魂を移せるキーホルダー型ロボットとは?
ヒューマノイドニュースの前に、Play Roboticsの佐野さんが自社の近況を紹介しました。現在、誰でも持てるキーホルダー型の小型コンパニオンロボットを開発しているといいます。
あわせて、富士通が企画するコミュニティ「UIS」で大企業の課題をエンジニアやスタートアップが解決するハッカソンを企画したり、GMOからヒューマノイドを借りてイベントを開いたりと、取り組みが増えてきたそうです。
キーホルダー型ロボットのサイズ感は、ガチャポンで手に入りそうなくらい。佐野さんは、小さな体にどれだけ生命感を持たせ、可愛がってもらえるかを工夫している最中だと話します。
キーホルダー型のロボットはすでに他社からも出ているため、Play Roboticsは独自の差別化として「魂を移転できる機能」をつけているといいます。
このロボットに自分が育てたこのキーホルダーの中にいる性格を、とか記憶をそのままポンって移転できる機能をつけてるんですよ。
だからずっと中身は(キーホルダーと)変わんないよっていう、その外見が、あのバージョンアップしたりとか。
今後世の中にさまざまなロボットが出てきても、育てた性格や記憶は引き継がれ、外見だけが変わっていくという発想です。樋口さんは「目玉の親父的なことか」と例えかけ、「移転はしてねえな、あれは」と自分で撤回して笑いを誘いました。
横山さんによると、以前の「コンパニオンロボットの世界」回で樋口さんが話した「冷蔵庫とかがロボットになってもいいよね」という雑談も、開発の参考にしているそうです。樋口さんが取り分を尋ねると、佐野さんは「100億儲かったら、欲しいものなんでも買ってあげる権」で応じていました。
Unitree上場で加速する中国ヒューマノイドの「IPO戦争」
最初のニュースは、前回も話題にした中国のUnitreeの上場です。佐野さんによると、7月3日に正式に登録が完了しました。
佐野さんが注目したのは、CNBC ── アメリカのビジネス・経済ニュース専門のテレビ局。金融市場や企業動向の報道で知られていますが報じた「中国のヒューマノイド企業が一斉にIPOに走っており、早く上場したもん勝ちだ」という内容の記事です。
背景には、中国にヒューマノイド企業が200社以上あり、供給過剰でバブルだと指摘されている状況があります。全社が上場すれば資金が分散するため、早く上場して一般の投資家からも資金を集め、大量生産や新型モデル開発に回すほうが戦略的に妥当だと見られているそうです。
供給過剰
中国にヒューマノイド企業が200社以上あり、バブルとも指摘される
資金の分散
全社が上場すると集まる資金が分かれてしまう
早期上場
先に上場して一般投資家から資金を集める
再投資
大量生産や新型モデル開発に資金を回し、さらに売上を伸ばす
樋口さんは「ここで先手を取れば正のスパイラルに入れる」と整理し、佐野さんも「結構重要な局面」だと応じました。上場ラッシュの例として、佐野さんはLimXリムXが2億ドルのプレIPOを行い、投資家にアリババが入っていることも挙げています。
「株を買っておいたほうがいいか」という樋口さんの問いに、佐野さんは投資家ではないので何とも言えないとしつつ、自身はNVIDIAの株を買い増していると明かしました。
NVIDIAが負ける世界線って僕の中でも見えてないんですよね。
樋口さんは、ヒューマノイド業界自体が来ることはほぼ確定で、あとは「どこが来るか」だとまとめています。
現代自動車労組のストライキは何を示したのか?
横山さんが紹介したのは、韓国の現代自動車(Hyundai Motor)の労働組合が、ヒューマノイド導入に反対してストライキを起こしたというニュースです。期間は7月13日から20日で、横山さんはおそらく世界初の事例だと話しています。
同じ7月には、現代自動車がBoston Dynamicsを完全子会社化しました。今後ヒューマノイドを職場に入れていく方針を示した一方で、既存の従業員がどうなるのかという救済措置や道筋を打ち出していなかったことが、ストライキにつながったといいます。
(会社として)どういうふうに進めていくのかっていう明確な道筋を設計しながら、社員に説明しながら進めていく必要があるんだなっていうところが初めてわかったような事例になってくるかなと思います。
横山さんは、今後「ヒューマノイドを入れるな」という動きがデモなどへ広がる可能性にも触れました。
樋口さんは、歴史に詳しい友人から何百時間も話を聞いてきた経験から、大きな世の中の流れは個別の会社や人が抗っても変わらず、科学技術の歴史ではかなり再現性のある現象だと語ります。
そこ(ヒューマノイド導入)に行くまでにいかに何か軟着陸するかみたいなところが多分問われるんじゃだろうなって個人的には思ってて。
樋口さんは、日本も必ず後追いすることになるため、現代自動車がどう着陸するかは一つのモデルケースになりそうだと見ています。
三菱自動車とHighlanders、2027年に京都工場で量産へ
日本のニュースとして横山さんが挙げたのは、三菱自動車が京都の工場でヒューマノイドの量産を検討し始めたという話です。東大発スタートアップのHighlandersと基本合意書(MOU ── Memorandum of Understandingの略。正式契約の前に、当事者間で協力の方向性や基本条件を確認する文書です)を締結しました。
横山さんによると、2027年の頭ごろから動き出す予定で、収録時点から見て約半年後です。三菱自動車が自社工場で実際に使いこなし、データと運用ノウハウを蓄積していく計画だといいます。
樋口さんは、日本の製造業の柱である自動車産業にヒューマノイドが入っていく点を評価していました。
NVIDIAジェンスン・フアンの「恩返し」来日
続いて横山さんは、NVIDIAのCEOジェンスン・フアンの来日を取り上げました。樋口さんの「革ジャン着て来てましたね」という反応に、横山さんは樋口さんのXのタイムラインにまでヒューマノイドの話題が出るようになったと笑います。
横山さんによると、NVIDIAはかつてセガと一緒に仕事をし、資金も受け取っていましたが、技術方針を誤って資金が尽きかけました。取引先のセガに頼んだところ出資してもらえ、倒産を免れたという経緯があるそうです。
フアン氏は、あの出来事がなければ世界一の会社にはなれなかったとして恩返しを掲げ、日本でヒューマノイドやフィジカルAI ── ロボットなど現実世界で体を持って動くシステムに組み込まれ、物理環境を認識して行動するAIのことですの社会実装を進めようと呼びかけたといいます。当時世話になった2人とは、セガのゲームセンターで対談しニュースになりました。
え、あの時助けていただいた革ジャンですって。こう来たわけでしょ。
横山さんは、日本がフィジカルAI領域で危うい状況にあり、いま助けられ始めていると話します。NVIDIAとの事業検討には富士通、FANUC、安川電機、川崎重工などが参画し、プロジェクトがスタートしているそうです。
樋口さんの「恩売っといてよかった」という言葉に、横山さんは、当時は誰もNVIDIAがこうなるとは思っていなかったと応じます。そのうえで、NVIDIAは基盤を作り、その上にみんながソフトを書いているので、皆がお世話になっている会社だと説明しました。
ヒューマノイドに「毛穴」ができる?触覚センサーOptiTac
横山さんは、自身の野望として「生身の体からヒューマノイドへ全身を移管したい」と語り、その実現に近づく技術を2つ紹介しました。1つ目は、英ブリストル大学の研究チームが7月に発表した触覚センサー「OptiTac」です。
人間の皮膚には圧力を感じる機械受容体 ── 圧力や振動、伸びなど機械的な刺激を感じ取る感覚受容器。皮膚にはいくつかの種類が分布していますが多数あり、神経を通じて脳に信号が届くことで触覚が生まれます。OptiTacはこれを模し、柔らかい皮膚状の素材にピンを多数立て、1本1本に光ファイバーを通しているといいます。
すげえ、だから光ファイバーの一本一本が毛っていうことね。
樋口さんが「ブラジリアンワックスでやったら」と茶化すと、横山さんは「痛え痛え痛えってなりますね」と返していました。
触覚センサーは主に手のひらや指先に付け、柔らかいものをつかむために使う
全身に皮膚感覚を持たせ、ぶつかった痛みを感じて自分や周りを守れる
横山さんは、将来自分がヒューマノイドになったときにも、痛みや人と触れ合う温かさを感じ取れるかもしれないと期待を語ります。痛みがなければ危険な動作をやめずに続けてしまうため、必要なときに痛み機能をオンにしたいと話していました。
脳波でロボットアームを動かすBrainCoのデモ
2つ目は、BrainCoが7月20日に上海で開かれた世界のロボット展示イベントで披露した、脳波でロボットを動かすデモです。
脳波計付きのヘッドセットを被った人が「カップをつかむ」と頭の中で考えると、近くのロボットアームが意図を汲み取り、カップやリンゴを取る動作を実行したといいます。横山さんは、脳だけの存在になっても体を動かせる技術が一歩進んだと受け止めています。
横山さんはもう一つの価値として、データの作り方を挙げました。AIの学習ではラベリング ── データに「これは何か」「何をしようとしたか」といった正解情報を付ける作業。学習の精度を左右しますが重要で、脳波から「何をしようとしたか」という意図と結果をセットで記録できれば、実際の作業から学習用データを作れるという点です。
樋口さんは、寝たまま操作できる未来やパソコンの操作にも触れ、横山さんはイーロン・マスクのNeuralinkが頭にチップを埋め込んでパソコンを操作する研究を進めていると補足しました。
病気とか怪我とかでやっぱ苦しんでる人がやっぱ一個助かるのと、あとやっぱ身体障害者の方がものすごいなんか健常者と同じことができるようになるから、ものすごいフラット化していきますよね。
横山さんは「また働き始められるってめっちゃいい」と応じ、樋口さんは高齢者が動けるようになる点も挙げました。
横山さんは、直近では手の中にNFCタグを入れて名刺代わりにしたいと話します。空港のゲートを通れるかという心配には、樋口さんが「まずセロテープでくっつけて通ってみたら」と提案し、簡単なPOC ── Proof of Conceptの略。本格導入の前に、アイデアが実現可能かを小さく試して確かめる検証のことですから始める案で盛り上がりました。
頭が外れても戦い続けた深センのロボット格闘技
佐野さんからはエンタメ寄りのニュースです。7月中旬、深センの体育館で身長170cmほどのヒューマノイド2体がリング上で殴り合う試合が行われました。
白い機体「ホワイトイーグル」と黒い機体「マタドール」が頭部に打撃を打ち込み合うなか、マタドールの頭が首から外れる場面がありました。それでも機体は立ち上がり、戦い続けたといいます。
技術者からするとわかることなんですけど、知らない人からすると頭なくても動くんだみたいな感じじゃないですか。
樋口さんが「ちょっとゾッとする」と言うと、佐野さんも同意しました。佐野さんはさらに、触覚まで備われば目だけに頼らずに動けるようになると話します。
佐野さんは、ロボット格闘技の意義を3つの点で捉えています。
壊れ方データ
どこまで、どうやったら壊れるかのデータが集まる
価値の可視化
現場検証に時間をかけずに、耐衝撃性や動作能力を示せる
切磋琢磨
勝つために強い技術を目指す人が増え、技術力が上がる
RoboCup11対11、22体が団子にならない知能
佐野さんは、以前横山さんが実現を望んでいたサッカーの試合として、11対11のRoboCupヒューマノイドリーグが開催されたことも紹介しました。機体は基本的に中国製で、決勝の動画は番組のオープンチャットでも共有されたそうです。
ロボットは自分の位置を確認し、味方と敵を見分け、パスの動線を把握し、転んだら自分で立ち上がるところまでを自律的に行っていたといいます。
まだもちろんその人間のようにバーって走るじゃなくて、なんかよちよちよち歩いてポーンって蹴ってみたいな。なんか本当に子供のサッカー大会見てるみたいで。
佐野さんも幼稚園から小学校低学年くらいに見えると応じ、樋口さんは数年後には今の大人より優れた動きをしている可能性もあると話しました。
佐野さんが技術的にすごいと感じたのは、22体が1つのボールを追っても団子状態にならず、「あいつが近くに行っているから自分は守ろう」とポジションを分けられていた点です。
少しでもデータの遅延があったら、前の状態を追いかけてしまって、(全員が)ぐちゃぐちゃになるはずなんですけど、それが見てる感じ起きてないっていうのは結構すごいですよね。
空間を把握し、誰がボールに行くのか、いま何が起きているのかをリアルタイムで処理できていることが、佐野さんの評価のポイントです。樋口さんは、競技である以上これからすごいスピードで進化していくだろうと見ています。
ニュースは「点」ではなく「線」で追う
締めくくりに、佐野さんはニュースを調べていて感じることとして、個々の出来事よりも変化を追うほうが面白いと話しました。
僕がこれ結構調べてて思うのは、なんか事象よりも変化を追った方が面白いかなと思っていて。
その進化スピードがやっぱりその時代を変えてってる感覚をつかむんじゃないかなと思うので、聞いてもらえたら嬉しいですね、毎月。
樋口さんはこれを「点じゃなくて線で見られる」と言い換え、毎月続けていこうと締めました。個々のニュースより変化の速度をつかむことが、この月次ニュース回の狙いといえそうです。
まとめ
2026年7月のヒューマノイドニュースは、中国企業の上場競争、現代自動車の労使対立、日本の量産計画とNVIDIAの支援、触覚や脳波の技術、格闘技やサッカーでの性能向上と、社会・産業・技術・エンタメの各面でヒューマノイドが前進していることを示しています。
- 中国では200社以上のヒューマノイド企業が乱立し、Unitreeなどの早期上場が資金獲得の鍵と見られている
- 現代自動車労組のストライキは、導入の道筋を従業員に示しながら「軟着陸」させる重要性を浮き彫りにした
- 三菱自動車はHighlandersと組み2027年に京都工場で量産へ、NVIDIAはセガへの恩返しとして日本のフィジカルAIを後押し
- OptiTacの全身触覚やBrainCoの脳波操作など、身体の拡張や学習データ作りにつながる技術が進んでいる
- 格闘技やRoboCupの11対11は、壊れ方データや高度な空間把握を通じて技術を競い合う場になっている





