マーケ用語解説シリーズ第2弾はナーチャリング
この回は番組の第20回にあたります。冒頭ではイベント続きだった直近の様子が話され、なかでも印象的だったのがLampの福山太郎さんとの対談だったといいます。
浜田さんによれば、Lampでは「デイカルチャー」と呼ばれる考え方があり、今日は起業して2415日目、というように一日単位で日数を数えていくそうです。半年に一回、会議のカレンダー招待を全部キャンセルし、出たい人だけ出ればいいとするやり方も紹介されました。
スタートアップとして、一日一日どれだけ前に進むかが勝負だよねみたいなことが、もう前面に出てて。やっぱりちょっと違うなって思いましたね。
浜田さんは、LampがマーケティングをCTO配下に移している点も、日本ではあまり聞かない取り組みだと話します。データ分析でSQLを打つのが大変なため、AIが全データを参照できるようにし、Slackで顧客のMRRを聞けば即座に返ってくる仕組みを自作しているそうです。
そのうえで、Lampの評価額は約225億ドル規模で未上場、ARRは10億ドルを超えているとされます。浜田さんは、SaaSの上場環境が良くない一方で未上場企業への出資は活発なため、無理に上場する理由がないという状況だと説明します。
ここから本題に入ります。前回のABM(アカウントベースドマーケティング)に続き、今回のテーマはナーチャリング ── 獲得した見込み顧客に継続的・段階的に働きかけ、購買意欲を高めて最終的な導入につなげるマーケティング手法。直訳は「育成する」です。
ナーチャリングはなぜ必要なのか
清沢さんは、ナーチャリングをマーケターには当たり前でも、ISや営業からSaaS業界に入った人には初耳のことも多い言葉だと整理します。定義としては、獲得した見込み顧客に継続的・段階的に働きかけ、購買意欲を高めて導入につなげる手法だと説明します。
リード獲得(リードジェネレーション)と選別(クオリフィケーション)の間をつなぐのがナーチャリングの役割だといいます。浜田さんは、選別にはターゲット属性かどうかと、検討タイミングかどうかの2つの要件があると話します。
ターゲットにはなり得るんだけど、まだ検討する状態にないよねってお客様って、やっぱりたくさんいて。
浜田さんは、展示会で通りがかりに知っただけの人や、ホワイトペーパーをダウンロードしただけの人を例に挙げます。まだ検討に至っていない相手を、将来の商談につなげていかないと案件が足りなくなる、というのがナーチャリングの背景です。
この考え方はTHE MODEL ── 分業型の営業プロセスを体系化した考え方および同名書籍。マーケ・IS・営業・カスタマーサクセスの連携を扱うにも登場します。浜田さんは、リードの約8割は商談にならず、商談の約8割も受注しないと紹介します。
(商談や受注にならなかったリードが)また商談になって戻ってくる循環、サイクルがないと、もう回らないよねみたいな感じで、必要なものっていうところですね。
浜田さんは、市場のパイは限られており、リサイクル(非受注リード化)を繰り返すと焼き畑のようになると指摘します。過去に取れなかったリードが再び商談として戻る循環がないと回らないため、SalesforceやMarketoが開発したやり方だと話します。
清沢さんは、ナーチャリングという言葉自体は辞書にあるものの、マーケ用語として浸透したのはMAツールやCRMが普及した2000年代から2010年代だと補足します。SalesforceやMarketoの登場で汎用的に使われるようになった、という流れです。
購買者としてナーチャリングされた実感はあるか
清沢さんは角度を変え、浜田さん自身が購買者としてナーチャリングされて購買意欲が高まった経験はあるか、と尋ねます。浜田さんの答えは率直で、あまりない、というものでした。
ただし浜田さんは、想起が上がる効果は感じると話します。一時期、Celebrixのメルマガがセンスのあるタイトルで業界でも話題になり、自分がメルマガを楽しみにしていたといいます。
今まで第三想起だった会社が第一想起になっていくっていう意味では、前に進むことあると思うんですけど。
(メルマガを見て)やっぱり営業は外注しなきゃ無理なんじゃないかって思うかって言ったら、なかなかならないんですよね。
つまりメルマガは、営業を外注すべきだという意思決定そのものは動かしにくい一方で、いざ必要になったときに真っ先に思い出される会社になる効果はある、という見立てです。
ここから浜田さんは、ナーチャリングの本質は2つに整理できると話します。1つは想起や認知の獲得、もう1つは顧客が必要になったタイミングを捉えることです。
人材ビジネスだったら、人が辞めちゃってどうしようみたいな瞬間があって、その時にパッとメルマガで以前資料請求した人材会社から来たら、「あ、ここか」みたいな。
タイミングは捉えられるのか
清沢さんは、認知とタイミングの両方が大事だと受けつつ、タイミングを捉えるのは難しいと切り出します。体制変更、予算の空き、マーケ投資を増やしたい局面などを捉えて訴えるのが腕の見せどころだといいます。
まあ無理ですよね。
浜田さんは、予算組みの時期にキャンペーンメールを流す、人事異動の時期にイベントを案内する、といった推測ベースの打ち手はあると話します。ただ、人が辞めた、誰かが昇進した、といった変化はいつ起こるか分からず、こちらからタイミングを見極めるのは非常に難しいとします。
清沢さんは、だからこそ、そのタイミングで声がかかるように認知を取り、すぐアクセスしやすいCTA ── Call To Actionの略。資料請求や問い合わせなど、顧客に取ってほしい次の行動を促す導線やボタンを用意しておくことが大事ではないかと述べます。
究極的にはもう、送り続けるに尽きるっていうか、週一、オプトアウトされないような、お客さんがちょっと興味持ってもらうコンテンツを送り続けるくらいしか、できることはないのかもしれない。
清沢さんは、これはBtoBに限らずtoCでも同じだと話します。欲しいものはその時に欲しくなるもので、プロモーションを何度も見て徐々に上がるというより、ゼロイチに近い感覚だといいます。
それでも認知は重要だと二人は確認します。浜田さんは、認知には5回ほど接点が必要とも言われ、マットレスを買いたいときにエアウィーヴを思い出すのは何度も見聞きしているからだと例を挙げます。
ステップメールとパーソナライズ
ここから具体的な施策に話が移ります。清沢さんは、メルマガ、ターゲットを絞ったセグメント別コンテンツ、あらかじめ組んだシナリオで段階的に送るステップメールなどを挙げます。
ステップメールが本当に効くのかについて、浜田さんは懐疑的です。Sansanの人に聞いたときも結論は「あまりない」だったといいます。
浜田さんは、PLG ── Product-Led Growthの略。無料利用などプロダクト自体の体験を起点にユーザー獲得や有料化を進める成長モデルやフリーミアムなら、登録後にURL作成、ツール連携、決済導入と機能を進めていく流れでステップメールが機能しやすいと話します。Calendlyのようなサービスはこのパターンがイメージしやすいといいます。
ホワイトペーパーとかサービス資料をダウンロードした人が、商談したくなるためのステップメールって、何していいか全然わかんないですね。
一方で清沢さんは、一度ホワイトペーパーをダウンロードした人を次はウェビナーへ誘導するなど、別チャネルでステップを上げていくやり方はあり得ると提案します。浜田さんも、潜在層向けウェビナーの参加者に、次の企画やウェビナーを案内する流れは有効だと同意します。
清沢さんは、購買者はどこでも情報を取れる時代なので、機械的なステップメールよりもパーソナライズが必要だと話します。属性に応じて次のイベントを出し分けないと、ナーチャリングも効果が出にくいという見立てです。
浜田さんは、スマートキャンプの飯塚さんをメルマガの達人として挙げます。メルマガにしか書かない文章があり、それを読みたいからどこかでコンバージョンする人が現れるといいます。
ここにしかないコンテンツみたいなものがあると、ちょっと色合いが変わってくる。逆にそれがないと、あんまり喜ばれない。
誰から届くかで反応率は変わる
清沢さんは、Sansanの大阪支店でインターンしていた頃の体験を紹介します。ISの人が送るメールの署名に、その月の近況を一言ずつ書き添えていたそうです。
その結果、顧客が送り手を覚えるようになり、毎回変わる署名のメッセージを読む側も気にするようになったといいます。実際にアポ率や返信率も高かったとのことです。
浜田さんも、メールの発信者が誰かは重要だと話します。immedioでは、セミナー案内はマーケ担当、インサイドセールスのTipsはIS担当、新機能リリースは浜田さん本人の名前で送っており、それぞれ反応率が違うといいます。
結構言うてもメールだから、誰から送られてきたとか、その顔が浮かんでるかとか、そういうのはすごく実は大事な要素ですよね。
清沢さんは、人となりが伝わらず機械的だとスキップされがちなので、一人ひとりに向けて個別化することが大事だとまとめます。
スコアリングは意味があるのか
次のテーマはスコアリングです。清沢さんは、MarketoやPardotがメール開封やサイト訪問といった行動に点数をつけ、購買意欲を可視化する仕組みだと説明します。
これももう、ただの沼ですよね。
浜田さんはHubSpotでスコアリングを組んだ経験から、点数の有効期間という難問を挙げます。1年前の資料ダウンロードより3日前のホワイトペーパーの方が可能性が高いはずだが、それをどう比べ、何が正しいのかを決めるのはほぼ無理だといいます。
AIに分析させれば妥当な評価ができるという考え方もあり、Sansanでも試みたものの、あまり定着しなかった印象だと話します。理由は、最も大事な要素をスコアリングに入れられないことにあります。
一番大事な要素、お客さん側での変化っていうのがスコアリングに入れられないじゃないですか。どうしても弱くなる。
清沢さんは、SansanがDataRobotとMarketoを連携させた事例にも触れ、現場で見ていた立場から難易度の高いチャレンジだったと振り返ります。ハウスリストが数十万ある環境でも簡単ではなかったといいます。
さらに二人は、メール開封という指標自体が揺らいでいると話します。セキュリティソフトやAIが自動で開封してしまうため、開封が本当に意欲を示すのか怪しくなっているのです。
「いや、でもなんか通知来たけど開かれてなかったよ」って言われて。え?って思ったら、もうセキュリティのBOTが開いてるみたいな。
浜田さんは、開封だけでなくクリックすらBOTが行う場合があると指摘します。何を本当のインテント(購買意向のシグナル)として抽出するかは、非常に難しい問いになっています。
清沢さんは、immedio Boxではページ到達や資料を何秒見ているかの方が本質的ではないかという説も出てきており、2回目以降の開封を見る工夫もしていると紹介します。AIの台頭で、ナーチャリングの前提そのものが変わりつつあるという認識です。
ナーチャリングにおけるISの役割
IS文脈でのナーチャリングについて、清沢さんは重要な役割があると話します。マーケが育成したリードに電話やメールで接触し、休眠リードを掘り起こし、ホットかどうかを選別する役割です。
浜田さんは、役割は2つあると整理します。マーケがナーチャリングしたものを取りこぼさず反応することと、IS自身がナーチャリングしていくことで、両方やった方がよいといいます。
よくあるのが、マーケが「これだけ開封・クリックがある」とISに渡しても、ISは「クリックといってもBOTがある」と受け止め、動きが噛み合わないケースです。ハウスリストが5000あれば開封1500、クリック100が発生し、100リードを捌くのに一週間以上かかることもあるといいます。
だからこそ、現実的にフォローできる範囲と、フォローの起点になるアクションをきちんと定義し、当たるべきものに当たることが必要だと浜田さんは話します。
もう1つの軸として浜田さんは、IS自身のナーチャリングを挙げます。予算検討が年一回の会社なら、キックオフが11月、確定が1月といった時期を聞き出し、その11月にプロダクトアップデートの連絡をできるかが勝負だといいます。
清沢さんは、BANT ── Budget(予算)・Authority(決裁権)・Needs(必要性)・Timeframe(導入時期)の頭文字。案件の見込みを見極める代表的なヒアリング項目をきちんと聞いてネクストアクションを入れ、その日にやりきることがISの見せどころだと応じます。
来たばっかりのリードとか名刺とかにフォローアップするのが忙しくなっちゃうんで、そういう余白をどうやってISの(業務の)中に作り出すかみたいなところがすごい難しいですよね。
スモールに検証して成果で合意する
仕組みとして回すためのTipsやマインドをISはどう持てばよいか、と清沢さんが問いかけます。浜田さんは、成果が上がると分かれば人は動くので、検証していく必要があると答えます。
浜田さんによれば、ナーチャリング施策への反応に対して全件を5分以内に対応し、そのために外注まで入れている会社もあるといいます。それが成果につながると検証できているからこそ続けられる、という見方です。
immedioでも、メルマガを送る日をマーケからISに連携し、その日はISの時間を確保して片っ端からメールクリックに電話したところ、メルマガクリックからアポが取れたといいます。
それがやっぱり会社の中で認識されてると、「あ、じゃあやればいいじゃん」ってなるし、その実績がないまま言い合ってると、やっぱ次につながらない。
浜田さんは、まずスモールにやってみて成果を出すことが大事だとまとめます。清沢さんも、施策ごとに期間を絞って実績を出し、重要だという合意を取ってから進めるべきだと同意します。
AI時代にナーチャリングはどう変わるか
最後のテーマはAIによる変化です。清沢さんは、パーソナライゼーションがより高度化し、難易度も上がる印象があるかと尋ねます。浜田さんはその実現には難しさがあると答えます。
浜田さんは、パーソナライズの前提として、リード情報の形を揃えるのが難しいと指摘します。自社フォームからだけならよいものの、実際には展示会の名刺やQRコード、共催ウェビナーのCSV、外部媒体などから入り、情報の粒度が揃わないためです。
その状況で本当にパーソナライズできるのか、という問いから浜田さんは、むしろ発信側が個性を出して覚えてもらう方が早いのではないかと話します。ABMの回に続き、意外に人間が活躍できる領域なのかもしれない、という見立てです。
アメリカではAI SDR(AIによるインサイドセールス)が流行った一方、その画一的な文面がLinkedInやXでそのまま晒される事態も起きたと浜田さんは紹介します。
浜田さんは、分析はAIに任せられても、最後のデリバリーまでAIにすると成果がかえって下がらないかを懸念します。メルマガは週3回まではオプトアウト率が上がらないとしても、送ること自体にオプトアウトのリスクがあるからです。
本当にAIに週三件メルマガ送らせますかみたいなのは、結構問いですよね。
清沢さんは、効率と引き換えに失うものもあると受け、メールのニュアンスや読み手の受け取り方は最後に人間がチェックする必要がまだあると話します。
浜田さんは、メルマガで最も強いコンテンツは顧客投票だと自身のnoteを引きながら紹介します。請求書のアップロードを月何日締めにしているかを選択肢で問うと、生の回答が集まって盛り上がるといいます。
清沢さんは、クロールした情報の寄せ集めではなく、そのコンテンツでしか得られない一次情報があるかが分かれ目だとまとめます。二人は、正解はまだ見えず、一年後にどうなっているかも分からないと話して締めくくりました。
まとめ
ナーチャリングはリードを商談へ橋渡しする仕組みですが、二人の実感では「育てて意欲を高める」よりも、認知を取りつつ顧客側の変化のタイミングを逃さないことが本質に近いようです。スコアリングやステップメールには限界もあり、誰から届くかという人間らしさや一次情報の価値が、AI時代にむしろ問われています。
- ナーチャリングはリード獲得と選別の間を橋渡しし、リサイクルの循環を回すために必要とされる
- 本質は認知(想起)の獲得と、顧客が必要になったタイミングを捉えることの2つにある
- スコアリングやステップメールは、顧客側の変化を反映しづらく、BOTによる開封・クリックもあり指標として揺らいでいる
- 発信者が誰か、署名の一言、一次情報など、人間らしさが反応率を左右する
- 施策はスモールに検証し、成果で社内合意を取ってから広げるのが現実的







