採用イベント「スタパラ」で感じた、偶発的な出会いの価値
本題に入る前に、二人は直近で参加した採用イベントの話題から始めます。U-Trustが運営するスタートアップパラダイス、通称スタパラに、immedioとして初めてスポンサー出展したといいます。
当日は雪の土曜日にもかかわらず、東京ミッドタウンの会場に登録1000人以上、来場者は1000人弱が集まったと振り返ります。スタートアップ十数社がブースを出し、求職者が集まる形式で、浜田さんはピッチも行ったそうです。
雪の土曜のミッドタウンに何人来んねんと思ったら、めちゃくちゃ来てましたね
会場は程よく狭く、通りづらいほどの密度だったと二人は話します。その場でカジュアル面談の予約が取れたり、顧客になり得る企業と商談のアポが取れたりと、採用と営業の両面で成果があったといいます。
清沢さんが特に価値を感じたのは、リファラルやスカウト、エージェント経由では出会えない層と偶発的に出会える点でした。転職を今すぐ考えているわけではない潜在層や、外資系コンサル、HRの経験者などと接点が持てたと話します。
普段何--出会わないだろうなって人とも偶発的に出会えて、思わぬつながりになるのが非常に新鮮で、めちゃくちゃいいなと思いましたね
そもそもSeismicとは何か、コンテンツ管理を超えたイネーブルメントの中身
ここから本題の海外ユニコーン解説に入ります。今回取り上げるのは、セールスイネーブルメント ── 営業活動を効率化・標準化するための仕組みや支援全般。営業資料の管理、研修、商談データの活用などを含みますカテゴリーでユニコーンとなったSeismicです。日本でいうとナレッジワークのようなカテゴリーリーダーだと清沢さんは位置づけます。
浜田さんは、未上場クラウド企業のトップ100社を選ぶCloud100に、SeismicとHighspotというセールスイネーブルメントの二社が常に載っている点に以前から注目していたといいます。
セールステックってそんなにこうユニコーン多くなくて(中略)でも二社載ってんだみたいな。このイネーブルメントってそんな儲かるのかなってずっと気になってましたね
Seismicの機能は、大きく内向けと外向けに分かれます。内向けは、営業が使う資料などのアセットを最新の状態で全体共有するコンテンツ管理と、オンボーディングを含むラーニング機能です。
外向けは、資料を使ってお客様とやりとりするデジタルセールスルーム ── 商談後の資料共有ややりとりをオンラインの専用空間で行う仕組み。誰が資料を見たかを営業が把握でき、ルーム内でチャットもできますです。商談後にPDFを送るだけでは読まれたか分からないため、リンク経由で資料を見せ、閲覧状況の把握やルーム内での連絡を可能にします。
浜田さんは、単なるストレージとの差分としてLiveDocsという動的にドキュメントを作る機能を挙げます。CRMと連携し、過去のやりとりや顧客の属性に合った事例を反映した資料を自動生成できる点が強みだと推測します。
清沢さんは、Seismicがただのコンテンツ置き場ではなく、レベニューに貢献するプラットフォームとしてポジショニングしている点を整理します。
ARR数百億円、時価総額4500億円規模のユニコーンの現在地
続いて、2026年初頭時点の事業規模の話に移ります。ARRは1億ドルを超えているとされ、ソースによっては2〜5億ドルと幅がありますが、いずれにせよ数百億円の売上規模で、まだ1000億円には届いていないと浜田さんは説明します。
前回調達時のバリュエーションは30億ドルで、日本円で大体4500億円ほどの時価総額にあたります。清沢さんは、これは日本のSaaS上場企業の中でもトップティアの水準だと指摘します。
今だったらもう日本のトップSaaSになっちゃいますよね
調達はシリーズGまで、A、B、C、D、E、F、Gと7回のラウンドを重ねています。長期で大きく資金を引っ張り、グロースへ投資し続けてきた企業だと二人は捉えています。
トップ銀行の9割を押さえた、デイワンからの金融エンプラ特化
Seismicのユニークネスは顧客ポートフォリオにあると清沢さんは言います。累計2000社以上を抱えつつ、エンタープライズに特化して市場を席巻してきた点が特徴です。
浜田さんが試算すると、累計2000社で売上が仮に4億ドル規模だとすると、1社あたり年間3000万円ほど、つまりACVが数千万円レベルになります。加えて年間1億円ほど支払う顧客が100社ほどいるとされ、エンタープライズに深く刺さっていることが分かります。
さらに特徴的なのは、SMBからエンタープライズへ段階的に上がったのではなく、デイワンからいきなり金融のエンタープライズを狙いに行った点です。米国のトップ銀行のうち9割がSeismicを使っているといいます。
浜田さんは、金融は商品が複雑化し、コンプライアンスの問題も大きいため、ペインが明確に大きい領域だったと分析します。清沢さんも、彼らのウェブサイトで金融のページが最上位にあることを挙げ、金融、製造、テクノロジー、ヘルスケアといったエンプラ必須の業界を押さえている点を指摘します。
自己資金で貫いた最初の3年、カテゴリーがない中での事業立ち上げ
次に創業の経緯です。Seismicの創業は2010年で、16年前にあたります。カリフォルニア西海岸で5人の共同創業者によって設立され、CEOはダグ・ウィンターです。
ダグ・ウィンターはエンジニアリングのバックグラウンドを持ち、MITを1996年に卒業してMBAも取得しています。Seismic以前にもドキュメント自動化サービスを共同創業しており、親和性の高い領域でドメイン知識が深かったと二人は見ています。
創業した2010年当時は、クラウドの台頭とiPadの発売という大きな流れが重なったタイミングでした。CRMは台頭し始めていた一方、営業がお客様に提示する資料をどう扱うかという課題が残っていたと浜田さんは振り返ります。
ちょっと金融のその提案書にDropboxに入れる気は全くしないよねっていう感じだった時に、なんかお客さんにセキュアにデータを置くのってどうすんの?みたいな話はあったのかなと
当時の金融営業の現場では、重いラップトップではなくタブレットでプレゼンするニーズが生まれていましたが、セキュリティの観点で資料の持ち出しに苦労していました。ダグ・ウィンターはここに大きなペインを見出したと清沢さんは説明します。
さらに面白いのは、最初の3年間である2010年から2013年は、ブートストラップ ── 外部資金に頼らず、自己資金や事業収益だけで経営を進めること、つまり自己資金だけの経営を貫いた点です。前職での経験から手元資金があり、プロダクトビジョンの解像度も高かったためだと二人は推測します。
背景には、当時セールスイネーブルメントというカテゴリー自体が存在しなかった事情もあります。投資家にピッチしても、CMSなのかCRMのアドオンなのか理解を得づらかったといいます。
数時間を数秒に、LiveDocsが証明したウェルスマネージャーのペイン
浜田さんは、Seismicが最初にカテゴリーを掲げるより、分かりやすいペインを持つ金融に行き、良いロゴを取ることに専念したと見ています。当時のストーリーを見ると、金融の中でもウェルスマネージャー、日本でいうプライベートバンカーのような層が対象でした。
富裕層向けの営業は顧客に直接会いに行くため、タブレットを持参します。そこにセキュアなデータを渡すのが難しいという、非常にピンポイントな課題を最初は解決していたといいます。
加えて、ウェルスマネージャーは提案書作成のために最新の市場データを集めるのにアナログで何時間も費やしていました。これをLiveDocsで自動化し、数時間から数秒へ短縮したことで実用性が認められたと清沢さんは整理します。
浜田さんは、日次や週次で変わる証券会社のおすすめ銘柄などが資料内で自動更新されるイメージだろうと補足します。清沢さんは、投資銀行の調査を一瞬でレポート化するSpeedaの初期のPMFに近いストーリーだと重ねます。
Seismicは、こうして初期のエンタープライズを獲得してから外部エクイティを調達し、セールスとマーケティングへの投資を加速しました。清沢さんは、売れる製品を作ってから資金を入れる手堅さに、創業者の堅実なビジョンを感じると述べます。
カテゴリービルディングみたいな、結構時間とお金がかかることをやりたいから、逆に、ある一定のPMFはもう担保しとくみたいな
清沢さんは、ナレッジワークの浅野さんがプロダクト作りに邁進し、正式リリース前から強いロゴのベータ契約を得ていたストーリーにも通じると重ねます。チャーンの少なさを担保してから世に出す点が近しいと二人は話します。
なぜSeismicは勝てたか、カテゴリーメイキングとポジショニング
ここからは、Seismicが勝てた理由の整理に入ります。マーケティング戦略として大きいのが、セールスイネーブルメントという言葉がなかったところから、そのカテゴリー自体を作りに行った点だと清沢さんは指摘します。
浜田さんは、業界レポートを出すだけでなく、経営においてそれがいかに重要かまで踏み込んだソートリーダーシップ ── ある分野で先導的な考えを発信し、市場や業界の議論をリードしていく立場や取り組みをしっかりやってきた点を評価します。
もう一つが、自社製品を単なるツールではなくプラットフォームとして位置づけるための命名です。「Seismic Enablement Cloud」という名称を採用し、Salesforceのような見せ方にこだわったと清沢さんは説明します。
浜田さんは、この裏側にはシャドーIT対策のストーリーがあると推測します。営業が便利さから勝手にDropboxなどを使うことはCIOにとってリスクであり、正規のクラウドを使えばコントロール可能だと訴える構図です。
技術的なモートとしては、動的にコンテンツを生成するLiveDocsの存在が挙げられます。セキュアで便利な正規のインフラであるというメッセージングと技術力の両輪で、必須の存在としてのポジションを築いたと二人は捉えます。
M&Aで攻めたSeismic、内製で守るHighspot、対照的な二強
競合との違いにも触れます。セールスイネーブルメント領域では、HighspotやShowpadとぶつかります。SeismicとHighspotは今もほぼ同サイズで、Seismicのほうがやや大きいとされます。
浜田さんによれば、狙う領域が異なり、Seismicは金融などゴリゴリのエンタープライズ、Highspotはテクノロジー企業寄りだったといいます。さらにM&A戦略も対照的で、Seismicは積極的にM&Aで拡大し、Highspotは内製主義でした。
金融などエンタープライズを中心に、積極的なM&Aで急速に拡大
テクノロジー企業寄りを狙い、内製主義で自前開発を重視
浜田さんは、以前取り上げたセールスエンゲージメント領域のOutreachとSalesloftにも同じ構図があったと振り返ります。Salesloftは買収戦略、Outreachはオーガニックに自分で作る戦略で、二強の差が大きかったといいます。
どちらが良いかの答え合わせは難しいと浜田さんは前置きしつつ、この領域ではスピード感を持って伸びたSeismicがやや勝っていると見ています。一方、セールスエンゲージメント領域ではオーガニックのOutreachのほうが状態が良いのではないかと話します。
SalesloftがDriftを買収した後にデータブリーチが起きサービスを止めた例を挙げ、M&Aは買う会社との相性やマネジメントを誤ると大事故になると浜田さんは指摘します。
M&Aはなんかうまくやればスピードで他を圧倒できるが、買う会社との相性とか、その買った会社のマネジメント失敗すると大事故になる
清沢さんは、HighspotのサイトでもソリューションのインダストリーがSeismicとほぼ同じ順番で並んでいる点に触れます。両社の切り出し方が近く、同じような領域へ収斂している様子がうかがえます。
コンテンツからラーニングへ、クロスセルで解約を防ぐマルチプロダクト
最後にマルチプロダクト戦略です。Seismicはプラットフォーム構想の中で、ポートフォリオを計画的に買収してきたと清沢さんは整理します。
浜田さんは、新しい領域へ進出するためのソーシャルセリング企業の買収と、競合に近い領域を取り込んで圧倒的シェアを狙う買収の両方をやってきたと説明します。2018年にはSaboという競合に近い会社を買収しています。
その結果、ARRは4億ドル規模へ急成長し、リテンション率は推定で90%と高い水準です。資料コンテンツから入り、ラーニングなど周辺の追加モジュールをクロスセルすることで、解約率を下げる好循環が生まれていると清沢さんは述べます。
さらにSeismicは、議事録のようなミーティング領域にも入ってきているといいます。OutreachがGongと同じミーティング領域へ進出したように、セールステック各社の領域が重なってきていると浜田さんは指摘します。
究極的にはSalesforceとSeismicさえあれば、特に他買わなくていいですよって世界観を作っていこうとしてるのかな
清沢さんは、ナレッジワークも去年5月にJamrolを買収し、商談情報をデータとして取り込む領域へ投資している点を挙げ、Seismicと近い戦略だと重ねます。
バーティカルに刺しきってからホリゾンタルへ、二人が見た学び
番組の締めくくりとして、浜田さんは今回の最大の学びを述べます。ホリゾンタルなツールでも、まずバーティカルを取るという定石の重要性です。
Seismicは金融という分かりやすいペインで業界の会社をほぼ押さえてから、もう一度ホリゾンタルへ倒し直してここまで成功しました。AI時代にまずバーティカルへ刺せと言われる中で、バーティカルで刺さりきってからホリゾンタルへというやり方もあると浜田さんは強調します。
清沢さんは、もう一つの共通点としてカテゴリーメイキングを挙げます。2010年当時にセールスイネーブルメントという言葉がなかったところから自ら定義し、市場のリーダーシップを確立した点は、Salesforceをはじめ多くのユニコーンに共通する取り組みだと締めくくります。
まとめ
Seismicは、セールスイネーブルメントというカテゴリー自体を作りながら、金融エンタープライズへの一点突破とM&Aによる拡大で市場を制したユニコーンです。明確なペインを起点に良いロゴを押さえ、そこからホリゾンタルへ広げる進め方は、AI時代の事業づくりにも通じる学びが多いといえます。
- Seismicは金融エンプラにデイワンから特化し、米国トップ銀行の9割を押さえた
- LiveDocsで提案書作成を数時間から数秒へ短縮し、初期の実用性を証明した
- 最初の3年は自己資金で貫き、PMFを担保してからエクイティ調達とカテゴリー創出に投資した
- 積極的なM&Aで拡大したSeismicと、内製主義のHighspotは対照的な二強を形成している
- バーティカルで刺しきってからホリゾンタルへ倒し直す進め方が、二人が挙げる最大の学びだった






