初のユーザー会と、新シリーズ「Nextユニコーン解説」の狙い
冒頭で二人は、この週に開催したimmedio初のユーザー会を振り返ります。創業4期目にして41名ほどが集まる大盛況となり、emilioをヘビーに使う2社が登壇して具体的な活用事例を語ったといいます。
浜田さんは、作った側として想定していなかった使い方が紹介されたことに驚いたと話します。ユーザー自身が製品を語る場の説得力を、二人とも実感したようです。
我々が作った側として想定してない使い方とかもしてくれると、おお、みたいな。ここでもemilio出てくるんですね、みたいな感じで、結構びっくりしたりもしましたね。
後半の懇親会では、マーケ・営業・企画でストラップの色を分けたところ、部門をまたいだ交流が生まれたそうです。特にISのオペレーションを担う人同士は普段つながりが少なく、ユーザー同士の密なつながりを作れた点に手応えを感じたと語られています。
話題は本編へ移ります。今回から始まる新シリーズ「Nextユニコーン解説」は、日本ではほとんど知られていないものの、アメリカではPMFを果たしつつある未上場のSaaSスタートアップを取り上げる企画です。
記念すべき第1弾が、ニューヨークで創業して8年ほどのスタートアップ、Clayです。清沢さんはほぼ知らなかったと明かす一方、浜田さんは2〜3年前から名前を耳にしていたといいます。
アメリカ(で)セールステック何流行ってんの?って聞くと、Clayとかみたいな。全然知らなくて、え、何それ?みたいに思ってたんですけど、ほんとこの一年、(RevOps界隈で)Clayどう使うの?みたいな話めちゃくちゃ多いですね。
一言で言うとどんなSaaSか
Clayとはどんなツールなのか。浜田さんは「安く正確にターゲット企業のデータを獲得できるツール」と表現します。マーケや営業といったレベニューチーム向けの製品です。
安く正確にターゲット企業のデータを獲得できるツールですかね。
UIはスプレッドシートに近く、LPもポップで可愛らしい雰囲気だといいます。従来の重厚なエンタープライズ向けデータベースとは、印象が大きく異なります。
(ZoomInfoやDun&Bradstreetが)重厚感があるエンタープライズ向けであるのに対して、これすごいまあ、スタートアップとかエンジニアが使いたくなるような雰囲気ですよね。
Clayの特徴は、数十以上のデータプロバイダーと統合し、あらゆるところからデータを収集してターゲット企業のリストを作れる点にあります。清沢さんは、この点でZoomInfoとはかなり違うと指摘します。
いらないデータは渡さない。Clayの逆転の発想
Clayがなぜ既存の企業データベースと違うのか。浜田さんはその設計思想を「完全に逆転の発想」と表現します。
ZoomInfoなど多くの企業データベースは、数百万社のデータをまとめて顧客に渡すモデルです。そのため月額は50万円や100万円からと高額になりがちだといいます。
(ZoomInfoは)もう何百万社のデータを渡しているので、もう月額は五十万円からですとか、百万円からですってなるんですよね。
この背景には、企業データベースがダウンロードやスクレイピングをされると更新契約を切られてしまう懸念があり、高めに価格を取らないと事業が不安定になるという事情があると浜田さんは説明します。
Clayはこれを逆転させ、いらないデータを渡してもしょうがないという発想に立ちます。顧客が欲しいと指定した企業データだけを渡す仕組みです。
ただしこのモデルだけでは、ZoomInfoのように潤沢な資金でリサーチャーを雇い、高品質なデータを維持することが難しくなります。Clayはこの「安くて正確」を両立する課題を、ネットワークの発想で解決しました。
アメリカには小さな企業データのベンダーが100社ほど存在します。Clayはその全社をネットワークでつなぎ、1件のリクエストを複数社へ同時に投げる仕組みを作りました。
リクエスト受領
欲しい企業データの条件を顧客から受け取る
複数ベンダーへ照会
1件のリクエストを複数のデータベンダーに同時に出す
回答の照合
返ってきた複数の回答を更新日などで比較する
最適データを判定
Clayが最も正しいと判断したデータを採用する
たとえばシリーズAスタートアップのCMO1000人の連絡先を求める場合、リクエストを5社に出し、返ってきた回答を更新日などで照合して、最も正確なものをClayが選び出します。
結果としてZoomInfoと変わらない、場合によってはそれ以上の品質のデータが、高くない値段で手に入るというわけです。清沢さんは、自前のリードデータベースを持たず「ハブ」になっている点が最大の特徴だとまとめます。
評価額4500億円。創業者とニューヨーク発というルーツ
Clayの規模感も桁違いです。すでにシリーズCまで調達を終え、評価額は3.1ビリオン、日本円でおよそ4500億円に達しています。
シリーズCで三ビリオンってもうほんと桁が違いますね。
著名VCのセコイアからも出資を受けており、注目を集めるスタートアップです。清沢さんは、日本の上場企業と比べても圧倒的な成果だと評します。
創業の地はニューヨーク。清沢さんは、UiPathやDatadogと並ぶ珍しい立地だと触れます。創業者はカリーム・アミンさんと、最初の共同創業者ニコラ・エルサンさんで、ともにカナダのマギル大学出身です。
CEOのアミンさんはエジプト出身で、カナダを経てアメリカへ移住した移民のバックグラウンドを持ちます。会社の設立は2017年のことでした。
ノーコードツールからGTM特化へのピボット
今でこそ営業・マーケ向けのClayですが、2017年の創業当初はまったく違う製品でした。プログラミングができなくても業務アプリやワークフローを作れる、汎用的なノーコードツールだったといいます。
浜田さんは、当時のClayをAirtableやRetool、日本でいえばkintoneに近い位置づけだったと説明します。こうした汎用ツールの進化版を目指していたようです。
転機は、想定外のユーザーの使い方でした。Clay内のスプレッドシート機能を使い、見込み顧客のリストを管理したりデータを調べたりするユーザーが増えていったのです。
開発側が想定していなかったこのユースケースにユーザーが熱狂していると気づき、Clayは2021年ごろ、営業・マーケ用途への大きなフォーカスシフトを決断します。
浜田さんは、この判断こそが重要なポイントだと強調します。普通なら数あるユースケースの一つとして紹介する程度で終わるところを、Clayは市場が狭くなることを承知でそちらに全振りしました。
そっちにもうオールインして、市場は狭くなるけど、結構深めのペインを掴んでるから、完全にそっちにピボットしちゃおうっていう判断をして、まあそれが成功したっていうことですよね。
Forbesの記事では、創業者が「世界を変えるような壮大なツールよりも、顧客にとって役に立つツールを作ることが大事だ」と語っています。この判断は、10日間の瞑想リトリートを経てのものだったといいます。
浜田さんは、Salesforceのマーク・ベニオフさんが起業を決めたのもインドでの体験だったと触れ、瞑想を経て大きな決断をするのはアメリカにある一つの文化かもしれないと話します。
こうして2017年に汎用ツールとして生まれたClayは、2021年末にGTM領域へ特化するドラスティックなピボットを遂げます。直後から顧客が大量に流入し、2022年と2023年の2年間で売上はそれぞれ10倍に拡大しました。
月150ドルから使える従量課金モデル
急成長を支えたのは価格設計でもあります。プライシングを見ると、最小で月150ドルほどから使え、トライアルも用意されています。入口の敷居を下げ、利用量に応じて課金していく設計です。
浜田さんは、Clayが基本的に従量課金だと説明します。クレジットが提供され、1ベンダーから1件のデータを取るごとに料金がかかる仕組みで、使えば使うほど課金される形です。
その柔軟な従量課金にすることによって逆にグッと伸びたみたいなパターンですよね。
従来のSaaSは固定額で課金したい発想が多かったものの、AIの登場で従量課金が再び増えているといいます。Clayはその流れの中で、柔軟な課金設計によって伸びた一例です。
なぜ伸びたか。自然発生したユーザーコミュニティ
なぜClayはここまで伸びたのか。データのハブになった点に加え、清沢さんはユーザーコミュニティの形成の巧みさを挙げます。
調べていくと、Clayユーザー同士が情報交換するSlackチャンネルが自然発生していたといいます。誰かが作らずとも生まれ、リードハックのやり方や効果的なワークフローのノウハウが積極的に共有されていました。
こういうリードハックスできたよとか、このようなワークフローを作ると効果的だというノウハウがすごい積極的に共有されて、まるでClayの専門コンサルタント集団というのが現れた(という表現もあります)。
浜田さんは、強いユーザーコミュニティが生まれる条件を整理します。プロダクトが少し複雑で使いこなすのが面白いこと、そして使いこなすスキルが自分のキャリアアップにつながることです。
「GTMエンジニア」という職種の発明
Clayのコミュニティの成功は、同社が生み出した「GTMエンジニア」という職種の創造と強く結びついている、と浜田さんは見ています。
浜田さんは、これをGainsightがカスタマーサクセスという職種を作り出したことになぞらえます。絶妙な新しいポジション名を発明した、という見立てです。
中身はRevOpsと同じことを指していても、「Clayを使いこなせる人はGTMエンジニアである」という定義を作ることで、それが自分の給料が上がることに結びつく構図をうまく作れていた、と浜田さんは分析します。
Clay自身は、GTMエンジニアを「営業やグロースの知見を持ちながら、ノーコードやAIを駆使して自社の収益エンジンを設計・構築できる人材」と定義しています。実際にGTMエンジニアの求人票もアメリカで爆増しているそうです。
清沢さんは、これをセールスオプスやRevOpsの職種を一段階アップグレードし、市場価値も希少性も高いスキルセットへ昇華させたものだと評します。
BtoBインフルエンサーとYouTube文化
もう一つの伸びた要因が、インフルエンサーマーケティングです。日本ではインフルエンサーはほぼBtoC向けですが、アメリカにはBtoBインフルエンサーが存在すると浜田さんは説明します。
BtoBインフルエンサーは、最新ツールを使ってみてYouTubeやポッドキャストで発信する人たちです。GammaやGensparkといったAI系ツールで「こんなことができた」という動画を上げ、バズを生んでいるといいます。
これがClayとも相性がよいと浜田さんは指摘します。プロンプトや設定を組んでボタンを押すと、Clayがスプレッドシートを次々にデータで埋めていく画面の動きがあり、それが見ていて面白いのです。
やっぱそれがすごい面白いんですよ。うわ、出てきた、出てきたみたいな感じになる。
こうした動画を作る人たちの存在が、BtoBツールとしては異例のバズにつながったといいます。清沢さんも、Notionのテンプレートや活用術で人気のUSインフルエンサー動画が流れてくると触れます。
浜田さんは、日本ではNotion活用の発信はnoteやXで見かける一方、アメリカではYouTubeが中心だと違いを語ります。BtoBツールでもきちんと編集された解説動画が当たり前に存在するのです。
オールインワンにしない。尖った一点突破の戦略
アウトリーチ手段の設計にも、Clayの特徴が表れています。ZoomInfoやApolloがデータ抽出からメール送信まで統合的にこなすのに対し、Clayは特化型のイメージだと清沢さんは述べます。
浜田さんは、Apolloは安価でリスト作成後のメール送信や通話録音まで揃うが、データがあまり正確でないという声があると説明します。対してClayは、まず正確なデータという一点をやりきりました。
現在はワークフロー化も進み、LinkedInで転職フラグが立った人にメールを送るといったことまでできますが、あんまりオールインワンにしすぎないで尖ったところで勝負している印象だと浜田さんは話します。
清沢さんは、セールステックは自社プラットフォームで全活動を完結させる思考が多い中、Clayは長年にわたり特定のペインへ深く入り込んできた点が特徴だとまとめます。
Clayはこれからどこへ向かうのか
今後の展望はどうか。ClayがPMFを果たしたのはSaaSバブル後であり、ここから数百ミリオンの売上を目指すには横の領域へ広げていく必要があると浜田さんは見ています。
ただし、APIで企業データが際限なく取れる国はアメリカ以外にほとんどない、という前提があります。この点が、Clayの海外展開における難所になり得ると浜田さんは指摘します。
海外展開はすでに進んでおり、日本でもClayのユーザー会が開かれたという話もあるそうです。一方で最大のチャレンジは、この売り方でエンタープライズに入れるかどうかだといいます。
浜田さんは、ZoomInfoは高価だが安心感もサポートもあると指摘します。対してClayはユーザーコミュニティはあるものの、手厚いサポートがあるわけではなく、この売り方でエンタープライズに売れるかは一つの課題だと語ります。
自前で数百万社のデータを保有。高価だがサポートと安心感があり、エンタープライズに強い
自前DBを持たず複数ベンダーのハブになる。安く正確、コミュニティは強いが手厚いサポートは薄め
清沢さんは、エンタープライズ領域はZoomInfoがいる市場であり、売り方も含めてどうその市場を広げていくかがポイントだと締めくくります。
成熟市場をディスラプトする発想と、プロダクトへの示唆
最後に、Clayの事例から得られる学びを二人が整理します。浜田さんは、セールステックは飽和しやすくプロダクトの広がりがないと思われがちだが、Clayはその先入観を覆したと語ります。
Dun&BradstreetがいてZoomInfoが取り、もう取り尽くされたと思われていた企業データ市場でも、発想を逆にすればまだ勝てる。浜田さんはこれを、イノベーションのジレンマにおけるディスラプターの典型的な動きだと分析します。
浜田さんは、この考え方はCRMやマーケティングオートメーションにも当てはまり得ると指摘します。成熟したセールステック市場をディスラプトする際の発想として参考になると語ります。
清沢さんも、一見もう領域がないと思える市場に意外と深い課題があり、既存ユーザーが潜在的に新しいソリューションを探していることがあると受けます。それを深掘るのは難しいが示唆があると話します。
もう一つ、浜田さんはUIがスプレッドシートである点に着目します。SaaSはスプレッドシートを置き換えて伸びてきたが、その結果Salesforceは入力項目が多すぎて誰も触りたくない状態になった、という皮肉を挙げます。
そこで一周回って、ネットやAIにつながったスプレッドシートが最強なのではないか、と浜田さんは考えます。NotionでCRMを済ませる顧客がいるのも、スプレッドシートライクなデータベースが使いやすいからです。
清沢さんは、コア機能を極力シンプルにし、新しいツール特有のUIに慣れる負担を減らせる点もポイントだと補足します。
浜田さんは、PLGのように自分で顧客がキャッチアップして広げていく道を狙うなら、誰が見ても明らかなUIでなければ勝手には広がらないと述べ、シンプルなUIの合理性を語ります。
清沢さんは、ユーザーによる非公式なSlackコミュニティが機能している点も、日本ではあまり見られないと感じると語ります。公式ではなくユーザー自身が場を作っているのです。
浜田さんは、自身が毎日覗いているRevGeniusというRevOpsのSlackコミュニティでも、Clayの使い方のスレッドが週に何度も立つと明かします。それだけ提供側が働きかけずともユーザーが熱狂しているのです。
最後に浜田さんは、プロダクトはわかりやすすぎても、わかりにくすぎてもいけないと語ります。ユーザーが自分で調べたり他のユーザーに聞いたりする程度の絶妙なバランスこそ、再現は難しいが理想だとまとめます。
まとめ
Clayは、企業データベースという成熟市場を「いらないデータは渡さない」という逆転の発想で崩し、ピボットとコミュニティ戦略、そして新しい職種の発明で急成長したスタートアップです。その歩みは、飽和したように見える市場をディスラプトする発想と、AI時代のプロダクト設計への示唆に富んでいます。
- 自前でデータを持たず、複数ベンダーのハブとして「安く正確」を両立するモデルで既存の巨人ZoomInfoに対抗した
- 汎用ノーコードツールから、ユーザーの想定外の使い方に気づいてGTM領域へ全振りするピボットで急成長した
- 「GTMエンジニア」という職種を定義し、製品の習熟がユーザー自身のキャリアアップにつながる構図を作った
- 自然発生した非公式ユーザーコミュニティとBtoBインフルエンサーが、提供側の働きかけなしに製品を広げた
- 一見取り尽くされた市場でも発想を逆にすれば勝てる、AI時代はスプレッドシートライクなシンプルUIが有効という示唆が得られる







