当たり前すぎて見落としていた「講演会」の強さ
いろんなプロジェクトをやっていますが、よくよく考えてみたら、僕は西野亮廣講演会というものをずっとやってるんです。
当たり前すぎてぼーっとしていたんですけど、これを持っていて、ずっとやれているという状態が、異常に強いんです。
たとえばビジネス書。『魔法のコンパス』から始まって、『革命のファンファーレ』、『新世界』、最近だと『夢と金』、『北極星』と、ずっと出し続けています。
振り返ると、一番売れなかったビジネス書でも10万部を超えているんですね。本屋さんがどんどん潰れて、本が売れないと言われている時代にです。
で、なんでそんなに読みやすいかというと、講演会で喋った内容をまとめているからなんです。いきなり本を書いているわけじゃない。
『革命のファンファーレ』は30万部くらい売れましたが、あの本、書くのに5日くらいしかかかってないんです。
天才かいって思うじゃないですか。でも天才じゃなくて、講演会でずっと喋って、ウケた話を収録しているだけなんですよ。
これは漫才師が漫才を作るのと同じで。1年間かけて劇場で試して、ウケたところは伸ばして、スベったところは削って、最後にM-1でポンと出す。
僕は週に2、3回ずっと講演会をやっているので、本になる前に、刺さらない話はどんどん淘汰されていくんです。
すべては無理やり作ったものではなく「流れ」だった
『夢と金』も20万部ちょっと売れていますが、Amazonで予約開始した時点で、僕は一文字も書いていませんでした。
その日にAmazonの総合ランキングで1位だったんですけど、中身はまだゼロ。それでも発売日は決まっている。
担当編集の袖山さんは「やばいやばい」と言っていましたが、僕は大してやばいと思っていなくて。もう講演会で仕上がっているから、執筆中に詰まることは絶対にないんです。
じゃあ、そもそもなんで僕が講演会をやってるんだっけ、と考えると、これも流れなんですね。
僕はネガティブな発信をしない。論破とか揚げ足取りでインプレッションを稼ぐことをしない。前向きなことを言って、実践している。
そうすると、講演会の主催者が、その話を自分の地域の人や社員に聞かせたくなる。普段の発信が、講演会のフロントエンドになっていたという話です。
もう一つは、そもそも出がお笑い芸人なので、おしゃべりが異常にうまいということ。経営者生まれ経営者育ちじゃないので、1時間半の講演がちゃんと面白い。
お笑い芸人からスタートして、クラファンやって叩かれ、オンラインサロンやって叩かれ、絵本やって叩かれ、ミュージカルも映画も叩かれ。
でもそうこうしている間に時代が変わって、クラファンもオンラインサロンも副業も当たり前になった。無理やり作ったものじゃなくて、全部が流れの上にあったんです。
目的地があって、流れができて、営みが生まれる
人間は昔から、流れのある場所に営みを作ってきましたよね。川沿いに集落が生まれ、道沿いに宿場町ができ、港に商業が集まり、鉄道が敷かれれば駅を中心に街ができた。
道路や鉄道は、一見すると人が作った人工的な流れに見えます。でも、そうじゃないんです。
道路や鉄道の先には、必ず神々が住まう山や、神社仏閣、温泉といった目的地があるんですね。
川の流れの先に海があるように、流れの先には必ず目的地がある。人がそもそもそこに向かおうとしていたということなんです。
『能勢電鉄』も、終点に妙見山があって、そこに参拝するための乗り物なんですよ。鉄道が先にあったわけじゃなくて、神々が住まう山が先にあったんです。
つまり本来の順番は、目的地があって、流れができて、営みが生まれる、という順番なんですね。
SNSが変えた順番と、その揺り戻し
ところが、SNSの登場でこの構造が大きく変わりました。
僕たちは、人が集まる場所を探すのではなくて、先にコンテンツを作って、SNSで人の流れを人工的に作るようになった。
場所に人がいるから商売をするのではなく、コンテンツを作り、SNSで流れを作り、人を集める。これができるようになってしまったんです。
ただ、これは人類史で見てもかなり特殊な時代だったと思います。そしてここに、皮肉があるんですね。
誰でも人工的な流れを作れるようになった瞬間に、不自然な流れを作れることそのものの価値が下がったんです。
SNSでバズを作ることも、広告で人を動かすことも、インフルエンサーを起用することも、今では多くの人がやっている。
みんなが同じパイを取りに行くから、不自然な流れはコモディティ化して、それを作るためのコストだけがじわじわ上がっていく。
だから僕は最近ずっと「土地を取れ」と言っているんです。土地というのは、要するに自然な流れがある場所のことです。
富士山がある場所、温泉がある場所、何百年も続く祭りがある場所、そこにしかない景色がある場所。
こういうものは、SNSのアルゴリズムをハックして作った不自然な流れとは違う。長い時間をかけて形成された土地や歴史、文化が、自然に人を引き寄せるんですね。
たこ焼き屋のおばあちゃんが教えてくれること
最近、講演会でよく喋る話があって。2018年に、大阪城公園でたこ焼き屋をやっていたおばあちゃんが脱税で摘発されたんです。
その脱税額が3年間で1億3000万円。70歳を回ったおばあちゃんのたこ焼き屋さんで、ですよ。
たこ焼き8個入り600円、ソフトクリーム400円、うどん500円。そんな単価の小さなお店の年商が、約2億円だったんです。
インバウンドが急増して、大阪城に来た人が「観光だからたこ焼きでも食べておこか」となる。これが流れなんですね。
最近、『石川遼』さんと日本中を回っていて、流れの凄まじさを目の当たりにするんですけど、和歌山県白浜の『とれとれ市場』も面白くて。
何年か前で、年間の来客数が300万人を超えているんです。ニュースにも何にもなっていない一つの海鮮マーケットが、です。
さんざん宣伝を打った『ジャングリア』の来場者数を、サクッと超えている。これはもう、流れがあるということなんですよ。
こういう店って、SNSもホームページもYouTubeもやらなくていいんです。放っておいてもお客さんが来るから。
極端に言えば、SNSをやっているのは基本負け組で、本当に勝っているところはそんなことをやっていない。流れがある場所をしれっと押さえているんです。
僕たちはこの15年、壮大な勘違いをしていたのかもしれません。実際に流れを作れた時代があって、僕もその恩恵を受けてきた人間なので、偉そうなことは言えないんですけど。
でも、もうその時代は終わったかなと思っています。不自然な流れがいつまでも作れると思うなよ、という話でした。
オンラインサロン『西野亮廣エンタメ研究所』では、毎日2、3000文字の記事を投稿しています。興味がある方はぜひ覗いてみてください。
それでは素敵な一日をお過ごしください。じゃあまたね。
まとめ
この15年、SNSで人工的に流れを作れた時代は特殊で、その価値はもう下がっている。だから僕は、自然な流れがある「土地」を取ることが強いと考えています。
- 本来の順番は「目的地→流れ→営み」で、道路や鉄道の先には必ず目的地があった
- SNSは先にコンテンツを作って流れを人工的に作れるようにしたが、それは人類史でも特殊な時代だった
- 不自然な流れを作れることの価値は下がり、作るコストだけが上がっている
- 自然な流れがある土地は放っておいても人が来る。そこを押さえるほうが強い




