準備が間に合わないスタートアップの収録風景
月1回のまとめ収録は、始まる前からバタバタでした。樋口さんによると、横山さんは時間どおりにZoomに入り、マイクも台本も準備万端だったそうです。
一方の佐野さんは、台本が間に合わず、食事をしながら参加し、さらにマイクとケーブルがないと慌てていたといいます。
「やばい、ケーブルない、どうしよう」ってなってるときに、「あ、あるよ」つって、よこしゃんがパッと(ケーブルを)渡して。めちゃくちゃかっこいいやんってなって。
横山さんの周りには、開発で使うジャンク部品がたくさん転がっているそうです。佐野さん自身も余裕のなさを認めていて、今週だけで3つほど忘れ物をしたと話します。
先週はなんか新品で買ったジャケット、革ジャンがあるんですよ。いい革ジャンが。それ買った日にタクシーに忘れて、もうどこか行方不明になってた。
樋口さんはこの慌ただしさを「スタートアップのいい感じの雰囲気」と表現し、佐野さんも「今ならではなので楽しみたい」と応じています。
半年で商業出版、佐野さんの新刊はどんな本?
Play Roboticsニュースの最大の話題は、佐野さんの書籍の刊行です。自費出版ではなく、出版社から声がかかった商業出版で、タイトルは『フィジカルAIとヒューマノイドで世界はこう変わる』です。
この本は、フィジカルAI業界の中でなぜヒューマノイドが盛り上がっているのか、そしてヒューマノイドのあり方を語る内容だといいます。会社の設立は4月9日で、刊行は創業からおよそ半年というタイミングです。
佐野さんによると、前著をきっかけに複数の出版社から執筆のオファーがあり、当初はキャリアの本を考えていたそうです。ところがロボットの会社を作ったと話したところ、編集者が柔軟に企画をロボットへ切り替えてくれました。
書籍ってなんか3カ月ぐらい前に(原稿が)出るもんなんですよ。
もうギリギリまで待ってもらえて。だからできる限り最新情報を元に、そのフィジカルAIとヒューマノイドの話を書かせていただいた。
佐野さんの新刊は11月初旬の刊行で、10月初旬まで修正を続けたそうです。落合陽一さんの推薦コメントも付くといいます。
佐野さんは、この本を届けたい読者として3つのタイプを挙げています。
- フィジカルAIやヒューマノイドをまず知りたい人
- ビジネスや投資の観点で業界の盛り上がりを見たい人
- 自分の生活や家族、仕事やキャリアがどう変わるか知りたい人
樋口さんは、AIだけでも世界が混乱しているところに、次のヒューマノイドが来ていると指摘します。佐野さんは、この本で「ヒューマノイドの地図」をどう見ればいいかの視点を渡したと話しています。
予約の段階で重版が決まると書店での平積みが増えるそうで、佐野さんはリスナーに予約を呼びかけました。樋口さんがロボットに予約ボタンを押させる案を冗談で出し、「4万冊ぐらい買っちゃって倒産」という笑い話にもなっています。
展示会、渋谷での警備、ヒューマノイド新卒。Play Roboticsの1カ月
Play Roboticsの近況として、佐野さんは本の他にもいくつかのトピックを挙げました。1つ目は、富士通の展示会「アジアパシフィックリテールテック」の一角にブースを出し、開発中の小さなコンパニオンロボットの試作品を展示したことです。
このブース出展は、フィジカルAIイベントを開いているコミュニティ「WIS」の担当者の後押しで実現したそうです。試作品はマスキングテープや配線がむき出しの手作り感があり、これから外装を作っていく段階だといいます。
2つ目は、東急不動産の実証実験です。富士通やGMOとのハッカソン的なイベントの一環として、渋谷サクラステージ周辺でヒューマノイドに警備をさせるPoC ── Proof of Conceptの略で「概念実証」のこと。新しい技術やアイデアが実際に機能するかを、本格導入の前に小規模に試す取り組みですを進めており、その中間報告会が開かれました。11月中には実際に警備させる計画だそうです。
3つ目は、カクイチと進める「ヒューマノイドを新卒総合職として入社させる」プロジェクトです。ヒューマノイドのボディがカクイチに届き、入社前のOJTが始まったことが新聞に取り上げられました。
とりあえずは入社式で他の新入社員と一緒に椅子に座ってて、呼ばれたら立ち上がって社章を受け取るっていったところをとりあえずマスト要件としてやってるんですけど。
カクイチのヒューマノイドについて、樋口さんは業務だけでなく儀式に参加させる点を面白がります。佐野さんは「特別扱いしない」「組織の一員に入るからには儀式を経てほしい」と応じました。
さらにPlay Roboticsは、来年1〜3月ごろの実行を目指して投資による資金調達の準備も始めています。毎日2〜3件は投資家と話しているといい、キーホルダー型ロボット「メルティコア」を成功させたいと語っています。
売上2億円、赤字200億円。Agility Roboticsはなぜ上場に向かう?
ここからは10月1日から収録日の10月16日までの業界ニュースです。最初の話題は、二足歩行ロボット「Digit」で知られるアメリカのAgility Roboticsが、上場手続きの承認待ちまで進んだというニュースでした。
佐野さんは、以前取り上げたユニツリー ── 中国のロボット企業。四足歩行ロボットやヒューマノイドを比較的安価に提供し、世界的に存在感を高めていますに続いて、上場しそうな会社がまた出てきたことに注目しています。上場予定日は11月2日だといいます。
佐野さんは背景として、スタートアップの資金調達が難しい時代に、フィジカルAIだけはバブルのように調達しやすくなっていると説明します。SaaSの時代が終わりつつあり、AIも真似されやすい中で、ハードウェアは差別化しやすいという見方です。
まだなんかギリフィジカルAIの分野ってまだ気づかれてないんじゃないかの、ギリギリの今あれですよね。
上場に向けて公開された数字も話題になりました。10月6日の投資家向け説明で示された2025年の財務では、売上が約2億円に対し、純損失が約200億円だったそうです。
え、ちょっと待って。えっと、売上が2億に対して赤字が200億?
ただしAgility Roboticsは、約1000台、3億ドル規模の受注があるとプレゼンしているそうです。佐野さんは、一度大きく掘って開発に投資し、2027年出荷予定のDigit 5で売れる見通しが立ってきたという流れを、これから多く起きる典型だと見ています。
Digit 5は、以前番組で紹介した「ショートスリーパー」のロボットです。イギリス・ケンブリッジのNioVoltと組み、9分の充電で90分稼働できるようになったといいます。
ロボットの脳を「借りる」時代へ。Physical IntelligenceのAPI公開
次の話題は、ロボットの脳となるAIで注目されるアメリカのPhysical Intelligenceが、ロボット向けのAPI ── 外部のソフトウェアから機能を呼び出して使うための窓口。ネット経由で、他社のAIを自社サービスに組み込めますを提供し始めるというニュースです。価格や精度はまだ発表されていないそうです。
ようやくAIの脳の作る企業の戦争が、結構どこに着地してくるかの、ついにAPIを公開する企業が僕は強いと思ってるので。
佐野さんは、競争が起きればAPIの価格は下がり、ロボットを導入する側にとってはありがたいと話します。樋口さんが、これまでとどう変わるのかを尋ねると、番組では次のように説明されました。
これまでフィジカルAIでは、オープンソースのモデルを、ロボットの脳となるパソコン上に自前で展開するのが主流でした。それが、各社のサーバー上にあるモデルへ通信して使えるようになったというのが今回の変化です。
公開モデルを、ロボットの脳となるパソコン上に自分で展開して動かす
各社のサーバー上にあるモデルに通信してAPIで使う
なんかどんなちっちゃい会社であれ、中小企業でもヒューマノイドを使いこなせる道が、もうできたってことなんですよね。
ロボットの脳をAPIで借りられれば、海外で仕入れたロボットを使い、自社は現場への導入や作業分解に集中できます。ロボットアームさえ入手できれば簡単な作業からできるというのが、番組での見立てです。
補足として紹介されたのが、Physical Intelligenceの最新モデルのデモ動画です。ロボットアームがエアフライヤーにポテトを入れる作業で、最初はやり方がわからずにいたものの、人間が数分間「扉を開けて、ポテトを入れて、閉めてボタンを押して」と教えると、成功率が90%以上になったといいます。
このモデルはこれまで一般公開されていなかったため、APIで使えるようになれば技術者としてうれしい、と語られています。樋口さんは、開発すべき部分と外から借りる部分の分担が進めば、開発全体が加速しそうだと応じました。
刃物を付けたヒューマノイドが戦うREK「デスマッチ」
続いては「マイナーなニュース」として、ヒューマノイドの格闘技の話題です。ヒューマノイドの格闘興行を手がけるスタートアップREKが、刃物を付けたヒューマノイド同士を戦わせる「デスマッチ」という企画を行いました。
REKのデスマッチで戦ったのは、鋼鉄の鉤爪を付けた「レクタイル」と、両腕に刃の付いた斧のような「スパルタンブレード」を付けた「T-REX」です。暗い地下闘技場のような会場で、観客に囲まれて対戦する写真が公開されています。
これは、だから人間がやってることって古代から変わってないですね。
番組では、剣闘士の時代や映画リアル・スティール ── 2011年公開のアメリカ映画。人間に代わってロボットがボクシングをする近未来を描いた作品ですの世界になぞらえられました。日本のロボコンとの違いは、実際に壊し合うかどうかだという見方も出ています。
REKの試合のロボットは、現時点では自律ではなくコントローラーで操作されているそうです。樋口さんはこれを「スト2やん」と表現し、格闘ゲームのコマンド入力と同じだと盛り上がりました。
ヒューマノイド大会で優勝した日本人に聞いた話として、当日渡された機体をその日にコントローラーで操作して勝ったというエピソードも紹介されています。格闘ゲームが強い人が強い、という感覚だったそうです。
一方で、REKの試合では金網に穴が開き、観客が危ない思いをしたこともあったといいます。自律化やハッキングの危険も話題になり、REKは9月にも人間対ヒューマノイドのボクシング大会を開くなど過激な興行を続けているそうです。
古いスマホがヒューマノイドの脳になる「PhoneBot」とは?
研究分野からは、UCLAの研究室RoMeLaが提唱した「PhoneBot」が紹介されました。古いスマートフォンをヒューマノイドの脳として再利用するという、「枯れた技術の水平思考」的な研究です。
PhoneBotの発想は、スマホにはヒューマノイドが必要とする要素がすでにそろっているというものです。番組で挙げられた対応関係は次のとおりです。
| スマホの機能 | ヒューマノイドでの役割 |
|---|---|
| 高性能なプロセッサー | 頭脳 |
| 傾きを検知する機能(画面の縦横切り替えなど) | バランス感覚 |
| 高性能なカメラ | 目 |
| スピーカー | 会話 |
PhoneBotでは、古いスマホ1台に、5万円以下で作れる足などのパーツを組み合わせるだけで、自立して動き、周囲を認識して会話もできるそうです。研究では2017年ごろのAndroidスマホでも二足歩行できたといいます。
樋口さんは、スマホにはGPSや通信機能もあり、脳の処理もAPIに任せれば最低限の処理と通信で十分ではないかと話します。安価なCPUでも数万円するため、メルカリで5000円ほどの古いスマホを買うほうがいいかもしれない、という声も出ました。
一番興奮するな、僕、そういうの。
手持ちのスマホをはめればロボットになる製品や、手足付きのiPhoneが出るかもしれない、と夢が広がり、Play Roboticsでも作りたいという宣言まで飛び出しました。
人間の動画から学ぶGemini 4 Argon、現場データはなぜ今貯めるべきか
最後の話題は、Googleが10月13日に発表した「Gemini 4 Argon」です。人間が普通に動いている動画から、ロボットが動きを学習できるようになったといいます。
これまでのロボット学習は、機械学習や遠隔操作などの手間が必要でした。Gemini 4 Argonでは、次の流れで動きを身につけます。
人間の動画
普通の動画から動きを学ぶ
仮想空間
シミュレーションで練習する
実機
実際のロボットで試す
紹介された結果では、シミュレーションで7回連続の成功があり、作業成功率も56%から75%ほどに上がったそうです。佐野さんは、人間のデータさえ貯めておけば、ロボットのデータに変換される時代が来たと受け止めています。
しかもこれ動画でいいんやったら、すでにもうYouTubeとかに腐るほどありますわな。
佐野さんは法人に向けて、技術が成熟してから導入しようとするのではなく、今から現場データを取っておくべきだと強調します。2年後に精度が急に上がったとき、貯めたデータを入れればすぐに使えるからです。
樋口さんは、AIでもコンテキストやナレッジが成果を左右し、それは1日では作れないと重ねます。佐野さんはさらに、データを貯める前に仕事を作業単位に分解しておくことが重要だと付け加えました。
まとめ
今回は、佐野さんの新刊やPlay Roboticsの実証実験に始まり、Agility Roboticsの上場申請、ロボットAIのAPI化、PhoneBot、Gemini 4 Argonまで、1カ月の濃い動きが語られました。ロボットの脳を借りやすくなり、学習の材料も動画で足りるようになりつつある今、導入を考える側には現場データの蓄積が求められそうです。
- 佐野さんの新刊『フィジカルAIとヒューマノイドで世界はこう変わる』が11月初旬に刊行され、落合陽一さんが推薦している
- Agility Roboticsは売上約2億円に対し純損失約200億円ながら、約1000台・3億ドル規模の受注を掲げて上場に向かっている
- Physical IntelligenceのAPI公開で、中小企業でもロボットの脳を借りて導入に集中できる道が開けた
- 古いスマホを脳にするPhoneBotは、5万円以下のパーツと組み合わせて安価なヒューマノイドを作れる可能性を示した
- 人間の動画から学ぶGemini 4 Argonの登場で、現場データと作業分解に今から取り組む価値が高まっている



