設立2カ月のPlay Robotics、何が動き出している?
本題のUnitree Roboticsの話に入る前に、樋口さんは「Play Roboticsの話を意外としていない」と切り出します。佐野さんによると、Play Roboticsは4月9日に設立され、収録日の5月26日時点で約2カ月が経ったところです。
Play Roboticsが準備中の取り組みの1つが、中国の主要なロボット企業をほぼすべて見学できる3泊4日のツアーです。業界関係者でなくても参加でき、佐野さんと横山さんも同行する予定だといいます。
めっちゃいいやん。だから、たかちん、よこしゃんと一緒に修学旅行行けるってことですよね。
そうですね。なんか大人の工場見学修学旅行ですね。
佐野さんによれば、中国にはヒューマノイド関連のスタートアップが200社ほどあるそうです。ツアーは参加者の興味に合わせて柔軟にカスタムでき、「見たいもの全部見れる欲張りツアー」になる見込みだと話しています。
事業面では、すでに1社でヒューマノイドの導入が決まり、動き始めています。ほかにも建築、ビルメンテナンス、製造業などから引き合いがあり、導入方法の議論が重なっている段階です。
佐野さんは、ヒューマノイド導入の投資対効果は「絶妙なライン」だと認めます。そのうえで、投資対効果が合う作業はすでにあり、研究や技術検証、データ蓄積を目的に導入したいというニーズもあると説明しています。
中国製ロボットを日本で使うには何が足りない?
ヒューマノイド導入の現場で佐野さんが感じているのは、中国のロボットを仕入れて日本向けにカスタムする技術が、日本の企業にはまだあまりないという点です。佐野さんはそこをPlay Roboticsの強みにできると考えています。
もう1つの強みとして佐野さんが挙げるのが、ヒューマノイドの安全対策です。安全対策に強いロボット企業は少なく、その分野で横山さんが「めちゃくちゃプロフェッショナル」だといいます。現在は、ロボットを買ってから導入するまでのステップをマニュアルにまとめながら、導入支援を進めています。
話はユースケースに広がり、樋口さんは自宅に床掃除ロボットを、佐野さんは来客を案内するロボットを冗談まじりに挙げます。樋口さんは、社会全体がヒューマノイドのいる生活をまだイメージできていないと指摘し、それを番組で伝えていきたいと話しました。
「ここが寝室ですよ」とかっつって。
佐野さんが計画しているのは、現場の担当者が社内でプレゼンできるレベルのユースケース事例セミナーです。今は「未来どうなるか」という概念的なセミナーが多く、どこのロボットをいくらで仕入れるかといった具体的な話のほうがわかりやすいと考えています。
さらにPlay Roboticsは、約150体のヒューマノイドを比較できるアプリも作っています。用途をクリックしていくとおすすめのロボットが出て、可動域や体重などのパラメータを一覧で比較できる仕組みで、近日公開予定です。
そう。なんか(ロボットが)ありすぎてやっぱり選べないじゃないですか。
Unitree創業者は「英語が苦手な遅咲き」だった?
この回の本題は、中国のロボット企業Unitree Robotics(中国名は宇樹科技)の徹底解説です。佐野さんは、会社を理解するにはまず創業者を解剖するのが面白いと考え、創業者について調べてきたと話します。
Unitree Roboticsの創業者は王興興さんで、2016年に会社を立ち上げました。1990年生まれで、1991年生まれの佐野さんの1つ上にあたり、まだ34歳前後です。
王さんは浙江省の普通の家庭で育ち、学生時代は英語がとても苦手で「遅咲きの子」と言われていたそうです。第一志望の大学には受からず、理系の浙江理工大学に進みました。
大学で王さんの機械いじりの才能が花開き、修士論文のテーマとして作った四足歩行ロボット ── 4本の脚で歩くロボット。犬のような姿のものが多く、車輪型より段差や不整地に強いのが特徴ですの動画がネットで大きな話題になります。この四足歩行ロボットが、のちにUnitree最初のヒット商品につながりました。
王さんは新卒でドローン大手に入社したものの、すぐに退社します。そして2016年8月、日本円で約180万円の資本金でUnitree Roboticsを創業しました。
樋口さんは、180万円という資本金は決して大きくないと反応します。佐野さんは、ビジネス経験もなかったため、おそらく自分の貯金で始めたのだろうと推測しています。
ボストン・ダイナミクスの30分の1で何が起きた?
Unitree Roboticsが世界の市場をつかんだ最初の武器は価格でした。Boston Dynamicsの四足歩行ロボットが約1100万円で売られていた時代に、UnitreeはGo1を40万円台で発売したのです。
価格差30倍ぐらいっていうので出したんですよね。
実験用のロボットが欲しい研究機関や大学は、Go1の価格に飛びつきました。その結果、Unitree Roboticsは四足歩行ロボットで世界シェアの60〜70%を握り始めたと佐野さんは説明します。
約1100万円
40万円台(約30分の1)
Go1を安くできた理由は、コア部品の内製化です。サーボモーター ── 指示どおりの角度や速度で動くよう制御されるモーター。ロボットの関節を正確に動かすために使われますや減速機 ── モーターの回転を落として力を増す装置。ロボットの関節で大きなトルクを生むために欠かせない部品です、コントローラーを自社で作ることで劇的にコストを下げました。
さらにUnitreeの部品は、四足歩行ロボットだけでなくヒューマノイドにも転用できるように設計されています。どのロボットにも使い回せる部品を作っている点が大きいと佐野さんは見ています。
ヒューマノイドはいくらで買える時代に?
Unitree Roboticsは2023年にヒューマノイド市場へ参入します。最初のH1は身長180センチ、体重47キロで、価格は約1300万円でした。佐野さんは、大きさ、制御の難しさ、価格のどれをとっても導入しづらいロボットだったと振り返ります。
転機は2024年5月に発売されたG1です。GMOの取り組みなどで知られるこのロボットは、200万円台から買える業界最安値クラスのヒューマノイドで、カンフーやバク転、ダンスをこなす姿で話題になりました。
その後発売されたR1は、中国で60万〜80万円ほどで買え、ユーザーによる自由改造もOKとされています。樋口さんは「軽自動車より安い」と驚きます。
| モデル | 時期・特徴 | 価格の目安 |
|---|---|---|
| H1 | 2023年、180cm・47kg | 約1300万円 |
| G1 | 2024年5月、業界最安値クラス | 200万円台〜 |
| R1 | 自由改造OK | 60万〜80万円 |
| H2 | 2026年5月時点で発表済み | 未発表 |
ただし、これらの価格は中国で直接仕入れた場合のものです。G1も二次開発可能なモデルは336万円、センサーが上位のものは418万円で、日本で代理店を通してオプションを付けると1000万円ほどになることもあるといいます。佐野さんは、調べた価格にはばらつきがあり、正確な値段とは少しずれる可能性があると断っています。
なぜUnitreeは上場申請までたどり着けたのか
佐野さんがもう1つ大きいと見るのが、Unitree Roboticsが2026年3月にIPOを申請したことです。ロボット業界では、すでに上場しているUBTech ── 中国・深圳のロボット企業。人型ロボットや教育用ロボットを手がけ、香港市場に上場していますに続く2社目になります。
Unitreeの強みは、四足歩行ロボットがよく売れて、売上がきちんと立っている点です。佐野さんによると、ほかのロボット企業の多くは研究用や軍事用の開発で利益を得ており、商業用として利益が出ている会社はほとんどないはずだといいます。
今って研究用ロボットと軍事用ロボットの開発で結構利益を得てる会社がほとんどなんですけど、ユニツリー社は特にそこの研究用ロボットとしては、もうトップって感じですね。
佐野さんは調べた結果として、日本の会社とUnitreeの違いは価格と、研究用としてさまざまな面で使えることにあるとまとめます。樋口さんも、安さはやれることを根本から変えるインパクトがあると応じました。
創業者の手に残る傷と「百点じゃなくても動くもの」
横山さんは、Unitree Roboticsの安さを支える創業者の哲学に目を向けます。それは「百点じゃなくても動くものを作ろうぜ」という思想と、身の回りのものを使って少しでもコストを下げる姿勢です。
王興興さんは学生時代、テレビで見たものを自分で再現することに熱中し、中学生のときには見よう見まねでジェットエンジンを作ったというエピソードもあるそうです。横山さんは、それも頭が良かったからではなく、作っては壊すことを繰り返した結果だと説明します。
なので、なんか創業者の方の手って工作ナイフでつけた切り傷の跡がめちゃくちゃ残ってたり、あとは手を何回も爆発して負傷した痕が残ってたりするらしいんですよ。
お金がなかった王さんは、大学時代の四足歩行ロボットも自己資金35万円ほどで作り上げました。廃材を集め、小中学生のころから積み重ねたスクラップアンドビルドの知見を生かし、モーターまで一から作り込んだといいます。
横山さんによると、ヒューマノイドのコストの40〜60%はモーターが占めます。全身の関節にモーターが入っているためです。王さんはモーターの仕組みを壊しまくった経験から知り尽くしており、それが自社開発でのコスト削減につながりました。
まあ、もうはっきり言うとオタクなんすね。
そうですね。もう、もうハードウェアオタクというか。
王さんは、研究用の高価なモーターではなく、市場に安く出回る部品を使いました。中国ではドローン市場が成立しており、モーター用のパーツが安く手に入るサプライチェーンができていたからです。横山さんは、ドローン用パーツを組み合わせて自社でモーターを開発したことがコストカットの成功につながったと説明します。
脳はオープンソースに任せる、という割り切り
Unitree Roboticsのもう1つの特徴は、開発の役割分担です。横山さんによると、Unitreeは体が安定して歩くところまでは基礎研究として自社で行い、その先の発展はあえてオープンソース ── ソフトウェアや設計情報を公開し、誰でも利用・改良できるようにする考え方。外部の開発者の力を取り込みやすくなりますにして、ほかの研究者に任せる戦略をとっています。
ボディが安く、素材も誰でも使えるよう公開されているため、Unitreeのロボットは研究材料にしやすくなっています。世界中の研究者が論文を出し、Unitreeはそれを自社に取り入れられるという循環です。
安価なハードウェア
内製化した部品で安定した体を安く作る
オープンソース公開
研究者が誰でも使える素材を公開する
研究者が購入・研究
世界中で論文が次々と出る
自社に還元
公開された知見を取り込み、脳の部分を発展させる
樋口さんは、Unitreeの戦略を雪だるま式に伸びる仕組みだと捉えます。知見がたまるから売れ、売れるとまた知見がたまり、ユーザーが増えるほど数の原理で安くなる。樋口さんはこれをネットワーク効果が生まれている状態だと表現しました。
松竹梅モデルで評価額610億円へ
佐野さんは、Unitree Roboticsはマーケティングも上手いと続けます。安いR1で「初めて買うロボット」として裾野を取り込み、G1で研究用、H1でハイエンドをカバーする松竹梅モデルが成立しているといいます。
松竹梅モデルは売上にも結びついていると佐野さんは見ています。IPO申請時の評価額は610億円ほど、2025年の業績は330億円ほどと言われているそうです。
だってまだなんかそんなに使いもんになんないレベルのロボットなのに、これだけ売れちゃってんのめちゃくちゃすごいですよね。
樋口さんは、ロボット企業の上場がもっとあってもおかしくないと感じたと言います。佐野さんによれば、出荷台数が伸びて現場で使われているのは中国くらいで、アメリカのロボット企業はまだ研究や実証実験の段階が多く、売上が立たないため上場しづらいそうです。四足歩行の実績を持ち、ヒューマノイドに転向して売れた例はあまりないと佐野さんは指摘しました。
「技術は10歳児レベル」、動けるロボットと働けるロボット
佐野さんは、Unitree Roboticsには弱点もあると補足します。2026年2月のインタビューで、CEOの王興興さんは、現在のロボット技術は10歳児程度のレベルで、本格的な応用までには3〜5年かかると話していたそうです。
ライバルのAGIBot ── 中国のヒューマノイド開発企業。作業を学習するAIの研究に力を入れていることで知られますは、模倣学習や強化学習、世界モデル ── AIが環境の仕組みを内部で予測・シミュレーションする仕組み。ロボットが行動の結果を見通すのに役立つとされますを組み合わせ、作業成功率を高めています。一方のUnitreeは、カンフーやダンスは得意でも、工場での精密作業ではまだ遅れをとっていると佐野さんは見ています。
佐野さんはこの差を、動けるロボットと働けるロボットの違いと表現します。前回紹介した工場で8時間連続勤務するアメリカのロボットのような実務的な検証や、家事ロボットとの連携は、Unitreeではまだ進んでいないといいます。
カンフーやダンスなど体を動かすことが得意。工場の精密作業は遅れ気味
模倣学習・強化学習・世界モデルで作業成功率が高い
佐野さんは、中国とアメリカの戦略の違いを、ChatGPTやClaude、Geminiなど生成AIの動きになぞらえます。最初は似たものを出していたAIが戦略を変え、実務寄りへと分かれていったように、ロボットオタクの会社が商売としてどこに目をつけるのかが今後の見どころだと話しました。
まあでもなんか結局は両方が両方のことできるようになっていきみたいなのがある気がしますね。
マニピュレーション派とロコモーション派、どちらが先に行く?
佐野さんによると、ヒューマノイドの開発には2つの派閥があります。物をつかんで操作する作業を重視するマニピュレーション派と、歩く・走る・跳ぶといった移動の安定性を優先するロコモーション派です。マニピュレーション派の例にFigure、ロコモーション派の中心にUnitreeが挙げられています。
止まった場所で腕を使い、物をつかんで操作する作業を重視
歩く・走る・ジャンプするなど体全体の移動の安定性を優先
Unitreeの王さんの主張は、手で物がつかめても足元が不安定なら何の作業もできず、持ったものを落として壊して終わりだ、というものです。そのためUnitreeは、人に殴られたり蹴られたりしても、よろけながら立ち上がれる安定性の研究を重視しているといいます。
樋口さんは、最終的にはどちらの能力も必要になり、どちらの道筋から行くほうが早いかの勝負だと受け止めました。
日本でUnitreeのロボットを使うには?
樋口さんが「日本でもUnitreeのロボットが買えるようになったら面白い」と言うと、佐野さんは日本の代理店を通してすでに買えると答えます。ただし価格が高く、二次開発できるエンジニアが日本では非常に少ないことが課題だといいます。
(二次開発できるエンジニアが少ない)中のすごいレアなよこしゃんがいるという。
手軽に試したい場合は、GMOがUnitreeのG1を1日10万円ほどでレンタルしているので、それで触ってみることもできると佐野さんは紹介します。樋口さんは、子どもを連れてヒューマノイドと遊ぶリアルイベントをやりたいと話しました。
リスナーとお金を出し合ってロボットを育てる構想
番組の最後に佐野さんが提案したのは、リスナーとお金を出し合ってロボットを1体買い、みんなで育てる「ヒューマノイド最前線ロボット」の企画です。何を教え込みたいかアンケートを取り、その結果に基づいてロボットを育てていく構想です。
なんかリスナーの皆さんとお金出し合って、一人千円とか。ロボット一体買ってみて。
やりたいことを聞かれ、樋口さんは正座して将棋盤の前で将棋を指したい、佐野さんはカタンのようなボードゲームをやらせたいと話します。さらに佐野さんは、お姫様抱っこで目的地まで運んでもらいたいと言い出し、樋口さんに「どういう願望?」と突っ込まれました。
佐野さんは、1人1万円で200人集まれば200万円のロボットが買えるので結構現実的だと話します。樋口さんはアイデアを募集したいとして、フォーム、オープンチャット、Xで意見を寄せてほしいと呼びかけました。
まとめ
Unitree Roboticsの強さは、手を動かし続けてきたハードウェアオタクの創業者が、部品の内製化で圧倒的な低価格を実現し、脳の部分はオープンソースで世界の研究者に委ねたことにあります。一方で、精密作業ではまだ遅れており、「動ける」から「働ける」への移行が今後の焦点になりそうです。
- Go1はBoston Dynamicsの約30分の1の価格で発売され、四足歩行ロボットで世界シェア60〜70%を握った
- モーターなどのコア部品を内製化し、ドローン向けのサプライチェーンを活用してコストを下げた
- ハードウェアに集中し、脳の部分はオープンソースで世界中の研究者の知見を取り込んでいる
- R1・G1・H1の松竹梅モデルで市場を広く押さえ、評価額約610億円でIPOを申請した
- CEO自ら技術は「10歳児レベル」と語り、精密作業ではマニピュレーション派に後れをとっている


