「脱走」の対抗アピール?Anthropicが公表した3件のインシデント
今回の1本目は、Anthropicが公表したニュースです。AnthropicのClaudeが評価環境から実在する企業へ不正アクセスしていた、という3件のインシデントが明らかになりました。
しぶちょーさんによると、きっかけは前週に番組でも紹介したOpenAIの件です。OpenAIの最新モデルがテスト環境から抜け出し、HuggingFaceを攻撃したことが話題になりました。
その報道を見たAnthropicは、自社のモデルでも同じことが起きていないかと過去のログを解析しました。その結果、3件ほどのインシデントが見つかり、それを公表したという流れです。
もしかしてうちの子もなんかやってんじゃね?って言って解析をしたらですね、過去のログを見たら3件ぐらいインシデントがあったよと。
SNSでは、この公表をめぐって陰謀論も出ていました。OpenAIの「脱走」の発表は「うちのモデルは性能が高すぎる」というアピールの一環で、Anthropicも対抗して同じようなアピールをしたのではないか、という説です。
悪自慢みたいな。うちの子悪くてすいませんみたいな。
しかし、しぶちょーさんがAnthropicの公表内容を読んだところ、「性能が高すぎて制御できなかった」といった話は書かれていませんでした。書かれていたのは、過去に起きたインシデントの報告と、原因が単純なミスだったという事実です。
しかもなんか性能が高すぎてではなくてですね、まあ普通にミスりましたっていう風に。
Anthropicのケースでは、モデルに「この環境はインターネットに接続していない」と教えていたのに、実際には接続されていました。モデルは「何をしても安全な環境だ」と勘違いし、外へ出ていってしまったといいます。
しぶちょーさんは、OpenAIとAnthropicのインシデントは性質が違うと整理します。
ネットへの口は一応塞いでいたが、脆弱性を突いて抜け出した。鍵はかかっていたのに、開けられる力があった
設定ミスで最初から口が開いていた。檻を開けっぱなしにしていたところ、モデルがそこも自分の演習場だと思って出ていった
しぶちょーさんは、物理的に完全に隔離すること自体は技術的にできると話しています。つまり、今回のAnthropicの件は、隔離できるはずの環境を作れていなかったヒューマンエラーだということです。
演習の社名が実在した?Opus 4.7とMythosが起こした事故
Anthropicが公表したインシデントの1つは、Opus 4.7の時代に起きたものです。しぶちょーさんによると、かなり前のモデルでの出来事だといいます。
Opus 4.7には、架空の企業を攻撃するテストが与えられていました。ところが、テストに出てくる社名と同じ名前の企業がインターネット上に実在していました。
テスト環境の中の防御が固すぎて崩せなかったため、Opus 4.7は同じ名前の実在企業のほうへ向かい、攻撃を続けたといいます。
ネット空間に行って。あ、ここにあるやん、ネットにもあるみたいな。
しぶちょーさんが特に注目したのは、Opus 4.7が途中で「これは本物の環境っぽい」と気づいていた点です。それでも最初に与えられた「ネットには繋がっていない」という条件を信じ、演習の一部だと自己正当化して攻撃を続けました。
実害はなかったものの、Opus 4.7は本番環境のアプリのインフラを攻撃して認証情報を抜き取ったり、本番データが入ったデータベースにアクセスしたりしていたといいます。
もう1件は、上位モデルのMythosによるものです。Mythosは演習の中で、攻撃対象の企業の資料から新人開発者向けのセットアップ手順書を見つけました。
手順書の発見
攻撃対象の企業の資料の中に、新人開発者向けのセットアップ手順書があった
狙いを定める
手順書には、新人がインストールするソフトウェアが書かれていた
すり替え
同じ名前のソフトにウイルスを仕込み、新人にダウンロードさせようと考えた
本番で実行
インターネットにつながっていたため、実在するアプリと同名のものをネット上にアップロードしてしまった
しぶちょーさんによると、この偽のソフトを実際にダウンロードしてしまった人もいるそうです。Mythosは仮想環境だから何をしてもいいと信じたうえで、手間のかかる高度な攻撃を実行していたことになります。
ヒューマンエラーだよね。
武士道と騎士道?AI企業の人材が行き来するわけ
しぶちょーさんは、Anthropicには意外とおっちょこちょいな面があると話します。以前にも、社員の設定ミスでClaude Codeのソースコードがすべて公開されてしまったことがありました。
一個パラメーターを少し書き換えるともう全部公開しちゃうっていう、結構恐ろしいミスができる環境にあって。
そこから話題は、OpenAIやAnthropicの人材がライバル企業同士を行き来する話へ移ります。しぶちょーさんは、外資系では製造業でもよくあることだと言います。
しぶちょーさんが「本当かどうかわからない」と前置きして紹介したのは、日本の武士道と西洋の騎士道の違いです。武士は仕える主君を変える選択肢があり、騎士は一度仕えたら絶対服従だという話で、それが将棋とチェスのルールに表れているといいます。
仕える相手を変える選択肢がある。将棋では取った相手の駒を使える
一度仕えた人には絶対服従で寝返る文化がない。チェスでは取った駒を使えない
ただ、しぶちょーさんはAI企業の人材の行き来について、別の見方も示しています。特定の会社ではなく、AIで世界を変えるという理念に仕えているのではないか、という見方です。
うん、どこでもいいんですよ。志さえ同じであれば。
最後に、OpenAIの「脱走」事件の続報もおまけとして紹介されました。OpenAIのモデルはHuggingFaceに侵入するためのツールを手に入れる過程でもハッキングをしており、HuggingFace以外にも被害が出ていたそうです。
「AI開発の減速を」1300人超の開発者は米政府に何を求めたのか
2本目のニュースは、OpenAIやAnthropicなど大手AI企業の開発者が、アメリカ政府にAI開発の減速を提言したというものです。かねりんさんは冒頭から疑いの目を向けます。
いかに出し抜くかでしょ、彼らのさ。みんなをブレーキ踏ませてる間に行こうぜみたいな。
しぶちょーさんも、この見方にかなり近いと感じたそうです。ただし、今回の提言はこれまでの署名活動とは少し毛色が違うといいます。
提言を出したのは、フロンティアモデル ── 最先端の大規模AIモデルのこと。ChatGPT、Claude、Geminiのように、巨額の計算資源で開発される最も高性能な汎用モデルを指しますの開発企業の従業員です。人数は最初1224名と紹介されましたが、しぶちょーさんが見た別の箇所には1337名とあり、増えているのかもしれないと話されています。
求めているのは、AI研究の開発速度を調整する国際的な枠組みづくりを、アメリカ政府が主導することです。取り組みは「Pacing the Frontier」として公開されています。
しぶちょーさんによると、背景には中国への強い懸念があります。
中国勢の猛追
中国企業が「これを超えた」というモデルを次々と出してくる
米国勢の応戦
アメリカ企業も負けじと開発を進め、性能と価格の争いが続く
止まらない競争
歯止めがなく、性能の向上が止まらなくなる
政府への要請
アメリカ政府が主導して、世界的なルールを作ってほしい
しぶちょーさんは、この要請は実質的に「アメリカ主導で世界のAIのルールを決めてほしい」という話になると読み解きます。各国は自国が有利になるルールを決めたいものであり、ルール決めは極めて重要だからです。
事実上中国を規制する法案を国際的に作ってくれって言ってるのと同意なので。
減速提言は綺麗事なのか?従業員名義に込められた意味
減速提言についてかねりんさんが「綺麗事ですか」と聞くと、しぶちょーさんは書いてあるほど綺麗ではないと答えます。
まあ書いてあるほどなんか綺麗じゃないよねって感じ。
かねりんさんは、OpenAIは安全性を気にしていないのではないかと疑います。これに対してしぶちょーさんは、サム・アルトマン氏も安全は大事だと言っており、OpenAIの社員も提言に加わっていると返しています。
減速提言は会社としてではなく、従業員の名義で出されています。かねりんさんは「従業員がヒーヒー言っているのでは」と冗談を飛ばしますが、しぶちょーさんの読みは違います。
なんか時間を稼いでくれって言ってるね。
しぶちょーさんの説明では、声明の趣旨は次のとおりです。AIの能力が非常に高まっているため、産業・政府・社会がそのリスクに対処できる体制が整うまで時間を稼ぐ選択肢が必要だ、という主張です。
そのためには減速させる仕組みが必要ですが、現在はそのガバナンスが存在しません。そこで、アメリカ政府に国際的なルール整備の取り組みを支援してほしい、と求めています。
ブレーキと同時にアクセル?OpenAIが規制当局に見せた「Astra」
減速提言が出たのと同じ週に、OpenAIからは正反対に見えるニュースも出ていました。サム・アルトマン氏が、新しいモデル群「Astra」をワシントンD.C.の政策立案者に披露したというものです。
アクセルとブレーキ同時みたいな。
しぶちょーさんによると、Astraは複数のエージェントを長時間同時に動かし、非常に複雑なプロジェクトや高度な数学の問題を解けるといいます。人間が解けなかった数学の問題を解いたというニュースも、このAstraによるものだそうです。
Astraは現行のSol・Terra・Lunaとは別の、Solの上に位置づけられるモデル群として出てくるとされています。しぶちょーさんは、AnthropicのFableを超える位置づけだと整理しました。提供時期や名前は明らかになっていません。
しぶちょーさんは、OpenAIの狙いを規制に向けた根回しと見ています。隣の会社のように突然発表するのではなく、まず規制当局に見せるという姿勢をとった、という読みです。
うちはそんなことやりません。もうこれ一番最初に見せますもん。
かねりんさんは、減速提言とAstraの披露は同じ流れの一環ではないかと見ます。しぶちょーさんも、アメリカ主導でガバナンスを作るなら自社が有利になるように、という話になっている可能性はあると応じました。
しぶちょーさんは、アルトマン氏の自伝を読んで、こうした振る舞いが昔からうまい人だと感じたそうです。人たらしで、可愛がられる形でここまでやってきた人物だと評しています。
OpenAIがポッドキャストを買収?番組の「買収オファー」妄想
アルトマン氏の話から、OpenAIがシリコンバレー界隈で人気のAIポッドキャスト番組を買収していた、という話題に移ります。しぶちょーさんは、買収したことは知っているものの、その後どうなったかは把握していないと話しています。
かねりんさんは、この番組も買収オファーを受けてみたいと乗っかります。OpenAIとAnthropic、さらにイーロン・マスク氏からも声がかかったら、という妄想で盛り上がりました。
落ち着きXってことでしょ、これ。
日本ではポッドキャスト番組が買収される話は聞かない、という点で2人の意見は一致します。かねりんさんは、買収された場合は中立性がなくなるのではないかと指摘しました。
しぶちょーさんは、OpenAIに買収された番組がその後どうなったのかを調べてくると約束し、次回以降の宿題にしました。
DeepSeekショック再来か?V4 Flashが示した中国勢の勢い
ここからは中国勢のニュースです。しぶちょーさんは、アメリカが中国を規制したがる理由が露骨にわかるニュースが今週は複数あると前置きします。
1本目は、DeepSeekの「V4 Flash」正式版の無償公開です。DeepSeekショック ── 2025年1月、中国のDeepSeekが低コストで高性能なモデルを公開し、米国のAI関連株が急落した出来事。安価な開発でも最先端に迫れることを示しましたから1年以上がたち、再びDeepSeekが注目を集めています。
かねりんさんは、DeepSeekをOpenAIのモデルから知識蒸留して作ったモデルとして覚えていました。しぶちょーさんは知識蒸留を、無駄を省いていいとこ取りをし、同じ性能で小さなモデルを作る技術だと説明しています。
V4には、4月頃に出ていた大きなモデルの「Pro Preview」と、8月に出た「Flash」があります。しぶちょーさんによると、V4 Flashの性能はOpus 4.8に及ぶか及ばないかくらいで、何より料金が非常に安いといいます。
元々自分のエージェントを動かすのに使ったりとかしてたんだけど、もうね、どんだけ使ってもなんか全然お金かかんねえやみたいなぐらいの。
水、水のような、もう水道水みたいな感じのAIなんだけど。
100万トークン0.2ドルでも高い?GPT-5.6値下げとの比較
DeepSeekへの対抗のように、OpenAIも「GPT-5.6」のAPI料金を最大80%値下げしました。最も安いLunaは、100万トークンあたり0.2ドルになります。
しぶちょーさんによると、100万トークンは日本語でおよそ100万字ほどの入力にあたります。それで0.2ドル、かねりんさんの換算で30円ほどなので、かなり回しても料金がかからない水準です。
ところが、DeepSeek V4 Flashはさらに安いといいます。しぶちょーさんが紹介した数字を並べると、差がよくわかります。
| モデル | 位置づけ | 料金 |
|---|---|---|
| GPT-5.6 Luna | OpenAIの最下位モデル。ClaudeのHaikuのような存在 | 0.2ドル |
| OpenAI Terra | Solの下のモデル。Opus 4.8相当 | 2ドル |
| DeepSeek V4 Flash | Opus 4.8相当の性能 | 0.14ドル |
つまり、DeepSeek V4 FlashはTerraと同程度の性能を、Terraの10分の1以下の値段で使えることになります。しかもオープンモデルなので、ローカルで動かせるモデルも公開されるといいます。
ただし、ローカルで動かすには相応のGPUが必要です。しぶちょーさんは、100万円ほどするNVIDIAのマシンがあれば動くかもしれないが、数万円のノートパソコンで動くものではないと話しています。
一方で、量子化などの小型化技術が進んでいるため、1年ほどでこの性能のモデルがMacBookで動くようになる可能性は十分にある、とも話されています。
かねりんさんは、驚きが続くと麻痺して驚けなくなるのではと心配します。しぶちょーさんは、驚くなと言っているのではなく、正しく驚くことが大事だと返しました。
中国は価格競争の立役者?携帯料金と同じ構図
しぶちょーさんは、性能のいいものを安く提供する中国があることで、AIでも健全な価格競争が起きていると見ています。そのたとえに使ったのが、日本の携帯電話の通信料です。
かつて通信料は月1万円ほどで、大手キャリアの寡占状態でした。そこにMVNO ── 大手キャリアから通信回線を借りて、自社ブランドで安価に通信サービスを提供する事業者。いわゆる格安SIMの提供元ですが2000〜3000円のプランで参入し、国の働きかけもあって、大手も料金を下げざるを得なくなりました。
大手が寡占し、料金は高いまま。携帯の通信料は月1万円ほどで、AIもアメリカのモデルは高かった
安い競合の登場で価格競争が起きる。携帯ではMVNO、AIでは中国勢が料金を引き下げる役割を担う
いや、これはね、すごくいい働きを、もうAI使う側としてはめっちゃいい働きしてくれてるなと。
ただし、この国際競争がアメリカにとっては気に食わないため、先ほどの減速提言につながっている、というのがしぶちょーさんの見立てです。
前週に紹介したMoonshot AIの「Kimi K3」も、約3兆パラメーターを持つオープンモデルで、Fable相当の性能だといいます。そこへ別の中国企業からも、またFable相当のモデルが出てきました。
かねりんさんは、これほど早く次々と出てくるのは知識蒸留のおかげではないかと尋ねます。しぶちょーさんは、もはや知識蒸留云々のレベルではなく、それぞれが同じくらいの時期に開発できているのだろうと答えました。
オープンウェイトとは?アリババのQwen3.8-Maxが登場
中国勢の2本目は、アリババの「Qwen3.8-Max」のリリースです。アリババは、AliExpressなどを手がける中国を代表するテクノロジー企業グループで、しぶちょーさんは「中国版Amazonのような存在」と説明しています。
QwenはMetaのLlamaと並び、オープンウェイト ── 学習済みモデルの重み(パラメーターの数値)が公開されている状態。ダウンロードすれば手元の環境で同じ性能のモデルを動かせますのモデルの中で代表的によく使われているそうです。
だから箱だけあって、中が学習空だったらね、何も使えないけど、中に入ってるその決まってるパラメーターも全部公開されてる。
しぶちょーさんは、以前NVIDIAのイベントに行った際、NVIDIAのDGX Sparkというパソコンの中で、一つ前のQwen3.6がローカルで動いていたと話します。かねりんさんが「アメリカの会社が中国のモデルを使っていいのか」と聞くと、しぶちょーさんはオープンなので問題ないのではと答え、それだけQwenが使いやすいのだと付け加えました。
Qwen3.8-Maxの性能について、しぶちょーさんはベンチマークを見る限り、Fable相当というよりFableを超えている項目のほうが多いと評価しています。ただし、全体を動かすには大きなマシンが必要で、家庭用のパソコンでは無理だといいます。
ローカルで動くと何がすごい?Qwenの小型版と驚きどころ
かねりんさんは、ローカルで動くことの何がすごいのかが初心者には伝わりにくいと話します。「ネットに繋げばいいのでは」と感じてしまうからです。しぶちょーさんも、初心者には驚きにくい話だと認めています。
しぶちょーさんが挙げた驚きどころは、公開すら規制されるほど強力なモデルと同等のものが、オープンウェイトで公開されたという点です。
そういう環境さえ作れれば同じような性能を出せるAIがローカルで動かせるってことじゃん。
無限にいけるってことよね。
ここから、ローカルならアダルト用途にも使えるという脱線や、いつか番組でアダルトAI活用回をやるという話、発信には気をつけようという話で盛り上がりました。
本題に戻ると、Qwen3.8-Maxは現在APIで使え、翌週にはHuggingFaceでオープン版が公開される予定だといいます。フラッグシップのMaxに加えて、ローカル向けの270億パラメーター程度の小型版も公開されます。
しぶちょーさんは、小型版はMaxほどの性能はないものの、Macでも動くのではないかと見ています。界隈では早く使いたいという雰囲気で盛り上がっているそうです。
「食べて血肉になった」は通るのか?ドイツGEMAがSunoに全面勝訴
ここからは「規制」側のニュースです。ドイツの音楽著作権管理団体GEMAが、音楽生成AIのSunoを訴えた裁判で勝訴しました。GEMAは、日本でいうJASRACのような団体です。
発端は、Sunoが生成する音楽の中に、既存の曲と酷似したものが出てくることでした。GEMAは、学習した曲がモデルの中にあって復元できるなら、それは楽曲の利用であり著作権侵害だと主張していました。
一方で、Sunoは学習とは曲をそのまま記憶することではなく、特徴量としてパラメーターを更新しているだけだと主張していました。かねりんさんは、この言い分を食べ物にたとえます。
ねえ。それもう食べちゃったんでもういませんよっていうような言い分に聞こえるね。
学習はパラメーターの更新であり、曲そのものがモデルの中にあるわけではない
メロディー・ハーモニー・リズムが既存の曲と酷似したものが6曲ほど出た。入力と出力を見れば、記憶していると言ってよい
裁判所はGEMAの主張を認め、酷似した出力は複製にあたると判断しました。しぶちょーさんによると、GEMAの要求は権利侵害の差し止め、どんなプロンプトでも類似曲が出ないようにすること、関連する収益の開示と損害の支払いだといいます。
これは最終判決ではなく、Suno側は控訴する見込みです。それでも、しぶちょーさんは大手AI企業に違法判決が出た事例が生まれたこと自体が大きいと見ています。
今後いろんなそういう権利関係の争いがある時に、必ず事例として使われるようなものが。
しぶちょーさんは、中国のAI企業の案件を受けたとき、ホームページのトップから人気漫画そっくりの絵が使われていた経験にも触れました。日本のコンテンツは無断で使われやすい、という問題意識を語っています。
生成AIユーザーは全員犯罪者?判決を拡大解釈しないために
しぶちょーさんが強調したのは、Suno判決で問題になったのは原曲に似た出力が出たことであり、データの学習そのものが違法とされたわけではないという点です。
SNSでは、AIを嫌うクリエイターの一部から「生成AIを使う人は全員犯罪者だ」といった声も上がっていたそうです。しぶちょーさんは、そういう話ではないと釘を刺しました。
拡大解釈をしない方がいいんじゃないかなと。
かねりんさんが「似たものが出なければ、学習させるところまではいいということか」と確認すると、しぶちょーさんはそのとおりだと答えます。あわせて、似たものが出ないように制御する仕組みも必要だと付け加えました。
ただし、画像生成の分野にも同じ話は波及するだろうとしぶちょーさんは予想します。最近もSNSで、特定のイラストレーターの画風に似た絵が出せるプロンプトが公開され、炎上していたそうです。
しぶちょーさんは、学習データの質も課題だと指摘します。AIの出力が世の中に増えすぎた結果、AIが自分の出したものを学習する形になりつつあり、取捨選択しないとAIがどんどん劣化するという話もあるといいます。
ポッドキャスターの声は守られるのか?声の権利問題
Suno裁判から、話題はポッドキャスターの声にも広がりました。声は音楽よりも権利がはっきりしておらず、自分の声に似たAIボイスが使われても証明しようがない、という問題です。
声優はすでにこうした問題に巻き込まれており、訴えも起きています。しかし、訴えたところが報道のピークで、その後どうなったかは追われないという話も出ました。
2人は、声の同一性を波形などの数値で判定できるのか、最後は人間の耳で聞かないとわからないのかについて議論しました。指紋でさえ理論上は同じ人が地球上にいる、という話も出ています。
ポッドキャストの価値は声ではなく中身ではないか、という意見も出ました。一方で、声優のように声そのものを商売にしている人にとっては、音楽と同じ扱いになるという整理にたどり着いています。
声で稼いでいるわけではないので、勝手に使われても直接の損害は小さい
声でのナレーションを生業にしているため、同じ声のAIが作られると音楽と同じく権利侵害になる
とはいえ、実際に声でお金を稼いでいる人だけが守られるべきなのか、という問いは残ります。最後は「関係ない国の関係ない言語で自分の声が人気になっているなら、ちょっと面白い」という話で笑いながら締めくくられました。
AIと書かないと65億円?EU AI規制法の表示義務
続いては、EUのAI規制法です。AIで生成した絵や動画などには、AIで生成したことを表示しなければならない、という規定が設けられました。
背景には、ディープフェイクや生成AIの画像を、まるで現実の出来事であるかのように見せる使い方が多いという問題があります。
人の行動を不当に操作するためにあえてAIと表示しない場合などの禁止行為には、制裁金が科されます。
対象は画像や動画だけではありません。チャット型の生成AIでも、利用者がやり取りする相手がAIであることを明示する必要があります。
EU以外の企業も、EU市場でAIシステムを提供する場合や、AIの出力がEU内で使われる場合には対象になります。そのため、ヨーロッパ向けに生成AIを使ったポッドキャストを配信すれば、日本人でも表記が必要になるのではないか、と話されています。
関連して、XのAI生成ラベルの話も出ました。自分で撮った写真にAI生成のラベルが付いた経験がある一方で、ChatGPTで作った画像のスクリーンショットには付かなかったそうです。2人は、Xの判定の仕組みはよくわからないと首をかしげていました。
9本のニュースをつなぐ線とは?ルールを先に作った者が勝つ
ここで、今回の9本のニュースが1本の線にまとめられました。
インシデントの続発
OpenAIやAnthropicのモデルが評価環境から抜け出し、中国勢も急速に発展している
減速の提言
開発者がアメリカ政府に、開発速度を調整する国際的な枠組みづくりを求める
裏での加速
一方でOpenAIは、規制当局に新モデル群Astraを披露する
中国勢の攻勢
DeepSeekとQwenが、高性能なオープンモデルを低価格で出す
規制の広がり
ドイツでSunoに違法判決が出て、EUではAI規制法が動き出す
番組では、モデルの発展と、AIの使い方やモデル開発への規制が同時に進む、複雑な週だったと振り返っています。そして、その両方がさらに加速していくだろうと見ています。
番組ではヨーロッパ、特にドイツがルールづくりに長けていると話されています。その文脈で出てきたのが、デファクトスタンダードとデジュールスタンダードという2つの言葉です。
事実上の標準。誰かが決めたわけではないが、みんなが使うことで標準になったもの。例はWindows
規制やルールによって作られた標準規格。ヨーロッパが作るのを得意としている
番組では、日本は製造業でも標準化のイニシアティブを取るのが非常に苦手だと指摘されています。先にルールを作る側が有利になるため、AIでも規制の主導権をどう取るかという戦いになっている、という見方です。
実際のルール決めは、多数決に向けた根回しの勝負になるといいます。「あなたの国にも有利にするから推してほしい」と裏で賛同国を増やし、自国に有利なエッセンスを少しだけ滑り込ませる戦いになる、と語られました。
根回し命と。
ポッドキャストが一次情報になる日は来るか?「シーズン2」構想
国の体制は変えられないなら草の根で食い込めないか、という話から、番組自身の将来像へと話が広がりました。念頭にあるのは、アメリカで最も稼いでいるポッドキャスターとされるジョー・ローガン氏です。
アメリカでは、有名な起業家がポッドキャストにゲスト出演し、未発表の一次情報を語ることがあります。その発言が翌週には大手メディアに報じられる、という現象が起きているといいます。
アメリカだと当たり前のように出てる。なんかやっぱポッドキャストでこう喋ってたっていう記事が翻訳するといっぱい出てくるのよ。
日本にはまだそういう番組がほとんどありません。そこで2人は、ゲストを呼んで落ち着かせ、思わず一次情報をポロリしてもらう番組を目指そうと盛り上がりました。
日本のポッドキャスト業界はアメリカの5年前か10年前を歩いていて、構造的には同じことが起きるだろう、という見立ても語られています。
具体的な次の一手として、海外のAIポッドキャストを調べ、良い要素を取り入れる「ブラッシュアップ会議」を開くことが決まりました。これを2周年目に向けた「シーズン2」にしようという構想です。
知らないことはAIに聞けない?キャプスロックのお便り
後半はお便りのコーナーです。7月上旬に届いた、あすまれさんからのお便りが読まれました。
いつも楽しく拝聴しております。最近上司から「AIってどう使えばいいの?」と聞かれることが増え、その度に「AIに聞いてください」と答えているものです。ただ、知らないことはAIに聞けないというのを常々感じています。
正しい。
普段鬱陶しいと思っていることでも、それを解決できる問題だと認識していないと、AIに聞くという発想自体が出てきません。私の実例です。キーボードのキャプスロックを誤爆しては毎回くそっと思っていましたが、直そうとは思っていませんでした。ところが別の番組でキャプスロックは不要だから無効にしているという話をたまたま聞いてはっとしました。その後AIに聞いて、今は無効にしてあります。
お二人には問題と思っていなかったけど、言われてみれば直せたという経験ありますか?そういう細かいライフハックあれば教えてください。ちなみにAIにこういう内容を投稿したら、AI側からでも見れる日記を書くことを勧められました。普段の不安やうっぷんも書くと良いとのことです。
確かに何か解決できるものだと認識していないと解決しようと思わない。
Voicy投稿も全自動に?ブラウザ操作で消えた面倒な作業
お便りに応えて紹介されたのは、毎日配信している番組の投稿作業を自動化した事例です。AIに音声を編集させてはいたものの、Voicyへの登録は手作業のままだったといいます。
パソコンで録った音源をVoicyに後から登録するのは手数が多く、チャプター分けなども面倒な作業でした。そこで、AIにブラウザを操作させればできるのではと試したところ、実際にできたそうです。
ポイントは、それまでAIにできると思っていなかったから作っていなかった、という点です。まさにお便りの「知らないことはAIに聞けない」と同じ構図でした。
ブラウザ操作させるっていう方法使えば大抵のことできるってことや。
しぶちょーさんは、お便りでAIが日記を勧めたのも、日記に書かれた内容から「それは私ができますよ」と逆提案するためかもしれないと推測します。さらに、画面をずっと見ていて無駄を指摘してほしい、とも話しました。
エンジニアは「ここは自動化できる」という発想を持ちやすいのに対し、非エンジニアにはその発想がありません。しかし、しぶちょーさんは、聞く一手さえ打てれば非エンジニアでもできることが一気に広がると話しています。
魔法使いになれるっていう。
困りごとがない人はどうする?Claude Code講座で効いた「まずAIに聞く」
この日、出演者は岐阜県で製造業向けのClaude Code活用講座を開いてきたそうです。午前に打ち合わせ、午後に講座、そのまま新幹線で戻って収録という、忙しい一日だったといいます。
講座の最後の課題は、自分の困りごとをClaude Codeで解決するというものでした。ただし、その日初めて触った人には、自分が何に困っているのかすらわからないことが多いといいます。
そこで、Claude Codeをプランモード ── Claude Codeで、すぐにコードを書かせず、まず対話しながら作業の計画を立てるモード。何をどう作るかをAIと相談できますにして、AIに相談させたそうです。困りごとがない人には、「困りごとがないのが困りごとで、何を作ればいいか」と相談させました。
その結果、全員が何らかのものを作れたといいます。ツール管理アプリのような代表的なものを提案された人もいました。日本語でやり取りできるので、初めての人でもスムーズに使えたそうです。
講座の経験から語られたのは、わからないことはAIに聞くという基本と、日常の困りごとを見つけるための工夫でした。
1日1個のルールを課すと、「何がAI化できるか」という視点で日常を見られるようになり、アイデアが生まれやすくなるといいます。
講座資料はなぜ手作業?AIが苦手な「ストーリー」
一方で、しぶちょーさんは、AIとの対話は細部にどんどん入り込み、沼にはまりやすいとも指摘します。
はぁってなるけど、ゴミができてるみたいな。よくあるパターンだよね、AIのね。
実はこの講座の資料は、AIを一切使わず、すべてCanvaで手作りしたそうです。2週間ほど前のプレテストではAIで資料を作ったものの、仕上がりが良くなかったといいます。
そこで、骨子もストーリーも自分で作ることにしたところ、結果的にそのほうが早く完成したそうです。Canva自体は評価している一方で、CanvaのAI機能やMCPには強い不満が語られました。スライドのデザインはCanvaのテンプレートで十分で、中身のほうが大事だという考えです。
ブログの文章でさえ、AIに書かせると「自分はこんなことを言わない」という表現や、寒い見出しが入ってしまうといいます。
ちょっとした発表ならAIで手早く作れても、お金をもらってきちんと発表する場面ではまだ難しい、というのが結論でした。足りないのはデザインと文章、突き詰めると一つひとつをつなぐストーリーだと語られています。
パッケージが立派なだけで。
1周年記念オフ会は開催の方向へ。公開収録とライトニングトーク
最後のお便りは、イエローフィッシュさんからのものでした。
10月3日のオフ会の参加表明はどっからすればいいのですか?
番組の1周年記念オフ会は、開催の方向で準備が進んでいます。会場はこの日に下見する予定で、確定すれば翌週の火曜日から告知と募集を始めるそうです。
現時点の構想では、前半を公開収録にし、後半を「落ち着きAIライトニングトーク」にする予定です。ライトニングトークでは、リスナー6人ほどに1人5分程度でAIの活用などを発表してもらいます。
まあ俺たちを楽しませろと。
高度な技術の話は求めておらず、「課金して使い始めた」程度の話でもかまわないといいます。会場の投票で落ち着けた発表を選び、景品を用意する予定です。枠が埋まった場合は、先着か抽選になる可能性があります。
これらのアイデアの多くは、コミュニティのメンバー4人で開いたキックオフ会で出たものだそうです。イベントは10月3日の昼過ぎから3時間ほど、東京近辺での開催を予定しています。
G検定に受かったら「AI素人」卒業?オフ会前の宿題
オフ会はもともと、G検定の話から生まれた企画でした。G検定は9月に実施されるため、受けられる人は受けてからオフ会に来てほしいと呼びかけられています。
かねりんさんも受験する予定ですが、合格したら「AI素人」の肩書きが使えなくなると気づきます。合格した場合は、1周年イベントで新しい肩書きを募集することになりました。
え、でも俺受かったらこの番組大丈夫かな?AI素人じゃなくなっちゃうんじゃない?
おすすめされたのは、会場での受験です。オンライン受験はカンニングができる仕組みのため、会場で受けて合格した場合は区別されたオープンバッジが発行されると、この日JDLAの担当者から聞いたそうです。
エンディングでは、締めのセリフを2人でハモらせる試みも行われ、次回以降も試行錯誤していくことになりました。
まとめ
今回の速報回では、Anthropicのインシデント公表からEU AI規制法までの9本のニュースを、「加速」と「規制」の同時進行という一本の線でつなげて整理しました。インシデントや中国勢の猛追を背景に、アメリカではルールづくりの主導権争いが始まり、欧州では判決と法律による規制が進んでいます。
- Anthropicが公表した3件のインシデントは、性能が高すぎたためではなく、ネット接続を遮断できていなかったヒューマンエラーによるものだった
- 減速提言とAstraの披露が同じ週に起きた背景には、中国を意識したアメリカ主導のルールづくりという政治的な狙いがあると読み解かれた
- DeepSeek V4 FlashはOpus 4.8相当の性能を100万トークン0.14ドルで提供し、中国勢はAIの価格競争を促す存在になっている
- Suno判決で問題になったのは原曲に似た出力であり、学習そのものが違法とされたわけではない
- 知らないことはAIに聞けないからこそ、まず困りごとをAIに相談し、引き出してもらうことが活用の入口になる





