Zohoとは何者か インド発のSaaS巨大企業
今回取り上げるのは、インド発のSaaS企業Zoho Corporationです。清沢さんも浜田さんも、CRMのイメージで知っていたと話します。
HubSpotのインド版みたいな印象があって、コスト感度が高い企業様がZoho使ってるんです、というお客様にちょくちょく出会うなと思ってました。
ところがZohoを調べると、SaaSとしてかなり希少な特徴が見えてきます。その一つが、創業以来VCからの調達を一切していないという点です。
Zohoは自己資金だけで経営を続け、ARRは推定2000億円以上、ユーザー数は1億人を突破しています。アメリカ流の大型調達によるグロースとは真逆のやり方です。
SaaSは基本、どんどんお金を投じて先に先にお客さんを取りに行くゲームなんですけど、(Zohoは)基本それをしていない。
逆張り?
逆張りです。
CRMだけじゃない Zohoの2つの事業の柱
ZohoはCRMのイメージが強いものの、事業はそれだけではありません。土台には通信ネットワーク側のプロダクトがあります。
ManageEngineっていう、いわゆるActive Directoryとかネットワークセキュリティみたいな、通信ネットワーク側のプロダクトが元々あって、その上に(CRMの)Zohoがある。
さらに、CRMと思われがちなZoho本体も、営業・マーケ・人事・会計など55以上のアプリケーションを展開していると浜田さんは指摘します。
Salesforce、HubSpotプラスIntuitみたいな、そういう世界観ですよね。
この構造について、清沢さんはセキュリティを土台にしたマルチプロダクトだと整理します。浜田さんは、コンパウンドという言葉が流行るずっと前からそれを実践していると評します。
Active Directory管理などネットワークセキュリティ領域。Fortune 500企業の6割が導入し、エンタープライズ大企業を押さえる
CRMを中心に営業・マーケ・人事・会計など55以上のアプリを展開。安価でSMB向けのイメージが強い
CRM部門は安価でSMB向けのイメージがある一方、セキュリティ領域ではFortune 500企業の6割が導入する、エンタープライズを押さえた事業になっています。両者は性質の異なる別事業と言えます。
売上2000億円で成長率30% ブートストラップの財務力
Zohoの財務パフォーマンスは、自己資金経営でありながら際立っています。2024年時点でZoho CRMの収益は約14億ドル、日本円でおよそ2000億円規模です。
2000億円ですよね。で、これがまだ30%で伸びてるっていうことだから、めちゃくちゃパワフルですよね。
ユーザー数は全世界で1億人、社員は1万5000人から1万8000人規模で、多くはインドのチェンナイなどに拠点を置いています。
1万5000人で2000億円だったら、ARRパーFTEっていう指標で1300万とかいってるんで、だいぶ効率は良さそうですよね。
特筆すべきは、高い利益率と成長率を両立している点です。清沢さんは、成長率と利益率を足す「ルールオブフォーティー」を大きく超えていると指摘します。
成長率30%、利益率30%で60になってるってことですかね。そんなことあるんか。
ドットコムバブルの崩壊 給与ゼロで貫いた哲学の原点
Zohoの経営哲学は、創業者シュリダー・ベムブさんの原体験に根ざしています。1968年生まれのベムブさんは、インド工科大学からプリンストン大学へ進み、Qualcommを経て1996年に兄弟と会社を創業しました。
当初はSaaSではなく、ネットワーク機器を管理するソフトウェアライブラリを扱う事業でした。数年で売上1000万ドルを超え、シリコンバレーの隠れた成功企業になっていたといいます。
転機は2001年のドットコムバブル崩壊でした。当時Zohoは、シスコやノーテルといった通信機器大手に裏側のライブラリを提供していました。
シスコの売上もなんか10分の1みたいになりましたっていうところで、お客さんがいなくなっちゃった。
この危機に対し、Zohoはレイオフをせず、シスコの裏側を支える立場から、自分たちでアプリケーションを作り直接エンドユーザーへ届けるモデルへピボットしました。これが後のManageEngineの始まりです。
めちゃくちゃ苦しかったけども、直接エンドユーザーに届けるモデルにピボットして生き延びた。
さらにこの苦境で、外部資金を入れてむやみに成長するのはやめようと決めたと浜田さんは言います。しかも調達も大規模レイオフもせず、創業者は自身の給与を4年間ゼロにして雇用を守りました。
この、危機があったからこそのピボットと、雇用を守り抜いた選択が、Zohoの経営哲学の原点になったと考えられます。その後2005年以降、Salesforceの台頭を見ながらZoho CRMの開発へと進みます。
B2BでもPLGを徹底 R&Dに全振りするコスト構造
なぜZohoは勝てたのか。清沢さんはまず、構造的なコスト優位性を挙げます。ポイントは、他社と真逆のコスト配分です。
浜田さんは、一般的なSaaSはセールス・マーケに大きく投資し、アーリー期には売上の5〜6割を割くこともあると説明します。一方Zohoは、いまだにR&Dに厚く振り、セールス・マーケにほとんどお金をかけていません。
どうしてそれができるかっていうと、フリーミアムなんですと、いうところなんですよね。
浜田さんによれば、B2Bのフリーミアムはこれまで限定的にしかワークしませんでした。ところがZohoは、CRMすらフリーミアムで売り切るところまでやりきっています。
Zohoはもうフリーミアムやりきって、CRMすらフリーミアムで売るみたいなことをやっている。
その結果、R&Dにはマーケ費用の3倍を投じ、営業はPLGで広げるという独自の成長モデルが成り立っています。大規模な広告やコミッション営業ではなく、口コミやリファラルが中心です。
(Zohoは)今のAI企業に近いですよね。エンジニアに死ぬほどお金払って、プロダクトは勝手に広がっていくみたいな世界かもしれない。
SaaS界のテスラ データセンターも開発言語も自社製
コスト優位性を支えるのが、垂直統合です。清沢さんは、Zohoをテクノロジースタックのすべてを自社で保有・開発する「SaaS界のテスラ」と表現します。
データセンター、ミドルウェア、アプリケーションまで、すべてを自社で開発しているのがZohoの特徴です。AWSのような外部クラウドにも依存していません。
AWSが止まってるから落ちますとかありませんっていうのと、開発言語も自分たちでやってるみたいな。そんなんあるんかみたいな。
さらにアプリケーションも、買収でラインナップを増やすのではなく、55以上の全製品を社内エンジニアがフルスタックで開発しています。
逆にもう自社データセンターで自社言語でやったら買収できないですよね。他のインテグレーションできないから。
海外ユニコーン解説シリーズでは、多くの企業がM&Aで外部の成長を取り込んでいました。Zohoはそれをせず、すべてを自前で開発し切っている点が際立ちます。
この逆張り感いいですよね。
高校生から社員を育てる Zoho Schoolの人材戦略
Zohoは人材でも独自の道を進んでいます。旧Zoho Universityにあたるzoho School of Learningでは、大学ではなく高校生を採用して育てます。
大学から頭狩りするとか、なんならその大学の代わりに自分たちで教育をしてしまって、もう高校から取っていく。
浜田さんによれば、高校を出た生徒を採用し、英語やプログラミングを教えてそのまま社員にするというモデルです。新卒どころか、大学に入る段階から自社で囲い込みます。
現在では全社員の15%以上がこのZoho School出身で、生え抜きを幹部候補に抜擢しています。浜田さんはこれをアメリカの軍隊になぞらえます。
周りが新卒同期じゃなくて大学同期なんでしょ。そら仲いいわっていう。
浜田さんは、こうした手法はインドや東欧など人件費が抑えられる地域で見られるものだと補足します。清沢さんは、この採用の考え方自体が人材のブルーオーシャンだと捉えています。
途上国という市場のブルーオーシャンを攻める
グローバル展開でも、Zohoは他社と異なる市場を狙っています。オフィスはアメリカのテキサス州オースティンにもありますが、注力先が特徴的です。
狙ってるのがメキシコ、ブラジル、ナイジェリア、サウジアラビアみたいな、赤道かそこのちょっと南くらいみたいなところ。
これらの市場では、現地通貨で販売し、現地語でサポートします。浜田さんは、Salesforceのような大手が先進国のエンタープライズを一つずつ攻めるのとは対照的だと指摘します。
Salesforceは先進国を一個ずつ落としていってて、エンタープライズ向けなんで、そんなに途上国とかって注力してないんですよね。
Zohoは、そうした大手が手薄なアンダーサーブド市場へ、安くて使いやすいCRMで入っていく戦略を取っています。人材が大学のブルーオーシャンなら、これは市場のブルーオーシャンだと浜田さんは整理します。
すべてが逆張り Zohoの経営から学べること
ここまでを振り返ると、Zohoの各戦略に共通するのは、通説の真逆を貫き、それをぶらさずやりきる姿勢です。清沢さんはこれを一つずつ挙げていきます。
調達もせず、B2BなのにPLGで売り、採用は大学から始め、エンタープライズを避けて途上国を攻める。データセンターも開発言語も自社製という徹底ぶりです。
天邪鬼的な。もはや普通のことはやりたくない。
でもやっぱそういうところにチャンスがあるんでしょうね。
直近では事業承継も動いています。2024年末から2025年にかけて、創業者のベムブさんがCEOを退き、チーフサイエンティストに就任しました。
浜田さんは、これをGoogleのセルゲイ・ブリンや、MicrosoftのビルゲイツがR&Dへ軸足を移した動きになぞらえます。まだ57歳であることから、いずれ経営に戻る可能性もあると見ています。
この社長もなんか5年後くらいに戻ってそうだなっていう感じがしますね。
最後に浜田さんは、Zohoはあまりに独特で再現性は難しいとしつつ、日本企業への示唆をまとめます。
人件費の高さで海外進出に悩む日本企業にとって、グローバルで戦いつつエンジニアは人件費の抑えられる地域に置くというモデルは、ファイナンスと採用の両面で学びがあると二人は話しています。
まとめ
Zohoは、VC調達なしで売上2000億円・ユーザー1億人を実現したインド発のSaaS企業です。調達・営業・採用・市場・技術のすべてで通説の逆を行き、それをやりきることで独自のポジションを築いてきました。
- Zohoは創業以来VC調達をせず、自己資金だけで売上2000億円規模・成長率30%を実現している
- B2BでもフリーミアムとPLGを徹底し、R&Dにマーケ費用の3倍を投じるコスト構造を取る
- データセンターから開発言語まで自社製で、55以上の製品を買収せず社内で開発している
- 高校生を採用して育てるZoho Schoolと、途上国市場の開拓という2つのブルーオーシャンを攻めている
- 独特ゆえ再現は難しいが、調達に頼らない成長や人件費を抑えた採用は日本企業への示唆がある






