番組の略称投票とオープンチャットの盛り上がり
『ヒューマノイド最前線』は、Play Roboticsの佐野貴さんと横山皓大さんに、株式会社BOOK代表の樋口聖典さんが加わる番組です。月に1回、4本まとめて収録しているため、出演者の感覚では久しぶりの収録だったといいます。
この期間の一番大きな出来事として樋口さんが挙げたのは、リスナー向けのLINEオープンチャットです。告知後に多くの人が参加し、番組に略称がないことから、オープンチャット内で略称を決める投票が行われました。
横山さんによると、投票には27人が参加し、「ヒューマノ」が8票で最多、「ヒュマ専」が6票で2位でした。横山さん自身は「ヒュー最」を推していましたが、ほかに誰も票を入れなかったそうです。
サイレントサイレンっていうガールズバンドが僕好きなんですけど、それの略称がサイサイなんですけど、それみたいな感じで可愛いかなと思ったんですけど、誰も共感してくれなかったって。
オープンチャットでは、Play Roboticsが社内で行っているロボット実験の動画など、ここでしか見られない情報も公開されています。リスナーからも、展示会に行った写真や感想、日本の勝ち筋についての意見が投稿され、情報共有の場になっていると樋口さんは話しています。
Sony AIの卓球ロボットはなぜ人間に勝ち越せたのか?
この回は、月に1回の「ヒューマノイド最前線ニュース」として、2026年5月26日の収録時点の最新ニュースを紹介する回です。最初に佐野さんが取り上げたのは日本のニュースで、Sony AIのプロジェクト「Ace」の卓球ロボットが、4月23日付のNature ── 1869年創刊のイギリスの科学誌。世界で最も権威ある学術誌の一つとされ、表紙に選ばれる研究は特に注目度が高いものです誌の表紙になったというものです。
このロボットは人型のヒューマノイドとは言い切れず、片方のアームだけでプレーする卓球用の自律ロボットです。佐野さんは、腕のアームについては人間を超えるものができてきたと説明しています。
Sony AIの卓球ロボットはエリート選手5名と対戦し、3勝2敗で勝ち越しました。卓球連盟の公式ルールに基づき、審判付きの試合で勝ったことから、日本のロボット界として高いレベルの技術を示したニュースだと佐野さんは位置づけています。
佐野さんが特に注目したのは認識の速さです。番組では、ロボットが人間の20倍以上のスピードで認識して対応できていたと発表されたことが紹介されました。
佐野さんはこの差を、トップ選手と比べても10倍ほどの差がついてきていると表現しています。樋口さんは、スポーツの世界ではまだロボットより人間のほうが強かったのだと改めて受け止めていました。
横山さんによると、前職のオムロンでも「FORFES」という卓球ロボットを作っていて、相手のレベルに合わせて強さやスピンのかけ方を変えられるそうです。横山さんは、卓球は範囲が狭くてレスポンスが速いため、認識スピードを検証するのに便利な競技だと考えています。
(卓球は)将棋とか囲碁のスポーツ版なのかもしれないですね。なんか分かりやすいじゃないですか。
Figure AIの2体は、アイコンタクトでベッドメイキングをする
横山さんが紹介したのは、前の回でも取り上げたFigure AIのニュースです。家庭内での作業を想定したFigure AIのヒューマノイド2体が協調して、ベッドルームを2分以内にリセットする動画が公開されました。
横山さんが驚いたのは、2体の「阿吽の呼吸」です。人間が広いベッドを整えるときは、両側の2人が息を合わせて布団を持ち上げますが、Figure AIのロボットもアイコンタクトをして頷き、一緒に布団をずらしていたといいます。
左右にいるロボットがパッて見合わせて、よし、行くよってなって、二人でバサって布団やってるっていう。
横山さんは、これまでは1台のロボットが見たものを認識して動くのが中心だったと説明します。今回のFigure AIの動画は、相手が何をしたいのかを認識しながら自分の動きを決めることを、リアルタイムでできるようになった技術の変化を示しているといいます。
樋口さんの確認に対し、横山さんは、今回のモデルは1つの脳で2体を動かすのではなく、それぞれが独立して判断しているようだと答えています。
全く声で連携取らずともできるっていう、なんかそのプロのサッカー選手とかってそういうのやるじゃないですか。
23kgの冷蔵庫で学んだアトラスが、45kgを運べた理由
次に紹介されたのは、5月18日にBoston Dynamicsが公開した、人型ロボット「アトラス」が小型冷蔵庫を抱えて運ぶ動画です。「アトラス、ドリンク持ってきて」と頼むと、アトラスは床の黒い小型冷蔵庫の前で腰を落とし、両腕で抱えて冷蔵庫ごと持ってきます。
アトラスが運んだ冷蔵庫の重さは23kgで、人間でもしんどい重さだと紹介されています。アトラスは指先で掴むのではなく、体全体で抱きかかえ、足で重心を調整しながら運んでいました。
番組では、アトラスの学習方法も注目点として挙げられました。訓練に使ったのは23kgの物体だけでしたが、実際には45kg以上の物体も追加学習なしで運べたといいます。
シミュレーション
何百時間というシミュレーションで動きを学習
23kgで訓練
訓練に使った物体は23kgの冷蔵庫のみ
そのまま転用
学習した内容を追加学習なしで別の重さに適用
45kg以上を運搬
想定より重い物体にも柔軟に対応できた
アトラスについては、2028年ごろから3万台を生産する計画もスタートしていると紹介されました。番組では、前回は「まだ自律ではない」という話をしていたものの、この1か月で自律的に動くニュースが一気に増えたと話されています。
樋口さんは、人間も持ち方が悪いと腰を痛めることや、介護の現場では体の使い方次第で人を持ち上げられることに重ねて、アトラスが力だけでなく体の使い方まで学習しているのではないかと受け止めました。横山さんは、腰と胴体で重さを受け止める全身協調制御 ── 腕だけでなく脚・腰・胴体など全身の関節をまとめて制御し、バランスを保ちながら作業させる方式。重い物を扱う人型ロボットで重要になりますが現実的になったのは大きいと補足しています。
Figure AIの3体は、バッテリー残量を自己申告して交代する
横山さんが次に紹介したのは、Figure AIのヒューマノイド3体が、チームで8時間連続稼働した実演です。YouTubeなどでライブ中継され、一般の人もずっと見られる状態で、ベルトコンベアで流れてくる物の向きを変える作業を3交代で続けました。
横山さんが面白いと感じたのは、Figure AIのロボットが自分の状態を自分で判断していた点です。バッテリーが少ない、ミスが増えてきたと判断すると仲間に伝え、充電やリセットのために作業を交代していたといいます。
ちょっと今腰痛いからちょっと代わってとかって人間やるじゃないですか。
樋口さんは、ベッドメイキングの話と同じく、ロボット同士のコミュニケーションが発達していると指摘しました。横山さんも、1台の性能だけでなく、複数台がどう連携するかが進化していると応じています。
横山さんによると、Figure AIの3体連携の背景には、ヒューマノイドのバッテリーが最大でも3〜4時間ほどしか持たないという事情があります。24時間連続で動かすには、複数台が密に連携して交代する技術が必要になってきたと考えられます。
ヒューマノイド1体のバッテリーは最大3〜4時間ほど
3体が状態を伝え合い、交代しながら長時間の作業を続ける
3体にはボブなどの名前がついていて、「ボブいけるよ」といったやり取りをしていたそうです。横山さんは、体のどこが傷んでいるかを監視して報告する研究も増えていることから、ロボットが自己申告で修理に向かう未来も近いと見ています。
人間とロボットの10時間対決は、どちらが勝ったのか?
Figure AIの実演には、3日目に人間との10時間対決もありました。Figure AIのインターン生とロボットが同じ作業を10時間続け、人間には食事休憩と小休憩を取る権利があり、ロボットには休憩なしという条件で比べられました。
結果は、わずか192個差で人間の勝利でした。樋口さんは「意外と誤差やった」と驚いています。
番組では、この僅差こそがすごいと強調されました。ロボットが10時間ぶっ通しで作業でき、労働コストが人間より少しでも安くなれば、ロボットに置き換わることがわかってきたという見方です。
携帯電話やパソコンがかつては高価だったように、ロボットもコストが下がり、故障の確率も減り、性能も上がっていくと考えられます。番組では、この対決を「人間からロボットへの置き換えは時間の問題」と示した動画だと受け止めています。
Figure AIのCEOであるブレット・アドコック氏は、この対決について「これが人間が勝つ最後の機会だろう」と語ったと紹介されました。
ファナックとGoogle・NVIDIAの協業で、日本の勝ち筋は見えるか
佐野さんが紹介したのは日本企業のニュースです。産業用ロボットでトップシェアを持つファナックが、5月13日付でGoogleとの協業を発表しました。佐野さんは、フィジカルAI ── ロボットなど物理的な体を持つ機械に搭載され、現実世界を認識して動くAIのこと。画面の中だけで動く生成AIと対比して使われますの分野でロボット会社がこうした協業を発表する例はあまりないと話しています。
Googleとの協業で想定されているのは、工場で人間の作業者の隣にロボットが立つ使い方です。「あの赤いボルト取って」「こっちにトレイ3つ並べて」と口頭で伝えたり、手書きのメモを見せたりすると、ロボットが判断して動きます。
エンジニアが一つ一つプログラムしてティーチングする
日本語の口頭指示や手書きメモでロボットを動かせる可能性が高まる
ただし、現状はヒューマノイドではなくロボットアームを動かすテストで、技術的な進歩はこれから必要だと佐野さんは補足しています。
さらに2日後の5月15日には、ファナックがNVIDIAとの連携を発表しました。NVIDIAの仮想空間シミュレーターIsaac Sim ── NVIDIAが提供するロボット向けシミュレーター。仮想空間でロボットの動作を試したり、学習用のデータを生成したりできますと、ファナックの自社シミュレーター「ロボガイド」を統合し、AI演算性能が7.5倍を超えたと紹介されています。
樋口さんは、ファナックが体、GoogleとNVIDIAが脳にあたり、それが融合したと整理しました。佐野さんは、これを日本企業の生き残り方の一つの事例だと見ています。
佐野さんによると、中国は日本の技術を参考に内製化を進めていますが、ヒューマノイドに必要な部品や技術には、まだ日本に頼る部分があります。特に、モーターやギアを0.01mm単位で精密に動かす技術は、日本が世界トップを取れる技術力だと話されています。
中国国家電網が8500台を調達した、ヒューマノイドでなければならない現場
最後のニュースは、より現実的な導入事例です。中国の電力会社である中国国家電網が、約1020億円を投じてAI搭載ロボット8500台を調達すると発表しました。
番組でこの事例が注目されたのは、ヒューマノイドである必然性を感じられるからです。中国国家電網がロボットに任せようとしているのは、高圧電線に電気を流したまま行うメンテナンス作業です。
これまで高圧電線のメンテナンスは、特殊な訓練を受けた作業員が絶縁スーツを着て行っていました。現場は高地にあることも多く、ヘリコプターで何日もかけて送電線まで向かい、一つ間違えれば感電死するような危険な作業で、人手も足りていなかったといいます。
特殊訓練を受けた作業員が、危険と隣り合わせで高地の現場に向かう
人間の体に近いヒューマノイドが、梯子や手作業が必要な現場で人間を代替する
高圧電線の現場には、人間しか入れない梯子のある施設や、人間の手でないとできないメンテナンスがあります。五体満足の人型なら、人間をそのまま代替できるのではないかという期待から導入が進んでいると紹介されました。
これまでのヒューマノイドのデモには、腕型や車輪型でもできるのではと感じる事例も多かったといいます。中国国家電網の事例は、ヒューマノイドでなければ代替できないと感じさせる新しい事例として紹介されました。
樋口さんは、以前の回で話題になった3K ── 「きつい・汚い・危険」の頭文字をとった言葉。人が敬遠しがちな労働環境を指して使われますの中の「危険」がまさに代替されていると指摘しています。危険な作業は人がやると単価が上がるため、高圧電線や溶接など命に関わる現場から置き換えが進むのではないかと話されました。
まとめ
2026年5月のヒューマノイドニュースからは、ロボットが認識の速さ、複数台での連携、長時間の稼働で人間に迫りつつあることが見えてきます。同時に、日本企業の協業や中国の大型調達のように、技術を産業や危険な現場に活かす動きも具体的に進み始めています。
- Sony AIの卓球ロボットはエリート選手に3勝2敗で勝ち越し、人間を大きく上回る認識速度を示した
- Figure AIのロボットは、アイコンタクトでの協調作業や、バッテリー残量を伝え合う3交代での自律稼働を実演した
- 人間との10時間対決は192個差で人間が辛勝し、CEOは「これが人間が勝つ最後の機会だろう」と語った
- ファナックはGoogle・NVIDIAと協業し、日本の精密な「体」と海外の「頭」を掛け合わせる道を示した
- 中国国家電網は約1020億円で8500台を調達し、高圧電線の保守という危険な現場への導入を進めている





