「聞いてます」と言われる不思議
番組の冒頭、河原あずささんは相談所所長の金亨哲(ヒョンチョル)さんに、ポッドキャストを始めて半年ほどで気づいたことを尋ねます。ヒョンチョルさんがまず挙げたのは、再生数とは関係のない場面で「聞いてます」と声をかけられる経験でした。
意外と、その再生数に関係ないところで「聞いてます」みたいな話をされることがあって。
(「聞いてます」と言われて)普通にまず最初はうろたえました。
ヒョンチョルさんによれば、声をかけてくるのは意外な相手が多く、この後の流れを組み立てている商談の冒頭で言われて困ったこともあるそうです。気恥ずかしさの一方で、本当に聞いてくれる人がいるのだと実感できたのは面白かったと振り返っています。
河原さんは「だんだん慣れてきますよ」と応じ、話題は自分の声への慣れなさへ移ります。カセットテープ世代の河原さんとキノセさん、MD世代のヒョンチョルさんで世代差も見えつつ、自分の声を武器に活躍するゲストを迎える流れになりました。
ゲストけんすうさんと、10年来のファン
ゲストの古川健介さんは「けんすう」の名で知られ、アルという会社を経営しています。長くインターネット業界に身を置き、最近はポッドキャスト向けサービス「Pody」を作り、自身も複数の番組に出演しています。
けんすうさんが関わる番組は4つか5つ、不定期のものを含めると「5.5とか6」だといいます。元ゴールドマン・サックスの田中圭さんとの『限界突破ライフハック』のほか、幻冬舎の箕輪さん、コテンラジオの深井さんや樋口さんとの番組、元LINEヤフー会長の川邊さんとの政治をテーマにした回などが挙がりました。
ヒョンチョルさんは、もともとけんすうさんの大ファンです。大学卒業後すぐに起業した2013年ごろは起業の情報が少なく、検索の末にたどり着いたのがけんすうさんのブログでした。
当時好きだったのは、エンジニアは社内にいるかいないかみたいな話に対して、少なからずディレクション能力は社内にあるべきだみたいな話だったりとか。
ヒョンチョルさんはその後、けんすうさんの発信がlivedoor Blogからnote ── 文章や画像、音声などを投稿・販売できる日本のメディアプラットフォーム。個人のブログ的な発信から企業の情報発信まで幅広く使われていますに移ってからも読み続けているそうです。河原さんは、ディレクションが必要だという話はAI時代の今あらためて強調されて返ってきている、と重ねました。
ポッドキャストの1再生は本1冊に近い?
この回の相談は、番組パーソナリティである河原さんとヒョンチョルさん自身の悩みです。ナビゲーターのキノセさんが読み上げました。
3月から「心理的安全性あふれるチームの作り方」をテーマにしたポッドキャストを運営していますが、なかなかリスナー数が伸びません。再生数が全てではないと思うものの、じゃあ何に価値付けをして続けていったらいいのか悩んでいます。音声配信が続く秘訣を教えてください。
けんすうさんはまず、再生数は媒体によって伸びやすさがまったく違うと指摘します。TikTokなら月100万再生も比較的行きやすく、同じ人でもYouTubeでは月10万、ポッドキャストでは1〜2万程度になることがあるといいます。
やっぱりこの再生数とかだけで見ると、その数字の大きさでみんな判断しがちっていうのがあると思っていて。
けんすうさんが比較の物差しに持ち出したのは書籍です。本は3万部売れればベストセラー、5万部で大ヒットと言えるというざっくりした基準があり、TikTokの100万再生とは価値がまったく違うと話します。
| 媒体 | 再生数の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| TikTok | 月100万再生も比較的行きやすい | 15秒・30秒の切り抜きで、スワイプで新しい人に見つかる |
| YouTube | 同じ人で月10万再生ぐらい | TikTokよりは大人しい |
| ポッドキャスト | 1〜2万程度 | 深く狭く、30分聞き切る人が多い |
河原さんも、Voicyのデータでは10〜15分の放送を7割ほどの人がほぼ聞き切る傾向があると紹介します。けんすうさんの番組でも、30分番組の聴取時間の中央値が30分で、8〜9割の人が最後まで聞いているそうです。
TikTokだと本当にやっぱ1秒以内に終わらせる人が、下手すると5割とか超えるので。
さらにVoicyではセクションを分けると再生数がその分カウントされるなど、媒体ごとに測り方自体も違います。けんすうさんは、浅く広いTikTokと深く狭いポッドキャストは性質が違うのに、同じ「再生数」で比べてしまうことが問題だとまとめました。
深く狭い音声に、広く浅い入り口をつける
ただし、けんすうさんは深く狭いままでよいとは言いません。性質の違いを前提にしつつ、集客のために別の入り口を用意すべきだと話します。
切り抜き動画とかをTikTokに流して知ってもらって、ポッドキャストに連れてくるとか、記事にしてSEOとかで引っかかって、そこから知ってもらうみたいなものをやるべきだと思っていて。
切り抜き動画・記事
TikTokやSEOで、広く浅い層に知ってもらう
ポッドキャストへ誘導
興味を持った人が本編を聞きに来る
両方の層を取る
広く浅い人も、深く狭い人も取れていく
けんすうさんがPodyを作ったのも、この考えが背景にあります。Podyは音声から記事やショート動画を作り、拡散や検索経由で人が来るようにして、ポッドキャスターの「多くの人に知ってもらいたい」という課題を解決するサービスです。
実際にPodyを使い始めた河原さんは、読み込んだ音声をそのまま文字起こしして整った記事にしてくれる点を評価します。けんすうさんによれば、記事化のためのプロンプトは6万行ほどあり、今も微修正を続けているそうです。
そこまでやると、まあ読むに値するレベルのにギリギリ届くっていう感覚があって。
動画機能についても、面白い部分を30秒ほど切り取り、図解を付けて「動画として成り立つレベル」に持っていく工夫をしたと説明しています。
読み手にコストを渡さない書き方とは
ヒョンチョルさんは、Podyにも表れている「けんすうさんっぽさ」を「柔軟でしなやか」と表現します。読み手にコストを渡さないことを徹底し、使う人に小さなアハ体験 ── それまで分からなかったことが、ふと「なるほど」と腑に落ちる瞬間の体験のことを渡そうとしている点に、こだわりを感じるといいます。
コンテンツの有益さとその読むコストみたいなものはめちゃくちゃ気になるタイプで。
けんすうさんは、エンタメなら遠回りも楽しめるが、情報系は最短でわかりやすく、齟齬なく伝えるべきだと考えています。姉も編集者なので「そういう遺伝なのかもしれない」と冗談めかしていました。
長いnoteでも読み疲れない理由を河原さんが尋ねると、けんすうさんは文章の組み立て方を明かします。驚きのある切り口から入り、読者が疑問を抱いた瞬間に次の答えを置く構造です。
極端な例を言うと、例えば「ポッドキャストは喋らない方がいいんです」みたいに言われると、普通だったら「え、なんで?」ってなるので、次読みたくなる、と。
ヒョンチョルさんはもう1点、けんすうさんの文章は尖った意見でも敵を作らない言い回しになっていると指摘します。けんすうさんは「内容×表現」がコンテンツだと定義しており、内容が尖るときは表現をマイルドにして刺激を抑えているそうです。
例えば「この記事は日本人全員読んだ方がいい」とか書いた方が数字は伸びるんですけど、全員は言わなくていいなと思っちゃうんですよね。
けんすうさんにとって、刺激を強くして数字を伸ばすことは、情報の信頼性を下げるノイズです。正確性が失われるほうが嫌なので、「こういう人ほどこう使うといい」と対象を絞って正確に伝えたいと話しています。
音声配信は誰がやり、誰に届けるべき?
では、音声配信はどんな人がやるべきか。河原さんの問いに、けんすうさんは直前の話をひっくり返すように「日本人全員ですね」と答え、スタジオの笑いを誘いました。
ただ、人間って人の話は結構聞けちゃうんですよ。
noteやXでの発信には一定の文章力が必要ですが、話すことは誰でも比較的できます。けんすうさんは、5歳でも80歳でも配信できるポッドキャストこそ、コンテンツを出したいのに出せていない人に向いていると考えています。
聞き手のパイは急には増えない中で誰に届ければいいのか、と河原さんが重ねると、けんすうさんは2つの考え方を示しました。1つ目は、誰か1人に話しかけるように話すことです。1人が30分話を聞いてくれるだけで価値は高いといいます。
たとえ0人しか聞いていなくても、例えばそれがインターネット上に残っている限り、AIが学習するとか。
2つ目は社会に向けて話すという考え方です。ネット上に残った話がAIに学習されるなどして少しずつ影響を与え、みんなが考えや知識を出すほど社会に溜まる情報が増えていく、とけんすうさんは見ています。
けんすうさんは例として、コテンラジオで聞いた元寇 ── 13世紀後半、モンゴル帝国(元)が2度にわたって日本へ攻めてきた出来事。文永の役・弘安の役と呼ばれますの話を挙げます。残る資料は2つほどしかなく、その1つは参加した一般の武士が自慢のために記録させたもので、それがなければ全体像はわからなかったといいます。
これあの10年前の動画ですらもうちょっと価値が出てるんですよ。
けんすうさんが最近作った街歩き動画のサイトでも、10年前の動画には当時の街並みや服装、スマホの様子が残っていて価値が出つつあるそうです。今の人には当たり前のことでも、残しておけば将来大きな価値になるものが大量にあるのでは、というのがけんすうさんの考えです。
なぜポッドキャストだけ「バイネーム」で覚えられるのか
ヒョンチョルさんの経験を受けて、河原さんは目先の再生数より「聞きました」と言われた数のほうが重要だと話します。好感がなければわざわざ言わないし、言う人はどこかの回の内容をちゃんと覚えているからです。
けんすうさんの実感はさらに極端でした。Xでは1000万〜3000万ほどのビューがあるにもかかわらず、外で会う人から言われるのはほとんどがポッドキャストのことだといいます。
外で会う時に言われる99倍以上がもう「ポッドキャスト聞いてます」なんですよ。
「Xで見たな」「YouTubeで誰か言ってたな」と、媒体として記憶される
「あの人のポッドキャストを聞いている」と、バイネームで記憶される
けんすうさんによれば、100人しか聞いていない番組でも「聞いてます」と言われるポッドキャスターがいるそうです。
ビジネスで音声を乗りこなすには
河原さんとヒョンチョルさんは仕事として番組をやっている面もあります。そこで河原さんは、知名度向上や会社のプロモーションなど、ビジネス目的で音声を使う人が上手に乗りこなす秘訣を尋ねました。
けんすうさんの答えは、ビジネスには説明責任とKPIがつきものだからこそ、ショート動画、ビデオポッドキャスト、記事、Xまで全部やって、まとめた数字を言えるようにすることでした。
けんすうさんによれば、『限界突破ライフハック』の場合、ポッドキャストの聴取者は3万〜5万ほどですが、YouTubeは月に30万〜40万再生、切り抜きは100万ほどになるそうです。
なんか担当役員とかいたらYouTubeとか切り抜きの方をちゃんと説明し、でもとはいえ、「お客さんに深く届いてるかどうか重要だよね」みたいな話になったらポッドキャストの方の話をするみたいな感じで。
河原さんは、経営者や起業家こそ音声配信をやり、テキストや動画としてアーカイブしていくべきだと話します。テキストをAIに読み込ませれば、自分の考えを踏まえた羅針盤にもなるからです。
けんすうさんも、毎日ポッドキャストをやっているのはむしろ自分のためだと同意します。文字起こしをAIに読ませ、人から質問されたときの自分の答えを先に考えさせ、それを見てさらに深く答える、といった使い方をしているそうです。
さらにPodyでは、文字起こしをすべて読み込んで書籍化した場合の案を自動で作る機能を開発中で、7万字ほどの素案がすぐにできるといいます。KDP ── Kindle Direct Publishingの略。Amazonが提供する電子書籍の個人出版サービスで、著者が直接Kindleストアで本を販売できますへの配信もワンクリックででき、出版社と組んだ本も12月ごろに出る予定だと話していました。
音源なくAIで作らせようとすると、なんかめっちゃつまんないんですよ。
けんすうさんは、AIだけで作った文章は「その人の言葉じゃない」からつまらないと続けます。だからこそ、自分の声を残しておくことが重要だというのです。
人ではなく「番組」にファンがつく時代
やってみたいことを問われたヒョンチョルさんは、番組のテーマそのものを見直す考えを口にします。心理的安全性を主軸にしてきたものの、2人のキャラクターが見えてきた今、もっとキャラクターが出る形にしたほうが面白いかもしれない、という気づきです。
多分「この人の話が聞きたい」みたいなところが結構メインになってくるんだろうなみたいなことを、今日すごく話を伺って感じたんで。
けんすうさんはそこにもう一歩踏み込みます。SNSでは個人の意見を聞きたくてフォローしますが、ポッドキャストでは出演者同士の関係性を見に来るため、人よりも番組にファンがつきやすいといいます。
オードリーさんってオードリーで2人で漫才やろうと思っても東京ドーム埋まらないけど、ラジオのイベントだと埋まるみたいなことが起こったりとか。
アイドルグループも解散すると人気がなくなることがあるように、関係性のあるグループのほうがファンになりやすい、とけんすうさんは話します。15年ほど続いたSNSの時代から、2〜3人の関係性を見に来る時代へ移りつつあり、その意味でもポッドキャストはやりやすいと見ています。
SNSの時代:個人の発信を見て、その人をフォローする
ポッドキャストの時代:2〜3人の関係性を見に来て、番組にファンがつく
番組が安心して応援される理由として、けんすうさんは文脈の積み重ねを挙げます。個人は急に逆のことを言い出すこともありますが、番組はそれまでのコンテキストが重要なので、大きくは変わりにくいというのです。
それまでのコンテキストが重要なんで。なので安心してファンになれるみたいなのはあるんじゃないかなと思ってます。
Podyが目指すメディア環境の再建
河原さんは、Podyがクロニクル ── クロニクル。Podyとの提携が番組内で触れられた企業ですと提携するなど積極的に動いていることに触れ、今後目指す方向を尋ねます。けんすうさんの答えは、日本のメディア環境を良くしたいというものでした。
端的に言うと、やっぱメディアというか、日本のメディア環境を良くしたいみたいなのがゴールとしてあって。
収録時にはフランスのデモが話題になっていました。けんすうさんは、日本ではデモがあまり機能しないぶん、メディアが権力を監視し発信することが重要だと考えています。一方で、新聞購読者の減少やYouTubeとの競合で、メディアのビジネスモデルは苦しくなっています。
そこでポッドキャストを軸に、内容を妥協せずに良い情報発信を安く作れるようにすれば、メディア環境が良くなり、社会も良くなる。けんすうさんはそう描いており、朝日新聞やダイヤモンド社などにPodyで作った記事を配信しているのもその一環だと説明しました。
河原さんは、アルゴリズムに支配されがちなネット環境の中で、音声は比較的自由で生身の声が集まる場所だと受け止めます。そうした声の集積がメディア環境をさざ波のように少しずつ動かしていく、と感想を述べました。
シンクリへの処方箋は「雑談回」と関係性
最後に河原さんは、最初の相談に戻って「シンクリは今後どうなっていったらいいか」とけんすうさんに尋ねます。答えは、長く続けることを土台にしながら、テーマから離れた回も混ぜることでした。
ちょっとあの雑談だけする回とか、全然心理的安全性とかから関係ない回とかもやった方が多分ウケると思いますね。
あわせて、記事化して拡散し、新規のリスナーを取ってくる取り組みもちょこちょこやるとよい、とけんすうさんは助言しました。河原さんが「我々の関係性が試されてますよ」と振ると、ヒョンチョルさんは笑いながら応じます。
もっとズブズブに仲良くなりながらやれたらと思います。
喧嘩したらね、録らなくなっちゃいますからね。
キノセさんは振り返りで、数字の多い少ないに左右されがちな中で、狭く深いポッドキャストには今の時代に大きな意味があると感じたと話しました。広めることはテキスト化で解決しつつ、音声では「そこにいる感覚」を呼び起こすことを意識したい、とまとめています。
言い残したことを聞かれたけんすうさんは、ポッドキャストをやりすぎて伝えたいことがもうないと答えます。話したことは後で検索して見返せるので、覚えておく必要もないといいます。
河原さんはそれを「お腹の中に言いたいことを溜めない健全な状態」と受け止め、音声配信はけんすうさんや自分たちのような人のためのメディアだと笑って番組を締めくくりました。
まとめ
再生数が伸びないという悩みに対し、けんすうさんは媒体ごとの性質の違いを示し、ポッドキャストの1再生の重みをとらえ直す視点を示しました。そのうえで、記事や動画で入り口を広げ、出演者同士の関係性を育てることが、続けるための鍵として語られています。
- ポッドキャストは深く狭い媒体で、TikTokやYouTubeと同じ再生数の物差しで比べるべきではない
- 切り抜き動画や記事化で広く浅い入り口を作れば、ビジネスで求められる数字も説明しやすくなる
- 音声はバイネームで記憶されやすく、100人の聴取でも「100人の友達」に近いインパクトがある
- 声を残しておけば、AI活用や書籍化など、自分と社会にとっての資産になる
- 番組には人ではなく関係性にファンがつくため、雑談回などで出演者のキャラクターを見せるとよい




