新会社「しくみスタジオ」と、この回のテーマ
冒頭は軽い雑談から始まります。桺本さんは収録時点の近況として、4月1日に新しい会社を立ち上げることを報告します。
これまでSNSでAIやDXの発信を続けるなかで、会社とは別に個人でAIやDXの相談を受ける機会が増えていたといいます。
中小企業をターゲットに、AIやDXを推進して企業内の仕組みを作っていく会社ということで、しくみスタジオという会社を作らせていただきました。
そのうえで、この回のテーマである地域活性化・地域カンファレンスの話へ移ります。中心に置くのは、桺本さんが前年に参加した鹿児島の「薩摩会議」です。
さつまリーダーシップフォーラム、SELFっていうのが薩摩会議を運営しているんですけど、ずっとそこの理事だったんですが、共同の代表理事になることになりました。
小平さんは、この薩摩会議を運営するNPOの共同代表理事に就任したばかりだと明かします。これまで裏方や事務局長として関わってきましたが、今後は前に出る場面が増えるといいます。
3日間で何が起きる? 「奇カンファレンス」の構造
桺本さんは薩摩会議について、SNSでも書いた印象をこう振り返ります。
奇祭ならぬ奇カンファレンスみたいな、ちょっと変わったビジネスカンファレンスなのか、あれは、みたいな。結構衝撃を受けるカンファレンスだったんで。
小平さんは、通常のビジネスカンファレンスが「1日集まって偉い人の話を聞く」形式なのに対し、薩摩会議は3日間の構成になっている点を挙げます。
初日は一箇所に集まってインプットを受け、2日目は鹿児島各地の会場へそのまま飛んで一泊する。翌朝戻って3日目のセッションに入る、という流れです。
前年は、チームラボの猪子さんや、京大の総長だった霊長類学者の山極先生らの話を聞いたといいます。
全体を貫くテーマは「150年後の世界に私たちは何を残すのか」。とても遠い時間軸で物事を考えるのが、このカンファレンスの特徴だと小平さんは話します。
西郷隆盛の玄孫から始まった成り立ち
桺本さんが、薩摩会議が生まれたきっかけを尋ねます。
運営団体SELFの始まりは、西郷隆盛の玄孫である陶芸家の西郷さんと、共同代表の野崎さんとの出会いにさかのぼると小平さんは説明します。ちょうど薩摩維新150年、大河ドラマ「西郷どん」が放送された年でした。
なんか新しい動きをできないか、みたいなのをけしかけられ、やろうってなってたのがスタートです。
背景には、鹿児島特有の事情があったといいます。上下関係が厳しく、海外や県外には友人がいても、鹿児島の中につながりを持たない人が意外と多かったというのです。
スタートアップを経験した人や、県外から戻ってきた人、鹿児島出身でない人など、面白い人たちを横串でつないでできたのがSELFでした。
当初は招待制で、離島に約100人が集まる「SELF合宿」を年1回開催していました。ただそれはクローズドな場でした。
そこから、もう少しオープンで誰でも来られる企画として始まったのが薩摩会議です。
初年度は100人から200人ほどだった参加者が、前年には580人ほどまで増えたといいます。参加費は1人6万円ほどでした。
一人6万するのにね。
なぜ2日目に「飛び出した」のか
桺本さんが、3日間で各地に飛ぶ動き方について、いつから始まったのかを尋ねます。
小平さんによると、この形は一昨年からで、それ以前は2日間とも鹿児島市内のホールにこもる形でした。
変えた理由は2つあります。1つは「鹿児島に来たのに市内にこもるのはおかしい」という感覚。もう1つは、当時勃興し始めたAIをめぐる問題意識でした。
これから身体性が大事だとかカンファレンス行ってるのに、そんなカンファレンスが身体も何もなく部屋にこもって小難しい話を聞いてるだけなんて意味がない。
初日は基調セッション、2日目はローカルセッション、3日目は探究セッションと呼ばれています。初日の話題はかなり深く、抽象的です。
一昨年は「近代的な自我の限界とそれを相克する新しいモデル」、その前は元Yahooのあたかさんによるシンギュラリティと身体性の話、前年はチームラボの猪子さんによる、街の中で身体地を回復させる話などが並んだといいます。
初日は難解で、参加者は「わけがわからない」となる。ただ、それでいいのだと小平さんは言います。
心配しなくても誰もわかってないから。俺も毎回頭わかんないよね。
わからないまま生まれるモヤモヤを抱えて2日目に入り、各地でさまざまな体験をする。桺本さんが参加した小平さんの町のセッションでは、最後に三味線でみんなで踊り、その後も飲んで、寝不足のまま3日目に入ったといいます。
そして3日目、中小企業やコモンズの設計など具体的なテーマに入り、「では自分たちは何ができるのか」を議論します。ここから実際にプロジェクトが生まれることもあったといいます。
聞き手が壇上に上がる。双方向の3日目
桺本さんは3日目の印象をこう振り返ります。
聞いてる人が急に上に上がってしゃべり出したりとかするっていうのも、なんかあれもいいですね。すごい双方向な感じで。
聞いている側にも普段は登壇するような人が多く、その人たちとやり取りができるのが楽しいと小平さんは話します。
受け入れ側としての体験も語られます。小平さんの地域は温泉地で、初年度のテーマは「温泉」でした。
温泉街は自然を中心に生まれた街であり、温泉は人が裸で自然と触れ合える数少ないタイミングだ、といった話を学んだといいます。
前年のテーマは「地域経営」。行政主導ではなく、企業が地域に関わりながら、市民とともに地域を何とかしていく活動をどう行うか、というものでした。
薩摩会議が地域にとって持つ意味を、小平さんはこう表現します。
めちゃくちゃ困ってることに対して、タダですごい来てほしい人に来てもらって、一緒に考えてもらえる。作戦会議をみんなにしてもらえる。
地域活性化ではなく「ビジョン」を作る場
桺本さんが、地域活性化という文脈をどこまで大切にしているのかを尋ねます。
小平さんの答えは意外なものでした。地域活性化そのものはあまり重視していないというのです。
来た人が増えて仲良くなり、たまに酒を飲むだけでは面白くない。地域のあるべき未来を自分たちだけで考えても、つまらないものにしかならないと小平さんは言います。
だからこそ、思索や思考を深めるためのワークを設計することを大事にしていると話します。
各地のセッションは、13箇所それぞれにテーマがあります。桺本さんが参加した小平さんの会場では長くディスカッションをしましたが、他の会場では自然に触れるなど、まったく違う体験をしていた人が多かったといいます。
- 知覧の会場は「平和文化」をテーマに、平和の語りをどうつないでいくかを議論
- 公共をテーマにした会場は、都城の図書館で公共建築のあり方を考える
- 屋久島の会場は「アニミズム」で、アート寄り・精神寄りの話が中心
一昨年の屋久島では、大雨のなか川に流されそうになりながら上流まで行った、というエピソードもありました。会場ごとにストーリーが生まれるのが面白いところだと小平さんは話します。
そのため、前年に行った場所と同じところには行かないほうが面白い、と小平さんは勧めます。すでに知り合いになっているからです。
連携しない自由と、変わり始めた客層
話題は、SELFの他の活動へ移ります。薩摩会議やSELF合宿に加え、毎月1回、地域の経営者向けに開く「薩摩大学」もあるといいます。
桺本さんが、行政と連携しているのかを尋ねると、小平さんははっきり否定します。
全くもってそういうところと連携はしないですね。一円ももらってない。
中小企業のローカルゼブラ事業など、スポットで補助を得たことはあっても、特定の行政や政治との関係はないといいます。
薩摩会議の参加者は7〜8割が県外である一方、薩摩大学は鹿児島県内の人が多いという違いもあります。ただ、県外からわざわざ通ってくる人もいるといいます。
客層の変化も語られます。桺本さんが、前年から客層が変わったという話をSNSで見たと切り出します。
去年からガラッと変わった部分があって、大企業の人がすごく来るようになった。
これまではソーシャル系の人たちのお祭りになりがちだったのが、最近は普段の仕事の関係者から「薩摩会議ってあるんですよね」と聞かれることが増えたといいます。
今年は跡継ぎ系の人が多く来ると聞いており、跡継ぎ向けのセッションをしっかり作っていく予定だと小平さんは話します。
「百億宣言」への違和感と、意味価値の問い
話題は、前年のセッションで起きた「百億宣言」をめぐる議論に及びます。桺本さんが、跡継ぎセッションの有無を尋ねたことから始まります。
前年は「中小企業」のセッションが3つ続き、地方企業のトランスフォーメーションをテーマに、小平さんやクロスローカルの坂本さんらが登壇しました。
「百億に満たない会社はダメ」という趣旨が話題になりましたが、小平さんは、それは坂本さんの発言ではなく、自分の発信が発端だったと明かします。
潰れた方がいいって言ったのは僕なんですよ。意味価値も社会的価値も、バリューを発揮できないようなところは、他の会社に吸収された方がいいですよっていうのは言った。
ここで、地域による事情の違いが浮かび上がります。京都のように事業を続ける会社が数多くある場所と、小平さんの地元・湯之元とでは、同じ「百億」でも意味が変わってくるといいます。
湯之元では意味があり、科学的な経営を取り入れる必要もある。ただ「百億」という言葉には、どうしてもマッチョな経営という響きがつきまとうと小平さんは言います。
挨拶する前に「お宅何億円ぐらい売上ですか?」とか言ってくる人いるじゃない。そういう経営マッチョ信奉者を思い出しちゃう人もいるかも。
小平さんは自らを、体育会系ではなく文化系・数理系の経営者だと表現します。「百億」と言われると体育会系を持ち出されているようで嫌な気分になる人が多い、と話します。
京都はむしろ逆で、長く続く会社が偉いという文化があり、売上をあまり語らない、と桺本さんは補足します。だからこそ「百億」の話が合わないのだろう、と。
小平さん自身は、この「百億」の話にはもう飽きてしまったといいます。数字がどんなケースで意味を持つのか、どんな会社にどんな実現の仕方が合うのか、という個別の話に行くほうが前向きで面白いと考えています。
そのうえで、今年考えたいテーマとして「意味価値」を挙げます。
会社の意味価値ってそもそも計測できるのか、意味があるのか。社会的価値とか意味価値自体の評価ができるのか。
経済的価値は測れるため合意が取りやすく、わかりやすい指標として使われる。一方で、社会的価値や意味価値をどう評価し具体化するかは難しく、主観が入りやすい。「では良い会社とは何か」という問いを今年は話せたらいい、と小平さんは語ります。
共感で人は動く。理念経営とデータ
桺本さんは、経済的でない部分の良さをどう作り、知ってもらい、評価されるのかに関心があると話します。
小平さんは、理念の話にもつながると応じます。短期的な経済合理性はなくても、中期的には合理性があり、実際に生まれていると自社について考えているといいます。
その裏づけとして、理念経営をしている会社ほど価値が上がるというデータに触れたことがあると話します。理由は、優秀な人が集まりやすいからだろう、と。
人は共感で動くっていう話みたいなことなんじゃないかな。売り上げが百億あるからこの会社に行こう、給料がこれぐらいあるから行こうっていうだけでみんな動かない。
さらに小平さんは、地域カンファレンスそのものが「経営者や事業の変容」を生むのではないか、という論点を持ち出します。
京都で開かれたゼブラアカデミアの調査結果にもそれが表れていたといいます。上田本社の岡村さんは京都流議定書を、ミツボシグループの岩田さんは羊サミットというオープンファクトリーのカンファレンスを開いています。
小平さん自身も薩摩会議に強く影響を受けており、SELFのつながりから副社長が入社した例もあると話します。
物足りない人へ。まず「二泊三日の合宿」から
京都のようにカンファレンスが多い地域とは別に、地域で物足りなさを感じている人へ、小平さんは具体的な勧め方を語ります。SELFと同じく、まず合宿をすることです。
ポイントは日数です。一泊二日では人は変わらないため、二泊三日、できれば三泊四日が必要だといいます。
薩摩会議も合宿として設計されてて、二泊三日の変容する合宿としての設計がされてる。途中から出ただけではあんまりピンとこない。
まず合宿でビジョンを作り、その上でどんなカンファレンスをやるかを決めていく。そうすれば地域全体の変化につながるムーブメントを起こせるのではないか、と小平さんは話します。そしてこれは後継企業が主導してもいい、と付け加えます。
桺本さんもこれに賛同します。オープンファクトリーは、会社見学や工場見学をネットワークでつなぐような感覚で、元々あるコンテンツをうまく組み合わせるものだと整理します。
合宿
二泊三日以上の合宿で、地域のビジョンを深く考える
個人の変化
社長など経営者自身の考え方が変わる
会社の変化
理念やビジョンが会社の変化につながる
地域の変化
カンファレンスで地域全体を巻き込み、ムーブメントを起こす
京都は宿も場所もあり、コンテンツも豊富で、カンファレンスを開きやすい日本屈指の場所だと桺本さんは言います。その強みを生かしていかなければ、と話を締めくくります。
今年の薩摩会議は10月。3日間の招待
最後に、次回の薩摩会議についての告知が語られます。
開催は今年の10月10日から12日の3連休の見込みです。この回の公開時にはティザーサイトが出ているはずだといいます。
鹿児島向けの人には、各地の2日目の工房も今年行う予定で、ティザーサイトから応募ができるはずですので、ぜひ我が地に薩摩会議2日目を誘致したいという方はよろしくお願いします。
桺本さんも、今年参加する予定だと話し、現地で話せる人がいれば嬉しいと呼びかけます。
番組は、京都と鹿児島の跡継ぎ経営者2人が、事業承継と経営のきれいごとではない現実を、成功も失敗も含めて語るものです。次回はゲストを招いての回も検討していると案内されました。
まとめ
薩摩会議は、単なる地域活性化のイベントではなく、地域のビジョンを作り、経営者や地域を「変容」させる二泊三日の合宿として設計された場でした。難解な初日、各地に飛ぶ2日目、双方向の3日目という構造そのものが、その狙いを支えています。
- 薩摩会議は「150年後に何を残すか」を軸にした3日間構成で、県外参加者が7〜8割を占める
- 運営はSELFという独立したNPOで、行政とは連携せず自前で企画している
- 「百億宣言」への違和感から、経済的価値だけでなく「意味価値」や「良い会社とは何か」を問い直そうとしている
- 理念経営や共感が人を集め、地域カンファレンス自体が経営者・会社・地域の変容を生むと語られた
- 変容を起こす鍵は二泊三日以上の合宿で、まずビジョンを作ることが勧められた






