なぜ「50名」でも「10名」でもなく「30名」なのか
この回で吉田さんが取り上げるのは、スタッフが30名になる前に考えることというテーマです。
社労士が人数の壁を語るときは、10名や50名が多いといいます。10名だと就業規則の作成義務が出てきて、マニアックなところでは衛生推進者の選任も必要になります。
次の壁は50名です。1事業所50名になると、産業医の選任義務、衛生管理者の選任義務、ストレスチェックの実施といった論点が出てきます。
そのうえで吉田さんは、あえて30名に注目します。30名は、一人の人が管理できる限界だからだといいます。
30名っていうのは、まあ一人の人が管理できるところの限界なんですね。
根拠として挙げるのが、小学校や中学校のクラスです。1クラスにつき担任は1人で、1クラスはだいたい30名、多くても40名ほどでした。
ここから言えるのは、一人の大人が多数の人を管理する限界が、30名あたりにあるのではないかということです。
本来は5〜10人。それでも30名を区切りにする理由
ただし吉田さんは、30名まで一人でいけると太鼓判を押しているわけではない、と誤解のないよう補足します。
本来、部下の最適人数は一人の上司につき5人から10人と言われています。だからもっと早い段階から組織化していく必要がある、というのが前提です。
本来だと部下の最適人数っていうのは、一人の上司につき5人から10人って言われてます。
そのうえで、30名になる前にやらなければならないことがある、というのがこの回のテーマになります。以降、順番に4つの準備が語られていきます。
最初にやるべきは組織図。文鎮型からの脱却
最初にやらなければならないのは、組織図を作ることです。
一人の社長に対して30名の平社員がぶら下がる組織を、吉田さんは文鎮型と呼びます。この形だと、30名では管理ができなくなってきます。
組織図は、まず縦割りで作っていくのがよいといいます。よくあるのは営業部門や開発部門、製造部門です。
売り上げを上げる側の部門を作るのと同時に、それを社内で管理する経理や人事総務の部門も作っていきます。会社によっては開発がいらないなど、構成はさまざまです。
中間管理職に「何を任せるか」を決める
ここで意識しなければならないのが、中間管理職の存在です。文鎮型の2階層ではなく、30名ぐらいになると3階層になると吉田さんはいいます。
つまり、社長と平社員の間に、課長や部長といった肩書の人が出てきます。それを組織図に盛り込み、誰が中間管理職をやるのかを会社で決める必要があります。
さらに重要なのは、その中間管理職に何の権限が委譲されているのかをきちんと決めることだといいます。
権限のない、いわゆる名ばかり管理職になると、結局社長が全部決めていることになり、中間管理職のモチベーションが上がらないと指摘します。
うちの会社の中間管理職の役割ってこうなんですよ。で、あなたにはこういう権限が委譲されてるから、この権限の中で成果を出してくださいっていうようなコミュニケーションになります。
社長が現場に直接口を出してはいけない理由
吉田さんが絶対にやってほしくないと話すのが、社長が中間管理職を飛び越えて現場のスタッフに直接注意指導することです。
これをやると、現場のスタッフは中間管理職の顔色ではなく、社長の顔色ばかりをうかがうようになるといいます。
さらに、中間管理職に権限が委譲されず、報告も直接社長に上がるようになり、結局は文鎮型の2階層組織と変わらなくなってしまいます。
だからこそ、中間管理職に権限を委譲したうえで、社長は現場に直接指示をせず、中間管理職を通じて間接的にコントロールすることを意識したほうがよい、というのが吉田さんの結論です。
2つ目の準備は、会社を動かす社内ルール
権限を委譲していくということは、つまりルールで会社を管理していくということだと吉田さんはいいます。
前提として、1事業所30名で就業規則を作っていなければ法律違反なので、必ず作りましょうと注意します。
そのうえで、就業規則以外の社内ルールも細かく決めていったほうがよいといいます。今まで阿吽の呼吸でできていたことが、意外とできなくなるからです。
例として挙がるのが、備品の発注ルールです。これまで社長のアシスタント的な総務が一人で阿吽の呼吸で回していたようなことも、権限を割り振るなら、どういうルールで発注するのかを決める必要があります。
ほかにも、郵送物の受け取りや発送、営業面での問い合わせ対応、請求書作成までのつなぎ方など、実務の細かいルールを決めて、その通りに運用していくことが求められます。
吉田さんは、ルールが明文化されるから権限移譲しやすくなるとまとめます。組織図の次に作るべきは、この社内ルールです。
3つ目は育成制度。誰がどこで何を教えるか
組織が大きくなると、社長一人の力でなんとかなるフェーズを超えてきます。そこで必要になるのが育成制度です。
新入社員でも中途でも、入ってきたスタッフをどう教育し、会社に貢献する社員になってもらうのかを考えなければならない、と吉田さんはいいます。
具体的には、入社初日に学ぶこと、1か月目に学ぶことを設計します。1か月目は社内のルールに慣れる時期として、先輩について学んでいくイメージです。
その先は会社によって異なりますが、早いところでは研修後の数か月でお客さん対応をすることもあります。どこで何を教えるのかという育成制度を作っていくことが必要だといいます。
4つ目は採用計画。忙しくなってから採るのをやめる
30名になってくると、採用も計画的にやったほうがよいと吉田さんはいいます。
10名ほどの零細組織では、忙しくなったら採用する、を繰り返しているケースが多いといいます。おすすめはしないものの、現実には採用が後手に回りがちだと認めます。
吉田さん個人としては、育成の面でも労務管理の面でも、仕事が入る前に採用したほうがコンプライアンスを守れてよいと考えています。
その場当たり的なノリのまま30名の組織を運営すると、社内が慢性的に人手不足でブラック化してしまうといいます。
そこに人を入れても、育成制度がない、あるいは教える人がいない状態では、入社した人の従業員満足度が上がらず、短期で離職してしまうと指摘します。
できれば会社が暇な時に入社してくださるような形の採用計画にして、受け入れる側も心の余裕がある状態で採用していった方がいいと思います。
30名になってからでは遅い。5名の自社での実践
吉田さんは、この4つの準備を改めて整理します。組織図・社内ルール・育成制度・採用計画の4つに注意していったほうがよい、というのがまとめです。
30名になってからでは遅いので、なるべく早い段階から準備すべきだといいます。
自社の例として、吉田さんの社会保険労務士法人ワンハートは、現在スタッフを含めて5名の体制だと明かします。この段階から社内ルールを作り、育成制度も少しずつ教育カリキュラムを整えている途中だといいます。
成長志向の会社は一気に成長するため、組織体制を作る前に人数が30名になってしまうこともあり得ます。だからこそ早い時期からの準備を勧めています。
ワンハートは成長意欲の高い顧客の支援が多く、就業規則や50名の壁の相談に加えて、その間にある30名組織の作り方についても相談できるとのことです。
まとめ
スタッフが30名になる前に、社長は組織図・社内ルール・育成制度・採用計画の4つを整えておく必要があります。鍵になるのは、中間管理職に権限を委ね、社長が現場に直接口を出さずに間接的にコントロールする体制づくりです。
- 30名は一人が管理できる限界の目安。本来は上司一人あたり5〜10人が最適とされる
- 最初に組織図を作り、縦割りで部門と中間管理職を置いて権限を委譲する
- 社長が中間管理職を飛び越えて現場に指示すると、組織は文鎮型に逆戻りする
- 就業規則に加え、発注や問い合わせ対応などの実務ルールを明文化して権限移譲しやすくする
- 育成制度と計画的な採用を整え、30名になってからでは遅いので早い段階から準備する





