やりたくないことを書く「ないもうで」とは?
本題に入る前に、角田さんから、福祉とアートのイベント「できるできないじゃない、やってみるんだ展」に出展するというお知らせがありました。会場は東京都杉並区立産業商工会館で、角田さんはほぼ毎年ワークショップで参加しています。
イベントの日程は10月6日から12日までで、角田さんの出展は10日と11日の2日間だけです。
今回のワークショップの名前は「ないもうで」です。初詣が「今年はこうしたい」を願う場であるのに対し、その真逆をやってみるという企画だといいます。
したくないこととか、考えたくないことだったりとか、できないことってのをまあ言葉にしてみて。
それを言葉にすることで、逆に自分がその持ってるものとか強みってのが分かってきて、そういうのをちょっと発見してみようと。
江川さんは、やりたくないことや苦手なことを除いた結果として、自分の強みや本当に好きなことが残るという逆からのアプローチを面白がりました。参加者は持ち込まれる絵馬に、やりたくないことを書けるようにする予定です。
ないもうでの報告は、シーズン5の第5回で角田さんから届けられる予定で、許可が出れば参加者の絵馬の内容も紹介されるかもしれないとのことです。
ふわっとした言葉を具体化する練習を始めた2つの理由
今回の本題は、角田さんが用意した「練習」シリーズの2つ目で、ふわっとした言葉を具体化していく練習です。角田さんには、ふわっとした言葉が具体化されれば、自分の思っていることがより人に伝わるという仮説があります。
角田さんがこの練習をやりたいと考えた理由は、大きく2つあります。
1つ目の理由は、編集者としての経験です。角田さんは記事やポッドキャストを作るなかで、人に伝わるかどうかの分かれ目が言葉の具体化にあると感じてきました。ライターの原稿を見ていても、ふわっとした言葉をよく指摘している自分に気づき、それを仕事のこだわりの一つとして深掘りしたいと考えたといいます。
2つ目の理由は、打ち合わせや取材での経験です。角田さんは、ふわっとした言葉はまとめとしてある程度必要だと考えています。
言葉として必要だと思ってはいるんですが、それ(ふわっとした言葉)だけだと結構認識がずれるなっていうのを思っていて。
編集の現場
原稿でふわっとした言葉をよく指摘していることに気づいた
打ち合わせ・取材
ふわっとした言葉だけでは認識がずれると感じてきた
練習へ
具体的な言葉ですり合わせる方法を深掘りしたい
「価値ある」の“価値”って何なのか?
江川さんから、ふわっとした言葉で困った場面を聞かれた角田さんは、原稿でよく使われる「価値ある〇〇」という表現を挙げました。
価値あるってなんぞや?っていうね。そこがちゃんと言葉にできないと伝わんないなっていうふうに思って。
角田さんは、原稿で「価値ある」が出てきたときには、「こういう人にこういう価値があります」という具体的な言葉に置き換えるようにしているといいます。
江川さんも、「価値」という言葉はなんとなく伝わるものの、より具体的な表現のほうが相手のことを発信できると共感しました。
では、なぜうまく言うだけでなく、その「練習」の過程を見せるのか。角田さんは、これまで言葉の具体化を感覚でやってきたので、そのプロセスを形にしたいという思いがあったと話します。一人で黙々とやってもつまらないので、二人で話しながらやりたかったのかもしれない、とも振り返っています。
江川さんは、文章やポッドキャストに携わる角田さんと、司会やナレーションという声の仕事をする自分とでは視点が違い、言葉にこだわりがある二人だからこそうまく練習できそうだと語りました。
12個のお題に並んだ、よく使う言葉たち
練習の進め方は、事前にリストアップしたお題から一つを選び、具体的に言うならどうなるかを二人でディスカッションするというものです。江川さんが読み上げたお題は次の12個でした。
角田さんが「よく使いますよね」と言うと、江川さんは、こうした言葉が悪いわけではなく、その表現がいい場面もあると補足しました。そのうえで、もし具体的に表現するならどう言えるかを練習するのが今回の趣旨です。
江川さんにとっての「お客様に寄り添う」とは?
角田さんが最初に選んだお題は「お客様に寄り添う」です。角田さん自身もインタビューで大事にしていることを聞かれた際に使う言葉ですが、具体的に説明したことはなかったといいます。
江川さんも「お客様に寄り添う」をよく使っており、自分のプロフィールに「お客様に寄り添った声をお届けします」と書いていたことを思い出しました。
でもなんかもうちょっと、例えば本当にお客様が決まってる時にそれ(寄り添う)言うとちょっとふわっとしてるなというか。
江川さんは例として、最新のAIを駆使して事業を運営する企業であれば、トレンドのITやAIを噛み砕いたわかりやすい言葉で声で表現する、といった言い方を挙げました。それをふわっとさせたのが「寄り添う」だというのです。
これを受けて角田さんは、江川さんの司会の仕事に当てはめて言い換えました。お客様の事業を踏まえて、話したいことを先回りしてインプットし、話しやすい質問をして、お客様が話しやすい機会を作る、という整理です。
そういうことをしたいし、してますよっていうのが、この4文字の寄り添う(に)入ってる。
江川さんは、クライアント一社一社に対して「あなたに合わせてこういうことができます」と伝えることが、自分にとっての寄り添うの中身だと捉え直しました。さらにクライアントに合わせて言葉も使い分ければ、超具体的になると話しています。
角田さんの「寄り添う」と、二人に共通した具体化の切り口
続いて角田さんが、自分にとっての「寄り添う」を言葉にしました。ポッドキャストのプロデュースでは、お客様が話したいこと、リスナーが聞きたいこと、それを裏付ける世の中の出来事があるといいます。
角田さんは、それらのインプットや直接の聞き取りを自分から行い、話のテーマを提案し、話しやすいように台本を作っていくと説明しました。
江川さんは、「寄り添う」だけではわからなかった角田さんが提供する価値が伝わる内容になったと感想を述べました。そのうえで、お客様に自分がどう役立てるのかを言うと、寄り添うという言葉がより具体的になるとまとめています。
お客様の話したいことを先回りしてインプットし、話しやすい質問で話しやすい機会を作る。相手に合わせて言葉も使い分ける
お客様のやりたいことと世の中が求めることを先回りして掴み、提案や台本で形にしていくことを繰り返す
「貴重なお話ありがとうございました」の先に何を言うか
2つ目のお題は、江川さんが持ち込んだ「貴重なお話」です。講演やセミナーで必ずといっていいほど聞く言葉で、江川さんも司会で講演後のつなぎとして「貴重なお話ありがとうございました。では続いて」と言うことがあります。
江川さんは、時間がタイトな司会では長く話せない一方、何も言わないとぶっきらぼうになるので、「貴重なお話」が必要な場面もあると話します。ただ、本当はもっとさらっと講演の内容に触れたいといいます。
聞いていたリスナーの皆さんだったり、参加者の皆さんがどう感じたかを代弁できるようなことを何か言いたいなって思ってて。
江川さんが挙げた具体化の切り口は、講演者の話の内容をまとめるパターンと、参加者がどう感じたかを代弁するパターンの2つです。後者は「こういう気持ちになったお話でした」「こういうことが学びになったお話でした」といった言い方になります。
角田さんは、講演の後に次の人へつなぐ場面と、会場のお客さんに質問を募る場面とでも、言うべきことが違うと指摘しました。
講演者が話した内容を一言で要約して伝える
「こういう気持ちになった」「こういうことが学びになった」と会場の受け止めを言葉にする
話はそもそも貴重。だからこそ「どこが」を一言で
江川さんは、角田さんが以前、仙台で参加したイベントについて話していたことを思い出しました。司会者が「貴重なお話ありがとうございました」で済ませず、会場が盛り上がる一言を言えばもっと良いイベントになるのでは、という話です。
二人は、講演の話はそもそも貴重だという前提を確認しました。角田さんは、ここでしか聞けない話や、話し手が持てるすべてを話してくれることが「貴重」の中身だと話しています。
江川さんは、この言葉をうまく表現できれば、講演者への感謝も伝えられ、参加者にとって学びや気づきのあるコメントにもなり得ると考えました。
貴重なお話はそもそも貴重で、どの辺が貴重だったかっていうのを一言で伝えることがしたいっていうことですよね。
江川さんは、その場ごとに組み立てる必要があるので答えは毎回変わるものの、具体化の切り口を整理できたので今後の練習につなげられそうだと話しました。角田さんからは、二人でどこかで練習しようという提案も出ています。
「自然体でいられる」は真逆から考えると見えてくる?
3つ目のお題は、角田さんが選んだ「自然体でいられる」です。角田さんは、自然体はそもそも説明しづらく、具体的に伝えたことがない言葉だと話します。
角田さんが「自然体」を使うのは、友達付き合いで、ある人とのつながりを他の人に「自然体で付き合える」と説明するような場面だといいます。江川さんも、ビジネスより人間関係で使う言葉だと整理しました。
角田さんは、自然体の真逆として、友達付き合いや恋愛で関係が続かないケースを挙げました。
その人に好かれるにあたって、なんか自分をこう繕っていって、それが続いて好かれていくみたいな。
江川さんは、真逆から行って「それじゃないよ」と言えれば具体的になるかもしれないと反応しました。反対の言葉として「無理をしている」「よく見せたい」「演じている」を挙げ、「あなたと一緒にいると自分を取り繕わなくていい」という言い換えを試しています。
一方で角田さんは、本当に自然体の関係は、そもそもそういう気持ちを言葉にしておらず、特別な工夫もせず、気づけば長く付き合っているくらいのものではないかと話しました。江川さんは、もともとの感性や性質が合っていたという話になってくると受け止めています。
自然体は人それぞれ。性格を一言添えると伝わる
具体化が難しいなかで、江川さんは自然体が人それぞれであることに着目しました。明るい性格の人にはそれが自然体で、落ち着いた性格の人には落ち着いていることが自然体です。
落ち着いた内向的な人だとしたら、私、あなたといると落ち着いたままの自分でいられるよとか。
角田さんはこれを受けて、「自然体」という言葉にも、なぜそう言えるのかというプラスの一言をつけると伝わりやすいとまとめました。自分の性格や性質を一言添えることが、自然体を具体化する鍵になったわけです。
江川さんは、探りながらも二人で話していたら答えが見えてきたと振り返りました。さらに、お題ごとに有効なアプローチが違い、あるお題で使った方法が次のお題には使えなかったことが面白かったと話しています。
| お題 | アプローチ | 具体化の例 |
|---|---|---|
| お客様に寄り添う | 自分がどう役立てるかを言う | お客様の話したいことを先回りして形にする |
| 貴重なお話 | どこが貴重だったかを一言添える | 内容のまとめ、参加者の気持ちの代弁 |
| 自然体でいられる | 真逆から考え、自分の性格を添える | 落ち着いたままの自分でいられる |
具体化するとスタンスがわかる。練習は二人以上で
練習を終えて、角田さんは、言葉を具体化すると自分のスタンスがわかることに気づいたと話しました。「寄り添う」ひとつとっても、寄り添い方は人によって違い、実際に江川さんと角田さんでも違っていました。
江川さんは、楽しかったうえに、角田さんと二人でやったことで自分以外の視点を知れたと話しました。一人で考えていたら、他の視点があるはずなのにモヤモヤしたまま完結していたかもしれないといいます。
角田さんも、一人だと深掘りしづらく、二人の視点があるから深掘りできたと同意しました。江川さんは、この練習を一緒にやるなら二人以上でやることを推奨しています。
最後に角田さんは、この練習をワークショップにするアイデアを思いつきました。たとえば「自然体」という言葉について、それぞれの自然体を付箋に書き出して貼っていけば、人ごとの視点がわかるというものです。江川さんも、どこかでやりましょうと応じました。
まとめ
今回の練習で、角田さんと江川さんは「お客様に寄り添う」「貴重なお話」「自然体でいられる」を具体的な言葉に置き換えていきました。お題ごとにアプローチは異なりましたが、具体化することで自分のスタンスが見え、伝わり方が変わることが確かめられた回です。
- 「寄り添う」は、お客様に自分がどう役立てるのかを言うと具体的になる
- 「貴重なお話」は前提として貴重なので、どこが貴重だったかを一言添える
- 「自然体」は真逆から考えたうえで、自分の性格や性質を一言添えると伝わる
- 具体化の方法はお題ごとに違い、一つのパターンでは済まない
- 言葉の具体化は一人より二人以上で取り組むほうが深掘りしやすい



