一周年を迎えるGrowth Radioの初公開収録
番組冒頭では、Growth Radioの公開収録イベントが告知されました。2024年6月に始まった番組が、ようやく一周年を迎えるタイミングでの開催です。
浜田さんによれば、これまでは番組側でゲストを招いて収録する形が中心でした。今回はimmedioのオフィスで、2〜30人ほどが入れる規模の公開収録に挑戦するといいます。
第一回のゲストは福江翔平さん。コニカミノルタでマーケターとして発信し、その後別の会社のマーケティングを経て独立し、アイカギという会社を立ち上げた人物です。
テーマは「ビジネスMC」という新しいカテゴリです。AI時代にイベントは大事だと言われる一方で、イベントの画一化という課題もある中、福江さんがどうアプローチするのかを掘り下げる構成が想定されています。
収録は2本分ほどを予定し、後半は完全にオフレコの懇親会にする計画だと浜田さんは話します。参加申し込みは番組概要欄とimmedioのウェブサイトのセミナー欄から可能です。
7年ぶりのアメリカとSaaStrという場
ここからが本題のSaaStr現地レポートです。イベント自体は現地時間の火曜から木曜にかけて開催され、浜田さんは時差を考えて日曜夕方にベイエリア入りし、木曜深夜の便で帰国したといいます。
浜田さんにとってアメリカは7年ぶりでした。コロナ前にSansanで海外事業を担当していた頃はビズデブでよく訪れていましたが、その後はコロナと起業が重なり、なかなかタイミングがなかったそうです。
久しぶりのアメリカについて浜田さんは、基本的には変わっていないものの、細かいところが便利になっていたと振り返ります。空港の入管検査がスマホで楽になり、以前よく乗っていたカルトレインも便利になっていたといいます。
現地ではWaymo ── Googleの親会社Alphabet傘下の自動運転企業。運転手のいない無人タクシーサービスを米国の一部都市で提供していますの無人タクシーにも乗車しました。体験としては面白い一方、料金はUberやLyftの1.5〜2倍ほど高く、台数も少なく、速度も遅めだったといいます。
さらに高速道路の走行サービスは一部ユーザー向けにしか提供されていないため、現時点では観光の一部という位置づけだと浜田さんは評価します。
一方で、車内の音楽・室温・シートのピッチをすべてスマホで操作できる点は快適だったといいます。人の車であるUberやLyftでは気を使うという実感が、両者を分ける体験の差になっていました。
これやっぱりね、Uber、Lyftって結局人の車だから気使うじゃないですか。
めっちゃわかります。それ、あんまり乗らないとわからないインサイトというか。
会場はサンマテオカウンティイベントセンターで、いわゆる展示会の会場です。参加者は約1万人で、Dreamforceと比べると小規模だと浜田さんは説明します。
参加費は早く申し込むほど安く、定価は1500ドルでした。浜田さんはプロモコードを使って1000ドルほどで参加できたといいます。展示会なら無料という中では有料ですが、日本のカンファレンスと比べればフレンドリーな価格帯だと話します。
日本のカンファレンスで、例えばICCとか行くと30万全然超えますから、それと比べるとまだフレンドリーかなっていう。
AI時代のSaaS生存戦略を語ったVCセッション
浜田さんが最も面白かったと挙げたのが、VCによる全体感のセッションです。登壇したのはScale Venture Partnersのメンバーで、Jason LemkinやRoy氏とともにポッドキャストをやっている人物だといいます。
そのセッションで示されたのが、AI投資の現状を表す数字です。現在AIには年間700ビリオンが投資されている一方、売上は110ビリオンにとどまっているといいます。
この投資額と売上が逆転するのは2032年ごろ、つまり6年後の見立てだと語られました。それまでは投資超過が続き、支えきれるかは微妙だというテーマ感があったといいます。
ただし、バブルだから引いておこうという空気は一切なく、「でも行くっしょ」というトーンだったと浜田さんは振り返ります。
2032年には1兆ドルがAIに投資され、1兆ドルの売上が立つ計算になります。そのとき、その1兆ドルを誰がどう売るのかが論点になりました。OpenAIとAnthropicが5000億ドルずつ売るのか、それとも両社が基盤となり、その上のプレイヤーが稼ぐのか、結論は出ていないといいます。
そこで注目されたのがハーネス ── AIを安定して使うために、適切な文脈やルールを与え、最適なAIへつなぎ替える一つ上のレイヤーを指す概念。日本でも数か月前からバズワード化してきた言葉ですという概念です。AIは変化が速く不安定さもある中で、成果を最大化する制御レイヤーの価値は普通にあるという議論でした。
代表的なのはSierraですよね。ああいう会社が売れてるんだから、いいハーネスを作る会社って多分これからも売れていくんじゃないか。
ハーネス以外の生存戦略としては、現実世界とのつなぎ込みが挙げられました。請求書を受け取るところから担うアプローチや、FDE ── Forward Deployed Engineerの略とされる、顧客側の実装を助ける役割。導入や現場適用を支援するポジションとして語られましたのように実装側を助ける方向など、やれることはあるという話です。
現実世界とのつなぎ込みについて浜田さんは、音や映像はコモディティ化する一方、そうでないデータがたくさんあると補足します。例えば車の運転では、ライダー ── レーザーで距離を測るセンサー技術。書き起こしでは「ライダーって言ったか、ビーコンみたいなもの」と語られており、正式名称の確認が必要ですのようなセンサーで距離を測ります。
つまり、AIに価値あるデータを食わせる、あるいはその一次データを持てるソフトウェアになる余地はあるという議論でした。
SaaSの3割は苦しく、6割はAIで加速できる
Scale Venture PartnersがSaaSをどう捉えているのかも語られました。浜田さんによれば、ファンデーションモデルにまるごと競合されて消えるサービスは1割ほど、苦しくなるサービスが3割ほどだといいます。
一方で残りの6割は、逆にAIで加速できるのではないかという見立てでした。貴重な計算資源が安くなっている中、戦い方によってはソフトウェアがこれまでより伸びる可能性があるという主張です。
ここで清沢さんが、そもそもファンデーションモデル ── OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeなどの大規模な基盤AIモデル。番組では主要4社としてOpenAI、Anthropic、xAIのGrok、Googleが挙げられましたとは何かを尋ねます。
浜田さんによれば、このファンデーションモデル上で、SaaSと同じようなことがすでにできてしまっているのが論点でした。それにどう対抗するかを、VCはセッションの半分以上を使って話していたといいます。
AIみんな使えるし、コモディティ化していく領域ってどんどん広がっていくと思うんですけど。(浜田さん自身は)そこを聞いてどう思ったか。
投資仮説としてのSaaSはなぜ終わったのか
浜田さんは、コモディティ化の影響は結構大きいと率直に語ります。今回の参加前は「SaaS is Dead」という議論に対して自分の中でも結論がなかったといいます。
そのうえで浜田さんが至ったのが、投資仮説としてのSaaSは一旦終わったと考えた方がいいという見方です。BtoBソフトウェアの需要は絶対にある、という前提は変わりません。
従来のSaaSの投資仮説を、浜田さんは次のように整理します。クラウドに乗せて年間利用料を廉価にし、チャーン ── 解約率のこと。SaaSでは顧客がサービスを解約する割合を指し、低いほど長く使われ続けることを意味しますが1%しかないから8年から10年使われ、LTVがとても高くなるという構造です。
廉価な利用料
クラウドで年間利用料を安く提供する
低いチャーン
解約率1%で8〜10年使われLTVが高い
赤字成長
高いLTVを前提に営業マーケへ投資する
VCが赤字を支える
いつか良い上場に至ると見込む
この仮説の土台にあったのが、チャーンレート1%だから8年持つという前提でした。浜田さんは、この前提がAIの進化で誰も信じられなくなっていると指摘します。
だからこそ、圧倒的に成長する、黒字になるといった、これまでと全く違う戦い方をして成果を出さないと、VCは投資できないという全体感を浜田さんは感じたといいます。
清沢さんは、企業価値算定でも将来キャッシュフローの前提が変わると応じます。チャーンレート1%がコモディティ化すれば変数として崩れるため、過去の前例から企業価値を考えるのは危ういのではないかという問題意識です。
浜田さんは、2021年と比べたSaaSの価値低下には2段階あると解説します。1段階目は金利の上昇です。インフレを収めるために金利が上がると、将来のキャッシュフローがよりディスカウント ── 将来のお金の価値を現在価値に割り引いて評価すること。金利や割引率が上がるほど、将来のキャッシュフローの現在価値は小さく見積もられますされます。
2段階目が、AIによって将来のキャッシュフローが事業計画通りにならないリスクの上昇です。この2段階が重なり、大きな赤字を支えるほどの投資はしづらいというのがVCの見方だと語られました。
VCがちょっとAIのセンチメントにひよってるだけみたいに起業家からしたら思いたくなるけど、多分そうじゃなくて、SaaSっていうものの戦い方を変えなきゃいけないタイミングなんだな。
清沢さんは、これはモード自体を一度捨て、前提から疑って新しいチャレンジをするくらいの感覚だと受け止めます。浜田さんも、実際にSaaS事業を全部捨ててAIにフルピボットし立ち直った例があり、AIにオールインするしかないというモードの話が多かったと応じました。
Jason Lemkinが実践するAIエージェント運用
後半では、SaaStrのファウンダーであるJason Lemkinの話が取り上げられました。彼は投資家の目線とSaaS事業者の目線の両方を持つ人物だと浜田さんは説明します。
Jason Lemkin自身も、SaaSのIPOやファンド買収が少なくなっているというトレンドを語ったといいます。
注目すべきは、Jason LemkinがSaaStrを13人でやっていた会社を、今は3人とエージェント20体で運営している点です。1年前のSaaStrの時点では、TwitterやブログをもとにJason本人に近い回答をするデルファイというAIを面白がって使っていた程度でした。
今はそれとは別にAI SDR ── AIによる営業開発担当。見込み顧客への初期アプローチなどを担うSDR(Sales Development Representative)の役割をAIエージェントが代替するものですを4体回し、人が減った分をすべてカバーできていると語られました。もう事業で使えるレベルに達しているといいます。
その分売上にも直接貢献するから結構単価高くなってるけど、自分としては全然ハッピーなんだ。
市場は実は明るい?ITスペンド増加という追い風
Jason Lemkinは、SaaSに暗いニュースが多い一方で、市場自体は明るいという見方も示しました。世界のソフトウェア消費は年間1.4兆ドルで、15%成長しているといいます。
この成長率は1年前の12%から加速しています。AIの影響も大きいと考えられますが、基本的にIT投資そのものが増えているという構図です。
浜田さんは、自社がAIネイティブなプレイヤーでなくても恩恵を受けられる例として、TwilioやDatadogを挙げます。コミュニケーションやデータストレージに使われるこれらは、AIやITスペンドが増えれば伸びる立場にあります。
さらに両社はAIエージェントフレンドリーな設計へ早くシフトできたため、大きく伸びているといいます。自社がAIネイティブになる道だけでなく、AIネイティブなプレイヤーに使ってもらえる場所になる道もあるという整理です。
清沢さんは、SalesforceがMCPを開放したことも大きな仕掛けだと指摘します。エージェント側がSaaSを操作し、データを参照しやすくするAPI設計が重要になるという見立てです。
浜田さんは、Twilioのように元々従量課金のものは開放しやすいと補足します。一方Salesforceは開放するとシート課金が減る恐怖があるはずですが、意識的に取り組んでいるといいます。課金モデルはいずれパーシートからトークン課金へ移っていくのではないかと二人は話しました。
SaaS is Deadに対するJason Lemkinの立場
最後に、Jason Lemkinが「SaaS is Dead」に対してどのポジションを取っているかが語られました。浜田さんによれば、Jasonはそのままの形のSaaSはdeadだと明言しているといいます。
その象徴が、SaaStrのスポンサー構成の変化です。去年までは昔ながらのSaaSが8割、AIネイティブが2割でしたが、今年はAIネイティブが8割、昔ながらのSaaSが2割へと逆転しました。
浜田さんは当初、Jasonが意図的に入れ替えたのかと考えたそうです。しかしブログを見ると、従来のスポンサーが降りただけらしく、市場の変化がそのまま表れた形だといいます。
ジェイソンとしては、もうこれ変わっていくしかないんじゃないの?みたいなスタンスですね。
Jason Lemkinはエンジェル投資家でもあり、SaaStrファンドとしてアーリー段階の投資も手掛けているといいます。事業者と投資家の両面を持つからこそ、生存戦略のパターンを数多く見ているのが面白いと浜田さんは締めくくりました。
まとめ
SaaStrの前編レポートからは、AI時代に「投資仮説としてのSaaS」が転換点を迎えている構図が見えてきました。悲観一色ではなく、戦い方を変えれば伸びる余地があるという現実的な議論が中心でした。
- AI投資は年間700ビリオンに対し売上110ビリオンで、逆転は2032年ごろと見立てられている
- VCの見立てでは、消えるSaaSは1割、苦しむのが3割、残り6割はAIで加速できる
- 従来のSaaS投資仮説はチャーン1%の前提が崩れ、一旦終わったと考えるべきという見方が示された
- ハーネスや現実世界とのつなぎ込みが、AI時代の生存戦略として挙げられた
- Jason Lemkinは3人とエージェント20体で運営し、ソフトウェア市場自体は15%成長と明るい面も語った






