守備練習と英会話シミュレーション、二人の「個人的な練習」とは?
本題に入る前に、江川さんは角田さんに「番組の練習シリーズとは別に、個人的にやっている練習はあるか」と尋ねます。角田さんが挙げたのは、バッティングではなく野球の守備練習だけをひたすらやりたい、という願望でした。
なんかね、気持ちいいんすよ、守備って。
角田さんによると、守備ではバッターのバットの角度や振りの速さから打球の行き先を予測し、バウンドを読みながら走ってボールを掴みます。角田さんは、その一連の動きが編集者の思考に近いと感じているそうです。
なんかこう、編集者の思考に近いなって結構僕は思ってて。
江川さんは、バッティングがフィジカルで楽しむ印象なのに対し、守備は頭を使いながら体の動かし方を決めるゲーム性があるのだと受け止めます。ただし守備練習は、ノック ── 野球で、守備練習のために打者役がバットでボールを打ち、守備側に打球を送ることを打ってくれる人がいないと一人ではほぼできないため、角田さんは一緒に練習する相手を募集中だといいます。
一方、江川さんの練習は、電車で海外の人に話しかけられたときの英語での受け答えを、心の中でシミュレーションすることです。「この人は新宿に行きたいのかも」と想像し、その場でスマートに答える言い回しを考えているそうです。
まあね、もう困ったらもうとりあえずフォローミーっつってついてきてって言っちゃえばいいんですけど、やっぱその場で言いたいじゃないですか。
なぜ「主語を小さくする」練習なのか
今回の練習テーマは、大きくなっている主語を小さくしていくことです。角田さんは、主語をできるだけ小さくすると自分の考えや状況が伝わり、人との会話も良くなるという仮説を持っています。
角田さんがこの練習をしたい理由は2つあります。1つ目は、編集者として記事を作るとき、人物を「こうこうこういう人」と具体的に書くので、その癖をつけたいというものです。
2つ目は、会話がずれるときは主語のスケールがずれている、と角田さんが気づいたことです。たとえば「街を良くしたい」という言葉でも、ある人は街全体を、別の人は集落を思い浮かべていることがあります。
その人が思ってる当たり前が結構ね、人によって違うっていうこともあって、結構ここの主語がずれるな。
角田さんは、主語がずれるとお互いのやりたいことがわからず、仕事が進まなくなると話します。江川さんも、話が深まるほど出発点の違いが広がるので、できるだけ早い段階で主語を小さくしてすり合わせることが大事故を防ぐと応じます。
角田さんはもう1つ、祭りの例を挙げます。同じ「祭りに参加したい」でも、運営をしたい人と出店をしたい人では、スケール感もやりたいことも違い、期待値もずれやすいといいます。
祭り全体を動かす立場で関わりたい
自分の店を出す立場で関わりたい
練習の進め方は、事前に用意したお題を一つずつ取り上げ、どうすれば主語を小さくできるかを二人で話し合う形です。江川さんが読み上げたお題には、「地域のために」「社会を変える」「最近の若者はなってない」「日本は遅れている」「IT弱者」「インフルエンサー」「界隈」などが並びました。
「今何してる?」は仕事の話か、今この瞬間の話か
最初のお題は角田さんが出した、久しぶりの連絡で届く「今何してる?」です。仲のいい人からこの連絡が来ると、角田さんは必ず「どっち?」と聞き返すといいます。
そう。で、どっちってのが最近の僕の仕事とか活動か、ナウかっていう、どっちかわかんなくないですか?これ。
江川さんは、仕事仲間からなら「最近どんな案件をやっているか」、地元の友達からなら「地元に帰ってる?」という意味に取れると整理します。角田さんは後者を「飲む?」と言い換え、さらに「電話したい」のように用件を言ってくれればわかりやすいと付け加えます。
仕事の場合について角田さんは、相手が自分の今の状況や困りごとを伝えてくれると話しやすいと語ります。角田さん自身も「今こういう仕事でこういうことに困っていて、相手は昔こういうことをやっていたはず」と考えたうえで「今何やってる?」と聞くそうです。
江川さんは司会の仕事に絞って考えます。依頼に入れない場合でも知り合いの司会者に声をかけることが多いため、最初の連絡に日付、イベント内容、ギャラ、場所、拘束時間まであると、そのまま転送できて助かるといいます。
私の場合はもうもう基本的には一日単位だから、なんかそこまであるとすごくありがたいなって今思いました。
一方で江川さんは、プロジェクトの長さや規模がまちまちな角田さんの仕事では、もう少しふわっとした連絡のほうが考えやすいかもしれないと指摘します。プライベートで超仲のいい親友なら「今何してる?」だけでも嬉しい、という話も出て、相手や状況で求める具体性が変わる質問だとわかりました。
| 相手・状況 | 質問の本当の意味 | 小さくした言い方 |
|---|---|---|
| 仕事仲間 | 最近の仕事や活動 | 今こういう仕事で困っていて、最近何をしているか |
| 司会の依頼 | 仕事に入れるかどうか | 日付・内容・ギャラ・場所・拘束時間を添える |
| 地元の友達・親友 | 今会えるか | 飲む?電話したい?など用件を言う |
Z世代は14歳から31歳?二人のイメージもずれていた
次に江川さんが選んだのは「Z世代」です。江川さんが調べると、2026年時点でおおむね14歳から31歳前後が目安とされ、特徴としてデジタルネイティブ、タイパ ── タイムパフォーマンスの略。かけた時間に対して得られる満足度や効果のことで、時間の効率を重視する考え方を指します重視、価値観の多様性の尊重などが挙げられていました。
とても14歳と31歳が同じ思考を持ってるとは思えない。
角田さんも、Z世代向けのマーケティングという言葉はよく聞くものの、範囲が広すぎると感じます。ところが二人にイメージを聞くと、角田さんは「○○代の後半ぐらい」、江川さんは「20歳から25歳ぐらい」と答え、その場でずれが表れました。
うーん。あ、もう二人でずれてる、すでに。
そこで江川さんは、Z世代をまず学生と社会人に分けることを提案します。中高大学生向けと、新入社員から働いて7、8年経った30歳前後の人たちでは、置かれた状況が大きく違います。
角田さんは別の切り口として、Z世代という言葉は「他の世代と価値観が違う」と言いたいときに使われるのではないかと考えます。それなら世代ではなく「こういう価値観の人」と言い換えたほうがよく、さらに奈良県の人と他の地域の人のようにカルチャーの違いでも細かくできるといいます。
Z世代
おおむね14〜31歳前後で、範囲が広い
学生か社会人か
中高大学生と新卒〜30歳前後で分ける
価値観・地域
伝えたい価値観や地域のカルチャーで絞る
江川さんは、価値観で言い換えるという考えに共感します。ミレニアル世代とZ世代の狭間にいる人は「自分は違う」と感じやすいので、年代で区切るより、こういう価値観を持った人と言うほうがマーケティングでも刺さるのではないかと話します。
ずれるんですよ。やはり。そう、言葉一つだとずれるんですよ。
「みんな持ってるよ」の"みんな"は誰だったのか
3つ目は角田さんが選んだ「みんなそう言ってるよ」です。江川さんは小学生のころのたまごっち ── 1996年にバンダイが発売した携帯型の育成ゲーム。小さな画面の中でキャラクターを育てる玩具として大流行しましたを思い出し、「みんな持ってるから買って」とねだった記憶を語ります。
角田さんも子どものころ、ガラケーが流行って友達も持っていたため、「みんな持ってるよ」と親に伝えて携帯電話をねだったそうです。そして、二人とも「みんなって誰?」と必ず突っ込まれた経験がありました。
江川さんは、当時に戻れるなら「仲のいい親友のA子ちゃんとB子ちゃんが持っているから、二人とより良い関係を続けるためのコミュニケーションツールとして欲しい」と言うかもしれない、と冗談めかして話します。角田さんの「怖いな、その子」という反応に笑いが起きつつ、具体化すると「誰が言ったか」になると確認しました。
実は角田さんは、そのとき携帯電話を買ってもらえたといいます。少し離れた塾に通っていたので、「連絡がつかないと困るよね、あったほうがお互いに良くない?」と、話のシチュエーションをずらして説得したそうです。
みんな持ってるよ
塾が離れていて連絡がつかないと困るから、あったほうがお互いに良い
江川さんは、このセリフの裏にある思いまで想像すると、別の表現のほうがよい場合も、「みんなが」と言ったほうがよい場合もあるとまとめます。どちらにしても、自分のやりたいことを実現するための言葉だという点は共通しています。
でもやりたいことは、自分のやりたいことを実現するためのセリフですよね。
「ネットが炎上している」は本当にネット全体なのか
最後のお題は江川さんが選んだ「ネットが炎上している」です。江川さんはまず、これはネット全体ではなく、ほとんどの場合X ── 旧Twitter。短文投稿型のSNSで、話題が急速に拡散しやすいことで知られますやヤフコメのことではないかと指摘します。
これ聞いた時にまず思ったのが、これネットじゃなくて、もうXじゃない?っていう。
江川さんは、X、ヤフコメ、スレッズなどSNSの媒体によって炎上する内容のジャンルも違うと考えています。そのため、どのSNSかまで言えば炎上の内容とセットで表現できるといいます。
角田さんは、炎上の範囲や大きさ、炎上を起こしている人たちの属性もネタによって違うと話します。「ネットが炎上している」と言うと世の中全体が燃えているようなスケールに聞こえるものの、実際は一部の人かもしれないという見方です。
さらに角田さんは、炎上と批判は違うと区別します。建設的な批判はディスカッションにつながるのでなくてもよいものではない一方、炎上は油をいろいろな人がかけているようなイメージで、傷つけるような言葉が飛び交う状態だといいます。
ある程度必要で、そこからディスカッションが生まれる建設的なもの
多くの人が油を注ぐように、傷つける言葉を浴びせる状態
江川さんも、「ネット」と「炎上」の両方を小さくすれば状況を正確に説明できると応じます。炎上と聞くと「何かやってしまった」という印象になりますが、実は正しい手続きが必要な話で、批判という言葉のほうが適している場合もあると話します。
主語を小さくすると、目の前の人に集中できる
練習を終えた感想として、角田さんは自分の伝えたいことをきちんと相手に伝えるために必要なことだと語ります。そのうえで、会社を立ち上げて5年の経験を振り返りました。
初めは大きいこと言ってたなって、ちょっと僕思ってて。
角田さんは創業当初「こういう世の中にしたい」と大きなことを言っていたものの、ビジネスとは目の前の人をハッピーにしていくことだと、どこかで気づいたといいます。大きいことを言っても物事は進まないという実感です。
結構そこの小さくしていくっていうことが悪いことじゃなくて。目の前に集中をね、していくことかなとも思うので。
こういう世の中にしたい、と大きなことを語っていた
目の前の人をハッピーにすることに集中する
江川さんは、Z世代や界隈のように分類してまとめる言葉は日本のカルチャーならではの面白さがあり、みんなで盛り上がれるので悪いものではないと話します。ただ、本当の気持ちや誰かと何かをしたい思いを伝えるときに、そうした言葉だけで表現するのはもったいないと感じたそうです。
なんかより自分の心を表現する、なんか豊かな表現として、この主語を小さくしていく練習っていうのはすごくいいんじゃないかなって思いながら。
江川さんが「思いのほか深い、感動回」と表現すると、角田さんも、目の前の人の気持ちを汲み取ってその人に伝わる言葉を使うことは心に刺さると応じました。Podcastでこうした練習をする番組は珍しい、と笑い合って回を締めくくります。
まとめ
この回では、大きな主語を具体的な相手や用件、価値観に置き換えると、会話のズレが早い段階で見えてくることが確かめられました。主語を小さくする練習は、正確に伝える技術であると同時に、目の前の人に向き合う姿勢にもつながると語られています。
- 話がずれるときは主語のスケールがずれていることが多く、早い段階のすり合わせが大事
- 「今何してる?」は、相手の状況と用件を添えると答えやすくなる
- Z世代は年代ではなく、学生か社会人か、どんな価値観かで絞るとイメージが揃う
- 「みんな」や「ネットの炎上」は、誰が、どのSNSで、批判なのか炎上なのかまで言うと正確になる
- 主語を小さくすることは、目の前の人に集中することでもある




