目標は「辞めないこと」、そのための最適解とは
この回でサエキタカフミが語るのは、音楽活動における自身の目標意識です。掲げてきたのはシンプルなもので、辞めないこと、生き残ることだったと話します。
もう、目標はもうシンプルでした。辞めないこと。生き残ることみたいなものを、僕自身は目標にずっと掲げて、少年ピースというデュオで活動を続けておりました。
その少年ピースというデュオは、結果的に一度活動を終了することになったと明かします。ある意味では「辞めないこと」が達成されなかったとも言えますが、本人の中では違う感覚があるようです。
(少年ピースが)いつか復活しますみたいな約束をするものでは全くないんですけど、自分としては止まったつもりはないみたいな感覚はあります。
そのうえで、ビジネスパーソンをやりながらミュージシャンをやることが最適解だという考えを、この回で紐解いていくと述べます。
ミュージシャンが辞めていく理由と「これでいいのかな」
辞めない方法を考えるにあたり、サエキタカフミはまず、逆に人はどんなことで音楽を辞めていくのかを考えたと言います。とりわけインディーズミュージシャンが30そこそこになる頃に訪れる感情に注目します。
(インディーズミュージシャンも)30そこそこになってきて、「これでいいのかな」って思うわけですよ。周りの学生時代からの友達は結婚して、子供ができて、家を買って。
一般的に幸せと呼ばれる生活を送り始める同世代を横目に、自分がライフステージに追随できていない感覚が生まれる。これは否定できない感情だとしつつ、それでも続ける人を否定するつもりはないと言い添えます。
重要なのは、その思考が必ず訪れるという前提に立つことだと話します。そのうえで、辞めないためにどうするかを考えたとき、ビジネスパーソンを傍ら続ける形が比較的最適解に近いと感じていたと述べます。
「これでいいのかな」の裏にあるお金と音楽性の不安
サエキタカフミは、「これでいいのかな」という思いの裏にある考えを2つに分けて整理します。1つ目は、偏見も入るがと前置きしたうえで、お金に対する不安だと言います。
「この稼ぎでいいのかな?今のこの貯金額でいいのかな?」みたいなところは絶対あると思うんですよ。つまりは、お金ですね。
そのお金への不安が、いつからかミュージシャン生活への不安に変換されていく。だからこそ安定的な基盤を持っていれば、その思考はいくらか軽減されると話します。
2つ目は、自分がやりたい音楽が世の中になかなか受け入れられないことからくる、音楽性への不安です。表現者ゆえの疎外感は、表現活動をしていない人よりも覚えやすいと指摘します。
その対策としてサエキタカフミが挙げるのは、疎外感を思わない環境を作っておくことです。前回の配信の内容とも連動すると断りつつ、狭くても深く刺さるリスナーの存在が支えになると言います。
広くは受け入れられてないかもしれないけど、深く狭く、一定のリスナーの方々には届いているんだという実感を自分で得ることで、その「これでいいのかな?」って思考は軽減される。
活動を疎外する内部環境と外部環境
心の整理という文脈から、サエキタカフミは話を「純粋に辞めないため」の話へ移します。辞めないためには活動を続ければいいわけですが、その思いを疎外するものが大きく2つあると言います。
1つは自分の中にある内部環境、もう1つは自分の外にある外部環境です。外部環境は自分ではないため、自分では変えようがない定数だと整理します。
自分の外にある因子、外部環境って、自分じゃないので、定数なんですよね。自分じゃ変えようがないんですよ。
外部環境を変えられない以上、自分が音楽をやり続けたいと思う気持ちを、自分自身で疎外しないように工夫することが大事になる。そこにビジネスパーソンの経験が生きてくると話を進めます。
自分の中にある因子。自分で工夫して変えられる部分
自分の外にある因子。自分では変えようがない部分
自分をダラダラさせない——ビジネスパーソンの自己マネジメント
サエキタカフミは、内部環境の話をきわめて簡単な言い方に落とし込みます。人は自分をダラダラさせてしまうもので、それを自分で食い止めるのがビジネスパーソンは得意だと考えています。
自分をダラダラさせちゃうんですよ、人って。自分をダラダラさせちゃうのを自分で食い止めるっていうのが、ビジネスパーソン得意だと思ってるんですね。
具体例として、パソコンさえあれば仕事が成り立つホワイトカラーの働き方を挙げます。Googleカレンダーで予定を管理し、9時から17時までの中で会議や作業の時間を割り振っていく習慣です。
だからこそ「気分が乗ったらやろう」という思考が少なくなる。一方でフリーランスのミュージシャンには、その気分待ちの傾向がややあるのではないかと自身の実感を語ります。
自分というリソースを、自分という事業に対してどう使っていくのか。自分という経営資源を、自分の音楽活動という事業に関してどうコミットさせていくのかっていう思考が非常に足りない。
仕事終わりの17時から18時に必ず作曲をする、といったタスクを自分で入れて従う体が、ビジネスパーソンには出来上がっている。そうした自己マネジメントスキルが身につくと話します。
モチベーションは行動の副産物である
自己マネジメントの話に付随して、サエキタカフミはモチベーションがどこから湧いてくるのかという問いを投げかけます。受け売りだと断りつつ、心理学的にも事実らしいと紹介します。
つまり、やる気がないからやれないのではなく、やらないからやる気が出ない。気分が乗るのを待っていても何もやっていないので、気分は乗ってこないという理屈です。
やる気がないからやれないのではなくて、やらないからやる気が出ない。
だからこそ、行動先行型のルーティンを設けておくことが、やり続けるための工夫として大事になると話します。行動がモチベーションを生み、それが次の行動を引き起こす連鎖を想定しています。
行動する
気分が乗るのを待たず、まず手を動かす
モチベーションが湧く
行動の副産物としてやる気が発生する
次の行動が起こる
湧いたやる気が次の行動を自動的に引き起こす
成果物が増える
行動量が積み上がり、成果物が大きくなる
同じ1ヶ月を過ごしても、行動量が多ければ成果物は大きくなる。ビジネスパーソンを兼業していると、こうした世界が自動的に成立してくるのだろうと述べます。
クオリティの呪いとアジャイル的な作り方
最後にサエキタカフミは、ビジネスの基本である「安い経費で高い成果を出す」という考え方を持ち出します。ただしこの概念は、表現活動には適用しづらい面があると指摘します。
作った表現物が最大の成果をもたらすかは、制作過程では想像するしかない。少ししか手をかけていないのに売れたものもあれば、手をかけたのに売れなかったものも生じるからです。
一番良くないのは、多大な時間やコストをかけたのに何の成果も上げられないことだと言います。それを防ぐ手段として挙げるのが、ビジネスの王道であるアジャイル的な作り方です。
サエキタカフミは点数のたとえで説明します。60点で世に出しても意味はなく、まず80点までは上げる。ただし80点を90点、92点へと磨き続けるプロセスには意味があるのかと問いかけます。
その根拠として、表現物の価値は受け取り手が決めるものだという考えを示します。これはビジネスでいう顧客思考にあたり、プロダクトは客が使って初めて価値を発揮すると重ねます。
だからビジネスパーソンをしていれば、クオリティの呪いみたいなものに囚われづらくなるのではないかと語ります。悪口ではないと前置きしたうえで、こう感じる場面が多かったと振り返ります。
「その努力意味ある?その時間、あなたの人件費だとかスタジオ代がかかってるんだけど、大丈夫?」っていう制作プロセスを経るミュージシャンっていうのは非常に多かった。
クオリティへのこだわりと、二人の自分を共存させる
一方でサエキタカフミは、逆のことも言うと断って、クオリティにこだわること自体は大事だと補足します。こだわる過程そのものが、成果物とは別のコンテンツになりうるからです。
適当に作っている制作過程を見たい人はいない。熱量やこだわりを注いでいる様子自体に価値があり、色気があるとも思うと述べ、クオリティ追求を否定するわけではないと強調します。
そのうえで、どんなメジャーミュージシャンでも、その様子をビジネス的に俯瞰して見ている人がいると指摘します。インディーズではそれを専任で雇えないため、自分自身でその役割を担う必要があると言います。
クオリティにこだわりたい自分、ビジネス的にそれは意味があるのかなって考える自分みたいなものを共存させながら制作していくのが大事。
この二人の自分を頭に浮かべながら制作するために、ビジネスパーソンの兼業が生きてくる。それが巡り巡って、辞けないで済む結果につながるのだと締めくくります。
まとめ
この回でサエキタカフミが語ったのは、音楽を辞めないための目標設定と、それを支えるビジネスパーソン兼業の思想でした。お金や音楽性への不安、自己マネジメント、クオリティへの向き合い方まで、兼業の経験が活動の継続を後押しするという一貫した視点で語られました。
- 目標はシンプルに「辞めないこと・生き残ること」に置いていた
- 「これでいいのかな」の裏にはお金と音楽性への不安があり、安定基盤と深く刺さるリスナーが支えになる
- モチベーションは行動の副産物であり、行動先行型のルーティンが継続を生む
- 60点ではなく80点で世に出し、受け取り手を意識して改良する姿勢が「クオリティの呪い」を防ぐ
- クオリティを追う自分とビジネス的に俯瞰する自分を共存させるために、兼業が有効に働く





