1万台計画の結果は「0体」?Optimusのこれまで
この回のテーマは、イーロン・マスク氏が率いるTeslaと、同社が開発するヒューマノイド「Optimus」です。佐野さんがビジネス面、横山さんが技術面に注目して解説していきます。
佐野さんによると、マスク氏は2025年の頭に「今年、社内向けにOptimusを1万台作る計画だ」と発言していました。ところが1年後、Teslaは「実際に有用な仕事をしているロボットはまだ0体」だと発表しています。
あ、ゼロ?
佐野さんは、マスク氏は大きなビジョンを語り、実際には無理だったというケースが多い人物だと説明します。今回の1万台計画も一旦は実現しませんでしたが、裏ではいろいろと進んでいる部分もあるといいます。
最新情報として、2026年4月の決算でマスク氏は、この夏から工場でOptimusの量産を始めると表明しました。佐野さんは、夏と言っている以上、すでに動き始めているのではないかと見ています。
Optimusの歴史をさかのぼると、始まりは2021年頃の「AI Day」というイベントでのコンセプト発表でした。このときのパフォーマンスは、ロボットのスーツを着た人間がステージで踊るというものだったそうです。
「このパフォーマンスはイメージです」のやつや。
ただしOptimusは、その後1年ごとに着実に進化していきます。佐野さんが紹介した流れを時系列で整理すると、次のようになります。
佐野さんは、手の関節の自由度はヒューマノイドにとって大事なポイントだとしたうえで、Gen2の11から1年で22まで増えたことを大きな進化だと評価しています。
なぜ指先のモーターを腕に集めるのか
横山さんは、Teslaの設計思想の根本に「人間からのリバースエンジニアリング ── 完成品を分解・分析して、その仕組みや設計を読み解くこと。ここでは人間の体の構造を手本に、ロボットの設計を考える意味で使われています」があると説明します。人間の体は約6000万年かけて進化してきた完成された設計であり、それを再現するのが一番よいという考え方です。
この思想がよく表れているのが、Optimusの手の構造です。他社には、指先に小さなモーターを入れて指を動かす設計を採用しているところも多いといいます。
一方で人間の手は、グーパーをすると前腕の筋肉が硬くなるように、指先にモーターがあるわけではありません。横山さんは、指の動きは肘や肩のあたりまで長くつながって連動していると話します。
そこでTeslaは、モーターを前腕の根元に集め、そこから指を引っ張る方式を取っています。横山さんによると、この方式なら指先自体がとても軽くなり、危なくないという利点もあるそうです。
樋口さんは、ゼロから設計できるなら人間にできないことを目指す思想もありそうだと指摘します。Teslaの手の設計は、あえて人間の構造に寄せる会社の思想の表れだといえそうです。
カメラだけで世界を見る、というTeslaの賭け
佐野さんは、他社との設計思想の違いがよく表れる部分として「目」、つまり周囲をどうセンシングするかを挙げます。多くの会社は、赤外線センサーのLiDAR ── レーザー光を照射し、その反射から対象物までの距離や形状を測定するセンサー。自動運転車などで周囲の立体把握に使われますが、高価な部品として知られますや、深さを測るデプスセンサーを採用しているといいます。
それに対してTeslaは、カメラだけで世界を見ることにこだわっています。横山さんは、その理由を人間との比較で説明します。
人間は2つの目だけで運転したり、物を掴んだり、階段を下りたりしてるんで、レーザーなんて使ってないじゃん。だからロボットも2つカメラがあればいけるだろ(という思想です)。
横山さんによると、カメラだけにする選択は複数の意味で合理的です。LiDARは高価な精密機器なので、それを外せばロボット1台あたりのコストを大きく下げられます。部品の種類が減るので構造もシンプルで壊れにくくなります。
さらにTeslaは、自動運転でもLiDARを使わずカメラだけで世界を認識する技術を磨いてきました。横山さんは、その自動運転技術をそのままOptimusに流用できる点も、Teslaならではの合理性だと話します。
LiDARやデプスセンサーを使って周囲を測る。高価な精密部品が必要
カメラだけで世界を見る。コストを下げ、構造をシンプルにし、自動運転技術を流用できる
樋口さんは、カメラだけで見るには推論が必要になり、その頭の良さはAIに任せているのではないかと問いかけます。横山さんはその通りだとし、悪天候や明暗の急な変化には弱いという専門家の指摘もあると説明しました。
横山さんによると、Teslaはその弱点を、車がずっと集めてきたデータを使ってAIを進化させることで補えると考えています。カメラだけでいけるという賭けが当たれば、コスト面でTeslaの一強になるかもしれないと横山さんは見ています。
樋口さんは、AIが先に進化するか、赤外線センサーの生産コストが先に下がるかで勝負が決まる構図を「VHSとベータ」にたとえました。横山さんは、精度以外の要因で決まる可能性もあり、まだ何とも言えないと応じています。
実績が少ないのに期待される理由は、マスク氏の過去にある
番組では、Teslaは技術的な着眼点は優れているものの、これまで番組で扱ったFigure AIやUnitreeのような目玉となる発表はまだ多くないと説明されます。では何が期待のポイントなのか。その答えとして、マスク氏がこれまで成し遂げてきた事業が紹介されました。
1つ目はTeslaそのものです。電気自動車の量産を本当に軌道に乗せた会社はほとんどない中で、Teslaはギガファクトリー ── Teslaが展開する巨大工場の呼称。バッテリーや電気自動車などを大規模に生産する拠点として知られていますでバッテリーから車両までを一気通貫で作り、コストを劇的に下げたといいます。
2つ目はSpaceXです。ロケット「ファルコン9」を再利用できるようにして打ち上げコストを劇的に下げ、部品の9割を内製化していると紹介されました。3つ目は自動運転で、ダラスやヒューストンで運転手のいないロボタクシーの運行を始めた実績が挙げられています。
これらに共通するのは、自社で開発し、自前の生産ラインを作り、量産でコストを下げるという勝ち筋です。現時点のOptimusはサプライチェーンのコストが高く、二次情報ながら部品だけで赤字だとも言われているそうで、この勝ち筋が再現できるかが注目点になります。
もう1つのポイントは組織の変化です。2025年にOptimusの責任者が退任し、自動運転の責任者が後任になりました。自動運転を成功させてきた人たちが率いることで、組織もガラリと変わるかもしれないと話されています。
話題はX(旧Twitter)にも広がります。樋口さんは、Xの買収からGrokの発表まで、すべてを自社に取り込んで完結させる思想がありそうだと指摘しました。収益化の仕組みの導入や、旧来のユーザーの反発を押し切る強引さも話題にのぼります。
高級車の歴史ある製造ラインの工場を壊し、ロボットを作るラインに建て替えたというエピソードも紹介されました。樋口さんはこうした大胆さを、良くも悪くもなくフラットな意味で次のように表現しています。
ある意味ね、文脈ぶった切る力というか、良くも悪くもなくフラットな表現で言うとサイコパスみがあるんすよね、ちょっと。
番組で特に強調されたのが、マスク氏の持つエコシステムです。Xは人間が何を感じているかという膨大なデータの塊であり、xAIのGrokは音声での対話を強化し、Teslaの自動運転技術はヒューマノイドの動きに転用できると説明されます。
さらに、脳にチップを埋め込んで考えるだけでパソコンを操作する研究を進めるニューラリンク ── イーロン・マスク氏が共同創業した企業で、脳とコンピューターをつなぐブレイン・マシン・インターフェースを開発していますも、遠隔操作(テレオペ)に転用できる可能性があります。番組では、マスク氏のエコシステム全体がヒューマノイドの技術進化につながる流れになっているのではないかと語られました。
X
人間が何を感じているかの膨大なデータが、ロボットの「脳」の進化に生きる
xAI・Grok
音声による人間とのやりとりを強化
Tesla自動運転
ヒューマノイドがどう動くかに転用できる
ニューラリンク
考えるだけで操作する技術が、テレオペに転用できる可能性
樋口さんは、電気自動車もエネルギー革命のためにバッテリーインフラを広げる途中のステップだったという逆算の話を引き合いに出し、マスク氏には見えていないものが見えているのだろうと話します。
また、2023年にはOptimusが動いているといった大きな発言は失敗に見えるものの、そのビッグマウスに惹かれて世の中を変えたいエンジニアが集まり、言ったことが実現していく循環が生まれているとも紹介されました。
関節をロックできるリニアアクチュエーターの狙い
横山さんは、Optimusに使われているモーターの種類にも特徴があると話します。以前紹介したUnitreeは、コスト削減のために全身で同じ回転型のアクチュエーターを使っているそうです。
一方でTeslaは、場所によって直線方向の動きを生むリニアアクチュエーター ── モーターの力を直線的な押し引きの動きに変える駆動装置。回転型のアクチュエーターとは異なり、伸び縮みする動きを直接生み出しますを使い分けています。肘や足首のように曲げ伸ばしが中心の関節に、この直線型を採用しているといいます。
横山さんが挙げた直線型のメリットは、関節をまっすぐ伸ばしたままロックできることです。人間も肘を完全に伸ばして壁に手をつくと、曲げているときより疲れずに押せる、というたとえで説明されました。
回転型の場合、関節を固定するにはモーターに力を入れ続ける必要があります。横山さんは、これを人間にたとえると常に中腰で立っているような状態で、発熱が長時間動けない要因になっていると話します。
関節を固定するのにモーターの力が入り続け、発熱で長時間の作業が難しい
関節を伸ばしてロックでき、モーターの力を使わずに立てるため長時間の立ち作業が可能
もうなんかそのパフォーマンス用途ではなくて、もう長時間作業させるみたいなところから、最初からその設計思想ができてるってところは面白いかなと思います。
樋口さんは、この違いを壁ドンにたとえて整理します。腕をピンと伸ばしていればつっかえるので楽ですが、少し曲げていると腕立て伏せをし続けているような状態になる、という説明です。
この関節ロックの仕組みは、車のメンテナンスで使うジャッキにもたとえられました。ある高さで固定するとガチッと固まり、そこからは力がいらないのと同じ原理だと説明されています。
背景には、マスク氏の「第一原理主義 ── 物事を慣習や前例ではなく、物理法則などの根本的な原理から考え直す思考法。マスク氏が経営で重視していることで知られます」があると紹介されました。物理法則から見直してゼロベースで考えると、人間に倣うのが一番よいという技術選定になっているようです。
番組では、手のモーターを腕の根元に集めた設計にも改めて触れられます。配線が細くなり、指先が軽くなることで、卵を割らずにつかむような器用さにつながり、手が熱くなることもなくなると説明されました。
ロボットがこれから一般消費者向けに広がるなら、危険度は低いほうがよいはずです。人間に倣った設計はその点でも理にかなっている、というのが番組の見方です。
いやー、ちゅうか進化ってすげえんやな。ちゃんと、いいのが残ってんすね、人間の体。
まとめ
TeslaのOptimusは、1万台計画では「有用な仕事をした0体」という結果に終わりながらも、人間を手本にした一貫した設計思想と、マスク氏が築いてきたエコシステムによって大きな期待を集めています。思想が技術選定を決めるという視点で見ると、Teslaの狙いが見えてきます。
- 2025年の1万台計画は未達だったが、2026年夏から工場での量産開始が表明されている
- 手のモーターを前腕に集める、カメラだけで世界を見るなど、人間のリバースエンジニアリングが設計の軸になっている
- 肘や足首にリニアアクチュエーターを使い、関節をロックすることで長時間の立ち作業を可能にしている
- Tesla、SpaceX、自動運転で示した内製化と量産によるコスト削減の実績が、Optimusへの期待の根拠になっている
- X、Grok、自動運転、ニューラリンクといったエコシステム全体が、ヒューマノイドの進化につながる可能性がある





