台本を読むのは難しい?プロのラジオパーソナリティから学んだこと
ローカルクルーは、住民がゼロになった福島県南相馬市小高区に100の事業をつくることを目指すOWB株式会社が、まちづくりの仲間を探すための求人ポッドキャストです。第2回の冒頭、OWBの和田ともゆきさんとみっけの井上たくみさんは、番組の読み上げに慣れてきたという雑談から始めます。
井上さんは以前、渋谷のコミュニティFM「渋谷のラジオ」で1年間、週1回の生配信番組を持っていたそうです。そこで初めて、台本を読み上げる経験をしたといいます。
普段、僕も和田さんもミーティングだったり取材だったり、イベント登壇だったりで、話す機会ってたくさんあるじゃないですか。
もっと言うと、自分は話すのがうまい方だとさえ思っていたんですけれど、プロのラジオパーソナリティの方々って、本当にすごいんですよね。
井上さんによると、自分たちの話し言葉には「あ」「その」といった無駄な言葉が多く、収録を聞き返すと無意識に倒置法を多用していることにも気づくそうです。一方でプロのパーソナリティは、台本を読んでいるのに自然に話しているように聞こえるといいます。
井上さんは、このローカルクルーを通じて二人ともプロのパーソナリティに近づいていこうと呼びかけ、和田さんは「いけるかな」と応じていました。
前回の振り返り。場づくりに必要なのはどんな仲間?
本題に入る前に、井上さんは前回取り上げた小高パイオニアヴィレッジの話を振り返ります。和田さんたちは、日本の地方にはまだほとんどなかったコワーキングスペースを、まず名乗ってみるところから始めたという話でした。
小高パイオニアヴィレッジでは、場を立ち上げただけで人や交流が生まれたわけではありませんでした。新しい事業や取り組みが走り始めてから、少しずつ和田さんが望んでいた景色が生まれてきたといいます。
だからこそ場を運営するには、小高にどんな営みや景色を増やしたいかに一緒にコミットできる仲間が必要になります。前回は、まちづくりに興味がある人より、IT人材や事業づくりに関心がある人こそ場づくりで重要なのでは、という話で締めくくられていました。
その後に考えた人材像を問われた和田さんは、「翻訳者」のような役割の人を挙げます。
やっぱり翻訳者みたいな役割の人って必要だなとは思いますし、地域のいろんなルールとかお作法みたいなものもしっかりそこでコミュニケーションできる。
(地域づくりとビジネスサイドを)行ったり来たりして、それぞれの言葉を翻訳して落とし込む、そういうことができる人がいると、特にローカルにおける場づくりっていうのはすごい強いかなとは思いますよね。
地域にフィットするのはどんな人?ふわっとした関わりの難しさ
井上さんは、小高に関わってきた多くの人を見てきた和田さんに、地域との関わり方でフィットする人の特徴を尋ねます。井上さん自身の実感としては、あっけらかんと明るい人は強く、誠実に仕事を当たり前にこなせる人も地域では強いのではないかと話します。
逆に井上さんは、場づくりや人との関係性に興味があるといった柔らかい感覚で地域に来る人ほど、フィットしにくい場合があると指摘します。和田さんもこれに強く同意しました。
やっぱこうふわっと地域に関わりたいみたいな状態だと、地域側も何をやってもらおうかなっていうか、役割を与えにくいみたいなところがありますよね。
あっけらかんと明るい人。誠実にしっかり仕事を当たり前にやれる人
場づくりや人との関係性に興味があるといった、ふわっとした感覚で地域に関わりたい人
この整理は井上さんの実感に和田さんが同意したもので、地域側が「役割を渡せるかどうか」が分かれ目になっていることがうかがえます。
ハードワーク経験は地域で生きる?あえて語られた「つべこべ言わずやれ」
意外にフィットした人を聞かれた和田さんが挙げたのは、スタートアップで2、3年経験を積んだ人たちでした。寝る間もなく働かされた人や、大きなIT企業の新規事業で厳しいノルマをこなしてきた人が、地域に来てからも活躍していたそうです。
井上さんは、ブラック企業と呼ばれる会社のあり方は批判の対象になると認めつつ、そうした環境で数年粘った経験が地域では力になるという「難しさ」を口にします。
環境そのものを正当化はできないけれど、でもなんか必要じゃないとも言い切れないこの難しさ。
和田さん自身も若いころはスタートアップでハードワークをしていたそうです。その経験があるからこそ、地方の合理的でないことにも取り組み、突破していく力になっているのではないかと話します。
井上さんは、その経験の価値は企業の成長の話ですらなく、同じ言葉を発しても刺さる感じや、人間としての厚みの違いに表れると話します。社会の大半がまだそうした環境を経験してきた人たちである以上、信頼関係を築くうえでも差が出てしまうという見方です。
やっぱりコスパタイパ優先、効率悪いことはやりません、しんどいこともやりませんっていう感じだと、やりきんないですよね。
和田さんによれば、地域の事業はうまくいかないことのほうが圧倒的に多いといいます。うまくいかなくてもやり続ける体力と、非合理で効率の悪いことにもコツコツ取り組む姿勢が大事だというのが和田さんの考えです。
NextCommonsLab南相馬はどう始まった?副市長との飲みの席から
ここから話題は、OWBの重要な事業の一つであるNextCommonsLab南相馬に移ります。始まったのは、まだ小高パイオニアヴィレッジができる前の、小高ワーカーズベース時代でした。
井上さんの説明では、NextCommonsLabは地域おこし協力隊 ── 都市部から過疎地域などへ移り住んだ人を自治体が委嘱し、地域協力活動に従事してもらう国の制度。隊員の報酬などに国の財政措置がありますの仕組みを使った取り組みです。協力隊は最大3年間、給料をもらいながら地域で仕事をする制度で、その期間に地域で事業を立ち上げるのがNextCommonsLabの形だといいます。
和田さんは、これをNextCommonsLabの「ローカルベンチャー事業」という位置づけだったと補足します。先行して遠野、加賀、宮城の南三陸で始まっており、その後4地域ほどが同時に立ち上がったうちの1つが南相馬だったそうです。
立ち上げは和田さんたちからの声かけでした。それまで4つほど事業を立ち上げてきた和田さんは、「1社で100の事業は相当大変だ」と気づいたといいます。
ちょうどそのころ、当時の副市長が酒の席で「小高の復興に地域おこし協力隊制度をうまく使えないか」と和田さんに相談してきました。南相馬市はそれまで協力隊を採用したことがなかったそうです。
遠野で始まっていて、めちゃめちゃユニークな起業家が集まってるっていうのは、代表の林さんもよく知ってたんで、「あ、じゃあもうこれしかないでしょ」っていうふうに思ったんですよね。
和田さんは副市長たちとすぐに遠野へ行き、現地の事務局や起業家と話しました。その場で副市長が「よし、やりましょう」と即決したのが、NextCommonsLab南相馬の始まりです。
お金が集まるのは事業ではなく人?NextCommonsLabという発明
井上さんは、NextCommonsLabを相当な発明だと評価します。これまでの起業は、会社員をしながら裏で準備する、銀行融資で設備資金や運転資金を借りる、スタートアップなら株を売って資金を調達する、といった形が基本でした。
会社員の傍らで準備する、銀行融資、エクイティによる資金調達など、基本は事業にお金が集まる
地域おこし協力隊の制度を使い、事業を立ち上げる人自身に給料が払われる
井上さんはこの違いについて、お金が事業ではなく、事業を立ち上げる人に払われる点が本当に新しいと話します。
ほんと協力隊っていう制度をうまくハックしたなって思いますよね。
和田さんによると、それまでの協力隊は行政の仕事など、お金がつきにくい非営利的な仕事をするイメージがありました。全く逆に、事業を起こすためにこの制度を使うことを仕組み化したのが、すごい発明だというのが和田さんの評価です。
15の事業から見える、ステレオタイプではない「起業家」
NextCommonsLab南相馬からは、現在15の事業が立ち上がっています。和田さんが挙げた例は、実に幅広いものでした。
- クラフト酒をつくる酒蔵(2人がそれぞれ立ち上げ)
- 地域にたくさんいる馬を活用した事業
- 耕作放棄地で野菜を育て、その出口にしたサラダ屋さん
- 和田さんの「ハンバーガーが食べられない」という話から生まれたハンバーガー屋
- 1足40万円ほどの手縫いの革靴をつくる職人
- グラフィックデザイナーや建築家
井上さんは、ゼロから始める人、地域のものを生かす人、やりたいことを決めて舞台に小高を選ぶ人、個人のスキルを事業として強くしていく人など、関わり方がとても多様だと整理します。野心を持って起業するというステレオタイプな起業家像とは違う、という指摘です。
起業家っていう言葉が彼らを適切に表しているのかっていうのは、なかなかそうでもないなって感じはしますね。
なんか経済的な成功というよりは、本当に自分の事業を通じて暮らしを良くしていきたいみたいな人たちですよね。
仕事と暮らしが分離しない働き方とは?商人や百姓という感覚
井上さんは、NextCommonsLabの起業家たちを「働き方を変えている人」と捉え直します。たとえば会社に所属していたデザイナーが、自分のデザインを地域に生かすために独立するようなイメージです。
仕事と暮らしが分離してないというか。自分の仕事が自分の暮らしを良くしていく感覚というか、そんな感じですよね。
会社員との違いを問われた和田さんは、会社では方針や利益が優先され、それに従わざるを得ない場面があると話します。NextCommonsLabの起業家も利益は出しますが、優先順位が少し違い、「これをやったらこの地域でこんなことが起きる」という世界観にワクワクして意思決定できるといいます。
話を聞いた井上さんの頭に浮かんだのは、江戸時代のような「商人」という言葉でした。和田さんは「近江商人みたいな」と応じ、井上さんが続けて挙げた「百姓」にも近いと同意します。
会社の方針や利益、企業の論理を重んじて働かざるを得ない場面がある
自分でやったことが良くも悪くもそのまま自分に返ってくる。地域の未来にワクワクできる意思決定ができる
そもそも、誰かの何かを困り事を解決する手段が事業なので。
和田さんは、その目的を忘れて売上や利益が目的になるのは、ある意味西洋的な考え方かもしれないと話します。金融工学のように、誰の何の問題も解決しないまま利益を出すあり方は違うと思う、というのが和田さんの立場です。
なぜ地方なのか?システムを「作る側」に回れる場所
井上さんは、会社員の中には企業や業界の慣習・論理を「ダルい」と感じている人がたくさんいるはずだと話します。地域では自分の選択も発言も行動もすべて自分に返ってくるので大変さもありますが、その「ダルさ」の種類が違うのでは、という問いかけです。
普段我々っていろんなシステムの中で暮らしを営んでいて、でもその誰かが作ったシステムなんで、自分にフィットしてないとか、こうだったらいいのにって思うけど変えられない。
地方に来ると、そのシステムがすごく小さい、あるいは弱いので、自分で変えたり新たに作ったりってする。システムを作る側に回れるっていうのが面白いところであり。
和田さんはこれを、システムを変える手段としての起業だと表現します。井上さんは、大企業や業界のシステムも生まれたときは課題があったはずなのに、時間が経つとシステムの維持そのものが目的になってしまうと整理しました。
誕生
何らかの課題や必要性があってシステムが生まれる
目的化
時間が経ち、システムを維持すること自体が目的になる
違和感
本来の課題とのちぐはぐさに、会社員の中にも違和感を持つ人が出てくる
地方
まだシステムがないので、今ある課題から必要な仕組みを考えられる
安心してくださいと。地域にはまだそのシステムさえないですと。
井上さんはさらに、古い業界を壊したり誰かを置き去りにしたりしてまで起こすIT的なイノベーションに、モヤモヤしている人もいるはずだと話します。そうした人も、地方なら仲間や人を大切にしながらイノベーションを起こせるというのが二人の見立てです。
ただし和田さんは、ぐずぐずしていると行政が都会のシステムを地方に持ち込もうとすると注意を促します。フィットせずにうまくいかない地域が多いからこそ、早く着手して「こういうアプローチがあるのね」と示すことが重要だといいます。
稟議を待つより、給料をもらって仮説検証を
井上さんは、企業の中で手段が目的化していることに違和感を持ち、「もっとこうしたらできる」という仮説を持つ人に向けて、NextCommonsLabの使い方を描きます。
資料を作って提案し、稟議を通して予算がつき、初めてPOCを回す。さらに次の予算を取りに行く
3年間給料をもらいながらPOCを回し、マーケットに合うかを早く見つける。他地域への展開もできる
ここでのPOCはPOC ── Proof of Conceptの略で、新しいアイデアや技術が実際に機能するかを小さく試して確かめる概念実証のこと、PMFはPMF ── プロダクト・マーケット・フィットの略。製品やサービスが市場のニーズにしっかり合っている状態を指す言葉ですを指しています。
僕が面談で採用って、もうそれだけの決裁しか必要ないので。
和田さんは、NextCommonsLabに「ラボ」とついているのはそういう意味もあり、「次のコモンズのラボ」なのだと説明します。井上さんは「起業したいけど給料はあった方がまだいい」という人は、全員NextCommonsLabでいいのではと話します。
だから起業家募集って、ちょっとそういう意味であんまり良くなかったかもしれないですね。僕も今話しながら気づきました。
南相馬に来てほしい理由と、これからのテーマの立て方
井上さんが「南相馬以外のNextCommonsLabもこのやり方をまねするかも」と冗談めかすと、和田さんはそれでもかまわないが、できれば南相馬に来てほしいと答えます。南相馬はNextCommonsLabの各地域の中で一番長く続いているそうです。
井上さんは、今回の対話がNextCommonsLabのテーマ設定のヒントにもなったと振り返ります。これまでは小高に何が必要かを起点にテーマを言語化してきましたが、これからは仲間にしたい人たちが今どこに違和感を感じているかを代弁するテーマにすれば、人が集まりそうだという発想です。
なんかすごい開けましたね。
番組の最後に井上さんは、小高パイオニアヴィレッジでIT人材を募集していることに加え、会社で稟議や予算が通らずもやもやしている人に向けて呼びかけます。そうした人こそNextCommonsLabに入り、給料をもらいながら始めましょう、という締めくくりでした。
まとめ
今回のローカルクルーは、地域で活躍する人材像から、NextCommonsLab南相馬の仕組みと働き方へと話が進みました。二人がたどり着いたのは、「起業家募集」ではなく「違和感を早く試したい人」に呼びかけるべきだという、募集のあり方そのものの捉え直しです。
- 地域では、ふわっと関わりたい人より、明るく誠実に仕事をこなせる人や、非合理なことにも粘り強く取り組める人が力を発揮しやすいと語られています
- NextCommonsLabは地域おこし協力隊の制度を使い、事業ではなく事業を立ち上げる人に給料が払われる仕組みで、南相馬では15の事業が生まれています
- 地方はシステムがまだ小さく弱いため、自分でシステムを作る側に回れるのが面白さだと話されています
- 企業の中で稟議を待つより、給料をもらいながら仮説検証できる場として、NextCommonsLabを使うという発想が示されました





