
いろんなYouTube上の視聴者さんが僕のコンテンツを楽しんでくれたゆえの対価っていう風に、なんか飲み込みやすい。
スパチャやメンバーシップ、メンギフトをもらえるのはお金としては嬉しい。ただ気持ちとしては申し訳なさがあり、リスナーに「いいですよ」と言われても変わらないだろうといいます。
何度滑っても助けてくれるコミュニティへの使命感
みずちさんは今、動画編集者さんに手伝ってもらいながら、企画を動画化する体制を整えています。企画を練る段階でも、リスナーが「こういうのがいいのでは」と調整に協力してくれているそうです。
どんだけ滑ってもやっぱり、こう助けてくれる。すごいなって思いますよね。
だからこそ、「無理だったね」で終わらせるのではなく、これだけみんなが協力しているのだからやらなければ、という使命感の方が強いといいます。
稼ぐだけなら別チャンネルやバイトでいい、でも選ばない理由
YouTubeを勉強すると、広告単価の高いジャンルや視聴者層など、稼ぐ方法はたくさんわかるといいます。金融やクレカのジャンルなどを知っていれば、こうすれば稼げるという道筋は見えるそうです。
それでも、稼ぐために別チャンネルを作り、今やりたいことをおざなりにするのは、協力してくれるみんなに不義理で誠実ではない、とみずちさんは考えています。堅実なのはバイトですが、仕事を辞めたのはやりたいことをやるためなので、そこに時間を使うつもりはないそうです。
その制約の中で、友達からお金をもらう形ではない収益の軸として行き着いたのが、参加型配信の動画化でした。これがうまくハマれば、登録者数、再生回数、総視聴時間、参加者や視聴者の満足度、同時接続数まで底上げされ、ほとんどの悩みが解決しそうだといいます。
前例の少ない参加型配信と、Mr.Beastの企画構造
みずちさんの周りでは、参加型配信を毎週続けて大きくなった人はあまり見かけないそうです。参加型は仲間の少ない小さなチャンネルがやるイメージがあり、大きくなると何が起こるかわからないため、やりにくくなるといいます。
実際にやってみて感じる参加型配信の良さは、コミュニティがどんどん強くなること、そして「誰々さんといえば何々」と参加者のキャラクターが浮き彫りになることです。
参考にしたMr.Beastは、チャンネル登録者数が5.4億か5.5億人ほどいる海外のYouTuberです。みずちさんによれば、日本のHIKAKINさんたちでも1000万人や2000万人ほどだといいます。
Mr.Beastは2週間に1本、視聴者参加型のチャレンジ企画を出しています。たとえば買ったスーパーマーケットに一番長くいた人に25万ドル、という企画で、動画を分析すると3分に1度何かが起こるように作られているそうです。
途中では「25万ドルもらえる代わりに使える範囲が半分になる」「制約はないが何ももらえない」といった選択肢が提示されます。メリットが大きいほど制約もかかる構図を、視聴者は楽しんで見られるといいます。
25万ドルが手に入る代わりに、スーパーの使える範囲が半分になる
制約はないが、特に何ももらえない
みずちさんは、この構図は参加型配信にも組み込めると考え、やっている人が少ない今はチャンスだと見ています。海外のYouTube論を見て、ゆっくり実況やMinecraft系で当たっている人たちも同じ構図を使っているとわかり、勉強不足だったと感じたそうです。
インプットが増えるほどワクワクと時間不足が増える
インプットを増やすと、やりたいことや「これは当たるんじゃないか」というアイデアが湧いてワクワクするといいます。その一方で、見る時間、練る時間、形にする時間が必要になり、アウトプットの時間が減ってしまうそうです。
そのためツイートや配信、スケジュールの更新が減っていることについて、みずちさんは申し訳ないとしつつ、今後必ずチャンネルを盛り上げていきたいと話しています。
最後にみずちさんは、大スベリをきっかけにコミュニティの温かさを改めて感じ、そこから生じるジレンマの解決策まで話せたと振り返ります。2週間後には考えが変わっているかもしれないものの、今のところは前向きだといいます。
まとめ
参加型配信の新企画は、難易度設定やイベント内容の調整不足で大スベリしました。それでもみずちさんは、失敗をみんなで考えられたことにコミュニティの強さを見つけ、そのコミュニティから収益を得るジレンマを、参加型企画の動画化と広告収益という形で解こうとしています。
- Mr.Beastを参考に、視聴者がアンケートで関われる参加型配信を試したが、難易度が低く盛り上がらなかった
- 頭の中の企画は机上の空論になりやすく、試す数を重ねることが大事だという気づきがあった
- 配信での反省会に熱量の高い意見が集まり、協力的なコミュニティがチャンネルの強みだと再確認した
- 距離の近いリスナーからメンバーシップやスパチャで収益を得ることに、友達からお金をもらうような違和感がある
- 参加型企画を動画化して広告収益を軸にすることで、その違和感を解消しようとしている



