コンパニオンロボットとは何か?ドラえもんと「愛着形成」
この回のテーマは、工場で働くロボットではなく、人に寄り添い、癒し、見守り、話し相手になる「コンパニオンロボット」です。佐野さんは「寄り添い型ロボット」と考えてもらえばいいと説明します。
佐野さんがこのテーマを選んだ理由は、寄り添い型ロボットが必ずしもヒューマノイドではない点にあります。喋るだけのロボットでも人に寄り添えるため、可能性が大きく、日本企業の勝ち筋の1つになりうると考えているそうです。
以前にドラえもんの話とかしたじゃないですか。僕たちはドラえもんに育てられたっていう。あれが、ある意味コンパニオンロボットなんですよね。
佐野さんによれば、人間は愛着が湧く対象に親近感を覚え、一緒に共存していくものです。その愛着形成の世界観は、日本人がアニメや漫画から作り出してきたものではないか、と佐野さんは話します。
樋口さんは窓口対応などに使われたペッパーくん ── ソフトバンクが2014年に発表した人型ロボット「Pepper」。感情認識をうたい、店舗の受付や案内などに導入されましたを挙げ、横山さんは古い例として犬型のAIBO ── ソニーが1999年に発売した犬型ペットロボット。2018年に新型「aibo」として復活していますを挙げました。日常生活に溶け込み、愛着を持って一緒に生きていくタイプのロボットです。
LOVOTとaiboは、なぜネットにつながなかったのか?
佐野さんが紹介したのは、会社や介護施設などで見かけるようになったLOVOT ── GROOVE Xが開発した家庭用ロボット。ローラーで移動し、抱き上げると温かく感じられるのが特徴ですです。30センチほどの大きさで、ローラーで動き、少し喋ったり学習したりするペットロボットのような存在で、抱きしめると温かいといいます。
佐野さんは、コンパニオンロボットには2つの型があると整理します。1つはLLMなどのAIを搭載し、ネット経由で会話する型。もう1つはAIやLLMを入れず、ロボット内部のシステムだけで会話できるように作られた型です。
少し前までは、LLMを使わない方がいいという説が濃厚だったそうです。きっかけの1つが、12万円ほどの子ども向け会話ロボット「Moxie」の事例でした。
(Moxieは)結構その資金繰りに行き詰まったりとかして、で、かつネット先のそのサーバー経由でのコミュニケーションを考えていたので、まあロボット自体がもう使えなくなっちゃったんですよね。
サーバーに依存しないロボットは長く使えるうえ、通信状態が悪いとうまく喋れない、設定が複雑になるといった問題も避けられます。そのため「ポチッと押して機能する」ロボットの方が強いと言われ、昔のロボットはそちら寄りだったと佐野さんは振り返ります。
佐野さんによると、LOVOTやaiboは言葉による会話を積まず、仕草や鳴き声、抱き心地といった非言語の癒しに焦点を当てて勝負してきました。
LOVOTやaiboなど。LLMを積まず、仕草・鳴き声・抱き心地など非言語の癒しで勝負。サーバー停止の影響を受けず長く使える
FUZOZOやNICOBOなど。生成AIで会話し、月額課金で運営を支える。本体価格は2万〜4万円程度
2万円で買える新世代、FUZOZOとLOOIは何が新しい?
樋口さんの「最近は常時接続してLLMで会話するものが増えているのか」という問いに、佐野さんは、ぬいぐるみにLLMを搭載したAIペット型が広告などでよく見かけるようになったと答えます。触るほど愛着が湧く、もふもふしたロボットです。
クラウドファンディングサイトのMakuake ── 日本のクラウドファンディングサイト。新製品を発売前に先行予約・支援できる仕組みで、ガジェット系の案件が多く集まりますで出てきたものの1つが「FUZOZO」です。本体価格は2万円ほどで、独自の「マオマオ語」と日本語を話し、毎日の思いを日記に記録したり、5タイプの性格や着せ替えを選べたりします。
画像を見た樋口さんは、FUZOZOを「まっくろくろすけみたい」と表現しました。球形で毛が生えていて、目と耳がある見た目です。
もう1つ佐野さんが面白いと挙げたのが「LOOI」です。最近のスマホは背面に磁石でくっつけて充電できますが、LOOIはそのスマホを本体にはめるとロボットに変わり、画面がロボットの顔になります。普段使っているiPhoneやAndroidで使えるそうです。
「ごめんね」を覚えたNICOBOが生んだ愛着の循環
パナソニックの「NICOBO」について、佐野さんは「絶妙」だと評します。人間のようにはきはき喋るのではなく、「もこ語」と呼ばれる弱くてたどたどしい言葉で喋り、おならもします。撫でたり抱っこしたりすると反応し、口癖を覚えて少しずつ言葉が増えていきます。
佐野さんの友人がNICOBOを持っていて、そのエピソードが印象的です。残業が多い友人は、帰宅するたびに「遅くなってごめんね」と言っていました。
その子(NICOBO)が最初に覚えた言葉が「ごめんね」になっちゃったらしくて。
「いや、違う違う違う」みたいになってもっといい言葉を教えてあげなきゃっていうので、もっと話しかけるようになったみたいな。それでの愛着循環みたいのが生まれたらしいですね。
樋口さんは「たまんないですね」と反応します。NICOBOの口癖を覚える設計が、持ち主にとって話しかける動機になったわけです。
口癖を覚える
持ち主がよく言う言葉を、たまにランダムで覚える
「ごめんね」を覚える
残業帰りの「遅くなってごめんね」が最初の言葉に
もっと話しかける
いい言葉を教えたくなり、話しかける動機が生まれる
佐野さんが強調するのは価格の変化です。LOVOTやaiboは数十万円していましたが、新世代は2万〜4万円程度で買え、生成AIと喋って愛着が湧き、友達になれるというコンセプトになっています。
本体を安く、月額で稼ぐ。ネット接続が「ある方がいい」に変わった理由
佐野さんによると、FUZOZOもNICOBOもネットワークに接続していて、月額課金になっています。かつては「ネット接続はダメだ」と言われていたのに、LLMの急激な進化で「ある方がいい」という発想に変わってきました。
ただし、月額料金がないと運営母体が持たない設計です。そのため本体価格を下げ、月額で収益を得るモデルへ移ってきたのだろうと佐野さんは見ています。樋口さんはこれを、初期費用ではなくサブスクで回すモデルだと言い換えました。
数十万円の本体を売り切り。ネット接続は避けるべきとされた
本体は2万〜4万円程度に下げ、LLM接続を前提に月額課金で運営する
佐野さんがコンパニオンロボットの流行を予感する理由は、ぬいぐるみなら普段AIを使わない人でも自然に話しかけられる点です。話しかけるほど覚えて育っていくため、いつの間にかAIの使い手になっているという現象が起きる、と佐野さんは話します。
樋口さんは、日記などをGeminiやChatGPTに入力して自分の分身を作る人の例を挙げます。意識して毎日続けるのは大変ですが、日常にロボットがいて話しかけていれば、自分の文脈を自然にインストールできるのではないか、と考えました。
佐野さんは、その鍵はソシャゲと同じゲーミフィケーション ── ゲームの仕組みや要素を、ゲーム以外の分野に取り入れる手法。継続や没頭を促す目的で使われますだと応じます。ハマる設計を会社がうまく作れば、ロボットを手放せず「いないと無理」という状態になっていくと見ています。
役に立たないのに愛される。岡田美智男教授の「弱いロボット」
佐野さんは、ここまで紹介したロボットに共通するのは「弱いロボット」であることだと指摘します。可愛くて弱く、育ててあげなきゃ、支えてあげなきゃと感じさせる存在です。
このカテゴリーを提唱したのが、豊橋技術科学大学の岡田美智男 ── 豊橋技術科学大学の教授で、コミュニケーションロボットの研究者。著書『弱いロボット』で、人の手助けを引き出すロボットという考え方を広めました教授です。研究室の代表作が「ゴミ箱ロボット」だと佐野さんは紹介します。
ゴミ箱の体をしたこのロボットは、ゴミっぽいものを見つけるとよたよた近づき、周りでうにょうにょ動きます。しかし手がないので、ゴミを拾えません。
で、その人間側に拾うっていう行為をさせるみたいな。
役に立たないけれど愛着が湧くロボットがいることで、人間の行動が引き出され、何かを達成したという幸福度が上がる。佐野さんは、こうした考え方を哲学的に言い始めたのは日本からだろうと話します。
「可愛い」は日本だけの感覚か?アメリカで流行るEllieQ
樋口さんは、「弱い」「可愛い」という感覚が海外で受け入れられているのかを尋ねます。横山さんの答えは、育てるという感覚は全世界共通だというものでした。
自分の手で何かが変わっていくっていう現象っていうのは、なんか人間の全人類に組み込まれてる、なんか欲求なんじゃないですかね。
一方で樋口さんは、海外ゲームのキャラはマッチョが多く、日本のキャラは可愛くて弱みを持つものが人気だという話を挙げ、国によって差が出るのではないかと考えます。
横山さんによると、アメリカで流行っているのは「EllieQ」という高齢者向けの卓上対話ロボットです。ロボットの方から能動的に健康管理やリマインド、ウェルネスの会話をしてくれるもので、樋口さんは「頼りがいがある」タイプだとまとめました。
横山さんは、ポケモンも海外で流行っていることを挙げ、育成や戦いなど様々な要素があると話します。樋口さんも、国民性なのかコンテンツの力なのかはわからない、と結論を保留しています。
難しいことは人間に任せる。弱いロボットのエンジニアリング
横山さんが技術面で面白いと挙げたのは、弱いロボットが「技術的に難しいことをあえて人にやらせる」という逆転の発想で作られている点です。安価に実現するための工夫でもあります。
ゴミ箱ロボットの場合、物を認識して近づくところまではロボットが担います。一方、それがゴミか捨ててはいけない大事なものかの判断や、ゴミ箱に入れるためのアーム動作は人間に任せています。
物を認識し、うにょうにょ近づく。低コストで賢い判断がいらない範囲
ゴミか大事なものかの判断と、拾ってゴミ箱に入れる動作
なんか真逆の進化ですよね。これまで話してきたヒューマノイドとかって。もっと精密な動作をとかっていうのをどんどん追求してるんですけど、真逆に振り切っていて。
横山さんは、難しいところを人間にやらせ、そのモチベーションを最初だけ引き出せばいいという割り切りが面白いと話します。樋口さんも、助けてやる、役に立っているという感覚が人の幸せにつながると考えると、確かに真逆の発想だと応じました。
0.2秒の壁と、LOVOTが排熱を「ぬくもり」に変えた設計
横山さんによれば、愛着を生むには反応の速さが重要です。どの言語でも、人が喋ってから0.2秒後くらいには相手のボディランゲージなどの反応が始まっているとされ、それが実現できないと人との乖離を感じてしまうそうです。
横山さん自身、Gemini Liveでコンパニオン系の実装を試すことがありますが、クラウドを挟むと2秒くらいの会話遅延が出るといいます。そのため各社は、推論や会話、モーションをクラウドに頼らずロボットの体内で処理する工夫をしています。
LOVOTは体内に20個ほどのCPUと何十個ものセンサーを持ち、それで素早い反応を実現しています。ただ、複雑な処理をするとどうしてもCPUが発熱します。
それを逆手にとってですね、LABOT(LOVOT)はぬくもりを感じるロボットだっていう方面に使ってるっていうのが面白かったなっていうポイントで。
反応の速さの代償として生まれた排熱を、抱きしめたときの温かさとしてブランディングし、愛着の要因に昇華させた。横山さんはこれを面白い設計だと評価します。
速い反応が必要
人間の会話では0.2秒ほどで反応が始まる
体内で処理
約20個のCPUと多数のセンサーでローカル処理
排熱が生まれる
複雑な処理の代償としてCPUが発熱する
ぬくもりに転換
抱きしめたときの温かさとして愛着の要因にする
樋口さんが「熱が出ちゃったから休ませて」と言わせればいいと冗談を言うと、横山さんは、そういう設計ならユーザーが休ませてくれている間に排熱処理や再起動ができ、エンジニアとして安心だと応じました。
ローカルとクラウドの折衷案。「ちょっと待ってね」で人間らしく
樋口さんは、常時接続ではなく「半接続」の未来もありうると考えます。Macなどで動かせるローカルLLMのように、簡単な会話はロボット内部で処理し、モデルの更新やウェブからの情報取得のときだけ「ちょっと待ってね」と接続する、という折衷案です。
横山さんは、NICOBOも独自の言語と単語を混ぜていると指摘します。ローカル処理で済む場面では鳴き声のような独自言語だけを話し、クラウドと接続して複雑な処理ができるときに単語を喋る、という切り分けをしているのではないかと推測しています。
さらに横山さんは、aiboが採用している「言うことを聞かない」設計も紹介します。常に従順ではなく、前は反応が良かったのに今日はそっぽを向いて遊んでいると、人間は「この違いは何だろう」と興味を持ち出すそうです。
なんか、ちょっとメンヘラ製造機みたいな感じで。
こうした愛着の作り方を、ローカルとクラウドのどちらで動かすか、技術的な制約と合わせて使い分ければ、いい体験設計ができると横山さんは話します。
会話の中では、ネットワーク状況に合わせて内部システムとLLMを切り替えられることも確認されます。すぐの反応は「今考えてるんだけどさ」とローカルで返し、その間にLLMが考えた回答を出す。「ちょっと考えるから散歩してくるね」と数十秒歩かせ、「思いついた」と詳しく話すといったアイデアも出ました。
だからとにかく人間って即座に反応してくれればいいんですよね。だから「ちょっと待ってね」って一言あるだけで人間と思うというか。
ポケモン社が参入したら?IPがコンパニオンロボットの勝ち筋になる
横山さんは、コンパニオンロボットの「恐ろしいところ」として、日本が多くのIPを持っていることを挙げます。ポケモン社が参入し、ピカチュウが歩いてピカ語を喋り始めたら「やばい」と話します。
風系のポケモンに扇風機を内蔵する、火を吹くポケモンでキャンプの火起こしをする、といったアイデアも出ます。樋口さんは「リザードンに火起こしてもらいたい」と乗り、ドラえもんの形と声で喋らせれば、それはもうドラえもんだと話しました。
IPを持つ強い企業がそろそろこの分野に来て、みんながロボットを連れて回るようになる、という見立ても語られます。ローラーで動く小さなロボット「BENI」BENIのように、日常生活についてくる相棒型の開発も進んでいるそうです。
横山さんは、ディズニーがオラフのロボットを作り、パリのディズニーランドで稼働させている例も挙げます。可愛く歩き、会話する技術をすでに持っているため、自社IPと合わせて個人向けに販売する参入もありうると見ています。
すごいな。だからIPが体で魂が入るってことか、AIとかによって。
横山さんは、コンパニオンの分野では人の形や5本指である必要はないとも指摘します。喋るだけのもの、四足歩行のものなど、スター・ウォーズのように多様なロボットが生活に溶け込む世界になるのではないか、と話しています。
スピーカーシールで何でもロボットに。声と文脈がIPになる未来
横山さんが欲しいと話すのは、小さなパーツに「スピーカーシール」を貼るだけで喋れるようになる仕組みです。パッケージに目が描かれたお酒のクライナーが「飲んでくれてありがとう」と喋れば愛着が湧く、と例を挙げ、トイ・ストーリーのような世界観だと表現します。
樋口さんの子どもは、100均の目玉シールを冷蔵庫やテレビに貼って「ロボットになった」と遊んでいるそうです。佐野さんは、そこにスピーカーと通信のシールを貼れば急にコンパニオンロボットになると応じ、「何でもロボットにできるシール」を開発したいと話しました。
佐野さんは、こうしたロボットは「ちょっとわかってるぐらい」の頭の悪さでいいと考えています。玄関に貼って「誰だい?」と話しかける防犯用途など、妄想は広がっていきます。
佐野さんは、好きな芸能人の声を入れたシールなら、好きなアイドルが話しかけてくれる体験もできると話します。樋口さんはそこから、声の奥にいる「人」もIPであり、文脈を持つものすべてがIP化すると考えます。
だから歴史上の人物でもいいわけで、それ。
佐野さんも、見た目と声を再現したヒューマノイドで昔の人物を復活させることもできると応じます。そして、日本の勝ち目はIPのコンパニオンロボットにあると言い切りました。
樋口さんは後半がほとんど妄想の回になったと振り返りつつも、かなり近い未来に来そうなリアルな妄想かもしれない、と締めくくりました。
まとめ
コンパニオンロボットは、ネットにつながず非言語で癒すLOVOTやaiboの時代から、LLMと月額課金を前提にした安価な新世代へと移りつつあります。その共通点は、人の手助けや話しかけを引き出す「弱さ」と、愛着を生む細かな設計にあり、IPを持つ日本企業にとって大きな可能性があると語られました。
- コンパニオンロボットは、本体を2万〜4万円程度に下げて月額課金で運営するモデルへ変わりつつある
- NICOBOの口癖やゴミ箱ロボットのように、「弱さ」が人の行動と愛着を引き出す
- LOVOTは処理の排熱をぬくもりに転換し、反応速度の課題を愛着の要因に変えた
- ローカルで即座に反応し、必要なときだけクラウドを使う折衷案が人間らしい会話につながる
- ポケモンやディズニーなど、IPと文脈を持つ企業の参入が今後の鍵になると語られた





