インテントセールスとは何か。まず「インテント」の意味から
用語解説シリーズの3回目となる今回のテーマは、BtoBのセールスやマーケティング業界でよく聞くようになった「インテントセールス」です。前回はナーチャリングを扱いました。
浜田さんは、インテントセールスは日本でセールスマーカーが作ったカテゴリだと整理します。一方で、インテントという言葉自体はアメリカでも使われているといいます。
インテントって言葉自体はアメリカでも使われてるので、それはどういう意味かとか、日米でどう違う感じに進化しているのかとか、お話できればなと思います。
清沢さんによると、インテントセールス ── 購買意欲を持って情報収集や検討をしている顧客の兆しを捉え、確度の高い相手に営業する手法。日本ではセールスマーカーが提唱したカテゴリとして広まりましたという言葉は、セールスマーカー代表の小笠原さんの著書が約1年前に出版されて以降、この数年でよく聞くようになったといいます。
そもそも「インテント」とは、意図や関心、購買意欲を指す言葉です。ビジネスの文脈では、特定の課題解決や製品に関心を持ち、情報収集や検討を行っている「兆し」を捉えることを意味します。
1st・2nd・3rdパーティ、インテントの3つの種類
浜田さんは、インテントの具体像は幅が広いと話します。データの取得元によって、ファーストパーティ、セカンドパーティ、サードパーティに分かれるためです。
日本でセールスマーカーがインテントセールスと呼んでいるのは、このうち最も顧客から遠いサードパーティにあたります。自社サイトでも、自社がスポンサーするサイトでもない、検索サイトから得られるデータです。
(サードパーティは)Googleだとかの検索サイトでお客様が検索した時に、この企業の人が検索したっていうのを教えてくれる。これが日本でいうインテントセールス。
一方、アメリカではインテントを「購買の兆し」として捉え、あらゆる場所から取っていこうという発想が多いと浜田さんは言います。そのためファーストパーティやセカンドパーティなど、活用するデータの種類が多くなります。
清沢さんは、ファーストパーティは自社で直接集めたデータだと補足します。自社サイトへの訪問履歴や資料ダウンロードなど、最も顧客との接点に近いデータです。
マーケター文脈では、まずこのファーストパーティのデータ、つまりリードを自社で獲得していくことが大事になると清沢さんは整理します。
自社で直接収集したデータ。自社サイトの訪問履歴や資料ダウンロードなど、顧客との接点に最も近い
比較サイトやメディアなど、他社が持つデータの提供を受けるもの
検索サイトなど、自社と直接関係のない場所での検索行動を教えてもらうデータ
なぜ今インテントが注目されるのか
インテントセールスが注目される理由について、浜田さんは大きく2つあると話します。1つ目は、やみくもなアウトバウンドが難しくなってきたことです。
かつては、ターゲット企業のリストが1000件あれば、電話をかけまくって10件アポを取る、というスタイルがありました。しかし今は、電話ブロックのサービスが広まり、そもそも電話がつながりにくくなっています。
同時に、営業人員の採用にも各社が苦労しています。効率の低い営業活動を回すリソースがないため、少しでも確度が高い相手に当てていきたい、というのが1つ目の背景です。
2つ目は、顧客が自社サイトに来る前に検討が終わってしまう、という変化です。浜田さんはこれをダークファネル ── 顧客が自社サイトに来る前に、比較サイトやSNS、生成AIなどで情報収集や比較検討を済ませてしまい、企業側からは見えない検討プロセスのことと呼ばれる現象として説明します。
たとえば名刺管理に興味を持った人は、Sansanのサイトに行く前に、ボクシルで一括請求したり、ChatGPTに「名刺管理は何がいい?」と聞いたりします。浜田さんは、その手前でほぼ検討が終わっていると指摘します。
つまり、まだ検討中の顧客に手前でアプローチし、「実はこういうポイントが大事だ」と教育する必要が出てきます。そのために、より手前で顧客の検討意向を捉えたい、という流れが広まっていると浜田さんは話します。
清沢さんは、この後者の背景として、BtoBの購買者があらゆる情報を調べられるようになった点を挙げます。以前はなかったコミュニティも増え、Facebookのマーケターグループなどで「セールスマーカーは実際どうか」といった評判まで聞ける時代になりました。
結果として顧客による自己解決が進みやすくなり、その分、自社サイトに来てくれずファーストパーティデータが取れない可能性が高まっていると浜田さんは整理します。清沢さんは、生成AIの台頭で検索すらしない人が増え、ファーストパーティやセカンドパーティのデータの取得しやすさや価値自体も変わってきたと補足します。
インテントはどう取得するか。まず自社データを見直す
続いて、具体的にインテントをどう取得するかという話に移ります。清沢さんは、ファーストパーティ・セカンドパーティ・サードパーティの構造で整理します。
ファーストパーティの王道は、ウェブサイトのアクセス解析に加え、MA ── マーケティングオートメーション。見込み顧客の行動履歴の記録やメール配信などを自動化するツールやSFA、CRMを横断的に使うことだと清沢さんは説明します。
ただし浜田さんは、この王道が「本当にできているか」を問い直します。サードパーティのサービスを買う前に、自社のファーストパーティデータをきちんと取れているかを見直す余地のある会社は多いと指摘します。
資料はPDFで送ってるんで、資料をどこまで読んだかわかってないとか、動画はYouTubeのリンクを送ってるんで、アクセス数しかわかってないみたいなところがあって。
せっかく自社でコンテンツを用意しても、その閲覧データを追えていないことは多い、というのが浜田さんの見立てです。清沢さんも、SalesforceやMAを入れてもデータを統合し、リード単位で行動履歴を完全に可視化できている会社は多くなさそうだと同意します。
セカンド・サードパーティの選択肢は意外と広い
一方、セカンド・サードパーティのデータは、インテントデータを提供するベンダーツールから購入して活用します。清沢さんは、日本のサードパーティではセールスマーカーが主要なところだと挙げます。
浜田さんは、セールスマーカーやインフォボックスなどがサードパーティの検索データにあたると説明します。加えて、セカンドパーティのベンダーも存在すると言います。
たとえばITreviewやボクシルのような比較サイトでは、自社サービスではなく他社サービスを見ているものの、自社カテゴリの製品に関心がある人の情報を得られる場合があります。
名刺管理でハンモックは見たけどもサンサンは見てないみたいなお客さんがいた時に、このハンモック見てるのがどんな人かみたいな情報を(比較サイトから)もらえたりする。
浜田さんは、どこまで情報をもらえるかは設計によるとしつつ、こういう企業や業界という粒度の情報は比較サイトから得られることもあると話します。清沢さんは、比較サイトからそうした情報を提供してもらえる点は知らなかったと反応します。
アメリカで多い例として、浜田さんはターゲットメディアを挙げます。ホワイトペーパーを記事化したようなコンテンツを用意し、閲覧にログインが必要な媒体では、「この企業のCMOがこのテーマに興味がある」という情報を媒体社が持っている、という仕組みです。
こうしたデータをセールスマーカーのような会社が買う場合もあれば、企業側が媒体社のサービスに直接申し込んでデータをもらう場合もあります。浜田さんは、インテントというとまずセールスマーカーを思い浮かべがちだが、選択肢は多いと強調します。
インテントデータはどこまでわかるのか
次に、インテントデータがどの粒度までわかるのかという話です。清沢さんの問いに、浜田さんは「本当に様々」だと答えます。
浜田さんによると、「誰が」というレベルの特定は、ファーストパーティ以外では難しいのが一般的です。たとえばITreviewでサービスを検索した人がいても、その場でSansanの資料を欲しいと言ったわけではなく、オプトイン ── 個人情報の取得や連絡について、本人が事前に同意することをしていないためです。
そこで名前やメールアドレス、電話番号を渡すと個人情報の面で問題になります。そのため媒体社側は「この企業くらい」の情報を提供するのが一般的だと浜田さんは説明します。
一方で、企業単位の情報はアクションを起こすのが難しい、と浜田さんは続けます。そこでアメリカでよく見るインテントの使い方として挙げるのがLinkedInです。
たとえば、ターゲット企業のCMOに誰かが就任したという情報があれば、「この人は前の会社で自社のユーザーだった」「投稿を見るとこういうサービスに興味がありそうだ」とわかります。
そこでLinkedInのセールスナビゲーター ── LinkedInの営業向け有料機能。役職や業界などで細かく相手を絞り込み、ダイレクトメッセージを送れるを使い、就任祝いとともに提案のメッセージを送ると、一定の確率で反応が返ってくるといいます。
日本ではそもそも個人のメールアドレスや電話番号が売られていないため、「この企業が興味ありそう」という域を超えるのは難しい、と浜田さんは日米の差を整理します。
日本でLinkedInが根づかない理由
清沢さんは、自身がインサイドセールスの立ち上げでLinkedInのセールスナビゲーターを2、3か月ほど孤独に使った経験を振り返り、難易度が高かったと話します。
同時に清沢さんは、アメリカでは成果が出るだろうと感じたといいます。業界や役職、領域などで細かくセグメントを切り、顧客をバイネームで特定しに行けるためです。
(LinkedInは)業界とか役職とか領域とかを、いろんなセグメント切れて、お客さんをほんとバイネームで特定しに行ける。
ただし清沢さんは、日本では外資やグローバル系の人しかLinkedInを更新しないため、可能性は感じるが馴染みづらいと感じたと話します。
浜田さんは、LinkedInはFacebookと同じ時期に始まり、アメリカのビジネスパーソンでアカウントを持っていない人はほぼいないと補足します。日本ではビジネス投稿がFacebookでされがちで、少し前に利用者は200万人程度と聞いたといい、カバー率に限界があると指摘します。
アメリカではLinkedInがほぼ名刺代わりで、ネットワーキングで話が合えば「今度コーヒーチャットしよう」となり、LinkedInを交換する、という使われ方だと浜田さんは説明します。
ビジネスパーソンのほぼ全員がアカウントを持ち、名刺代わりに使う。転職シグナルなどから個人へ直接アプローチできる
利用者が少なく、外資やグローバル系、ヘッドハンター中心。企業単位の域を超えたアプローチは難しい
クッキー規制とインテントの足元
話題は、インテントが求められる別の理由に移ります。清沢さんは、広告のリード獲得単価の高騰や、クッキー規制の影響を挙げます。
浜田さんは、サードパーティクッキー ── 閲覧サイトとは別の事業者が発行するクッキー。サイトをまたいだユーザー追跡に使われてきたが、プライバシー保護の観点で規制が進んでいるによる追跡型マーケティングが難しくなり、それ以外の手段でデータを取りたいという流れがあると整理します。
ただし浜田さんは、インテントを取る仕組み自体がクッキーに依拠している可能性があると指摘します。ブラウザが追跡を全面的に否定すれば、インテントを取る仕組みそのものが成り立たなくなる可能性があるということです。
一方で、マーケティング関係者からの反対も根強く、ChromeやSafariの追跡規制は思ったほどの速さでは進んでいないと浜田さんは見ています。
それでも将来的には、本人の知らないところで行動を追いかけること自体ができなくなる可能性があります。浜田さんは、一周回ってやっぱりファーストパーティでやった方が大事だという話になりそうだと予想します。
ZoomInfo、Bombora。アメリカのプレイヤー
清沢さんは、アメリカのプレイヤーとしてZoomInfoに触れます。浜田さんは、ZoomInfoのメインは企業データだと説明します。
ZoomInfoは、どの会社のどの役職の人が誰で、どのメールアドレスや電話番号かを徹底的に取っていくサービスで、その上に乗る情報としてインテントデータも扱っている、というのが浜田さんの整理です。
アメリカでインテントデータの本家と言われるのはBombora ── アメリカのインテントデータ専業ベンダー。日本のセールスマーカーに近い立ち位置とされ、他社サービスと連携してデータを提供するで、インテントだけをやっている会社だと浜田さんは紹介します。連携したりデータを買ったりする使われ方が多いといいます。
さらに浜田さんは、6senseやDemandbaseなど、ABM系のソリューションと混ざりつつインテントに特化したサービスもあると挙げます。
導入後の運用課題。データをどう突合するか
続いて、インテントセールスを導入した後の運用課題です。浜田さんは、これが難しいと率直に話します。
インテントセールスでは、どの企業が興味を持っているかというデータをもらえることがほとんどです。しかし、そこから代表番号に電話をかけると、電話ブロックのサービスに阻まれて先に進めなくなります。
最近はデータベース側が部署番号くらいまで持っていることが多く、ブロック率は下がってきているものの、どうアプローチするかという課題は残ると浜田さんは言います。
もう1つの課題が、CRMとの突合です。たとえば「三井物産が興味を持っている」とわかったとき、CRM上には過去の接点があるかもしれません。
(インテントが立った瞬間に)この会社で一番最近コンタクトしたのはこの人ですみたいな情報がパッと出てくれば、やっぱアプローチしやすいじゃないですか。
浜田さんは、インテントからすぐにアクションを起こせるようデータやオペレーションを作ることが大事になると整理します。清沢さんも、気づきをすぐアクションにつなげられるかがポイントだと同意します。
究極的には、ファーストパーティのデータやリアルな接点との突合も必要になります。たとえばSansanの名刺データベースから、三井物産で最も接点を持つ人を特定して聞いてみる、といった連携です。
浜田さんは、Sansanのデータが必ずしもSalesforceに入っていないケースを例に、データを一箇所に集める設計までやりきらないと、安くないインテントデータの成果を出しきれないと指摘します。
清沢さんは、導入するのはマーケターやOPS的な人で、実際に使うのはインサイドセールスやエンプラ営業だったりするため、部門連携も具体的に必要だと補足します。
(インテントは)アウトバウンドの効率化って結構営業部長とかすごく欲しいんだろうなと思っていて。
浜田さんは、営業部長はデータ統合から遠い立場にいることが多いため、買ったものの活かせない状態にならないよう、マーケやOPSが支えることが大事だと話します。
AI時代のインテントセールスはどう変わるか
最後のテーマは、AIが進化する中でインテントセールスに何が求められるかです。浜田さんは、そもそもBtoBではインテントの母数がそれほど多くないと前提を置きます。
自社が狙うワードで検索する企業は1日に100や200も来るわけではなく、10ほどかもしれません。だからこそ、データそのものよりも、いかにタイムリーで意味のあるメッセージを送るかが重要になると浜田さんは考えます。
アメリカでは、AI SDR ── AIが見込み顧客の初期接触やメール送信などのインサイドセールス業務を自動で行う仕組みやサービスの中にインテントの仕組みが組み込まれたものもあります。転職シグナルが立った人へ自動でメールを連続送信する、といった設計が簡単にできるといいます。
浜田さんは、こうしたツールがAI時代に急増すると予想します。その結果、AIっぽいメールが10通ほど届く人が増え、そうしたメールは見られなくなり、電話もiOSのブロック機能で弾かれていくと指摘します。
だからこそ、ファーストパーティのデータと組み合わせ、自社独自のパーソナライズされたメッセージを送らないと埋もれてしまう、というのが浜田さんの見立てです。
清沢さんは、これは前回前々回のABMやナーチャリングの話とも絡むと整理します。AIで効率化されるほど受け手にはノイズが増えるため、いかに個別化し、1対1のコミュニケーションで興味関心を引き出すかに収斂していくと話します。
信頼の積み上げへ。LinkedInとソーシャルセリング
浜田さんは、アメリカのLinkedInを見ていると、営業やマーケの人が熱心に投稿していると話します。日本ではそうした人がTwitterに多い一方、アメリカではビジネス層がLinkedInに集まっているといいます。
浜田さんは、彼らが熱心に投稿するのは、信頼や認知を積み上げに行っているからだと解釈します。普段からいい発信をしていれば、連絡した相手に「投稿を見たことがある」と思ってもらえたり、投稿にライクをつけた人の中からターゲット顧客を見つけて連絡できたりするためです。
清沢さんは、日本にいてもアメリカでバズったHubSpotのマーケ責任者の投稿が流れてくると話し、そのバズがこちらにも届く点に驚いたといいます。浜田さんも、コメントが大量につき、それに丁寧に返信する姿を見て「頑張っているし、それに見合うリターンがあるのだろう」と話します。
一方で清沢さんは、自分がコツコツLinkedInを続けてもほとんどいいねがつかず、note記事のインプレッションも1000ほど、いいねは16程度だと明かします。日本のSaaSスタートアップのCEOでも反応が少なく、やっている人が少ない分、地道に続ければいつか目に留まるのではないかと考えているといいます。
二人は、日本のLinkedInは外資系やヘッドハンターが中心で、アメリカほどの戦い方はできていないと整理します。つながりリクエストやメッセージはヘッドハンターから来ることが多く、フィードにも転職市場に関する投稿が目立つといいます。
それでも浜田さんは、ソーシャルセリングで成果を上げている人もおり、やり方次第だとしつつ、今の日本ではかなり工夫しないと難しいと話します。清沢さんは、日本では今のところXの方が牽引力があると感じており、事例取材に行くと浜田さんのXで存在を知ったという顧客も多いと補足します。
まとめ
インテントセールスは、購買検討中の顧客の「兆し」を捉える手法で、データはファースト・セカンド・サードパーティに分かれます。アウトバウンドの難化やダークファネルの進行を背景に注目される一方、日米の環境差やクッキー規制、AI時代のメッセージ埋没など、運用には課題も残ります。
- インテントは購買の兆しを捉える考え方で、データは取得元により1st・2nd・3rdパーティに分かれる
- 注目の背景は、やみくもなアウトバウンドの難化と、顧客が自社サイトに来る前に検討を終える「ダークファネル」の進行
- サードパーティを買う前に、自社のファーストパーティデータをきちんと取れているかを見直す余地は多い
- アメリカはLinkedInを軸に個人へ直接アプローチできるが、日本は利用者が少なく企業単位の域を超えにくい
- AI時代は「とりあえずメール・電話」では埋もれるため、ファーストパーティと組み合わせた個別化と信頼の積み上げが鍵




