キャリアプランは本当に「計画通り」に進むのか
この回のきっかけは、玉置さんがキャリア逆転塾「ヒトハタ」で受講者の転職支援に携わる中で感じた違和感でした。
一般的な転職市場のベースには、自分を分析して適職を特定し、そこへ向かうキャリアプランを立てるという考え方があります。
ただ、実際に何度か転職や採用を経験した人ほど、そんなに綺麗に計画通りは進まないと感じるものです。玉置さん自身も、採用側として市場を見てきた実感からそう話します。
運とか縁とか、なんかそういうものもむちゃくちゃ作用しているなって感じてしまうんですよね。実際の転職活動の現場っていうのが。
その直感を裏づける研究を探して行き着いたのが、スタンフォード大学のキャリア心理学者クランボルツが提唱した「計画的偶発性理論」でした。
キャリアの8割は「計画していなかった偶然」で決まる
計画的偶発性理論の核心は、キャリアの転機の約8割は本人が計画していなかった偶然の出来事で決まるという調査結果にあります。
多くのビジネスパーソンのキャリアを追跡調査したところ、計画通りに積んできたという人はごく少数で、大半が予期しない出会いや出来事を転機にしていたといいます。
大半の人なんですか?
岡島匠 さんからの質問
玉置さんは、そうだと答えます。この結果は「キャリアプランと言っても綺麗に進む人はあまり見たことがない」という自身の感覚と一致していたと話します。
ここで疑問が生まれます。8割が偶然なら、キャリア支援も結局は運任せになってしまうのではないか、という点です。
しかし理論の面白いところは、偶然は誰にでも平等にはやってこないと考える点にあります。運のいいことが起こりやすい行動をとっている人のところに、多くの偶然が集まるというのです。
計画的に偶然を引き起こせっていうのが、その計画的偶発性っていう、一見矛盾した名前の所以なんですよね。
つまりこの理論は、運を自分でマネジメントしようという話だと玉置さんは整理します。
大切なのは、自分の能力とゴールを線で結んで経路を固定するのではなく、チャンスに対してオープンな状態でいることです。北極星のような方向性は持ちつつ、そこへの道を1本に固定しない姿勢が前提になります。
好奇心と持続性。運を呼び込む土台になる2つの姿勢
玉置さんは、運が良くなる行動特性として5つを挙げていきます。まず1つ目が好奇心です。
ここでいう好奇心は、興味を持ったら学ぶという受け身のものではありません。自分の得意や専門、役割の外側に、自ら学びの機会を取りに行く能動的な好奇心です。
具体的には、関係のない隣の部署の会議にオブザーバー参加してみる、別の業界のセミナーに行ってみる、詳しい人に「それどうやってるんですか」と聞きに行ってみる、といった行動が挙げられます。
むしろ、自分の仕事の延長線上や想像の範囲を超えているほうが逆に良いと玉置さんは言います。好奇心とは未知のものへのポジティブな感情であり、それを持って行動してみることが1つ目のポイントです。
2つ目は持続性、つまり続けることです。ただし、これは根性論ではありません。
正しい方向に向かった挑戦なら、失敗も1つのデータになります。失敗というデータを取りながら、一つの方向へねばり強く進む状態を指します。逆に持続性がないとは、最初の失敗で心が折れてやめてしまう状態です。
偶然の出来事は時間の上にランダムに分布しているため、続けている時間が長いほど遭遇の確率が上がる、というのが理論の考え方です。
もう打率じゃなくて打席数じゃんっていう話なんですよね。
岡島さんは、たくさんの玉を迷路に流し込めば、どれかが抜け道を見つける動画をイメージだと重ねます。一回で成功させるのは高度な運だが、回数を増やせば確率は上がるという発想です。
ただし玉置さんは、これは損切りや見切りの話とは別だと補足します。いけないルートにこだわり続けることとは違う、と釘を刺しました。
柔軟性。想定外の異動を「実験期間」と捉え直す
3つ目は柔軟性です。持続性とセットで大切になる特性だと玉置さんは言います。
目的となる北極星はぶれないほうがいい。一方で、そこへ向かう足元の道は多少東に迂回してもかまいません。方角さえ合っていれば、道がギザギザでも問題ないという考え方です。
逆に「こうでなければいけない」と狭い枠を決めてしまうと、チャンスが来たときに自分のルートではないからと拒否してしまいます。
なぜなら、自分が自覚している範囲のルートにはチャンスは転がっていないからです。想定できないところにチャンスがあるからこそ、来たものを「ありかも」と考えてみることが必要になります。
玉置さんが挙げたのは、望んでいない部署への異動の例です。デザインを続けたかったのに営業へ異動になったとき、すぐ辞めるのではなく、その経験も北極星へ向かう迂回路かもしれないと考える。
どうしても納得できないと感じたら、それを「実験期間」だと捉えればいい、と玉置さんは提案します。
やってみて、本当に行動してみて違うなと思ったら、実験を辞めるみたいな感じで元に戻ればいいだけなんですよね。
実験もせずに最初から「私は営業職ではないから」と断ってしまうことこそ、運を逃す行動になってしまうというわけです。
岡島さんは、営業を経験したデザイナーは、ツールの営業ができたり、独立して自分で仕事を取れたり、営業から頼みやすい存在になれたりと、最終的に自己実現につながる可能性があると応じます。
AI時代に柔軟性が効く理由と、コモディティ化への備え
玉置さんは、この話が特に大事な理由として、未来の不確かさを挙げます。AIが多くの仕事を担う未来は来るだろうが、それがいつ、どんな形でかは未知数だからです。
自分の知っている知識の範囲だけで「この道だ」と頑固になると、仕事がなくなって苦しいルートにハマりかねません。
たとえばデザインというスキルはコモディティ化していく。だからこそ、仕事がやりやすい人、コミュニケーションコストが低い人と一緒に働きたくなる。その意味で、営業への異動は実は運のいい話になり得ると玉置さんは言います。
岡島さんも、文章を書くライターという仕事のコモディティ化を人ごとではないと受け止めます。数年前には価値が見えなかった営業経験が、今たまたま生きている人は多いはずだと2人は話します。
4つ目は楽観性です。これもポジティブシンキングではなく、認知の癖の話だと玉置さんは強調します。
未知の出来事が起きたとき、それをチャンスと捉えるか、リスクと捉えるか。偶然に「チャンス」というラベルを貼れる人のほうが、当然運が良くキャリアも開けます。
いきなりチャンスだと思うのは難しくても、まず「チャンスかもしれない」と思う。そのうえで、もしチャンスなら何につながるのか、どうやればできるのかを思考実験してみる習慣を持つことがすすめられます。
この話は岡島さんにも刺さります。長らく逃げ癖がついていたと打ち明けつつ、玉置さんの言葉を1年ほど聞き続けて行動が少しずつ変わってきた実感があると話しました。
わー、やりたくない、できない、大変そう。うわぁ、時間取られるみたいな。長らく逃げ癖がついてて。
運ってやっぱりちりつもなんですよ。一発逆転の運をイメージしてる人はちょっと違うと思います。
冒険心。確実になる前に、致命傷にならないリスクを取る
5つ目は冒険心です。ここまでの4つを統合した特性だと玉置さんは位置づけます。
引く手あまたのスーパースペックな人は別として、良いところも未経験の部分もある普通の人が最大限のチャンスをつかむには、日頃の態度を積み重ねたうえで、確実になる前に動くことが必要になります。
キャリアって確実になってから動くと遅いんですよね、おそらく。
大きなリスクを取った人が大きく返ってくる、という構図です。今は人気のない職種でも将来有望になりそうな仕事、たとえばAI関係に飛び込むことにはリスクがある。安定した業界からスタートアップに飛び込むのも同じです。
ただし、無謀にやれという話ではありません。やった時に致命傷にならないかどうかを考え、リスクヘッジをしておくことが条件になります。
全財産をなくす、社会的信用をなくすような賭けはやりすぎ。失敗してもリカバリーできる範囲のリスクなら、取ったほうがいいというのが玉置さんの立場です。
玉置さんは、仕事は需給のバランスだと続けます。Xで流れてきた職種別の需給の表に触れつつ、そのデータは古く、需要側もハローワークしか含んでいないため一概には言い切れないと前置きしたうえで、傾向を説明します。
実績が評価され仕事も想像しやすく、期待値のずれもない。今はリスクの少ない選択。ただし供給過多が進み将来的にリスクが大きくなる
今は未知数が大きくリスクを感じるが、需要が拡大する領域。将来的なリスクは実は少なくなり得る
冒険は転職に限りません。副業をやってみる、社内公募に手を挙げるといった形でもいい。それがキャリアアップや、より確実なキャリアを得るための運につながっていくと玉置さんは話します。
岡島さんは、会社員という安定した立場のまま副業がしやすくなった今は、リスクを取りやすい時代だと応じます。
日本とアメリカのAI観の差から見える「自己責任」の重さ
玉置さんは、安定した収入は本業で確保しつつ、副業で冒険してキャリアを積み、転職につなげる形もありだと言います。多くの人が、いずれ沈む船に乗っている時代だという認識です。
この話に、玉置さんが先週訪れたアメリカでの体験が重なります。タクシー運転手から大学教授まで、AIに対してネガティブな人が多かったといいます。
日本とアメリカの違いは、社会保障の厚みにあると玉置さんは分析します。日本は失業時のセーフティネットや医療保険が比較的充実している一方、アメリカは雇用の自己責任文化が強い、という対比です。
たとえばタクシー運転手にとって、自動運転に置き換えられる未来はすぐそこにある。代替されたあとを自己責任でなんとかしなければならないからこそ、AIに否定的になりやすいというわけです。
岡島さんも、無人で走るWaymoや、Teslaの完全自動運転を昨日調べていたと話し、代替の現実味を口にします。
一方で日本人は、危機感がぼんやりしていて、自己責任でなんとかしようという意識も薄い。「またAIに仕事を取られると言い出した」と現実味を持てない人も多い、と2人は指摘します。
玉置さんは恐怖を煽るつもりはないと断りつつ、人任せにして痛い目を見るのは自分だと言います。何かあったときに立ち回れるよう、長く安定した収入を得られるように考えておくことが大事だと話しました。
無意識にやっていた「運の拾い方」に意識を向ける
玉置さんは、今回紹介した5つの姿勢は今すぐできて、AIに仕事を奪われなくても普通のキャリアアップに役立つと整理します。この回で伝えたかったのは、日頃言っていることを真面目な研究者が似た形で語っている、という後押しでした。
岡島さんは、これを自分のキャリアに引きつけて振り返ります。大学卒業後に無職で上京し、計画的とは言えない歩みだったものの、今は楽しいと思えるキャリアになっていると話します。
仕事で知り合った人に連絡してみたら新しい仕事をもらえ、そこから社員になり、といった偶然の積み重ねだったといいます。それでも、良さそうな人のところへ自分から出向くことはしていた、という自覚もありました。
なんとなく仕事で知り合った人になんか連絡してみたら、新しい仕事もらえて、そこから社員になったりみたいなことが、たまたま全部積み重なっていて。
玉置さんは、今まで無意識でやっていたことに今日のような意識を持って取り組めば、より自分で運をマネジメントできる状態になると締めくくります。
運はマネジメントできますよ。
岡島さんは、AIに触れば触るほど大焦りしていると本音を漏らしつつ、運がいいと自分で思っているからこそ、ぼちぼち拾いに行けているのかもしれないと話しました。
まとめ
キャリアの転機の約8割は偶然で決まる。だからこそ、その偶然を呼び込む行動を積み重ねることが、運をマネジメントすることにつながります。5つの行動特性は今すぐ始められる、日々の姿勢の話でした。
- クランボルツの計画的偶発性理論では、キャリアの転機の約8割は計画していなかった偶然で決まるとされる
- 偶然は平等には来ない。好奇心・持続性・柔軟性・楽観性・冒険心を持つ人のところに集まる
- 北極星のような方向性は保ちつつ、足元の道は柔軟にし、想定外の異動も「実験期間」と捉え直す
- 未知の出来事にリスクのラベルを貼らず「チャンスかもしれない」と考える癖が、運を少しずつ良くする
- 冒険は致命傷にならない範囲で。副業や社内公募など、リスクヘッジしながら確実になる前に動くことが鍵になる



