公開収録の告知と、後編で扱うAIスタートアップの見どころ
番組ではまず、Growth Radio初の公開収録が案内されました。6月12日にimmedioの渋谷オフィスで、独立された会社アイカギの福重翔平さんを招いて開催されます。
前半1時間は福重さんが取り組むビジネスイベントの領域について話し、後半1時間はオフレコの懇親会にする構成だと浜田さんは説明します。
清沢さんによれば、福重さんはコニカミノルタからeightを経て組織マネジメントを手がけ、現在は独立された経歴の持ち主です。リアルイベントのため、渋谷オフィスへの来場を呼びかけました。
後編の中身について、清沢さんは今回の切り口を整理します。前編ではVCの話やSaaStrのファウンダーであるジェイソン・レムキンのSaaS観を扱ったのに対し、後編では浜田さんが面白いと感じた個別のAIスタートアップを取り上げると述べました。
AEが給与の20倍を売る Owner.comが確立したAI活用の方法論
浜田さんがまず紹介したのは、ベンダーそのものではなく実務者の話です。Owner.comのCROであるカイル・ノートンという発信力のある人物が、どこまでAIを使い倒しているかを語っていたといいます。
その水準は桁が違うものでした。AEが給与の20倍のARRを獲得するようになったというのです。
浜田さんによれば、通常は給与の5倍が普通の目安だといいます。1000万円払っている人が5000万円売れば十分というところで、2億円を売っているという話です。
それをどう実現したのか。浜田さんは、方法論がめちゃくちゃ確立されていた点に注目します。
1つ目のポイントは、現場からではなく中央から進めることです。現場だと粗い取り組みになってしまうこともあるため、どこにインパクトがあるかを中央で見極めるという考え方でした。
2つ目は、何でもかんでも自前で作ろうとしないことです。特にインフラレイヤーは安定性が大事なので、買えるものは買いましょうという姿勢だといいます。
AI活用チームを誰が担うべきかという話もありました。浜田さんは、エンジニアやデータアナリスト、BizOpsのような人がいいという論調だったと振り返ります。
さらに、どこまでフル自動化するのか、アシスト機能にとどめるのかも論点でした。正確性が大事な領域でフル自動化すると、AIの悪いところが出てしまうことがあるためです。
ここで浜田さんが挙げたのが、日本ではまだあまり聞かない言葉です。evals ── エバリュエーション(評価)の略。AIの出力がどれくらい正確かを測定する仕組みやチームを指す。米国のAI活用の現場で頻繁に使われる考え方ですがないと、AIで成果を出すのは厳しいという話だったといいます。
浜田さんは、本気でAIで成果を出そうとしたらここまでやってくださいという、めちゃくちゃ具体的な方法論が示されていた点が面白かったと語ります。
清沢さんは、話し手がCRO、つまりトップラインの責任者である点に触れ、中央でやるとは誰が担うのかを尋ねます。浜田さんは、おそらくCROの下だろうと答えつつ、CEOもAIに本気なので社長室の可能性もあると補足しました。
浜田さんによれば、Owner.comはレストラン向けのSaaSで、Toastとは違うアングルで展開しています。売上は100ミリオン、つまり約150億円近いと語られ、社員数は数百人規模ではないかと推測されました。
清沢さんは、アウトバウンドからのARR貢献が大きいという点にも触れます。浜田さんは、これはアウトバウンドを担うBDRをAIで徹底的にエンパワーしている話だと説明しました。
GTMエンジニアもFDEも「内部から登用」 人材不足はシリコンバレーも同じ
清沢さんは、AI活用チームやGTMエンジニアには、社内の開発・データ・Opsの経験者をアサインするイメージかと確認します。浜田さんはそのとおりだと応じ、これはいいポイントだと強調しました。
ジェイソン・レムキンのAsk Me Anythingでも、同じ論点が出ていたといいます。GTMエンジニアはどうしたらいいのか、そもそもいない、という質問が飛んだそうです。
アメリカですらそうですよね。
浜田さんによると、レムキンの答えは明快でした。マーケに20人いるなら、そこから出せというものです。GTMエンジニアは組織の中から出したほうがいい、なんなら完全に外にはいないから、という論調でした。
浜田さんは、少し文脈はずれると断りつつ、FDE ── Forward Deployed Engineerの略。顧客先に入り込み、その企業に合わせてプロダクトを実装・調整するエンジニア。PalantirやSierraなどが採用するモデルとして知られますも同じ状況だと続けます。顧客理解力とエンジニアリングを兼ね備えた人を当てようとすると、その人自体がユニコーンなので、モデルが破綻してしまうというのです。
そこで最近の流行りは、役割を2人で分担する形だと浜田さんは説明します。1人はAIに詳しくなくてもいいシニアなビジネスのドメインエキスパート、もう1人は大学を卒業したてでAIしか使っていない若手です。この2人を組み合わせればFDEになるという発想でした。
顧客とビジネスを深く理解している。AIに詳しくなくてもよい
大学を卒業したてで、AIしか使っていない世代
浜田さんは、AIを使えてビジネスもわかる人は普通に考えたらいないため、役割分担しながら内部から登用していく流れになっていると語ります。シリコンバレーも苦労しながら人を探しているのだと感じたそうです。
実際、SierraのFDEは元起業家を狙っているという話もあったといいます。バイブコーディングの会社Replitのセッションに登壇したPMも、元起業家だったと浜田さんは振り返ります。
浜田さんは、AIのど真ん中の会社は元起業家レベルの人を採用できているが、それができるのは超ど真ん中の会社だけで、それ以外は内部から登用するしかないだろうと見立てます。
清沢さんは、PalantirのFDE責任者も去年起業したと聞いたことを挙げ、本筋をわかっている強いFDEはもうアントレプレナーになっていて、市場にいないのだろうと感想を述べました。
AIネイティブCRM「Rightfield」 ワークフローはClaude Codeと同じ発想
ここから話は、浜田さんが面白いと感じた個別のベンダーへ移ります。前編で触れた「出展企業の8割がAIネイティブになった」という状況の中で、社名を聞いたことがない会社も多かったが、聞いてみると面白い会社がいくつかあったといいます。
1つ目はRightfieldです。AIネイティブCRMで、イベントの一番いい場所に相当な出展料を払っていたと浜田さんは見ています。以前触れたAttioと同じく、GoogleやZoomと連携するとあらゆる情報が入ってきてCRMになる、という発想の製品です。
浜田さんがデモを見て感じた差分は、よりAIネイティブになっている点でした。内部のAIエージェントに相談するためのウィンドウがあり、組みたいフローを自然な言葉で伝えられるといいます。
前回失注した商談で、(担当者と)CIOとの接点が遅れたから、このフェーズまで行ったら必ずCIOと会うワークフローを入れたいんだけど。
そう打ち込むと、AIエージェントが「了解です。じゃあこういうフローを作るね」と応じ、これでいいかと確認してくる。OKと返せば設定される、という流れだそうです。
浜田さんは、この一つひとつのリマインダーやワークフローがいわゆるSkills ── AIエージェントに持たせる個別の機能や作業手順のまとまり。Claude Codeなどで使われる考え方で、必要な処理を部品のように組み合わせて実行させますだと指摘します。発想はClaude Codeと完全に同じで、それを特化させた版だと理解したといいます。
この会社はサンフランシスコ市内のバス停に広告を出していて、日本からは見えないものの、かなり伸びているようだったと浜田さんは付け加えます。今のプロダクトにしてから実質2、3年ほどの会社だといいます。
清沢さんは、この仕組みをimmedioに置き換えて想像します。管理画面上で「明日から割当条件が変わるからこう組んでおいて」と伝えると、エージェントがフローを作り、人間はアプルーブするだけになるイメージです。
それはやりたいし、やらないとなって感じもありますよね。もはや今、人間が設定をガチャガチャしているのが大変なのかなと。
5000万ドル調達でポーカー台を持ち込む AI SDR「Monaco」の登場
浜田さんは、SaaStrにはAI GTM、つまりGo to Market領域の会社が多かったと振り返ります。一方でSierraやPalantirは来ておらず、スタートアップがスタートアップにピッチするイベントの性格上、SMB向けの商品が多かったといいます。
SMBで最も売れやすいAIは、売上が伸びるGo to Market領域だろうと浜田さんは見ます。その一角がRightfieldのようなAI CRMで、もう一角がAI SDR、AIインサイドセールスの領域でした。前に取り上げたArtisanやQualifiedも来ていて、どちらもよく売れていそうだったといいます。
そこに新しく登場したのがMonacoです。AI SDRとして、勝手にICPを見極めてアウトバウンドしてくれる自律性の高さが特徴で、後工程のCRM的な機能も備えているといいます。
Monacoはイベントの当日か前日に5000万ドルの調達を発表し、会場にはポーカー台や1ドル札のつかみ取りを持ち込んでいたそうです。
バブリーですね。
浜田さんは、これは意図的な演出だろうと見ます。このAIバブルに乗らないのか、という意味で仕掛けているのではないかというのです。
Monacoを率いるのはサム・ブロンドという人物です。元BrexのVP of Salesで、その前はジェイソン・レムキンの会社で働いていた、いわばBtoBインフルエンサーだと浜田さんは説明します。
浜田さんによれば、その影響力も活かして、ほぼステルスだったのにいきなり5000万ドルを調達したという、非常にAIらしい動きをしています。
ブロンドはBrexで営業成果を上げた後、創業や事業経験者しかいないファンドであるFounders Fund ── ピーター・ティールらが立ち上げた著名なベンチャーキャピタル。創業経験者を中心に構成され、シリコンバレーで強い影響力を持つファンドとして知られますに、セールステックに最も詳しい人物として加わったといいます。数百件のサービスを見たがどれも弱かったり、ポイントソリューションにすぎなかったため、自分で作ったのがMonacoだそうです。
清沢さんによれば、Monacoは2024年1月に始まった、2年に満たない新しい会社です。ArtisanとMonacoの違いを尋ねると、浜田さんは自律性の差だと答えます。
浜田さんによれば、Artisanでは誰にアプローチするかのフィルター出しを人間が担います。一方Monacoは、これまで売れてきた実績などから「次にキャンペーンするならここではないか」というところまでAIが提案してくれるのではないか、と理解したといいます。
清沢さんは、LPが非常に黒くステルス感が強いこと、ページ上部にピーター・ティールの写真とMonacoのインベスターという表記があることに驚きます。浜田さんは、シリコンバレーの価値観をそのまま体現している感じだと評しました。
清沢さんは、この動きに示唆を感じると述べます。Brexは日本でいえばUpsiderにあたり、法人向けクレカ領域でCROまで務めた人物が、もう一度AI SDRにフルベットしているのは、immedioにとっても示唆があると語りました。
ブースの様子も印象的でした。Monacoのブースはポーカー台そのもので、誰に話しかければいいのかわからなかったといいます。浜田さんはピッチを聞いたり、他社のブースでMonacoについて尋ねたりして、ようやく内容をつかんだそうです。
本当に、本当にポーカー台しかなかったですね。
注目3社がすべて非US企業 AI時代に下がる海外展開のハードル
清沢さんは、他に面白かった会社や人物を尋ねます。浜田さんは、大きくスポンサーしているところとは別に、小さいブースもたくさんあったと振り返ります。
そこで面白そうだと思って最初に声をかけた3社が、いずれも非USの会社だった、というのが浜田さんの気づきでした。
1社目はイギリスのGlyphicで、AIインテリジェンス系のサービスです。2社目はアウトバウンドコールの音声機能を手がけるフランスのAircall、3社目はGTMのワークフローやエージェントを自動で作れるオーストラリアのRelevanceでした。
| 企業名 | 拠点 | 領域 |
|---|---|---|
| Glyphic | イギリス | AIインテリジェンス |
| Aircall | フランス | アウトバウンドコールの音声機能 |
| Relevance | オーストラリア | GTMワークフロー・エージェントの自動生成 |
いずれもアメリカにチームを持ち、今回来ていたのもアメリカの人だったといいます。浜田さんは、これだけ非US企業が来ている状況から、AI時代には国際展開やアメリカ市場のハードルが下がっているのかもしれないと感じたそうです。
清沢さんも、ソフトウェアがコモディティ化し開発スピードが上がる中で、残る論点は言語的障壁と現地でGo to Marketができるかどうかに絞られてきているのではないか、と応じます。
浜田さんは、移動中に聞いたポッドキャストの話を持ち出します。OpenAIの元CTOミラ・ムラーティが立ち上げたラボ、シンキングマシンの最初の大きなプロダクトが音声で、そのデモが同時通訳だったといいます。
スペイン語で話した2秒後くらいに、もう英語で内容を返してくる世界になってきているという話でした。こうなると、言語の壁を言い訳にしていられないと浜田さんは語ります。
浜田さんは、音声系は難しくどうなるか分からないと思っていたが、ElevenLabsの独走ではなく次々と競合が出てきたと振り返り、この変化を予測するのはもう無理だと述べました。
日本の成長基準を「ゼロに戻す」 帰国後に浜田さんが得た経営の視点
清沢さんは、これだけ濃いインプットを踏まえ、帰国後の週末に考える中で、経営者・起業家としてどういうモードにあるかを尋ねます。
浜田さんの答えは率直でした。SaaSとして真面目に伸ばしNRRも高い、という状態は、アメリカの基準では評価されないし、日本のVCも基本的にその基準を見ている。だからこそ、その前提をゼロに戻して考えなければならないという感覚だといいます。
そのうえで浜田さんは、3倍や5倍という成長速度にどう戻すかが論点になると語ります。
一方で、SaaStrでAI SDRを数多く見たことは、浜田さんにとっては良い材料でした。自分たちが、これからAIで自動化されていく領域にいると確認できたためです。
明らかにこれからAIで自動化されてくる領域に自分たちがいるなと思ったので、AIセントリックなプロダクト作りをやりきれれば、全然可能性はある。
同時に浜田さんは、反省も口にします。AI活用を掲げながら、半分は現場任せにしてきたという課題感です。代表がもっと入ってコミットし、本当に生産性を2倍にするつもりでやらないと、掲げた目標も達成されないと語りました。
やりきれるかマジわかんないけど、やらなきゃいけないことを発見した。
CEOにしかできないこと パラノイア的に、嫌われてでもやりきる
清沢さんは、アメリカではCEOやファウンダー、CROがそこ以外はやらないほどフォーカスしている感覚かと問いかけます。
浜田さんは、CEOにしかやれないことがあると応じます。移動中に聞いたポッドキャストとして、朝倉さんの番組でのベン・ホロウィッツの話を挙げました。
CEOが気を使い出したら終わりというか、どれだけパラノイア的に動き、どれだけ社員に嫌われようと、やるべきことをやりきる。
浜田さんは、結局それができた会社しか偉大な会社にはならない、という感覚があると語り、考えさせられたと振り返ります。
清沢さんも、CEOが本気だから社員もやるという相互作用に触れ、ファウンダーのコミットはすごく大事だと感じたと述べました。
最後に清沢さんは、約20分ながら濃厚な学びだったと締めくくります。浜田さんのnote記事も公開されており、翌月にはリアルイベントも控えていることを案内し、番組概要欄のフォームからの投稿も呼びかけました。
まとめ
SaaStr報告の後編は、AIネイティブ企業がどう作られているかを、方法論・人材・注目企業の3方向から具体的に描き出しました。そして、その学びは最後にCEO自身の役割へと跳ね返ってきます。
- Owner.comではAEが給与の20倍を売る水準に達し、中央主導・買えるものは買う・evalsでの測定といった方法論が確立されていた
- GTMエンジニアもFDEも人材が市場におらず、シニアのドメインエキスパートとAIネイティブの若手を組み合わせ、内部から登用する流れが主流になっている
- RightfieldのAIネイティブCRMはClaude Codeと同じSkillsの発想で、AI SDRのMonacoは5000万ドル調達とポーカー台の演出でAIバブルを象徴していた
- 浜田さんが最初に声をかけた3社がすべて非US企業で、AI時代には海外展開や言語のハードルが下がりつつある
- 帰国後の浜田さんは日本の成長基準をゼロに戻し、成長速度の回復とAIセントリックなプロダクト作り、そしてCEO自身がコミットしてやりきることの重要性を再認識した






