自転車カルチャーのメッカ・イタリアで何を見てきたのか
今回のトピックはイタリアです。岡田さんは、イタリアといえばロードバイクのブランドが多く展開されている国だと話します。
やっぱりイタリアといえば、もうロードバイクいっぱいブランド展開してますから。ビアンキとかチネリとかコルナゴとか、そういうハイエンドなハイソな自転車が、僕はやっぱ想像しちゃいますね。
食べ物の話になると、ピザやイタリアワイン、シチリアのレモンといった名前が次々に挙がります。家本さんは実際に現地でたくさん食べて太ったと笑います。
ただし、今回イタリアへ行った目的はリゾートではありません。訪れたのはリミニという街で、目的は自転車と街づくりの話題を知ることでした。
世界最大級の会議「Velo-city」と、来年の愛媛開催
家本さんが参加したのは、ECF(ヨーロッパサイクリスト連盟)が毎年この時期に主催する国際会議「Velo-city」です。今年の開催地がリミニでした。
リミニは大都市ではなく、自動車が中心でありつつ自転車も活かした街づくりがなされている街です。世界中から人が集まるため、観光と日常生活における自転車の組み合わせが今回のひとつのテーマでした。
さらに大きな話題が、来年のVelo-cityがヨーロッパの会議でありながら、初めて日本で開催されるという点です。開催地は愛媛県で、会議は松山市内の武道館で行われることが決まっています。
ヨーロッパの会議なのに、日本は愛媛県。
日本の多くの自治体が誘致に動いていた中で、愛媛県が頭ひとつ抜けて開催地を勝ち取ったと家本さんは説明します。今回のリミニにも、愛媛県知事や国会議員を含め、日本から多くの人が訪れていました。
家本さんの見積もりでは、日本からの参加者は開催国イタリアに次いで多かった可能性があるほどの規模だったといいます。
信号のない街を、自転車が気持ちよく流れていく
家本さんには、会議場にとどまらず街へ飛び出す癖があります。まず向かったのは、Googleマップのレビューで一番活気のありそうな自転車屋さんでした。結局4軒の店を回ったといいます。
だってさ、会議場の中にいただけでさ、何かがわかるわけじゃないでしょ。
どの店の人も明るく、英語の身ぶり手ぶりでも楽しく付き合ってくれたそうです。イタリアらしい雰囲気がそこにありました。
街を自転車で回って気づいたのは、リミニにはほとんど信号がないことでした。ラウンドアバウト(環状交差点)で、車も自転車もうまく流れていきます。
1週間ビーチリゾートに滞在しても、あちこち自転車だけで回れてしまいそうな街だったと家本さんは振り返ります。
森を抜ける一本道――日本では作れない「素敵な裏道」
海岸のリゾート地と会議場は、7〜8キロほど離れています。家本さんは最初、Googleマップが示す複雑な道をたどっていました。
ところが、現地の社員が別の道を教えてくれます。それは森の中を通る専用の道のような歩道で、会議場から海岸リゾートまで一直線でつながっていました。
途中線路もあるし、大きな道路もあるんだけど、なんとそれをうまくくぐりながら、途中で一切ほぼ止まることなく、一本の道でズドーンと行けちゃう。
この道では歩行者と自転車が完全に分離されているわけではありませんが、お互い避けながらでも困ることは何もなかったといいます。歴史ある街並みの中の一本の道が、ダイレクトに二つの地点をつないでいました。
家本さんはこれを、地元の人たちの生活の質を上げるための、木のある緑の空間だと感じたと話します。
緑が街を覆う――ヨーロッパの街づくりの発想
家本さんは今回、リミニの前にアムステルダム、ユトレヒト、ハノーファー、ハンブルクを回ってからイタリアに入りました。そこで改めて感じたのが、木や緑が街を覆っている率の高さです。
日本では、道のそばに植えた木も、枝がたくさん出てくると切ってしまいがちです。岡田さんは、歩道にある木を避けて走るのが大変なときもあると応じます。
一方ヨーロッパでは、どれだけ緑で街や道路を覆うかが意識されているのではないか、と家本さんは考えます。緑があれば自然に涼しくなり、環境にもよく、心の面でもよいというのです。
燦々とイタリアの太陽が降り注いでるんだけど、何もないところはめちゃくちゃ暑いんだけど、緑の下を自転車で走ってる分には何にも暑くない。
自然のサンシェードが。
「バイクバス」とは何か――子どもと自転車の教育
家本さんが特に注目して聞いたセッションは二つありました。ひとつは女性と自転車、もうひとつは子どもと自転車です。
パネルディスカッションで「バイクバス」という単語が出てきたとき、家本さんは一瞬意味がわからなかったといいます。岡田さんに問いかけると、自転車を積めるバスや、自転車で牽引する送迎バスといった答えが返ってきました。
バイクバスとは何か
日本流に言うと、自転車での集団登校・集団下校のことです。決まった時間に決まった場所から出発し、みんなで一緒に移動する集団を指します。
バラバラに移動するのではなく、集団で行動することで安全を担保します。さらに、その過程で自転車の乗り方や交通ルールを一緒に学ぶ機会が得られ、全体の事故率も下げられるといいます。
別のセッションでは、南米の事例も紹介されました。家の中でゲームばかりしている子どもたちに予算をつけて自転車を提供し、外に出るきっかけを作る取り組みです。経済的なカバーが十分でない地域で、外に出ることを促す手段として自転車が使われています。
街のど真ん中に、自転車の安全を学べる自動車学校のようなシミュレーション施設を作る事例もあったそうです。家本さんは、日本の自転車の未来を明るくするには、子どもへの自転車教育が大事だと語ります。
ただルールを教えるんじゃなくて、自然に増えていくっていう機会を作るってことね。
岡田さんも、自分が自転車を趣味にしている背景には幼少期の原体験があると共感します。知らないところへ一人で行けた喜びを、子どもたちに提供できることの意味を語りました。
一抹の不安――会議を支える出展企業が減り始めている
一方で、家本さんはいい話ばかりではないとも打ち明けます。
これね、なかなか言いにくいんだけど。
ここでしか言えないです。
日本でも自転車の展示会は規模が小さくなり、世界的にもユーロバイクの出展者は偏り、少なくなってきているといいます。Velo-cityも、出展するスポンサーによって支えられてきました。
その出展者は、シェアサイクル企業と、駐輪ラックなどの駐輪設備の会社が二つの大きな柱です。しかし家本さんは、去年のポーランド開催あたりから怪しさを感じ、今回のリミニで出展企業が減り始めていると感じたと話します。
駐輪設備は新しくゼロから生まれる市場ではなく、入れ替え需要が中心です。シェアサイクルも、アメリカやドイツのネクストバイクといったビッグプレイヤーにシェアが集まっており、ゼロから参入する企業が次々に出てくるわけではありません。
スポーツ用自転車の展示会で見たような頭打ち感が、街づくり分野の会議にも来始めているかもしれない、と家本さんは危惧します。
愛媛開催への焦りと、東アジアを仲間にする必要性
問題は、その出展者たちが来年の愛媛に来てくれるかどうかです。ヨーロッパから日本への渡航は、円安といえど費用がかかります。
どれぐらい円安といえど、やっぱりファーイースト極東まで、同じ熱量で来てもらえるかというと簡単じゃない。
家本さんは、愛媛での成功のためには、あと一年ヨーロッパの人たちに魅力を感じてもらえる発信を続けられるかが鍵だと考えます。同時に、東アジアの人たちを仲間にする必要があると指摘します。
中国、台湾、香港、韓国、さらにベトナムやタイ、シンガポールの人たちにも、ヨーロッパの会議を日本で、日本流のミックスとともに体験してもらう。それができなければ愛媛まで来てもらえないのではないか、と焦り始めていると打ち明けます。
シェアサイクルやバイチャリのようなリユースの部分も含めて、日本での開催をどう成功させられるか考えたいと家本さんは語りました。
イタリアなのにビアンキがいない?という驚き
家本さんにとってショックだったのは、リミニでも、その後訪れたボローニャでも、ビアンキの車体を一台も見なかったことでした。岡田さんは意外だと驚きます。
世界最古の自転車ブランドですよ。
4軒の自転車屋を回りましたが、日本では入ってこないイタリアのローカルブランドばかりで、岡田さんが挙げた有名ブランドは一台も売っていませんでした。
岡田さんは、スポーツバイクのカルチャーと日常の足としての自転車は棲み分けがある、と補足します。家本さんが見たのはシティサイクルと、スポーツバイクを扱う一部の店だったため、見るべき場所が違ったのかもしれません。
家本さんは、イタリアも地域によって文化も経済も違うため、まだ見足りないのではないかと話します。結論として出てきたのは、またイタリアに行きたいという前向きな一言でした。
最後に家本さんは、アムステルダムの駅前にあるアートと組み合わさった巨大な地下駐輪場についても、改めて紹介したいと予告しました。
まとめ
自転車先進国イタリア・リミニの街づくりから見えてきたのは、信号のないラウンドアバウト、森を抜ける一本道、街を覆う緑といった快適さの工夫でした。同時に、来年の愛媛開催に向けては、出展企業の減少や東アジアとの連携という課題も浮かび上がります。
- リミニは信号が少なくラウンドアバウトが多く、緑に覆われた道で自転車が快適に移動できる街だった
- 「バイクバス」は自転車での集団登下校を指し、安全確保と交通ルール教育を兼ねている
- Velo-cityは来年、ヨーロッパの会議として初めて日本・愛媛県松山市で開催される
- 会議を支える出展企業が減り始めており、愛媛開催の成功には東アジアを仲間にすることが鍵だと家本さんは考えている
- 自転車ブランドの豊富なイタリアで、有名ブランドの車体を見かけなかったことが、また訪れたい理由になった







