従業員調査とは何か、なぜ経営者に響くのか
今回のテーマは従業員調査の進め方です。吉田さんの説明では、従業員調査とは、スタッフにGoogleフォームなどでアンケートを配って回答してもらい、それを調査・分析して経営者に報告する仕事を指します。
従業員調査の方法はアンケートだけではありません。踏み込んだ調査では、たとえば100人のうち10人をインタビュー対象者として選び、1人ずつ質問していくこともあります。
集めた情報は整理したうえで報告書にまとめ、経営者に報告します。吉田さんがいろいろな調査を実際にやってみて感じたのは、意外と経営者の食いつきがいいという点でした。
会社経営者の人って会社のことを何でも知ってると思ってるかもしれないんですけど、実際はそうじゃなくて、自分が経営している会社ってどうなってるんだろうっていうのはわかんない部分もあるんですよ。
吉田さんによれば、一般スタッフから見ると社長は何でも知っているように見えても、実際はそうでもないことが多く、大きい企業ほどその傾向が強いはずだといいます。自社の状況をあまり把握していなさそうな経営者には、従業員調査の提案が喜ばれると話しています。
どんなときに従業員調査を提案すべき?
吉田さんが挙げる従業員調査の提案タイミングの1つ目は、退職者や休職者が多いときです。
なんで辞めちゃうんだろうとか、なんでこんなにうちの会社メンタル不調の方が多いんだろうとかって思った時に、調査を提案すると原因がわかるかもしれないので。
2つ目は、会社への通報や相談が多いときです。たとえばハラスメント相談が非常に多い場合も、退職者が多い場合と同じく調査の出番になります。
3つ目は、前向きな場面で、会社の制度を変えたいときです。人事評価制度を変更するなら、今の評価制度の良いところと悪いところ、困っていることなどをスタッフに尋ねます。
顧問として関わっていると日々の業務で時間が過ぎていきがちですが、こうした場面で社労士から調査を提案すると、経営者から「ぜひやりましょう」という反応が返ってくると吉田さんは話しています。
調査の目的をどう決め、どう伝えるか
調査前のポイントとして吉田さんが最も重視するのは、従業員調査の目的を明確にすることです。吉田さんは、調査をポジティブ調査とネガティブ調査の2つに分けて考えています。
スタッフの満足度や働きがいがどうなっているかを聞く
ハラスメントや退職者の多さなど、問題が起きているときに原因を探る
目的を決めたら、通常はその目的をスタッフに開示して調査を進めます。ハラスメント調査なら、アンケートの冒頭で「これはハラスメント調査です」と伝える形です。
一方で、吉田さんは目的をあえて隠して調査することもあるといいます。特定の部門の特定の人物がハラスメントや不正をしていそうなのに、証拠や記録がなかなか出てこない場合です。
突然いきなりセクハラ調査とか言ったら、なんか怪しいじゃないですか。
そこで吉田さんは、体裁としては従業員満足度調査 ── 従業員が職場環境や待遇、人間関係などにどの程度満足しているかを把握するための調査。ES調査とも呼ばれますの形をとり、セキュリティや労働時間管理、スタッフ同士の関係性といった一般的な項目の中に、本当に聞きたいハラスメントの質問を紛れ込ませる「ダミーの質問を混ぜた調査」をした経験があると話しています。
目的をはっきり示すときも、オブラートに包むときも、会社の内部では目的をきちんと整理しておくことが前提だと吉田さんは強調します。
匿名か実名か、アンケート設計の分かれ道
アンケート設計で最初に出てくる分岐は、匿名で回答してもらうか、実名で回答してもらうかです。吉田さんは、実名と匿名それぞれに長所と短所があると説明します。
実名っていうのは誰が回答したかが分かりやすいので、アンケートの結果の分析っていうのは非常に分かりやすいものがあるし、効果的なんですけど、かえって本音が出ないんですよ。
言いづらいですよね。なので匿名にした方が本音が出やすいです。
誰が回答したかがわかり分析しやすいが、本音が出にくい
本音が出やすい。部署・性別・年齢などをどこまで書かせるかの設計が必要
匿名にする場合でも、部署だけは書いてもらう、性別や年齢は書いてもらうといった温度感の違いがあり、どう設計するかは会社と相談して決めます。
たとえばハラスメント調査の場合、加害者が男性で被害者が女性というケースが多いため、性別の項目は入れておかないと分析が大きく変わってしまうと吉田さんは指摘しています。
回答率が低いときはどうする?
吉田さんによると、従業員アンケートは意外とうまくいかないこともあります。回答期限を決めて配っても、回答率が低いケースがあるのです。
回答率は会社や業態、非正規雇用の割合などによって異なります。きっちりした会社では2〜3日の期限でも全員が回答する一方、1週間ほど期限があるのに回答率が2割程度にとどまった会社もあったといいます。
回答率を上げるポイントとして、吉田さんはまずアンケートの最初に所要時間を書くことを勧めています。そのうえで、質問項目の作り方にも気を配る必要があります。
リテラシーの高い会社なら、自由記載の項目や文章量が多くてもきっちり回答が返ってきます。そうでない会社では、選択式の質問を増やすなどの工夫が求められます。
匿名性を信じてもらうための伝え方
従業員への伝え方について、吉田さんは、匿名でアンケートを取るならその匿名性がどう担保されているかを冒頭に明記すべきだと話します。
背景には、スタッフと会社の信頼関係ができていない職場の実例があります。アンケートに回答したら、後日呼び出されて「これを書いたのはお前だろう」と怒られたという話も聞いたことがあるといいます。
そうしたことが起きると、正しい情報は集まらなくなります。だからこそ、匿名性が担保されている根拠を示す必要があるというのが吉田さんの考えです。
そこで出てくるのが、やっぱり社外者っていうのはすごく強くて、
社会保険労務士法人のような社外の機関が入る場合、データはいったん外部に出て、集計・匿名化されたうえで報告される、という流れをアンケートの冒頭で宣言しておくと、スタッフは回答しやすくなります。
さらに安心感を与えるなら、生のデータを誰が見るのか、集計結果を誰が見るのかをはっきりさせておくとよいと吉田さんは勧めています。
集計結果に考察を添え、想定外の回答に備える
回答が集まったら集計に移りますが、吉田さんは、集計結果をただ報告するだけではあまり意味がないと話します。アンケート担当者は、その数字から何が言えるのかという考察まで作って提示するとよいといいます。
また、従業員調査には覚悟しておくべき点もあります。それは、調査の目的に沿ってスタッフが回答してくれるとは限らないということです。
たとえば会社を良くするための従業員満足度調査として前向きな質問ばかり並べても、最後の自由記載欄に会社の悪口を大量に書く人がいます。ひどいケースでは、特定の部門の誰かが横領しているという告発だけを書いてアンケートが終わることもあったそうです。
言うだけ言ってそのままアンケートが終わっちゃうと、アンケートを預かった側は何にもできないので、
そうした事態への備えとして、吉田さんは、アンケートの中に「よろしければ実名を書いてください。後日調査に伺います」といった項目を入れておく方法を挙げています。これにより、不祥事の告発情報だけが届いて何も動けないという状況を避けられます。
まとめ
吉田さんは、従業員調査を経営者に喜ばれる提案として位置づけ、目的の整理から匿名性の担保、回答率の工夫、考察の提示、想定外の告発への備えまでを実務目線で解説しました。
- 退職・休職やハラスメント相談が多いとき、制度を変えたいときは従業員調査を提案する好機
- 調査の目的は社内で必ず整理し、状況によっては満足度調査の体裁で本題を紛れ込ませることもある
- 匿名のほうが本音は出やすく、部署・性別・年齢をどこまで聞くかを会社と設計する
- 所要時間の明記や選択式の活用で回答率を上げ、社外機関の関与やデータ閲覧者の明示で匿名性への信頼を高める
- 集計には考察を添え、告発が来たときに動けるよう任意の実名欄を用意しておく




