西尾維新を一冊も読んでいない?
雑談回の冒頭、話題が見つからないけんすうさんに、田中渓さんは西尾維新の『化物語』を読んでいるかと尋ねます。けんすうさんの答えは「読んでいない」で、作品名も作者名も知らないというものでした。
田中さんによると、『化物語』はアニメ化もされた人気シリーズです。25年ほど前から続いていて、今も新作が出ているといいます。
やばいな、どっか通んなきゃいけないところを見逃してる。
通んなきゃいけないルートを見逃してますよ。そのサブステージ通ってないですよ。
田中さんの説明では、西尾維新は最初の戯言シリーズ ── 西尾維新のデビュー作『クビキリサイクル』から始まるミステリー小説のシリーズ。独特の言葉遊びとキャラクターで人気を集めましたから大ヒットし、その後に『化物語』を出してアニメ化・漫画化でさらにヒットしました。田中さんたちとほぼ同世代の作家だといいます。
田中さんが本当に話したかったのは、その〈物語〉シリーズが「そろそろ終わりそう」だということでした。けんすうさんは「拾えなかったな」と悔しがりつつ、読んでみると約束します。
寝起きに書けば8倍書ける?
田中さんは、西尾維新がとても筆の速い作家だと紹介します。例として挙げたのが、ドラマ化もされた掟上今日子シリーズです。
田中さんの話では、西尾維新の筆が速い理由は仕事量の多さにあります。寝起きがいちばんアイデアが出て面白く書けるので、1日の中で短く寝ては起きることを何度も繰り返すそうです。
要は3時間ごとに起きるってやると、8回目覚めの瞬間があるので、8倍書けるんですよ。
すごい。限界突破。
けんすうさんは、武井壮さんもかなり近いことを言っていたと続けます。動物は走って獲物を取り、食べて、お腹がいっぱいになれば寝る。武井さんは1日の中でそれを4回ほど繰り返し、6時間刻みくらいで2時間ほど眠るリズムで暮らしていると話していたそうです。
さらにけんすうさんは、交流のある作家の燃え殻さんの習慣も紹介します。燃え殻さんは45歳ぐらいで小説家になり、それ以来、毎朝起きた瞬間に4000字ほどを1日も欠かさず書いているといいます。田中さんも最近、燃え殻さんの『ブルー ハワイ』を買ったばかりでした。
西尾維新、武井壮さん、燃え殻さんの3人の話は、寝起きの時間を軸にしている点で重なります。
| 人物 | リズム | 話されていた内容 |
|---|---|---|
| 西尾維新 | 1〜3時間ほど寝て起きるを繰り返す | 寝起きがいちばんアイデアが出て面白く書ける |
| 武井壮さん | 1日に4回ほど、2時間ほど寝る | 動物のように動いて食べて寝るを繰り返す |
| 燃え殻さん | 毎朝起きた瞬間に書く | 4000字ほどを1日も欠かさず書く |
2人は、寝起きの瞬間にわっと書くのがいいという点で話が「繋がった」と笑い合います。
寝たら終わりの推理小説とは?
田中さんは改めて、掟上今日子シリーズの面白さを語ります。主人公は、寝ると記憶をすべて忘れてしまう「忘却探偵」です。事件を解決するまでに寝たら終わり、というルールの下で進む推理小説だといいます。
なるほど。あ、それ面白そう。
けんすうさんは、こうした設定のあるミステリーが好きだと話します。以前勧められた、謎解きの要素が強いさよならの言い方なんて知らない。も1冊目だけ読み、世界観の設定がわかったところで止まっているそうです。
田中さんは新刊が出たことを伝え、アニメ化するのではないかとも話します。西尾維新については、ライトノベルではないものの、かなり読みやすい系統のミステリー作家だとして薦めました。
転生もの、どこから読めばいい?
けんすうさんは、小説をたくさん読むのに、若者向けで読みやすい系統の作品だけがすっぽり抜けていると打ち明けます。漫画でも、転生ものは一つも読んでいないそうです。
(転生ものは)あまりにもありすぎて、どっから手つけていいかわかんない問題なんですよね。
けんすうさんは、この悩みをCOTEN RADIO ── 歴史をテーマにしたPodcast番組。1つの人物やテーマを何回にもわたって深掘りするシリーズ形式で、配信回数が多いことで知られますに入りたい人にもたとえます。回数が多すぎて、初回から聞けばいいのか最新回から聞けばいいのかわからない、という問題です。
田中さんによると、転生ものはジャンルが細分化しまくっていて、転生しないファンタジー世界だけの作品もあります。田中さん自身は最近、引退して宿屋をやる系の異世界ものをよく読むといいます。
まずだから鳥山明から行けとか、冨樫から行けみたいなの欲しい。
だって、その派生は本流がわかんないといけないじゃないですか。
そこで田中さんが薦めたのが『誰が勇者を殺したか』です。作者は駄犬さんで、何十万部も売れたのではないかといいます。魔王と勇者の話を「誰が勇者を殺したのか」という問いから始める、ミステリーっぽさもある作品です。
『誰が勇者を殺したか』は1冊で完結していますが、売れたために後日談や前日譚も出ています。けんすうさんはそれを、『ダイの大冒険』のアバン先生の話のような続き方だと受け止めました。話はそのまま、『ダイの大冒険』のアバン先生を描く作品の最新話にポップが出てきた話題へと移ります。
回文作家と「ズンドコベロンチョ」
田中さんは、西尾維新という名前はローマ字で書くと逆から読んでも同じ回文になっていると紹介します。ただ、西尾維新を知らない人に話しても全然ピンとこない、と苦笑します。
(このPodcastを)聞いてる人も、8割ぐらい知ってんじゃないですか、化物語は。
それを聞いたけんすうさんは、小学生のころに見た『世にも奇妙な物語』の「ズンドコベロンチョ」という回を思い出します。社会のみんなが「ズンドコベロンチョ」という謎の言葉を口にする中、トレンドに詳しい超エリート商社マンだけがそれを知らず、最後には気が狂いそうになる話だそうです。
今それを聞かされている気分です。
そこまででもないです。
田中さんは、今読んでも面白いはずだと励まします。けんすうさんの「読みます」に、田中さんは「よかった」と返しました。
作家と一緒に年を取る喜びとは?
けんすうさんが、自分が知っている前提ならどう話を展開するつもりだったのかを尋ねると、田中さんは特に展開はないと答えます。田中さんが共有したかったのは、〈物語〉シリーズの最新刊で「終わりに向かっている」と感じた感動でした。
田中さんは、同世代の西尾維新が20代のイケイケな作風から、だんだん死生観を描くようになったことに感慨深さを覚えたといいます。終わらないと思っていたシリーズに、死とは何かという問いが出てきたことが響いたようです。
けんすうさんは、漫画にも小学生のころに始まって今も続く作品がたくさんあると応じます。挙がったのは『はじめの一歩』『名探偵コナン』『こち亀』『HUNTER×HUNTER』『ONE PIECE』です。
同じように年を重ねた結果ね、深みも出たりしてね。そういう喜びありますよね。
作者と読者が一緒に年を重ねることで、作品にも深みが出る。2人は、先生も年を取ったなと感じたり、先生が病気になったりすることもあると話します。
田中さんは最近、『はじめの一歩』の森川ジョージ先生の仕事場を見せてもらったそうです。けんすうさんもReHacQで対談したことがあり、持参した1巻に一歩を描いてもらったといいます。
田中さんが感動したのは、アナログで描かれた生原稿の迫力でした。印刷された漫画では当たり前のように受け取ってしまう絵も、生原稿を見ると「これペンで描いてんの?」と驚くほどだったそうです。
少年漫画と少女漫画は何が違う?
けんすうさんは森川ジョージ先生との対談で、コマ割りの描き方を少し教わったといいます。特に面白かったのが、少年漫画と少女漫画は描き方がまったく違うという話でした。
森川先生の説明では、少年漫画は基本的に起きた時系列どおりに描きます。回想シーンはあっても、回想だと明らかにわかる形にするので、話は一直線に進みます。
一方の少女漫画は、時間も空間も心の中もあちこち行ったり来たりするため、きちんとした読解力がないと読めないそうです。
起きた時系列どおりに一直線で描く。回想も回想だとはっきりわかる形にする
時間・空間・心の中を行ったり来たりする。行間を読む読解力や共感力が必要
だから少年みたいな我々のようなアホガキにはわかんないんす、少女漫画。僕は少女漫画すごい好きなんですけど。
けんすうさんによると、森川先生は、少女漫画を描くのはさらに難しいと話していたそうです。少年漫画を描く女性作家は多いものの、少女漫画を描く男性はとても少なく、「あんなのは自分では絶対描けん」と語っていたといいます。
田中さんは、女性作家が描いているかもしれないとしてスポーツ漫画を挙げ、心の機微を細やかに描くという評判があると話します。『スラムダンク』にはそうした描写がほとんどないという指摘に、田中さんは納得したそうです。
男性の部活で、男性同士で「あいつどう思ってんだろうな」って思わないじゃないですか。でも女性が書くとお互いそれを考えてるんですよね。
考察ブームはSNSが生んだのか?
けんすうさんは以前、別のラジオで『ちいかわ』などの考察ブームについて話したといいます。最近の作品は物語の中で世界観をあまり説明せず、読者がSNSで考察して派閥を作り、議論すること自体も楽しみになっている、という内容です。
その際にけんすうさんが、自分たちの時代の『ドラゴンボール』や『スラムダンク』では解釈で揉める人はいなかったと話したところ、後日コメントが届きました。
「スラムダンクってめちゃくちゃ考察と解釈ですごいあるからなめんなよ」ってコメントが来て。すいませんでしたと思って。
それでも、昔は今ほど考察ブームがなかったという点で2人の意見は一致します。けんすうさんは、違いは考察を共有できるSNSの有無だとし、岡田斗司夫さんのように考察する人はどの時代にもいたと話します。田中さんは『進撃の巨人』も考察ありきで盛り上がった作品だと挙げました。
けんすうさんは、ある年代までの漫画はキャラクターが説明臭いセリフで世界観を語っていたのに対し、今はその説明すらない作品が増えたと指摘します。
キャラクターが説明臭いセリフで世界観を説明してくれる
説明がなく、各自の解釈や考察する人の解説がないとわからない作品が増えた
田中さんは、SNSで検索するところまでがセットになっていないと盛り上がらないのかもしれない、と話をまとめました。
今日から西尾維新を読むなら何から?
最後に田中さんが、西尾維新をまず読むところからと促すと、けんすうさんは今日から読み始めると宣言します。この番組に持ってこられるくらい熟練してから戻ってくる、と意気込みます。
でも今から読めるの幸せですね。
けんすうさんもその言葉に同意します。まだ読んでいない名作が残っていることは、これから読む人の特権でもあります。
田中さんは続けて、西尾維新の『バーサス』は読んだかと尋ねます。けんすうさんが存在は知っているものの読んでいないと答えると、田中さんは次回『バーサス』の考察を話すと予告し、けんすうさんへの宿題になりました。
まとめ
西尾維新を一冊も読んでいないけんすうさんに田中さんが魅力を伝えるうちに、話は寝起きの執筆術、作者と年を重ねる長期連載、少女漫画の描き方、SNS時代の考察ブームへと広がりました。次回は『バーサス』の考察回になる予定です。
- 西尾維新の〈物語〉シリーズは25年ほど続く人気作で、田中さんは「終わりに向かう感動」を共有したかった
- 西尾維新、武井壮さん、燃え殻さんの話は、いずれも寝起きの時間を生かす点で重なる
- 長期連載では、作者と読者が一緒に年を重ね、作品に死生観や深みが出てくる
- 森川ジョージ先生によれば、少年漫画は時系列で一直線、少女漫画は時間も心も行き来する
- 説明セリフが減った今の作品は、SNSでの考察や検索まで含めて楽しまれている




