前編のおさらいと、後編のテーマ「誰から買うか」
前編では、日本のいいものが必ずしも中東で売れない理由や、「見つけてもらえると思うな」という売り出し方の話が語られました。MCの中島さんは、その内容をこう振り返ります。
前編は、なぜ日本のいいものが必ずしも中東で売れないのかっていう話をしましたね。
今回のテーマは、前編の最後に予告された「誰から買うか」。片山さんは、この議題を立てた意図をこう説明します。
(中東のある国では)王族と言われる人たちからルートをたどっていかないと、商売できへんみたいな話があるのかなっていう先入観があるんです。
鷹鳥屋さんは、王族がやっているビジネスをたどらなければ参入しにくいのか、という問いに対して、必ずしもそうではないと補足します。
(王族をたどるのが必須では)ないけど、そっちの方が早いですねっていうのはあると思います。
片山さんが知りたいのは、いざ中東でビジネスをするとなったとき、どう進めればいいのかという全体像です。抽象的なアウトラインから教えてほしい、というのがこの後編の出発点になっています。
トップダウンの世界と、トップにどう近づくか
鷹鳥屋さんによると、中東のビジネスは意思決定のスピードがまったく違います。上が決めれば全員がそこへ動く世界だといいます。
トップダウンがほんと早いですね、向こうは。ボトムアップはほぼありえないと言ってもいい。上の人がやるって言ったらやるみたいな感じで動く世界です。
その「上の人」とは、どこまで上の存在なのか。中島さんの問いに、鷹鳥屋さんは意思決定権を持つ人物だと答えます。
やんごとないところから、財閥のトップからいろいろいますけど、要は意思決定権を持った人がやるって言ったことは絶対やらなきゃいけないんです。
鷹鳥屋さん自身は、その決定に「巻き込まれている」感覚だと語ります。トップが「やる」と言えば、下の人間が一斉に走り回り、そこへ外部が引き込まれていくという構図です。
だからこそ、トップにどうやってアプローチするかが最大の課題になると鷹鳥屋さんは指摘します。不動産で言えばオーナーへの営業が強いのと同じ理屈です。
上のトップダウンで物事を決めるんだったら、じゃあトップにどうやってアプローチするかが大事って話になると思いますね。
問題は、その人物にそもそもどう会うか、どう渡りをつけるかです。ここで間に挟む人間を間違えると、とんでもないことになると鷹鳥屋さんは釘を刺します。
アプローチとか代理店とか、間に挟む人間を間違えるととんでもないことになっちゃうっていうのもあると思います。
トップが決める
意思決定権を持つ王族・財閥のトップが「やる」と言う
下が動く
下々の人間が一斉に走り回り、実行に向かう
外部が巻き込まれる
そこへ代理店や外部プレイヤーが引き込まれていく
筋の悪い相手を見抜く——「王族と繋がってる」と言う人ほど怪しい
トップへ近づくルートが重要な一方で、間に入る人物の信頼が欠かせません。鷹鳥屋さんは、筋の悪い相手には近寄らないのが一番だと言います。
なるべく筋の悪いところは近寄らない、向こうが近づいてきたらスーッと離れるっていうのが一番いいと思います。
しかし、その見極めは簡単ではありません。話題になっている国ほど怪しい相手が集まると鷹鳥屋さんは話します。しかも日本人を騙すのは日本人だ、と。これは中東に限った話ではないといいます。
特に何か話題になってる国なんて、もう詐欺師しかいねえんじゃねえのかって思うぐらいです。日本人を騙すのは、やっぱり日本人なんですよ。
悪質なコンサルタントには共通の傾向があると鷹鳥屋さんは指摘します。自分を無理に大きく見せ、繋がりを過剰にアピールする、というものです。
自分を無理やり大きく見せようとしたり、俺らこんなのと繋がってるんだぞって過剰にアピールするんで、なんとなく傾向は決まってるんですよね。
鷹鳥屋さんはこれを「過剰なブランディング」と表現します。見慣れてくると、この人はこの傾向だな、と判別できるようになるといいます。
そして印象的なのが、王族との繋がりを自分から語る人への評価です。鷹鳥屋さん自身は多くの王族と繋がりがありますが、それを口にする人ほど信用できないと言い切ります。
保呂田さんも、鷹鳥屋さんからそうした自慢を一度も聞いたことがないと証言します。当の本人は、繋がりを誇るどころか無茶振りに頭を抱えているというのが実情のようです。
笑えない王族の無茶振り——正月の美術館案内とワシントン条約案件
鷹鳥屋さんは、王族との関係を「無茶振りに悩まされている」と表現します。笑い話として語られたのが、ある王族の大臣が来日した際のエピソードです。
某京都の超有名ゲーム会社のミュージアムに、1月1日か2日に行きたいんだが、なんとかならねえやろかって。正月休みって知ってます?
ピンポイントで正月を指定された無茶振りに、鷹鳥屋さんはさすがに「どうしようもない」と対応せざるを得なかったと振り返ります。相手はなんとかなると思っている、というのがポイントです。
さらに笑えないのが、窓のない部屋に押し込められて持ちかけられたという案件です。ある偉い人物が写真を出し、「これを手に入れたい」と言ってきたといいます。
これ手に入れるのワシントン条約的にアウトですって(言うと)、大丈夫、そこはなんとかなる(と言われる)。そこ、なんとかなりません。
こうした笑えない依頼に対して、鷹鳥屋さんは政治家答弁のように「前向きに検討させていただきます」とかわし、相手の熱が冷めるまで待避することもあると明かします。
中島さんは、そうした無茶振りを頼まれること自体に、鷹鳥屋さんへの信頼や愛され感があるのではと指摘します。しかし本人はそれを笑い飛ばします。
愛され感で俺、刑務所ぶち込まれたくないですよ。
そうした状況を乗り越えてきたメンタルの強さを中島さんが尋ねると、鷹鳥屋さんは「人格が淘汰された」と表現しました。
どちらかというと、私の人格は淘汰されたみたいな、いろいろなところを食らい続けて磨かれていったところはあると思いますね。
「やめておいた方がいい」と言えることが信頼になる
無茶な依頼に揉まれてきたからこそ、鷹鳥屋さんは「できません」「やめておいた方がいい」とはっきり言えると保呂田さんは見ています。中東進出に向いていない企業には、きっぱり止めることもあるといいます。
保呂田さん自身も、鷹鳥屋さんからダメ出しを受けた経験を語ります。
そのアイデアはいいかもしれないけど、ちょっとそこは今回やめた方がいいですねとか、もうはっきり言ってくださいますよ。
その率直さが、なぜ信頼につながるのか。中島さんは、それが「誰から買うか」という中東ビジネスの核心と結びついていると感じ取ります。
鷹鳥屋さんは、誰が間に入っているかが決定的に重要だと説明します。王族の名前を使う人がいるのは、その看板が「後ろにいる人から買う」ことと同義になるからです。
(王族の名前で)そこから買うってことは、すなわち後ろにいる人から買うってことと同義になったりするので、そこのプレッシャーや圧力を、たまに感じることはやっぱりあります。
その圧力は怖さでもある一方で、動けば物事が円滑に進む力にもなります。状況とやり方次第だと鷹鳥屋さんは締めくくります。
トップダウンは「王政」か「ワンマン社長」か
片山さんは、国内のブランディングでは「誰から買うか」をあまり意識しないのではと問いかけます。鷹鳥屋さんは、日本では社長が言っても下が納得しなければ成立しない組織もあると応じ、中東のトップダウン感の強さを対比します。
(中東は)下ができませんって言ったら、上からできろっていう、そんな感じの王政国家ですよ。
ただ片山さんは、民主主義の社会で育った自分たちには「王政」がおとぎ話のようで、リアルに感じにくいとも語ります。
僕たちは民主主義の社会で生きているから、王政って言われてもいまいちピンとくるようで来ない。
これに対して鷹鳥屋さんは、身近な例に置き換えて説明します。根本は日本の組織と変わらないのかもしれない、というのです。
ワンマン社長から言われて、雇用といろんなものを握られてる人が強く言われたら断れないよねっていうのと、根本は変わんないのかもしれませんね。
片山さんは、この置き換えで腑に落ちたと反応します。「王政」を「ワンマン社長」に組み替えると、同じ話として理解できるというわけです。
輝いて見える成功例の後ろにある「屍」
ここまでの話を聞くと、中島さんは中東に日本のものを売り出すのはハードルが高いのではと感じます。鷹鳥屋さんは、それでも売れているものはある一方で、その背後には大量の失敗があると釘を刺します。
売れて生き残ってるものは輝いて見えちゃうので、うまくいってるなって思うかもしれませんけど、その後ろに大量の残骸が転がってる。
鷹鳥屋さんは、現地の大使館の人たちと「あの会社、やばいことになってますね」と経過報告を共有し合うこともあると明かします。成功例だけを見て判断する危うさが浮かび上がります。
うまくいく企業の共通点は「グローバルで鍛えられている」
では、逆にうまくいく企業や商品の特徴は何か。鷹鳥屋さんの答えは明快です。
北米・ヨーロッパ・東南アジアで戦い、「残るのはインド、中東、アフリカだけです」と言えるような企業は、すでに外で鍛えられていると鷹鳥屋さんは説明します。
外で散々戦って鍛えられてるので、慣れてるんですね。中東で削られていく体力のバッファーが大きいので。
つまり中東は、進出の順番として後ろになる市場だということです。そこへ一番に挑むのはハードルが高い、と中島さんも受け止めます。
一本釣りで最初から中東に行き、成功した事例もあると鷹鳥屋さんは補足します。ただしそれはレアケースで、大きなパトロンに引き上げられたり、国内で圧倒的に強く海外から見初められたブランドに限られるといいます。
「なんで中東に行くんですか?」——金持ちだから、という動機の危うさ
片山さんは、いいものを作る日本の中小企業が中東に進出する夢を見られないかと問いかけます。しかし鷹鳥屋さんの反応は逆でした。
逆に私は、そういう人たちに「なんで中東行くんですか?」って聞いちゃうんですよ。
その動機の根底に「やつら金持ちだから高く買ってくれるだろう」という売上目当ての発想があるなら、鷹鳥屋さんは真っ向から否定します。そういうマーケットではないというのが一貫した立場です。
一方で、東南アジアや北米、ヨーロッパで地道に鍛え、「残りは中東」というノリなら、むしろ強く勧めると鷹鳥屋さんは言います。動機と順序が問われているのです。
テストマーケットとしてのドバイの立ち位置
片山さんは、ドバイでネイルショップを開いた知人がうまくいっているという話を挙げ、ドバイは他と違うのかと尋ねます。鷹鳥屋さんは、ドバイを東南アジアのシンガポールに例えます。
ドバイは、東南アジアでいうシンガポールみたいなところなので、先んじていろんなトレンドや新しいもの、ちょっと高くてもなんとかなるっていうところはあるんです。
ただし、ドバイの奥のUAE、さらにサウジアラビアと西の大きな市場へ発展していくのは、規模の経済もあって大変だといいます。和牛が北米・ヨーロッパ・中国・東南アジアと広がった末に中東へ来るように、順番はどうしても後ろになると鷹鳥屋さんは説明します。
その上で、ドバイは点として試験的に取り組むのに向いた街だと鷹鳥屋さんは評価します。
ドバイは、いろいろ試験的にやるにはすごくいいサンプルケースの街なので、テストマーケティング兼ねてやっていこうっていうのは、私は正しいと思います。
「遠くて遠い国」中東と、鷹鳥屋さんの肩書きの由来
一連の話を経て、保呂田さんは中東を「近くなりたいけど遠い」市場だと改めて感じます。鷹鳥屋さん自身も、その距離感を独自の言葉で表現します。
俺、(中東を)遠くて遠い国っていつも言ってます。
そのアンバサダー的な鷹鳥屋さんの肩書きにも、意外な由来がありました。「中東で一番有名な日本人」と言わなくなった理由を明かします。
中東で一番有名な日本人って2018年から言わなくなったんですよ。岩井大使っていうすごい大使がいて、あっという間にフォロワー数を抜かれちゃって。
そのため、今は「中東で一番有名な日本人サラリーマン」「中東で一番有名な大分県民」と名乗っているといいます。肩書きの背景にも、鷹鳥屋さんらしいユーモアがにじみます。
ダメ出しできる人が信頼される、という逆説
番組の締めくくりとして、中島さんが「ナカジマノート」で今回の学びを整理します。国内でも、大阪の会社が近場から段階的に広げるように、いきなり大きな市場へ飛び込むのはハードルが高いと指摘します。
それにもかかわらず、「お金を出してくれるのでは」というイメージにとらわれ、順序を飛ばして中東を目指す企業が少なくない、と中島さんは振り返ります。ビジネスのプロであっても、なんとなくいけると思って失敗する例が多いのだと受け止めます。
片山さんは、国内でも海外でもブランディングの本質は同じだとまとめます。遠くて遠い中東をどれだけ理解できるかが問われ、その理解の姿勢はどの国にも共通するというのです。
地元の大阪から東京へ、東京から世界に、世界から中東へっていうステップを踏めば、無理ではない。逆に言うと、ステップを踏まないとリスク高いよねっていう話にもなる。
そして話は、鷹鳥屋さんの「やめておいた方がいい」と言える姿勢に戻ります。片山さんは、それが自分の仕事を減らすことにもなると笑いつつ、だからこそ信頼できると語ります。
鷹鳥屋さんは、自分がなぜここまで率直に言えるのかを、立場の身軽さから説明します。会社の看板を背負っていないからこそ、遠慮なく言えるというのです。
どこかの会社や何かの代表だったら、その代弁になってイメージがついちゃう。でも私はもう一人で根無し草みたいに中東を漂ってるので、言いたい放題言えるんです。
耳障りのいいことしか言わないコンサルより、はっきりダメ出しできる人のほうが信頼される。この逆説が、ブランディングの本質にも重なる後編の着地点となりました。
まとめ
中東ビジネスは王族・財閥のトップダウンで動くため、「何を売るか」以上に「誰を通して、誰から買うか」が結果を左右します。金持ちだから売れるという動機ではなく、グローバルで鍛えられた企業が順序を踏んで挑むべき「最後の市場」であること、そしてダメ出しできる人こそ信頼されるという逆説が、ブランディングの本質と重なって語られました。
- 中東はボトムアップがほぼなく、意思決定権を持つトップにどうアプローチするかが最大の課題になる
- 「王族と繋がってる」と自分から誇る人ほど信用できず、率直に良し悪しを言える人が信頼される
- 成功例の後ろには大量の失敗があり、グローバルで鍛えられた企業ほど中東でも生き残りやすい
- 「金持ちだから売れる」という動機は否定され、地元→国内→グローバル→中東という順序が重要
- ドバイはシンガポールのようなテストマーケットとして機能し、試験的に取り組む価値がある






