古典ラジオのガチファン、東京での特別収録
この回は、いつもと違って片山さんと中島さんが東京のブラボーワークスのスタジオを訪れる形で収録されました。わざわざ東京に足を運んだのには、大きな理由があると語られます。
その理由は、ゲストへの片山さんの強い私情でした。片山さんは2020年ごろに聴いたポッドキャスト「コテンラジオ」のゲスト回で、ある人物に強烈なインパクトを受けたと明かします。
それ聞いた瞬間にもうズキュンとやられちゃいましてですね、インパクトが強烈で。
妻も「コテンラジオ」の愛聴者で、その人物の話が家庭の会話に頻繁に上るほどだといいます。今日はサインをおねだりされ、本まで持参してきたと語られました。
ただのファンじゃないですか。
そんな熱量とともに、この回のゲストである中東で一番有名な日本人サラリーマン、鷹鳥屋明さんが登場します。片山さんは緊張のあまり、しばらく鷹鳥屋さんと目を合わせられなかったと語られました。
「シャムスカマル=太陽と月」という現地の名前
鷹鳥屋さんは中東で「シャムスカマル」という名前で呼ばれています。これは自身の名前「明」が太陽と月からできていることに由来します。
私の「明(アキラ)」っていう漢字が、太陽と月でできてるんで。アラビア語で太陽がシャムスで月がカマルので、シャムスカマルって名乗って。
当初は「フセイン」という名前を与えられそうになったものの、実家が神社であることから宗教的な名前は避けたほうがよいと考え、象徴的でない名前を選んだと語られました。
私それ冗談で「俺なんかお前らで言う邪教崇拝だから、下から2番目の地獄、蒸し焼き地獄行きですね」って言ったら、向こうの人が忍びないって顔をして。
鷹鳥屋さんが自らを異教徒だと冗談めかして話すと、現地の人が「友達が地獄に行くのが忍びない」という優しさを見せたといいます。この場面から、現地の人々の真面目で優しい人柄がうかがえます。
ボタンの数で国がわかる、こだわりの民族衣装
鷹鳥屋さんはいつも民族衣装をまとって登場します。この日はクウェートの衣装で、衣装の細部から着ている人がどの国の人かがわかるといいます。
ボタン1個がクウェート、ボタン2個だったらサウジアラビアで、襟付きだったらカタール、襟なしだったらアラブ首長連邦。
衣装の名前も国によって変わります。クウェートではディスダーシャ、アラブ首長連邦ではカンドゥーラ、サウジアラビアではソーブ(トーブ)と呼ばれ、見る人が見ればすぐにどこの人かわかると語られました。
この衣装への丁寧なこだわりは、現地の人々と打ち解ける早さにも関わってきます。ただ、伝統的すぎて「僕のおじいちゃんみたいな格好」と若い世代から言われることもあるといいます。
若い子からするとなんかすごいクラシックな、なんか明治男歩いてるみたいな感じに。
日立でハンマーを振っていた「一人商社」の正体
鷹鳥屋さんの現在の仕事は、貿易、コンサル、調査と多岐にわたり、本人が「一人商社」と表現するほどです。何屋なのか自分でもわからなくなる時があるといいます。
もともとは日立製作所で硬いサラリーマンをしていました。中部国際空港(セントレア)内の動く歩道を、実際にハンマーを振って作っていた時代もあったと語られました。
日立製作所、水戸工場M棟でですね、ハンマー振ってガシガシ作ってた時代もありました。
その後、メーカー、商社、政府機関、石油関係の会社など、いくつもの転職を重ね、中東に滞在する仕事も経験しました。この多様な経歴が、今の何でもこなせる力につながっていると考えられます。
日本のいいものが中東で売れない、その前提
番組が「なぜ日本のいいものは中東で売れないのか」というテーマを掲げたこと自体を、鷹鳥屋さんは高く評価します。売れないという前提に立っている点に、現状への理解があると指摘しました。
今まで通り売れなくなってきたから、じゃあどうしなきゃいけないのかっていう、今壁にぶち当たってるはずなんですね。
かつて日本のテキスタイルは中東で過半数以上のシェアを取っていたものの、今では大きく落ち込んでいます。車も家電も、日本が世界で栄えていた時代のイメージを、まだ背負っている人が多いと語られました。
そのイメージはもう2、30年前の話であり、意識改革ができていないことが最大の問題だと鷹鳥屋さんは話します。保呂田さんも現地で、いいものを作れば売れるという理想の思い違いが日本人の足かせになっていると感じているといいます。
中東から見れば「ヨーロッパが近い」という地政学
いいものであることは変わらない、と鷹鳥屋さんは前置きします。問題は、中東がヨーロッパに近く、ヨーロッパの良いものが簡単に手に入る環境にある点です。
極東の島国から何かちょっといいものが出てきて、ポンと来たといったところで、他のヨーロッパとかのブランディングがしっかりしてて強いところと果たして太刀打ちできるのか。
極東の島国から多少いいものが来ても、ブランド力の強い欧州勢と並べば埋もれてしまう。まず地政学的・地理的な前提があると鷹鳥屋さんは説明します。
日本からの視点では、飛行機がある現代なら距離は関係ないと思いがちです。しかし保呂田さんは、中東から見たらヨーロッパの方が近いという視点に強く腹落ちしたと語りました。
ハラル認証の落とし穴、冷蔵庫にまで付けた話
中東で売るために、日本企業はハラル認証を取るなど文化に合わせる努力をしています。ただ、何にでもハラルを付けようとする「ハラル紳士」的な動きには問題があると語られます。
神様が食べられるものを決めるのに、よくわからない人間が決めるのはどうかと考える人も一部にいます。そうした背景から、行き過ぎた認証取得は現地で疑問を持たれることもあるといいます。
一時期、冷蔵庫にまでハラール認証をつけてるところありましたから。
お米や水にまで付けるのはやりすぎだと言われるなか、冷蔵庫にハラルが付いていて、現地の人から馬鹿にされる動画が出回ったこともあったといいます。ハラルを取れば合格、という単純な発想が現地感覚とずれている例です。
ハラルはあくまで入場券であり、取ったからといって売れるかどうかは商品そのもののブランド力次第だと鷹鳥屋さんは整理します。取るべきものか否かを、その先まで考えることが大切だと語られました。
ドバイチョコと、韓国がドラマに牛肉を仕込む戦略
日本で売れたから中東でも認められるとは限りません。鷹鳥屋さんは「アラブで大人気だったものが日本で流行ると思いますか」と逆の立場で問いかけます。
ただし唯一の例外として、ドバイチョコが挙げられました。韓国経由で世界中に売れてしまい、鷹鳥屋さん自身の理論が破綻したと苦笑いで語られます。
ところが唯一例外があって、ドバイチョコが売れたんですよ。
その韓国は、国と民間が連携してバズを生み出す素地を作っていると鷹鳥屋さんは分析します。KPOPがその代表例です。
食品でも同じ戦略が取られています。和牛に対抗する「韓牛」が韓国ドラマに頻繁に登場することで、一般の消費者に名前が浸透していくといいます。
韓国ドラマに出てるから、一般のコンシューマーに名前が通う。
これは意図的にドラマの台本に仕込まれたものです。ドラマに登場する車種を日本産にするか韓国産にするかで売上が変わるように、スポンサーの力を使った、ステルスマーケティングに近い仕掛けだと語られました。
「お金持ちだから買う」という先入観の落とし穴
日本企業が文化を理解せず失敗した例は山ほどあると鷹鳥屋さんは言います。日本で少し売れているから中東でもいける、中東の人はお金持ちだから買ってくれる、という先入観が典型です。
あいつら金出さんですよ。出す時にはすごい出すんですよ。でもそうじゃない時はほんと出さないですよ。
中東の人々は財布の紐のオンオフがはっきりしており、中途半端なものは売れないといいます。財布の紐が緩む瞬間を作る仕掛けや作戦を持っていかなければならない、ということです。
謙虚さは美徳か、弱点か
日本の強みとされるおもてなしやホスピタリティについて、鷹鳥屋さんはそれがパッシブなものだと指摘します。来た人に応えることは得意でも、自分から発信するのが苦手だといいます。
「うちこんなにすごいんだぞ」って大声で言う人って、やっぱ日本だとちょっと敬遠されるきらいがあるので。
近年「日本はすごい」と言われるのは、外からの目で発掘された結果であることが多いといいます。日本人が自ら打って出るより、外から拾われてバズる流れが目立つと語られました。
その根底にあるのが、いいものを作ればいつか誰かが拾ってくれる、という無意識の神話です。鷹鳥屋さんは、これが多くの日本人に眠っていると指摘します。
中島さんも自身の中にその神話があるかもしれないと共感します。ただ、それだけでは駄目だと鷹鳥屋さんは続けました。
「誰かが気づいてくれる」では絶対に売れない
展示会にお金を払ってブースを出しても、人が集まるのは有名人やインフルエンサーがいるブースだと鷹鳥屋さんは指摘します。全員が同時にスタートする展示会では特にそうだといいます。
和牛の例では、アルゼンチンやブラジルなど各国の高級ビーフがひしめくなかで勝ち残る戦略が必要になります。誰かが気づいてくれるだろうという姿勢では、絶対に売れないと語られました。
その中でどうやって和牛が勝ち残っていくのか、戦略を一つ一つ立てていくときに、誰かが気づいてくれるだろうじゃ絶対に売れないんですよね。
日本人はいつか誰かが気づいてくれると期待し、あらゆる方向にボールを振りまいて誰かが拾ってくれるのを待つパターンが多いといいます。それでは届かない、というのがこの回の核心です。
現地の人が求めているものに対して、しっかりボールを投げていきましょう。
ブランディングとは、価値を「翻訳」して伝えること
片山さんは、この番組が一貫して言っているブランディングの定義に話をつなげます。価値をいかに翻訳し、どう表に出して伝えていくかという活動です。
鷹鳥屋さんの中東への取り組みは、まさにこの翻訳を中東向けに行うものだと位置づけられます。そしてこの手法は、中東に限らず他の国にも同じように向けられるといいます。
中東ってすごく特殊に見えるじゃないですか。でもヨーロッパでもアメリカでも他のアジア諸国でも一緒ですよ。
過去回で話したチューハイの例も同じ構図です。アメリカにチューハイを持って行っても、現地ではドイツ由来の「ハードセルツァー」が売れてしまった、という話が引き合いに出されました。
胸を張れない日本人への、両刀のヒント
中島さんは、いいものを作ることに全振りして「いいものできたよね」で胸を張って終わっていたかもしれないと振り返ります。聞いてもらい、広がらなければ意味がない、と気づいたといいます。
いいものを作ることに全振りで、「いいものできたよね」って胸張って終わってたかも。
これに対し鷹鳥屋さんは、日本のいいものがなければ海外で売る原石にもならないと応じます。品質という素地が整っているからこそ、自信を持って広められるのです。
日本製であることは間違いなく強みだと鷹鳥屋さんは断言します。だからこそ謙虚すぎるのは気をつけないといけない、というのがこの前編の着地点です。
いい品質を作る
日本の強み。海外で売る原石になる素地
現地の文化に翻訳する
中東・欧州など、相手の求めるものに合わせる
自ら発信・仕掛ける
待つのではなく、財布の紐が緩む仕掛けを投げる
まとめ
日本の「いいものを作ればいつか報われる」という神話は、海外では通用しません。品質という強みを土台にしつつ、相手の文化に価値を翻訳し、自ら伝えていくことが海外進出の鍵だと語られた前編でした。
- 日本製品が世界で売れたイメージは2、30年前のもので、意識改革が最大の課題
- 中東から見ればヨーロッパが近く、ブランド力の強い欧州勢と同じ土俵で戦うことになる
- ハラル認証は入場券にすぎず、取れば売れるわけではない
- 韓国はドラマに韓牛を仕込むなど、国と民間が連携して価値を仕掛けている
- 品質という強みを活かすには、価値を現地に翻訳し、謙虚さを超えて自ら発信する必要がある






