CEOと働く心得、そして起業家と経営者のバランス
冒頭では、清沢さんがnoteに公開した「スタートアップCEOと働く5つの心得」という記事の反響が話題になりました。
清沢さんによれば、直接メッセージが届くほど反響があったといいます。
「読めました、めっちゃ刺さりました」とか。そういうコメントもあったりして。
書かれる側の立場である浜田さんは、スタートアップにおいて起業家から経営者へと変わっていく難しさに触れます。
起業家から経営者になろうとすると、あまりにも違ったりとか、起業家の強みじゃないみたいな世界が若干あるなっていう時に、まだシリーズAだから、やっぱり起業家の強みでやっていかなきゃいけないなと。
浜田さんは、平時のCEOと戦時のCEOという対比も持ち出しました。平時は組織をスケールさせる戦い、戦時は一点突破を決めて自ら突っ込む戦いだと整理します。
そのうえで、AIの中でどう生き抜くかが問われる今のSaaSは「戦時」だと浜田さんは見ています。immedioは当時40人規模で、セオリー通りに組織の壁を意識していると厳しいのではないかという感覚を語りました。
しっかりマネジメントして組織をスケールさせていく戦い
一点突破するところを決めて、自分が将軍として突っ込んでいく戦い
清沢さんは、週末に会った友人の話として、経営層のアラインメントの重要性にも触れました。
CEOとナンバーツーが同じ景色を見てアラインしていないと、その下の組織は疲弊し、モメンタムも生まれないという指摘です。その手法としてエグゼクティブピアコーチング ── 経営層同士が一対一で対話し、関係性や合意形成を再構築していく手法。CEO対多数ではなく、一対一で経営チームを強くしていく発想とされますという概念を知ったと話しました。
今回のテーマ「Qualified」とはどんなサービスか
ここから本題の海外ユニコーン解説に入ります。取り上げるのは、2024年にSalesforceが買収したアメリカのスタートアップ「Qualified」です。
浜田さんは、Qualifiedをもともとチャットボットだと認識していたといいます。同じ営業用チャットボットの先行企業Driftの存在もあり、日本では難しいだろうと見ていたそうです。
AIが来て急にスイッチ入って、このQualifiedって会社めっちゃプロダクトも進化して、気づいたらSalesforceに買収されるっていう、傍から見てちょっとびっくりしたみたいな事例ですね。
では、Qualifiedは一言でいうとどんなサービスなのか。浜田さんは次のように説明します。
営業チャットボットがAIチャットに進化しましたっていうのが一言で、今はAI SDR、AIインサイドセールスっていうブランディングでやってる会社ですね。
サービスページには「Piper for Salesforce」とあり、Piperという名前が付いています。浜田さんによれば、これはパイプラインを増やすという意味を込めた擬人化された名前だといいます。
アメリカのこのAI SDRって擬人化するのが好きで、ジェニーとかアメリアとか名前つけがちなんですけど、Piperってちょっと変な名前で、多分そのパイプラインを増やすって意味でPiperっていう名前にしてるんだと思います。
Qualifiedができること、その機能と価値
Qualifiedが具体的に何をできるのか、浜田さんが機能を解説します。基本にあるのは「Qualified Conversations」というAIチャットツールです。
チャットの行き先として、ディスカウントやウェビナー申し込みといったオファーを提示したり、そのまま商談を設定したりできます。
さらに外部データと連携できる点も特徴です。浜田さんは、アメリカで進んでいるIPアドレスから企業を特定する ── ウェブサイトへのアクセス元のIPアドレスをもとに、どの企業からの訪問かを推測する仕組み。コンバージョン前の匿名の訪問者にも、企業単位でアプローチできるようになります仕組みを例に挙げました。
コンバージョンしてないお客さんでも、多分この人コカ・コーラから来てるなとかわかるんですよね。そのコカ・コーラから来てる人に接客するみたいな。ウェブ上だけど、ちょっとABMできますよみたいなものが基本機能で。
そして最近は、AIチャットの部分が進化しています。かつてはチャットボットだけだったものが、人っぽい対応や画面を操作するような体験へと変わってきているといいます。
つまりQualifiedは、ウェブ上の対話型チャットボットから入り、インテントの領域を経て、AIエージェントの領域へと機能を広げてきたと清沢さんは整理しました。
事業規模と豪華な顧客リスト
Qualifiedは2018年創業で、まだ10年経っていません。売上は公表されていませんが、浜田さんが規模を推計します。
直近の調達は2022年の9500万ドルで、当時の評価額は5億ドル程度だったとされます。それを踏まえると、今回のSalesforceによる買収額は10億ドルから15億ドル、日本円で1500億〜2000億円ほどと言われています。
買収にはプレミアムが乗るため、そこから逆算すると売上は50億〜100億円程度あったのではないか、と見る人が多いといいます。顧客は500社以上で、1社あたり1000万円ほど取れていれば整合するという見立てです。
顧客像としては、Box、Asana、GEヘルスケア、Brexなどが名を連ねます。
メガベンチャーって感じですよね。これ見てると。
Qualifiedが公表している実績値も紹介されました。予約されたミーティング数は70万件以上、生成されたパイプライン総額は35億ドル、会話数は300万回に上るといいます。
BtoBマーケの前線が生んだ創業ストーリー
創業者はKraig Smith(クレイグ・スミス)さんで、シリアルアントレプレナーです。浜田さんが経歴を説明します。
最初の会社はGoogle AdWordsとSalesforceを結びつけるアプリを提供し、2006年にSalesforceに買収されました。この人物はその後Salesforceで出世し、CMOを務めたといいます。
さらに2013年にSurveyMonkeyと似た領域のサービスを立ち上げ、2019年に買収されています。その直後に立ち上げたのがQualifiedでした。
シリアルアントレプレナーであり、Salesforceのエグゼクティブ経験も持つという稀有な創業者です。だからこそQualifiedはSalesforceとの連携が深く、エコシステム内での位置づけを重視する戦略になったと清沢さんは指摘します。
創業のきっかけは、BtoBマーケティングの前線で感じたペインにありました。浜田さんはこれをimmedioとも近いと話します。
ウェブリードすごく大事になってきたのに、実際のインサイドセールスのフォローアップまで数時間とか、下手したら数日かかってるよねと。
浜田さんによれば、セオリー的にはリードへの対応は90秒で行う必要があるものの、人間では難しい。そこを自動化する手段として、Qualifiedはチャットというインターフェースを選んだといいます。
コロナが決めた転換点、爆発的な成長
QualifiedがPMFしたのは、コロナ禍の2020年です。パンデミックでリアルなイベントが消失し、BtoB企業の商談チャネルが一気にデジタルへシフトしたことが大きな転換点になりました。
浜田さんは、アメリカでもBtoBマーケティングは長らくイベント中心だったと振り返ります。
コロナでイベントできなくなって、あれ、みたいな。本当にウェブサイトに頼るしかないみたいな時に、でも24時間対応できないからなんかいるよねっていうところで、割とグッと売れた。
この流れの中で、企業はウェブサイトを単なるカタログではなく、直接商談を作る場へと進化させざるを得なくなりました。清沢さんは、この「Why Now」の強さを指摘します。
結果、Salesforceと完全にインテグレーションしたQualifiedは市場ニーズと合致し、2021年度の売上高は前年比800%増を記録しました。
NRR(継続率)は175%と、清沢さんが「スノーフレーク以上」と評するほどの水準でした。AdobeやVMware、SurveyMonkeyといったエンプラ顧客の獲得も、PMFの確固たる証明になったといえます。
なぜQualifiedはDriftをまくれたのか
競争の激しい領域で、Qualifiedはなぜ勝てたのか。浜田さんは、先行して市場を切り開いていた競合Driftとの比較で説明します。
Driftはコンバセーショナルマーケティングを先に打ち出し、PLGっぽい展開でユーザー数を多く取っていました。それをQualifiedがまくった形になったといいます。
勝ち筋の一点目は、Salesforceとの深いデータ連携です。本格的に商談を作るには、チャット上で会話するだけでは足りないと浜田さんは言います。
メアドを聞いたら、「あ、Salesforceにこういう過去の履歴ありますね」みたいな。「このあなたの営業担当ともう一回商談設定しますか?」とか、やっぱできないといい商談作れない。
それをやりきったのがQualifiedでした。一方Driftは、MarketoやHubSpotなど幅広く連携できたものの、一社と深く組むことをしなかったといいます。
さらにDriftは早々にファンドのVistaに10億ドル以上で買収され、そこでプロダクトの進化が止まりました。対照的にQualifiedはSalesforce連携とAI対応を進め続けた結果、今では売上でも上回っているのではないかと浜田さんは見ています。
SaaSでは多くのツールと連携したくなるものですが、あえて特化することが強さにつながる、という清沢さんの問いに、浜田さんは同意します。
Salesforceユーザーはお金があるから単価も取れるし、Salesforce連携を強くしてるとSalesforceの営業担当が売ってくれるっていうところがあるんで。
まずはSalesforce連携をやりきってから、HubSpotやMarketoでいいという判断だったのだろうと浜田さんは分析しました。
Salesforceとの深いデータ連携を一社にやりきり、AI対応も進め続けた。単価が取れ、Salesforceの営業も売ってくれた
幅広く連携できたが一社と深く組まず、Vistaに買収された後プロダクトの進化が止まった
結果として、Qualifiedはウェブ上の行動データをSalesforceのリードや商談レコードと遅延なく同期し、ルーティング ── 問い合わせや商談を、条件に応じて適切な担当者へ自動的に振り分ける仕組み。Salesforce上のオーナー情報に基づいて営業担当へ接続しますで適切な営業担当へ接続できました。ここで一気にDriftの市場を奪ったのが大きなポイントだと清沢さんは整理します。
マルチプロダクトとABMへの振り切り
マーケティング戦略の面では、マルチプロダクト化とABMへの振り切りが挙げられました。
Qualifiedは、Salesforceのような自前データだけでなく、6senseやClearbitといった外部の企業データと連携しました。これにより、コンバージョン前の訪問者でもどんな人かがわかるようになります。
ウェブサイトでコンバージョン前のお客さんが来てても、どんな人かわかりますよみたいな。結構そっち側のABM系の機能に振り切ったみたいなところはうまくいった。
自前で全部やるのではなく、外部データを取り込みながらプロダクトに昇華させていた点が特徴だと清沢さんはまとめました。
Piper登場、AIエージェントの波に乗る
2024年には、全プロダクトを横断して自律的に稼働するAIエージェント「Piper」が登場します。QualifiedのLPにも「Speak with Piper」と大きく打ち出されました。
このAIエージェント化の波に乗って、バリュエーションもぐっと上がっていったといいます。浜田さんは、その背景にある市場の全体感を説明します。
AIが置き換える職種として、開発、カスタマーサポートに続いてインサイドセールスが挙げられます。ただし、アウトバウンドは思ったほど伸びなかったといいます。
みんなAIアウトバウンドやるから、もうインボックスパンパンになって誰も見ないみたいな話だったりとか、アメリカだと詐欺の懸念から電話も結構規制されてたりする。
そうした中で、ウェブサイト側はAIと非常に相性がよく、結果としてインバウンドのAI SDRが市場で一番伸びた、と浜田さんは指摘します。Qualifiedはその波にきれいに乗ったといえます。
この勘所を突けた背景には、創業者がSalesforceのど真ん中でCMOを務め、大きな流れを見つつも張るべきところに一点突破していく力があったと清沢さんは見ています。
ファウンダーのムーブだなって感じですね。
Piperは実際どう動くのか、ハルシネーションは
続いて、AIエージェントPiperがどんな仕組みで動いているのかに話が移ります。
浜田さんによれば、Piperはウェブサイトなどを読み込んで商品知識を理解し、一定のルールに基づいて顧客に対応します。興味を示した顧客には商談や資料へ、といったルールに沿って可能な範囲で適切に回答する仕組みだといいます。
さらに、対応履歴を総合して「こういう動きをした顧客は熱いかもしれない」という内部的な資産も出せるのではないか、と浜田さんは推測しました。
ウェブサイトでの見せ方は顧客によって様々です。Qualified自身のサイトはショールームのように前面に出す一方、事例企業のBrex(アメリカ版Upsider)では右下にちょこんと表示されるといいます。
Qualifiedのウェブサイトは、自動車屋でいうとショールームみたいな感じで、最先端の1000万円の車に乗ってるみたいな感じで。
気になるハルシネーションへの対応について、清沢さんが質問します。24時間対応できても、本当に正しく回答できているのか、どう検証するのかという問いです。
チャット履歴を見れ、全部取れるようになってて、チャット履歴の中でその良くない回答があればフィードバックとして蓄積できるっていう感じですね。
SaaStrの実績で見るPiperの費用対効果
Piperの有用性を示す例として、SaaStrのJason Lemkinさんによる自社導入の公表データが紹介されました。
90日間の結果は、70万セッション、有効な会話1000件以上、AI経由で直接予約された会議は数百件以上、そこから成約した収益は100万ドル以上に上りました。
浜田さんは、この数字をリアルに評価します。70万訪問に対して会話が1000件なので、会話自体が膨大にあるわけではない。ただし会話になれば、そこから10%のアポが取れている計算です。
人間もですね、ちゃんとした電話からアポ取れる確率って、感覚2割くらいじゃないですか。その半分くらいの率を自動で取れてるみたいな意味でいくと、このくらいの成果出ると投資できるよねっていう水準。
ただし清沢さんは、前提として一定のトラフィックが必要だと補足します。SaaStrのように90日で70万セッションある規模だからこそ成果が出やすい、という違いはあるという指摘です。
なぜSalesforceはQualifiedを買ったのか
最後に、SalesforceがなぜurQualifiedをQualifiedを選んだのかに触れます。浜田さんによれば、そもそもQualifiedはSalesforce Venturesの投資先でした。
Salesforceはエージェントフォース ── Salesforceが展開するAIエージェントの取り組み。CRM上のデータを活用し、営業やマーケティングの業務をAIが支援しますで一点突破を進めています。ただ、Salesforce上に眠るリードの掘り起こしといったユースケースは、いいものの地味だという課題がありました。
一方で、ウェブサイトに新しく来るトラフィックには大きな価値があります。しかしSalesforceは、Pardotを買収してアカウントエンゲージメントに移行して以降、ウェブ接客やチャット領域は強みではありませんでした。
そこに足りてないピースがある、かつAI盛り上がってるっていう時に、作るの待ってらんないみたいな。元々Salesforceめっちゃネイティブだし、もうここ買うしかないだろうみたいな感じ。
市況やタイミング、そしてエージェントフォース戦略にバチっとはまった買収だったと清沢さんはまとめます。
QualifiedはIPOではなくM&Aによる売却を選びました。より大きな販売網やデータ量、エコシステムを作るうえで、Salesforceのシステムに入る意味は大きいと考えられます。
浜田さんは、もう一つの可能性としてSalesforceのデータ囲い込み戦略を挙げます。ChatGPTからHubSpotのCRMデータには連携できても、Salesforceにはその連携がないといいます。
Salesforce内のデータも使った、より意味のあるAIマーケティングアクションをやろうとすると、もうSalesforceの一プロダクトになった方が、提供できる価値がぐっと上がるんじゃないか。
日本のSaaSが学べること、内製化時代の生き残り方
最後に、日本のSaaSやスタートアップが活かせる学びが語られました。論点は、AIをどこで使うか、そして作るか内製するかという問いです。
浜田さんは、SaaStrのJason Lemkinさんの「9割買って1割内製したらいい」という考え方を紹介します。メンテナンスの負担があり、既存ソリューションには各所のベストプラクティスが詰まっているためです。
そのうえで、Qualifiedは内製のAIにはできないものをやりきった会社だと浜田さんは評価します。その一つの要素が、Salesforce連携という他プロダクトへの深い入り込みでした。
清沢さんも、AIで開発コストが下がる中、内製化でいいのではという問いはSaaS企業にとって避けられないと応じます。
競合が他社とのコンボではなく内製になりつつある時代に、それでも自社製品を選んでもらう理由をどう作るか。ここにQualifiedから学べることが多かったとまとめました。
まとめ
Qualifiedは、営業チャットボットからAI SDRへとピボットし、Salesforceとの深い連携を一点突破でやりきったことで、先行するDriftをまくり、Salesforceによる買収へと至りました。内製化が進む時代に、顧客が自分では作れないソリューションをどう作るかという問いが、日本のSaaSへの学びとして残ります。
- Qualifiedは営業チャットボットからAIチャット、そしてAI SDR(Piper)へと進化し、AIエージェントの波にきれいに乗った
- 勝ち筋は、あえてSalesforceとの深いデータ連携に特化したこと。単価が取れ、Salesforceの営業も売ってくれた
- コロナでイベントが消え、ウェブサイトが商談を作る場になったことが爆発的な成長の転換点になった
- SalesforceはVentures投資先でウェブ接客・チャットの弱点を補うため、エージェントフォース戦略に合わせて買収したと見られる
- 内製化が進む時代に、顧客が自分では作れないソリューションをどう作るかが、日本のSaaSへのヒントになる






