いい父親って、そもそも何なんでしょう?
今回のテーマは「父親」です。ヒヤマユウタロウさんは、いい父親になりたいと思って日々を過ごしているものの、いざ「いい父親って何?」と問われると、一言では答えにくいと感じているそうです。
俺もいい父親になりたいって漠然とありつつ、じゃあいい父親ってなんやねんって言われると、一言で言うとみたいな。結構難しいなって思ったんで。
そこでヒヤマユウタロウさんは、書籍父親の科学 ── ポール・レイバーンによる、父親に関する研究をまとめた書籍。原題は父親の子育てや父性の科学的知見を扱う。を読んできたと話します。ちょうど1年の育休の折り返しである半年が経ったタイミングで、その振り返りも兼ねて一緒に考えたいという狙いです。
一方でばたこさんは、母親像として理想にしているものは特にないと言います。実の母をいい母だったと思う反面、いけてなかったところは反面教師にする、という実体験ベースの模索をしているそうです。
この回で大事な前提として、ヒヤマユウタロウさんは「父親」という言葉には父としての在り方と、親としての在り方の2つの意味があると整理します。今日は特に「父としての在り方」を考えていく回です。
話す内容は大きく3つ。父親が子育てをする動物から学ぶこと、父親になると起こるホルモンの変化、そして父親が育児をすると子供にどんな影響があるか、という流れで進みます。
ゆうたのロールモデルはティティモンキー
最初のテーマは「ロールモデル」です。仕事ではよく使う言葉ですが、いざ自分の父親としてのロールモデルは誰かと考えると、意外と思い浮かばないという話から始まります。
ばたこさんは、そもそも時代が違うと指摘します。高度経済成長を担ってきた父親世代には、育児に全力投球するほどの経済的・社会的な余裕がなかったから、というのが理由です。
そこでヒヤマユウタロウさんは「人より動物から学ぼう」と提案します。哺乳類の中にも、オスが子育てに関与する種が一定数いるからです。
わかりやすい例がコウテイペンギンです。メスが卵を産むと巣を作らず、卵を孵化させるのはオスの役割なのだそうです。
コウテイペンギンのオスは、卵を35度ほどに保つために、3ヶ月間、自分の足の上に卵を乗せ続けるといいます。その間、メスは餌を探しに海へ行きます。
お母さん(コウテイペンギン)の仕事は卵を産むまでがお仕事。
ただ、人間の父親は卵を孵化させることはできません。そこでもう一つ紹介されるのが、育児をするサル、ティティモンキーです。
ティティモンキーは、子供の世話をするのがオスの仕事です。母親は生後1週間ほど経つと、子供に関わるのは授乳だけになり、1日に4〜5回しか接触しなくなるといいます。
父親のほうは、授乳以外の時間はずっと赤ん坊を背負っています。1日中抱っこするので、体重が減るオスもいるほどです。
その一日中抱っこするから、結構体重が減るオスもいっぱいいるらしい。
この環境で育つと、ティティモンキーの子は母親よりも父親に愛着を形成し、父親から引き離されたときのほうが動揺するのだそうです。ばたこさんは、やはり接触時間が効いているのではと話します。
ヒヤマユウタロウさんは、今は自分が育休を取り、妻が仕事をメインにしているため、日中の接触時間にはティティモンキーほどの差があると言います。1人目のときは逆だったため、1人目と2人目で愛着形成がどう違うか気になるそうです。
メスが卵を産むと、オスが3ヶ月間、足の上に卵を乗せて温め孵化させる。メスはその間、餌を探しに行く。
母親の関わりは授乳だけになり、父親が常に赤ん坊を背負う。子は父親に強く愛着を形成する。
母性ってどんな瞬間に感じるもの?
話は「母性」に移ります。ヒヤマユウタロウさんが、母性を感じる瞬間はあるかと尋ねると、ばたこさんは意外な答えを返します。
ばたこさんは、自分は母性が結構低いほうかもしれないと言います。理性的に考えてしまうため、妊娠中は自分の中に別の生命体がいることを気持ち悪いと思っていた時期もあったそうです。
なんか気持ち悪いと思ってた時あった。自分の中に別の、別の生命体がいることが。
ヒヤマユウタロウさんは、妊娠している女性は自然に新しい生命を受け入れて愛を感じるものだと先入観で思っていた、と振り返ります。
ばたこさんによれば、10ヶ月かけて少しずつ受け入れていった感覚だといいます。「父親は生まれた後に急に父親になる」とよく言われますが、女性は妊娠の10ヶ月をかけて母親になっていく、その時差をまさに体感したそうです。
私の意識してないところと別でなんか動いてる物体がいるっていうことに対する恐怖から始まり。(生まれる頃には)やっと自然になってて。
男性は生まれてからしか子供に伴走できないため、どうしても10ヶ月分ほどのラグが出やすい、という話につながります。妊娠中の夫婦喧嘩も、このズレが原因になりやすいと2人は話します。
父親になるとホルモンはどう変わる?
ここからはホルモンの話です。男性に逃げ道を用意したいところですが、実は出産前後で男性のホルモンも、女性の妊娠出産の変化と似たパターンで大きく変化するという研究があるそうです。
ばたこさんが「それは身近に妊娠している人がいることが影響するのか」と確認すると、ヒヤマユウタロウさんは、妊娠期間のお腹の成長を近くで見ることで、体の中でセットアップが進むのではないかと答えます。
なるほど。ちゃんと身近にいることが重要なわけね。
大きく変化するのは3種類のホルモンです。男性ホルモンのテストステロン ── 筋肉の発達や競争心などに関わる男性ホルモン。一般に攻撃性や闘争心と結びつけて語られることが多い。、ストレスに関わるコルチゾール ── ストレスを受けたときに分泌されるホルモン。ストレス反応の指標として使われる。、そしてプロラクチン ── 授乳や育児行動に関わるホルモン。母乳の分泌などに関与するとされる。です。
テストステロンは出産前後で下がり、闘争心を抑えることで育児行動を促す方向に働く可能性があるといいます。実際、テストステロンが下がった人ほど育児に積極的という相関が確認されているそうです。
ばたこさんは、テストステロンが下がったから育児に関与するのか、育児に関与したから下がるのか、どちらが先かと問いかけます。ヒヤマユウタロウさんは、因果はわからず、あくまで相関の話だと慎重に答えます。
ここでばたこさんは、女性視点として、どうすればパートナーのテストステロンが下がって育児に関与してくれるのか、という実践的な問いを投げます。
なんかちゃんと胎動動いたよって報告するとか。自覚させるみたいなところが、多分テストステロンを下げるための要因なわけだよ。
ヒヤマユウタロウさんも、妊婦健診に一緒に行ってエコーを見るなど、妊婦さんと同じような体験を追体験すると下がりやすいかもしれない、と応じます。
下がる。男性らしさや闘争心に関わる。下がった人ほど育児に積極的という相関がある。
ストレスに関わるホルモン。出産前後で変化する。
授乳や育児行動に関わるホルモン。出産前後で変化する。
オキシトシンの出方は父と母でどう違う?
テストステロンが下がるのと同時に増えるのが、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシン ── 愛着や親密さ、幸福感に関わるホルモン。人との触れ合いなどで分泌が促されるとされる。です。オキシトシンが出ると、子供の仕草や行動に反応しやすくなるといいます。
子供が可愛いからオキシトシンが出て、出るからより子供の変化に敏感になり、もっと積極的に育児をする、という循環が起こるのだそうです。
テストステロンが下がって競争心がなくなっていく。それと同時にオキシトシンが出ることによって、育児に対する注意であったりとか、報酬系がある意味でハックされてる。
逆に、仕事が忙しくて子供に会えない人は、オキシトシンの働きが相対的に弱まり、夜泣きに気づきにくかったり、子供を可愛いと感じる度合いが弱くなったりするかもしれない、と2人は話します。
ここで、オキシトシンが分泌される場面に父母で違いがあることが紹介されます。母親は抱っこや授乳などの愛情的な触れ合いでオキシトシンが出るのに対し、父親は刺激的でアグレッシブな遊びで増加するといいます。
この出方の違いが、結果的に母親らしいコミュニケーションと父親らしい遊び方をそれぞれ強めていく仕組みになっている、というわけです。うちの父親も危なっかしい遊びをしがち、とヒヤマユウタロウさんは実感を語ります。
抱っこや授乳などの愛情的な触れ合いで分泌。身体的な触れ合いによる愛着形成が増えていく。
刺激的でアグレッシブな遊びで分泌。危なっかしい遊びやアクティブな遊びが加速していく。
なぜ父親になると丸くなるのか
ここでヒヤマユウタロウさんは、ばたこさんの夫(仮に「バタ夫さん」)について、出産前後で性格が変わったかを尋ねます。
ばたこさんによれば、以前は「キレッキレ」な感じだったのが、家ではすっかり丸く、甘くなったといいます。義母から子供の頃の話を聞くと「そんなことで怒っていたのか」と驚くほどだそうです。
なんかキレッキレな感じだったんですよ。まあ今仕事は多分キレッキレだと思うけど、マジで家だと丸いからね。甘いし。
ヒヤマユウタロウさんは、この本を読んで、「年を取ると丸くなる」に「子供ができて丸くなる」が掛け算されているのではないかと考えたそうです。子供がいない大人男性は、丸まりのRが弱いのかもしれない、という見立てです。
バタ夫さんのケースも、出産前後でテストステロンやコルチゾールが下がり、攻撃性や、議論で相手を論破しようとする行為が減っているのではないか、と解釈します。ばたこさんは「守るものができて丸くなった」と思っていたそうです。
父である前に、まず親であれ
話は「子供や家庭に何を与えるか」という日々の話に移ります。ヒヤマユウタロウさんは、本を踏まえて父親には大きく2つの役割があると整理します。
1つ目は、親として、いつもの暮らしをちゃんと安定させることです。子供や家族の生活リズムを整えることで、母親以外にも子供が安心できる場所ができ、母親の負担も減ります。
ばたこさんは、これが100%できている父親は最高だとしつつ、世の中には「でかい長男」と呼ばれてしまう人もいると指摘します。父親が一人で「頑張るぞ」となっても、ただ長男になるだけだと言います。
俺父親だから頑張るぞみたいな一人で奮闘しても、ただただ長男になる。(生活のリズムは)一人でできるもんじゃないから、やっぱり。
ヒヤマユウタロウさんも、頑張り方を間違えるケースは多いと同意します。子供をどこかへ連れていくことが父親の仕事だと思い込むなど、「父」の側で頑張りすぎてしまいがちなのです。
そこで出てくる核心が、父親や母親である前に、まず親として夫婦で何ができるかが土台になるという考え方です。親が土台にあって、その後に初めて父として母としてがある、という順番です。
父だからできる「リスクとノイズ」の与え方
土台の上で「父親だからできること」として挙げられるのが、リスクの拡張と、意図的なノイズや変数を混ぜ込むことです。
リスクの拡張とは、挑戦する心や経験を増やすことです。研究では、父親は子供を外の世界へ向かわせる「活性化関係」を築きやすいとされています。
プールでの研究では、母親は子供とアイコンタクトが取れるよう視界に入る位置に立ち、父親は子供の後ろに立つことが多いといいます。父親は「背中を押す」関わり方を取りやすいのです。
(父親は子供の)後ろに立つことが多い。どっちかっていうとやっぱり背中を押すっていう感じ。
もう一つが言語能力への影響です。母親は子供の理解に合わせた語彙で同調的に話すのに対し、父親は同調度が低い分、社会に近い言葉や子供が知らない語彙を使いやすく、語彙の拡張を促すという研究があるそうです。
ばたこさん自身も、絵本の読み聞かせで、難しい言葉を「首をすくめる、ってわかる?」と言い換えながら読むそうです。一方、夫は淡々と忠実に読むといいます。どちらが良い悪いではなく、役割の違いだと2人は捉えます。
(読み聞かせで)別になんかどっちがいい悪いとかじゃなくて、役割の違いなんだろうなと思って、今聞いてた。
父親の関わりは、子供の社会性にどう効くのか
父親が直接子供と関わることは、子供の社会的な関係にも有益な影響があるという研究が紹介されます。学校生活の初期段階で問題行動が少なかったり、非行や犯罪に走ることと父親の育児関与度が相関する、という研究です。
ばたこさんは、これを単に「人の目が多いから」だと誤認していたと言います。むしろ、男性と女性という違う性が関わることが、子供への変化として効いているのではと解釈し直します。
ヒヤマユウタロウさんは、必ずしも父親である必要はなく、男性性が子供の世界にいることが大事なのではと話します。祖父やおじでもよい、というのです。
例としてゲームが挙げられます。ヒヤマユウタロウさんの妻は接待プレイをしますが、祖父は容赦なく勝ちにいくため、適切な競争心や社会性を子供の世界に持ち込む役割を、男性が担っているのではないかと言います。
ばたこさんの家でも、娘はパパとやるときはポケモンのバトル系、ママとやるときは平和な世界を作るゲームを、無意識に選び分けているそうです。
公園遊びも同じで、ヒヤマユウタロウさんが行くと鬼ごっこやボールの当て合いなどアグレッシブな遊びが多く、妻と行くと砂場で一緒に作ったりブランコをしたりと、一緒に遊ぶ系になりやすいといいます。
この差は最初はわずかでも、子供が「この親とはこう遊ぶ」と選び、遊びが強化されていくことで、父親から得られる経験と母親から得られる経験の差が年月をかけて開いていく、と2人は話します。
なんか最初はわずかな差だったと思うんだけど、ちょっとずつだんだん何年かにわたって開いてきそうだよね。
最後に、ネタ枠として、幼稚園のクラスの人気度ランキング上位には父親と体を使って遊んでいる子供が多い、という研究も紹介されます。ノルウェーの、長期で家を空ける船乗りの子供は人気者になれない、という話が発端だそうです。
2人は「知らんけど、と全部つけたい」と笑いつつ、父親とのアクティブな遊びで運動神経が良くなり、足の速い子は一目置かれる、という補正を入れると、あながち無視できないかもと話します。
父は二階建て。母は、なぜ親と混ざるのか
まとめとして、ヒヤマユウタロウさんは父親を「父」と「親」の二階建て構造だと整理します。
一階は「親として」。経済面も育児・家事も含め、夫婦で子供にとってのいい環境を整えることが前提です。二階は「父として」。意図的にリスクやノイズを混ぜ込み、子供を社会に押し出す橋渡しをする役割です。
これを聞いたばたこさんが、興味深い問いを投げます。なぜ母親は「親」と「母」があまり分離しないのか、というものです。
なんで母親は、親と母がさ、あんまり分離しないんだろうね。
母親では「親らしさ」と「母らしさ」がほぼ同じものとして混ざっているのに、父親では「父らしさ」が親から切り離されて見えやすい、という非対称性です。2人はここを次の宿題として残します。
この気づきから、次は「いい母親とは何か」を問い直すのも面白そう、という話になり、ばたこさんがエビデンス探しを担当することになりました。次回は、育休半年経過時点のリアルな実体験を共有する予定です。
まとめ
書籍『父親の科学』をもとに、父親を「父」と「親」の二層構造として捉え直した回でした。動物やホルモンの話を手がかりに、まず親としての土台を夫婦で整え、その上で父ならではの関わりを重ねる、という順番の大切さが見えてきます。
- 父親は「父」と「親」の二階建て。まず親として暮らしと生活リズムを安定させることが土台になる
- 出産前後で男性のテストステロンは下がり、オキシトシンが増える。下がった人ほど育児に積極的という相関がある
- オキシトシンの出る場面は父母で異なり、母は触れ合い、父はアグレッシブな遊びで分泌されやすい
- 父親はリスクや新しい語彙といった「ノイズ」を持ち込み、子供を外の世界へ押し出す役割を担いやすい
- 母親では「親」と「母」がほぼ重なるのに、父親では「父」が親から切り離されて見える非対称性が次の問いとして残った




