なぜ「社歴の長い会社ほどDXが進まない」と感じたのか
今回のエピソードのテーマは、社歴の長い会社のDXです。きっかけは、あるネット調査の結果を見て衝撃を受けたことだと吉田さんは話します。
2020年の日本の人事部の調査によると、労務管理分野でHRテクノロジーを導入している会社の割合は21.3%しかなかったといいます。少し古いデータですが、その低さに驚いたそうです。
吉田さんの会社の顧客では、ほぼ100%がHRテクノロジーを導入しているといいます。勤怠システムはキングオブタイム、給与計算はすべてマネーフォワードで行っているそうです。
そのため世の中でも同じくらい導入が進んでいると思っていたものの、実際はそうでもなかった、というのが今回の話の出発点です。
そして傾向として、社歴の長い会社ほどDXが進んでいないと吉田さんは感じています。その理由と、どうすればDXできるのかを整理していきます。
「事務員さんに任せておけばいい」が通用しなくなる理由
社歴の長い会社がHRテクノロジーを使えていない理由の1つ目として、吉田さんは「改革しなければいけない」という問題意識自体がないことを挙げます。
具体的には、古参の事務員さんがいて「その人にやらせておけばいい」という発想になっているケースです。今までのやり方を変えるのが大変だという理由もあるかもしれない、と話します。
ただ、その発想は今後通用しなくなるのではないか、というのが吉田さんの見立てです。理由として、最低賃金が上昇傾向にあることと、人手不足を挙げています。
これまで事務職は、1つの募集枠に30人ほど応募が来るような人気の職種だったといいます。しかし、その状況が変わってくるのではないかと吉田さんは考えています。
その根拠として、バックオフィスには労務分野と会計分野の2つがあり、会計分野のほうが先行しているという点を挙げます。テクノロジーの導入割合も会計分野のほうが進んでいるそうです。
その会計分野で何が起きているかというと、税理士事務所の代表者からは、経理人材がなかなか採れないという声が上がっているといいます。
簿記2級を持っている人も、今採用するのが難しいみたいなことをおっしゃってます。
この流れが労務分野にも来るなら、労務の知識を持つ人を採用するのが難しい時代が来る、と吉田さんは指摘します。
そうなったとき、人力に頼りテクノロジーを使わずにバックオフィスを回していると、人手不足で回らなくなるのではないか、というのが1つ目の理由のまとめです。多くの会社がそこに気づいていない、と話しています。
DXの天敵「ローカルルール」とは何か
では、問題意識がある会社ならDXをどんどん進められるかというと、そうでもないと吉田さんは続けます。
社歴の長い会社がDXでつまずくところは、ずばりローカルルールだといいます。社歴が長いほど、労働基準法通りではなく会社独自のルールが数多く存在するためです。
具体例として、Aさんには就業規則通りに有給休暇が付与されているのにBさんはそうでない、就業規則に載っていない秘密の手当がある、といったケースが挙げられます。
こうしたローカルルールは、システム化の天敵だと吉田さんは表現します。ここを潰し、統一のルールにそろえていくことがポイントになります。
しかし、そこを直していくノウデハウがないことが、社歴の長い会社がDXでつまずく原因だと話します。
手当を勝手になくすとどうなるか
注意点として吉田さんが強調するのは、今まであった制度を会社が一方的に下げたりなくしたりすることの危険性です。
たとえば「この手当は就業規則に載っていないから勝手になくそう」とすると、これは労働条件の不利益変更にあたります。本人の同意がないとできないため、法的なトラブルになると説明します。
(DXしたいから)今までの労働条件を変えようよっていうのは、絶対にやらないでほしいなと思います。
そのため、労働条件を変える際は専門家に相談してほしい、と吉田さんは呼びかけます。
とはいえ、古い制度を残したままではシステムに乗せられず、従業員同士の平等性の観点からも良くないといいます。だからこそ、きちんと直していく必要があるという立場です。
「大義名分」から新制度へ移行するストーリー
ここで吉田さんは、「DXに乗せやすい給与制度にしましょう」という理由だけでは、従業員へのストーリーとして弱いと指摘します。
望ましいのは、経営理念や会社の目標を立て、その目標に対する評価制度を作るなど、大義名分を用意した上で制度を変えていく進め方だといいます。
たとえば時代遅れの手当がずっと支給されてきた場合、「時代にそぐわなくなったのでなくします」という話にしていく形です。
ただし一方的になくすと不利益変更になるため、新制度を作ったうえで、3年や5年といった期間をかけて少しずつ手当を減らしていくなど、従業員が納得できる形にする必要があると説明します。
さらに、下がった分は「こうすれば上がる」「こうすれば今までの条件を担保できる」という道筋をストーリーとして見せ、新しい制度へ移していくことが大切だといいます。
その新しい制度に変えたところで、DXのHRテクノロジーを乗せると、非常に乗せやすいんです。
この部分は専門家が伴走しないと難しいところなので、問題意識はあるがうまくいかない会社は社労士に相談してほしい、と吉田さんは述べます。
人件費が爆発する現場と、手取りを保証する乗せ換え
吉田さんの会社には、社歴の長い会社のDXを手伝った実績があるといいます。実際にDX路線で直していくのは大変な作業だと振り返ります。
まず、今までの勤怠集計が間違っていたということが平気であるといいます。そこを直していく必要がある、と話します。
そして直していくと労働基準法通りの計算になるため、大体、人件費が爆発してしまうといいます。試算表を社長に見せると、こんな人件費は払えないという反応になることも珍しくないそうです。
社労士の先生、申し訳ない、こんな人件費払えないって話になることが珍しくありません。
こうした場合は不利益変更にあたるため、慎重に進める必要があります。吉田さんは、今までの条件を保証するやり方として、手取りを保証したうえで固定残業手当を入れる方法を挙げます。
ただし、それだけではスタッフが納得できないため、評価制度など「こうすれば給与が上がる」という別の制度を組み合わせ、給料が上がる道筋のストーリーを作っていくといいます。
そういったことをうまく見せて誠実に説明していくと、比較的トラブルなく新制度に乗せ換えることが可能です。
DX化が会社を強くする理由
吉田さんは、こうした場面では社会保険労務士に相談し、一緒に新しい制度を作りながら、その先にあるDX化された効率的な労務管理を目指してほしいと呼びかけます。
DXの利点として挙げるのが、事業を止まりにくくする効果です。コロナ禍のような状況でも、遠隔で勤怠を締められるといいます。
これはBCPの観点からも強い、と吉田さんは説明します。強い会社にするためにDXは必須であり、社歴の長い会社でも諦めずにHRテクノロジーを活用してほしいと締めくくります。
まとめ
社歴の長い会社が労務DXでつまずく背景には、問題意識の不足とローカルルールの存在があります。手当などを一方的になくすと不利益変更になるため、大義名分と移行のストーリーを用意し、専門家と伴走しながら新制度へ乗せ換えることが現実的な進め方として語られました。
- 2020年の調査では、労務管理でHRテクノロジーを導入する会社は21.3%にとどまり、社歴の長い会社ほど導入が進んでいない
- 最低賃金上昇と人手不足で「事務員に任せておけばいい」という発想は通用しにくくなる、と吉田さんは指摘する
- 就業規則にない手当など会社独自のローカルルールがシステム化の天敵となり、DXのつまずきどころになる
- 手当を勝手になくすのは労働条件の不利益変更にあたるため、大義名分と時間をかけた移行ストーリーで従業員の納得を得る
- DX化は遠隔での勤怠締めなどBCPの観点でも会社を強くするため、社歴が長くても諦めず活用してほしいと締めくくる






