ヒューマノイドのエンタメは、なぜ成功事例が少ないのか
この回のテーマはエンタメ用ロボットです。番組はふだん実務・実用的なロボットを扱うことが多く、以前にはコンパニオンロボットや寄り添いロボットなど個人向けのロボットも紹介してきましたが、佐野さんは「エンタメ」という観点はそれとはかなり違うと話します。
佐野さんが調べた結論は、フィジカルAIやヒューマノイドのジャンルで、エンタメのビジネスがうまくいっている事例はとても少ないというものでした。キーホルダー型のコンパニオンロボットのような小さな製品はあるものの、目立ったのはディズニーやガンダムのような世界的なIPを持つキャラクタービジネスの中でのロボット活用だったといいます。
結論、フィジカルAIとかヒューマノイドっていうジャンルのエンタメでのビジネスがうまくいってる事例っていうのはすごい少なくて。
樋口さんも、ロボットで人を楽しませることには感覚的に難しさを感じていたと応じます。その感覚の正体を、話を聞きながら解像度高く捉えたいというのが、この回の出発点です。
(ロボットのエンタメは)ちょっとむずそうやなと思っちゃった。人を楽しませるって、なんか。
Unitreeのダンスと春節番組、出演料を払って出る中国勢
テレビでダンスなどを披露するヒューマノイドを見たことがある人は多いはずです。佐野さんは、パフォーマンス系のロボットが目立つのは「分かりやすいから」だと説明します。
例として挙がったのが、二足歩行や四足歩行のロボットで知られるUnitree ── 中国・杭州のロボットメーカー。四足歩行ロボットや人型ロボットを比較的手頃な価格で展開し、世界的に知られていますです。2025年には、赤と白の衣装を着た16体のロボットが、ハンカチを回しながら人間のダンサーと一緒に中国の民族ダンスヤンガーを踊り、「ロボットが踊り始めた」と話題になりました。
ほかにもバク転などを見せるパルクールや酔拳といった動きで、中国ではパフォーマンス用ロボットが増えています。2026年の旧正月の大晦日に放送される大型の国営テレビ番組では、中国のヒューマノイドメーカー4社が出演して注目を集めました。
佐野さんによると、この4社は出演料を受け取ったのではなく、合計21億円ほどを自分たちで払って出演したといいます。樋口さんの言葉を借りれば、マーケティングコストとしての出演です。
そうそう、結局マーケコストとしてやってて、そこに儲かるとかじゃないんです。
決められた舞台で決められた動きをするパフォーマンスは、認知を広げるには分かりやすい一方で、それ自体が収益を生んでいるわけではない、というのが佐野さんの見立てです。
ディズニーのBDXドロイドは何で稼いでいるのか
佐野さんが「少し面白い」と挙げたのがディズニーの事例です。カリブの海賊で動く海賊たちのように、ディズニーは以前から決められた機械仕掛けの動きを作ってきました。
そこから一歩進んだのが、スター・ウォーズに登場する小型の二足歩行ロボット「BDXドロイド」です。前回の放送で紹介したマイクロダックやオープンダックにそっくりな見た目で、これがパークの中を歩き回り、お客さんに近づいて「可愛い」と喜ばれるようになりました。
佐野さんが調べた範囲では、BDXドロイドは自律的に動いているわけではなく、裏でコントローラーを使って操作しているようだといいます。
ディズニーがうまいと佐野さんが感じたのは、パークの中でこのロボットのパーツなどを買えることです。目の前でパフォーマンスを見せ、裏側で数万円のおもちゃを買ってもらう、というビジネスモデルが成り立っています。
パークで動く
BDXドロイドが二足歩行でお客さんに近づき、可愛さで引きつける
欲しくなる
ミッキーを見てぬいぐるみが欲しくなるのと同じ心理が働く
グッズで稼ぐ
パーツやおもちゃを数万円で買ってもらう
(BDXドロイドは)ぬいぐるみと近いっすよね。ミッキーの中に体入って動いて、ミッキーのぬいぐるみ欲しいっていうのと近いのかなと思います。
ロボットで稼ぐより「ロボットというパフォーマンス」で稼ぐ
日本の例として、佐野さんは歌舞伎町のロボットレストランを挙げます。会社を立ち上げたときに横山さんと行こうとしたものの、すでに廃業していて行けなかったそうです。同じ建物の地下にはパフォーマンス中心のサムライレストランがあるものの、動くものがロボットかどうかは不明だといいます。
こうした事例から佐野さんが導いたのは、エンタメでロボットそのものによってがっつり稼げているところはほとんどない、という見方です。
佐野さんは、今後はロボットYouTuber、VTuberのロボット版、リアルアイドルのロボット版、アダルト業界向けのロボット、ゲーム体験ができるロボットなどへの転用が進むと予想します。ロボットはあくまで手段で、稼ぐ場所はその先にある「楽しむ」という欲求だという整理です。
一方で樋口さんは、生成AIで動画を作れる今、映像の中でロボットが何かをするなら「どうせ人間じゃないんやから、動画でいいやん」という派閥もありそうだと投げかけます。
佐野さんは、リアルな環境で動いている臨場感は残ると答えます。中国では、筐体に備え付けた2体のヒューマノイドを操作してボクシングできるアーケードゲームが登場したそうで、実物が殴り合う臨場感は五感での体験につながると話します。
予測できないドキドキと、感動しなかったロボットのトランペット
ボクシングの話を受けて、樋口さんは「どっちが勝つか予測できないドキドキ感」が大事なのではないかと考えます。ある程度計算できるロボットがエンタメになるとき、その振る舞い方に難しさを感じていたのだといいます。
なんかこの不安定さというか、とかが多分感情を揺さぶるんじゃないかなって思ったんですよね。
佐野さんは社内で話しているアイデアとして、ロボット競馬を挙げます。1体ずつエンジニアがつき、性能を上げる仕組みを考え詰めたうえで競わせ、ロボットの差というよりエンジニアの試行錯誤の差を楽しむという構想です。樋口さんは、高専などが出場するロボコンも同じく不確定要素でエンタメとして成り立っていると応じます。
樋口さんは、ロボットが演奏するトランペットを生で聴いた体験も語ります。口を模した機構で実際に空気を送り込んで鳴らすものでしたが、音はパソコンで打ち込むMIDI ── 電子楽器やパソコンで演奏情報をやり取りするための共通規格。打ち込みで音楽を作る際に広く使われていますのトランペットの音とあまり変わらず、全く感動しなかったといいます。
綺麗にワンワンワンワンワンワンって、ものすごく綺麗なビブラートになったりするわけですよ。
これってなんかロボットが本当に空気を振らせてる意味あるんだったっけ?って思った記憶があって。
樋口さんは、人の感情を動かすには違和感やランダム性が大事なのではないかと、その時に感じたそうです。
エンタメはゲーム性か推しか、依存ではなく愛着を作る
樋口さんの「ランダム性」の話に、佐野さんは「ゲーム性」を加えます。佐野さんの考えでは、エンタメはゲーム性か推しで成り立っています。
ゲーム性か推し。要は推しはディズニーとかサンリオみたいに、もう大好きなキャラクターができたからこれが欲しいっていうのはありますけど。
有名ではないIPは、ゲーミフィケーションの中でハマっていく構図で育つことが多いと佐野さんは話します。パズドラやモンストのガチャは欲求を揺さぶるギャンブル性を持ち、習慣化したものにだんだん愛着が湧き、派生グッズを買うようになるという流れです。
ディズニーやサンリオのように、大好きなキャラクターができたから欲しくなる
ガチャや不確実性で習慣化し、触れ続けるうちに愛着が湧いて派生グッズを買う
佐野さんは、このどちらかに焦点を合わせないと、エンタメ系のヒューマノイドやフィジカルAIは難しいと考えています。ゲーミフィケーションは人間の行動を変える一番簡単な手法だ、とも付け加えます。
Play Roboticsでも、たまごっちのようなAIロボットを開発しています。佐野さんは横山さんと議論し、「依存は作りたくないけど愛着は作りたい」という方針で、可愛い、嬉しいと思ってもらえる愛着ギミックを案出ししているそうです。
依存と愛着は、どちらも習慣という行動プロセスは同じだと佐野さんは言います。そのうえで、やりたくないけどやっちゃうことが依存だと自分なりに定義しています。
さらに佐野さんは、フィジカルAIとヒューマノイドのエンタメは難しすぎて誰も参入しなさそうだからこそ、横山さんと参入しようと最近話していると明かします。
M-1に出たロボット漫才と、ロボットならではのボケ
樋口さんは、パフォーマンスの一つとして漫才も挙げます。番組のリスナーで、樋口さんをXでフォローしている人が、ロボット2体でM-1グランプリの1回戦に出場させていたそうです。
使われたのは、小型ロボットのスタックちゃんと、Hugging Faceが出しているロボットリーチミニです。樋口さんはXの投稿を見ただけなのでルールの詳細はわからないとしつつ、M-1の出場者と同じエントリー番号を付けて出場していたといいます。
樋口さんは、ペッパーくんも漫才をしていた記憶があると話します。何かを食べて「美味しい」と言い、「ほんとわかってんの?」と返されるような、ロボットならではのボケです。
一個のキャラだと思えば全然、ね、いけますよね。お笑いとかも。
効率より「意図が伝わる大げさな動き」が正解になる
ここから佐野さんは技術面の話に移ります。エンタメ用ロボットと、これまで話してきた産業用ロボットを比べると、技術的に注意すべき点がかなり違うことが調べてわかったといいます。
1つ目は、生き生きとした動きを演出する必要があることです。人前に立って喜ばせるエンタメ用ロボットでは、動きの作り方が全く違います。
たとえば窓際に置かれたAとBのどちらかを取る場合、作業効率だけを考えれば、まっすぐ手を伸ばすのが正解です。しかしそれでは、周りから見てAとBのどちらを取るのか意図が伝わらず、キャラクターとして生き生きとした動きになりません。
産業用: 効率を優先してまっすぐ手を伸ばす。どちらを取るのか周りに伝わらない
エンタメ用: 腕を大げさに大回りさせ、右の物を取るという意図を周りに伝える
樋口さんは、これを「演技力という別の軸」だとまとめます。佐野さんもそのとおりだと応じました。
ディズニーはこれを、学習の仕方で解決しているといいます。通常のヒューマノイドは人間の動きを模倣させて学習させることが多いのに対し、ディズニーはアニメーターが作ったアニメの動きを参考にさせています。
通常人間ではやらないけれども、これまでエンタメとして僕らが消化してきたものが、そういう物理的には不可能な動きも含めて、(動いてるのを見てきてるんで、)そっちに寄せた方が僕らは生き生きとしたロボットだと感じやすいんですよ。
ただし、アニメの動きを完全に再現すれば転んでしまいます。アニメーターの動きと物理的な制約の両方を調整しながら歩き方を学習させる、難しい領域だと佐野さんは話します。
横山さんは、ディズニーのやり方で参考になった点として、アニメーターがロボティクスの難しさを知らない状態が好ましいことを挙げます。難しさを知ると、アニメーターは動きを簡略化し始めてしまうためです。アニメーターには最高にコミカルな動きを作ってもらい、それと切り離してエンジニアが作り込むと、生き生きとした動きになるといいます。
壊れてもショーは止められない、産業用にない制約
横山さんは、産業用との大きな違いをもう一つ挙げます。産業用ロボットなら危ないときや故障しそうなときに止めれば済みますが、観客の前で止めるとショー全体が台無しになります。壊れたままでも公演を続けなければならない点も難しいところです。
例として挙がったのが、ディズニーのジャングルクルーズの動物たちです。腕のモーターが壊れて動かなくても、メンテナンスが入るまでは、動く口だけで世界観を壊さずに子どもたちを出迎えなければなりません。
樋口さんは、安全面とは違う意味で「冷めさせない」ことが大事なのだと受け止めます。横山さんは、足を引きずってでも世界を維持できるかというバックアップの作り込みが、エンジニアリング上の変数になると話します。
体調悪くても恋人に振られても舞台上に立ったら笑わせないといけない。マジ芸人じゃないですか。
横山さんはさらに、人との距離感の違いも挙げます。作業用なら最悪隔離しておけば済みますが、エンタメ用は子どもがハグしに来ることもあり、隔離ができません。
しかもキャラクターであれば、ボディの形とサイズが先に決まっています。触られることが前提で形状も決まっている中で、ベイマックスのような柔らかい素材にするのかも含め、モーター、動き、安全をどう設計するかという制約がつきまといます。
| 観点 | 産業用 | エンタメ用 |
|---|---|---|
| 動き | 効率のいい最短の動き | 意図が伝わる大げさな動き |
| 故障時 | 止めて修理に出せる | 壊れたままでも公演を続ける |
| 人との距離 | 隔離できる | 子どもがハグしに来るので隔離できない |
| 形状 | 作業に合わせて設計 | キャラクターの形とサイズが先に決まる |
元Boston Dynamics役員が作ったプードル型ロボット
横山さんは、以前の回で取り上げたBoston Dynamics ── アメリカのロボット企業。四足歩行ロボット「Spot」や人型ロボット「Atlas」の高い運動性能で知られていますの元役員が立ち上げた会社を紹介します。チーフストラテジーオフィサーだった人物らが作ったDynamic Creaturesです。
Dynamic Creaturesは、Boston Dynamicsのロボットなどを使い、エンターテインメントやホスピタリティのためにロボットを動かす事業をしています。無機質で怖い印象の犬型ロボットに着ぐるみを着せ、紫色のプードル「ダニエル」というキャラクターを作りました。
セサミストリートに出てきそうなキャラですよね。
このロボットは、テーマパークやホテル、カジノでゲストの前を歩き回るビジネスとして始まったようです。横山さんによると、海外ではUnitreeのロボットをふざけさせるTikTokerが180万人ほどのフォロワーを集めており、キャラクターとして振る舞うロボットへのニーズは一定数あると考えられます。
ただ佐野さんは、Unitreeのロボットで30センチほどの近距離から人を驚かせる動画は、作り手側から見るとかなり危ないと指摘します。樋口さんも、中身を知っているとヒヤヒヤすると同意しました。
佐野さんは、USJでエルモのようなキャラクターをロボットの骨格で歩かせるような例が、テーマパークで今後増えそうだと見ています。
千体のロボットダンスからロボット競馬まで、広がるアイデア
樋口さんは、フィジカルAIではないもののドローンショーも立派なロボットのショーだと話します。大勢のロボットが統制の取れた美しい動きをすることは、それだけで1つのショーになりえます。
そこから、千体のロボットがマイケル・ジャクソンの「スリラー」を踊る、全員でムーンウォークしてくる、といったアイデアが次々に出ます。佐野さんは、地下アイドルのライブで観客千人が全員ロボット、という案も挙げました。
なんかね、その人間だったらそんなビタッと揃わんやろみたいな、なんかそういうやつ。
ほかにも、戦隊ものの舞台で戦うロボット、ショッカー役、ドラマや映画のスタントマンなどの案が出ます。ただしスタントマンについては、ロボットが発展する前にCGやAI動画のほうが早いだろう、という話にもなりました。
一体数千万円のビジネス、それでもIPになれば強い
アイデアは広がる一方で、佐野さんはビジネスとしては難しいと強調します。工場向けに大量生産するのとは違い、現場ごとに合わせて大事な1体を作り込み、難しい動きを開発して、ようやく1体で数千万円を受け取るような世界だからです。
樋口さんは、一度IPになれば強いと応じます。ふなっしーやくまモンを例に出したあと、ロボットならガンダムやエヴァがあると気づき、佐野さんはアトムも挙げました。佐野さんは、ガンダムはIPだけでずっと稼いでいると話します。
ロボットを集めたオーディションでアイドルグループを作る、恋愛リアリティ番組を作るといったアイデアも出て、佐野さんは「企画さえ面白ければエンタメコンテンツは無限に作れる」とまとめます。
最後に佐野さんは、Play Roboticsが二足歩行の国産ヒューマノイドを自社で開発していることを明かします。コンセプトはまだ決めきれていないものの、エンタメ領域で使ってみたいと考えており、リスナーにコメント欄やオープンチャットでアイデアを寄せてほしいと呼びかけました。
これちょっと今適当に言ったやつがもしかしたら本当に採用されるかもしれないから、バンバン欲しいですよね、アイデア。
収録前はエンタメとロボットの相性に半信半疑だった樋口さんも、話を終えて「すげえ楽しみになってきた」と締めくくっています。
まとめ
この回では、ヒューマノイドのエンタメはまだ成功事例が少なく、ロボットそのものより「ロボットというパフォーマンス」で稼ぐ形が現実的だという見立てが示されました。そのうえで、不確実性やゲーム性、愛着が人を楽しませる鍵になること、そして産業用とはまったく違う技術的制約があることが語られています。
- 中国勢は出演料を払ってでもテレビに出ており、パフォーマンスは収益ではなく認知のための投資になっている
- ディズニーはBDXドロイドを動かし、グッズ販売で稼ぐモデルを作っている
- 人の感情を揺さぶるのは不確実性やゲーム性で、Play Roboticsは依存ではなく愛着を作ることを目指している
- エンタメ用ロボットでは、効率より意図が伝わる大げさな動きが正解で、壊れてもショーを止められない
- 1体ごとの作り込みが必要で稼ぎにくい一方、IPになれば強く、アイデア次第で企画は無限に広がる

