「ブランディング動画」って結局、何なのか
この回のテーマは「ブランディング動画とは何か」です。片山さんが「わかりたい」と持ち込んだ話題で、リサーチしてみたら思っていたことと全然違った、と切り出します。
片山さんによれば、ブランディングを勉強している人ほど、ブランディング動画を「情緒的な動画」だと思いがちだといいます。機能を説明する動画ではなく、雰囲気やエモさで訴える動画というイメージです。
一方、平野さんが認識しているブランディング動画は少し違います。会社を綺麗に撮って「こういうことを発信しています」と伝える、未来志向のイメージ映像のようなものだと話します。
なんか俺が認識してるブランディング動画って、未来の我々みたいな、すごいそういうイメージがあるけど。
片山さんは、映像コンテンツが誰でも作れるようになったここ10年ほどで、「ブランディング動画」というワードが一人歩きしてきたと指摘します。おしゃれで、かっこいい音楽が流れ、商品ではなく雰囲気を伝えるもの、というイメージです。
自社の実績分類で揉めた「線引き」の話
片山さんは、この定義の曖昧さを自社でも経験しています。動画制作の実績を事業サイトに載せる際、その動画を「商品紹介」「会社紹介」「ブランディング動画」のどこに分類するかで社内が揉めたといいます。
揉めた理由は、線引きがグラデーションになっていることでした。商品を説明しているから商品動画にも見えるし、会社の人が出ていてトーンがエモいからブランディング動画にも見える、というわけです。
ここで平野さんが「トーンがエモい」とはどういう状態かを尋ねます。片山さんは、感情を掻き立てる方向に振っていることだと説明します。
なんかこう、感情を掻き立てるのに振ってる。
絵として分かりやすい例として、片山さんは一眼レフカメラで撮り、じわっと動いて背景がボケている映像を挙げます。ただ、こうした見た目の要素だけでは線引きは曖昧なままです。
結局、片山さんは「情緒的要素が多めに入っているから、これはブランディング動画にしよう」と決めたそうです。しかしリサーチの結果、その判断は半分正解で半分間違いだった、と振り返ります。
アパレルの立ち上げで起きた「役員会のシーン」
片山さんは、プロデューサーとしてがっつり入った新アパレルブランドの立ち上げの体験を語ります。担当役員から、世界観を伝える動画がないと商品はただのクソになる、魂を込めてほしい、と本気で頼まれたそうです。
(役員が)この世界観を伝える動画がないと、これらの商品はただのクソになるんですよ。だから魂を込めてほしいんですよ。
機能だけでは競合と変わらない、だから世界観がないと死ぬ。そうした強い要望に、片山さんたちは映像美、音楽、ストーリーを徹底的にこだわって応えました。完成した動画には、担当役員も「これ以上正解はない」と確信してくれたといいます。
ところが、その動画を役員会でプロジェクターに映して流したところ、終わった後は沈黙だったそうです。片山さん自身はその場にいませんでした。
沈黙を破って、会長や別の役員たちが放った言葉が、この回の核心をつきます。
片山さんは、これは作品の質の問題ではないと言います。意地悪ではなく率直な感想だからこそ、余計にきつい。経営者として投資対効果を求める、まっとうな質問だったと振り返ります。
つまり、片山さんと担当役員は「世界観=商品の命」と信じていた一方で、他の役員は「機能や価格が商品の価値で、世界観はプラスアルファ」だと考えていました。この前提のズレを埋めないまま動画を見せたことが、片山さんの言う大失敗です。
(社内の)前提がずれまくってて。このズレを埋めにいきなり動画を見せたっていうのが大失敗。
動画自体は間違っていませんでした。今も店頭で使われ続け、お客さんの反応も良く、売上にもつながっているそうです。問題は社内の合意形成のプロセスが弱かった点にあります。
なぜ日本の制作現場は「測定」を避けてきたのか
平野さんは、プレイヤーとして現場でも似た経験があると話します。最初の担当者と決めた内容が、別の人や会社に持ち帰った時点で「全然違うものにしてください」とひっくり返されることがある、というものです。
片山さんは、その背景に日本の制作現場の構造的な理由があるのではないかと見ています。長いこと役割分担が固定され、戦略は代理店や発注者側、制作はあくまで作るもの、という形だったといいます。
そのため、成果設計や効果測定は制作の守備範囲の外にあり、アウトプットを納品して止まるのが当たり前でした。だからこそ、制作側からKPIの話を始めると地雷になりやすいと片山さんは言います。
KPIって何ですか?
KPIはKey Performance Indicator、日本語では重要業績評価指標です。最終目的を達成させるためのプロセスが順調かどうかを、定量的に測定するための中間指標を指します。番組では、平野さんの番組の視聴率や、ポッドキャストの視聴完了率が例に挙げられました。
片山さんは、制作側がKPIの話をすると「制作のくせに生意気」「責任取れるのか」といった反応を招きやすかったと説明します。これまでの日本社会では、踏み込みづらさがあったわけです。
さらに片山さんは、発注側も実は測れない方が都合が良かった時期があると指摘します。KPIを決めた瞬間から達成・未達が出て、未達なら担当者の判断ミスになる。それを組織が嫌がる、という構図です。
境界線は「映っているもの」ではなく「ゴール」だった
では、どうすればよかったのか。片山さんの結論は明快です。ブランディング動画かどうかの境界線は、映っているものではなく、ゴールすなわちKPIにある、というものでした。
その根拠として片山さんが挙げたのが、世界的な調査会社ニールセンによる定義です。ブランディング動画とは、エモい動画でも売上を上げる動画でもなく、好意や信頼を高めることをゴールにしている動画だといいます。
平野さんが「端的に言うと、好きになってもらうこと」と言い換えると、片山さんも同意します。動画を見た人が「このブランドいいな、信頼できそうだな、次の候補に入れておこう」と思えたら、それでOKだというわけです。
例として片山さんは、以前の回でも触れたオニツカタイガーの動画を挙げます。JALの機内モニターで流れる映像は、靴の説明も言語もなく、ただかっこいい。それでも「なんかいいな」が達成できていればいい、と話します。
動画そのものの表現を見て、これブランディング動画だよね、商品紹介動画だよね、っていうのは、そもそも考え方の軸として間違ってた。
保呂田さんは、ナイキのブランド動画で記憶に残っているものを紹介します。スウッシュのマークがプレイヤーの胸や足のロゴとオーバーラップし、それを起点に次のスポーツのシーンへ切り替わっていく演出で、頭に強く残ったといいます。
片山さんは、それこそが好感度が上がっている状態だと応じます。「信頼できそう」「自分にバイブスする」と響いていれば、ブランディング動画として機能しているという整理です。
動画効果を測る「3階建て」の考え方
片山さんは、動画の効果を「3階建て」で整理します。下から順に段階を登っていくイメージです。
この整理でいうと、ブランディング動画が主に狙うのは2階です。2階を飛ばしていきなり3階を狙うと、たとえ効果が出ても何が効いたのか分からなくなる、と片山さんは指摘します。
では、クライアントが「ブランディング動画で売上を上げたい」と言ったらどうするか。片山さんは、経営者として言いがちな正しい感覚だとしつつ、恋愛にたとえます。
(それは)初回のデートで、子供2人の家庭が欲しいって言ってるのと一緒っていうことですね。
つまり、いきなり3階のゴールを求めるのではなく、「この動画で2階の何を動かすのか」を整理していくと、会議の雰囲気も変わり、実現の可能性が上がるという考え方です。
予算がなくても効果を可視化する方法
現実的な壁として、平野さんは「効果測定の予算がない会社も多いのでは」と尋ねます。片山さんは、測定にお金を出せないケースは非常に多いと答えます。
理由の一つは、成果物が目に見えるかどうかの差です。150万円で動画ができたとは言えても、50万円の効果測定では「何が残るのか」と稟議が通りにくい、という構造があると片山さんは説明します。
保呂田さんは、そもそも動画制作自体にも費用対効果を強く問われる現実を挙げます。「もっと安くならないの」と平気で言われる、というのが現場の実感です。
そこで保呂田さんが使うのが「心の予算」を聞くという方法です。相手が本当に出せる金額を確かめる、という考え方を、料理にたとえて表現します。
1000円しか持ってない人に、ミシュラン2スターのお料理出せないじゃないですか。
一方で保呂田さんは、予算が少なくてもエモい映像を作る手段はあると言います。フランス料理が技術料であるように、映像も予算を少なく仕上げるプロデューサーの技術が効くという見立てです。
保呂田さんによれば、この10年で立ち上がった「一眼レフでボケを作り、じわっと動かす」タイプの映像制作は大流行しましたが、素人も多く、その後は多少淘汰されたといいます。
保呂田さんが重視するのは、アイデアやバズる力で、Z世代を含むターゲットにちゃんと届き、後から診断したときに数字が出ているかどうかです。昔のように大きなカメラで撮って満足する時代ではない、という指摘です。
(テレビの人は)ENGカメラ担いで撮ってるだけで、この人仕事できるんだな、って(思われてた)。上がりの画見て全然良くない。
測定はクライアント側でもできる
片山さんは、話の軸を改めて整理します。安く成果物を作ることは可能だが、ポイントは効果測定にもちゃんと費用をかけるかどうかだ、というものです。
測らずに作って終わると、次年度の予算会議で「去年の動画、効果ありました?」と聞かれ、「多分ありました」で終わってしまう。すると予算が削られる負のループに入る、と片山さんは危惧します。
保呂田さんは、自身の仕事からインスタグラムのリール動画を例に挙げます。いいねやコメント、シェアといったエンゲージメントで視聴者とコミュニケーションを取る動画で、10年前のブランド動画とは違う地点に来ていると話します。
保呂田さんによれば、昔は「100万ビューですごい」と言っていたのが、今は100ビューでもそこから100万円の売上が上がれば、それは成功だといいます。数字の大きさそのものではなく、成果につながったかが問われるわけです。
重要なのは、こうした測定はクライアント側でも、やろうと思えばできるという点です。ただ、その方法を知らない人が多いと保呂田さんは指摘します。
保呂田さんが挙げる測定手段は、いくつかあります。
- YouTubeのアナリティクスで視聴維持率や離脱ポイントを見る
- GoogleアナリティクスやGA4と連携し、動画経由のサイト流入を測る
- 動画を見た人に簡単なアンケートを取る
保呂田さんは、昔は誰がどう取得したのか曖昧な視聴率データが中心だったのに対し、今はどんな年代・地域・趣味嗜好の人が何分見て、その後どこへ飛んだかまで、掘ろうと思えばいくらでも掘れると話します。
F1、F2、どんな年代のどんな地域の人が、どんな趣味趣向を持って何分視聴して、そこからその後どこに飛んで、とかね。
500人以上にアンケートを取れば一応のデータになるといった具体策も挙げつつ、保呂田さんは、50万円ほどの予算をかけずに測定する方法はいろいろあるのだから、やってみた方がいいと勧めます。
「何を測り、何を測らないか」を決める覚悟
一方で保呂田さんは、数字が正義になりすぎる怖さにも触れます。アパレルの回で語られた「お客さんの反応が良くなった」という手応えは、KPIシートのどこに書けばいいのか難しい、という例です。
だからこそ片山さんが最も大事だと考えるのが、何を測り、何を測らないのかをちゃんと決めてやる、という姿勢です。ここまでの話を、片山さんはもう一度言い直します。
保呂田さんは、それをよりざっくり言い換えます。何を作ってもいいけれど、効果がどんな風に出たかが見えるようになって初めて、ブランド動画としての価値がある、という理解です。
ちゃんと効果がどんな風に出たかっていうのが見えるようになって、初めてブランド動画としての価値ってあるよね、っていう意味でしょ。
平野さんは全体を整理し、何をゴールにするかがすべての起点だとまとめます。無料でできる測定から始めてもいいし、何を測るかと同じくらい、何を測らなくていいかを決めておくことも大事だ、という着地です。
社長コンテンツはブランディングになり得るか
最後に保呂田さんは、社長が踊る、ご飯を食べる、いたずらされるといった、コストをかけずに社長自身が有名になるコンテンツを取り上げます。今の時代なら、零細企業の社長でも十分あり得る話だといいます。
それがブランディングとして成立するのか。保呂田さんは、自分たちが考えるブランディングはコミュニケーションだから、と答えます。マーケティングのように「今買ってください」とはやっていない、という区別です。
(視聴者が)ここの社長、なんでいつもこんな美味しそうなご飯食べてるんだろうと気になって見ちゃって、会いたいなぐらいに思ってもらえたら、一つのブランディングとして正解かもしれない。
そこから保呂田さんは、この回の問いを投げかけます。あなたの現場では、何を測る覚悟がありますか、というものです。
番組では、次回に向けて自分たちのブランディング動画を実際に作り、どうKPIを設計して検証したのかを見せてみよう、という宿題も生まれました。実験室らしい締めくくりです。
まとめ
この回は、「ブランディング動画=エモい映像」という広く共有された誤解を、ゴールとKPIの視点から解体する対話でした。境界線は映っているものではなく、好意や信頼を高めるという目的にあり、それを測る覚悟までがブランディングの一部だと語られています。
- ブランディング動画の定義は、エモさや売上ではなく「好意や信頼を高めることをゴールにしているか」で決まる
- 動画の効果は「接触・感情/認知・行動」の3階建てで整理でき、ブランディング動画が狙うのは主に2階
- 日本の制作現場は役割分担の構造から効果測定を避けてきたが、KPIを持ち込むと空気より数字が強くなる
- 効果測定はクライアント側でも可能で、YouTubeアナリティクスやGA4、アンケートなど低予算の手段がある
- 大事なのは「何を測り、何を測らないか」を先に決めること。手応えのように数字にしづらい価値の扱いも含めて設計する






