RevOpsとBizOpsは何のためにあるのか
後編のテーマは、喜多さんが弥生のPMM組織の中に立ち上げたRevOps/BizOpsと、そこから広がる「AI BizOps」です。AIをいかに売り上げにつなげていくかが焦点になります。
まず浜田さんは、弥生の体制ではPMMがRevOpsを包摂しているものの、本来は別々の役割なのかを喜多さんに尋ねます。
本来的には別で考えられるケースの方が多いのかなと思っております。
喜多さんは、PMMはプロダクトやドメイン領域の専門家として、営業やマーケティングの業務に寄り添う役割だと説明します。
一方でRevOps/BizOpsの方は、Ops ── オペレーション(Operations)の略。営業やマーケティングなどの業務プロセスを設計し、効率よく回るように整備する役割を指しますという言葉のとおり、業務設計に沿って組み立てていくところが大きな役割だと話します。
なぜ弥生でBizOpsを立ち上げたのか
浜田さんは、弥生でRevOpsを立ち上げたのは喜多さんの発案なのか、それともマネジメントの判断なのかを尋ねます。
喜多さんは1月に経理財務領域の製品のPMM責任者に就任し、目標として売り上げを追う中で、社内の数字のモニタリングに課題を感じたといいます。
ヤフーの中でExcelでこう集計とかやってるとか、関数でめちゃくちゃ資料を作って、こうやって売り上げがやっと集まってきますみたいな、そういったことをやっていて。
喜多さんによると、弥生ではCRMは導入しているものの、集計を自動化して効率よくモニタリングすることがあまりできていない状態でした。これが現状にも続く大きな課題だといいます。
レベニューマネジメントをしていく上で足元の土台が整っていないことが課題だったため、3月ごろに上司へ提案し、自ら発案してBizOpsを立ち上げたと話します。
(上司に)BizOps作った方がいいと思うんでやらせてくださいと。
浜田さんは、RevOps/BizOpsはCRMも触るため全社組織のように見えるが、まずは喜多さんのPMMチームや担当領域に置いてみたのかを確認します。
喜多さんは、PMM組織の中でBizOpsを横出しで立て、兼務のような形で関わっていると答えます。弥生NEXTという事業の中で、会計NEXTや給与NEXT、経費NEXTなどの製品ごとにPMMをつけ、それらを横串で連携させながら業務設計の分野に携わっているといいます。
RevOpsが縦の視点を持ち込む
浜田さんは、RevOpsとBizOpsという2つの言葉がどんな関係になっているのかを尋ねます。
喜多さんは、弥生ではPMMとRevOpsが連携して各製品領域のGo To Marketを作りつつ、RevOps/BizOpsはFP&A ── Financial Planning & Analysis(財務計画・分析)の略。予算設計や業績分析を担う、経営企画に近い機能を指しますとの連携強化にも力を入れていると説明します。
喜多さんによると、弥生は900人を超える規模の会社のため、経理領域の予算設計や集計といった管理会計的な目標設計と、現場の行動や仕組みの計画が分断されると、経営と現場の乖離が生まれるといいます。
RevOpsがFP&Aと連携し、なぜこの予算設計をするのかという背景に関わることで、それを解像度を上げて現場に落とし込めるようになると話します。受注率や件数を追うだけでなく、マーケティングとも連携して集客や獲得の効率を設計するイメージです。
浜田さんは、経営企画にあたるFP&Aと新設したRevOpsが接続することで、PMM・BizOps・FP&Aのトライアングルになっているのが今の形かと整理します。
PMMだけだったら横しか見れないんで、RevOpsを立てたことによって縦も見れるようにしていきたい。
AI BizOpsという言葉に込めた期待
浜田さんは、今日のキーワードである「AI BizOps」という言葉がどう生まれ、どんな役割や期待値が込められているのかを尋ねます。
喜多さんは、AI BizOpsを一言で表すならザ・モデル ── マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスに営業プロセスを分業する型。国内BtoB企業に広く普及していますの隙間をAIで埋め、その結果としてGo To Marketエンジニアリングを作っていくことだと話します。
ザ・モデルの隙間をAIで埋めまして、その結果としてGo To Marketエンジニアリングを作っていこうと。これがAI BizOpsなのかなと。
浜田さんは、前回のゲスト回で話したGTMエンジニアをAI BizOpsが兼ねているのかを確認します。喜多さんは理想形としてはそうあってよいとしつつ、定義もまだできていないふわっとした構想の段階だと率直に述べます。
現在は喜多さんともう1人の2人で取り組んでいる状況で、力の入れどころとしてはPMMよりRevOps/AI BizOps側に寄せていきたいと話します。ただしPMMは専門家でないといけないため、後任の育成や引き継ぎにも取り組んでいるといいます。
AI BizOpsは誰がやるのか
浜田さんは、前回のGTMエンジニア回で出た「誰がやるのか」という問題を持ち出します。アメリカにはマーケターでコンピューターサイエンス出身という人材がいる一方、日本ではGTMエンジニアの求人が基本的にエンジニアの求人になっていると指摘します。
喜多さんは、日本の環境ではCRMやSFAの解像度があり、かつビジネスの構想を構造化して組み立てる能力を得る機会がなかなかないと話します。少なくともビジネスを構造化する力とITに強い両面が必要だといいます。
どこにその人材いるんだって私も日々考えております。
パイプラインの自動化を構成する4要素
浜田さんは、AIエージェントでザ・モデルの間を埋めて自律的に運用するとはどういうことか、実際に何をAIで自動化・自律化しているのかを掘り下げます。
喜多さんは、まだ構想段階で具体的な事例までは話せないと前置きした上で、AI BizOpsの中心はパイプラインの自動化だと説明します。SalesforceやHubSpotといったCRMで管理するフェーズの進捗ごとに、属人的な読みではなくAIが受注予測を立てられる世界を作りたいといいます。
喜多さんによると、商談記録をコンテクスト化してAIに組み込むことで、AIが受注予測を立てられるようになり、ビジネスの平準化やエンゲージメントが加速すると考えられます。
その中心を構成する要素として、喜多さんは大きく4つを挙げます。
AIリードジェネレーション
リードジェネレーションのAI化
AI SDR
案件を創出していく
AIクロージング
商談・受注支援をAIの力で仕組み化する
AIによるエクスパンション
CS領域でAIの力でエクスパンションを促す
喜多さんは、この4つが合わさることでパイプラインのAI化、つまり受注予測の自動化が実現できるのではないかと話します。
浜田さんは、この4つがザ・モデルの各段階で自動化や支援を担い、取れたデータをもとにパイプライン予測や他プロセスへのフィードバックまでAIで回すイメージかと整理します。
喜多さんは、商談で生まれた会話や提供したコンテンツをAIで構造化することで、このお客さんは営業メッセージに反応しやすい、この要件にはそぐわないかもしれない、といった判断軸を持たせられると説明します。営業担当が感覚だけを研ぐのではなく、どのタイムラインでどう関わるかを仕組みにできるといいます。
なぜここまでAI中心に回すのか
浜田さんは、ここまでの取り組みはチャレンジングだとしつつ、何のためにここまでやるのかを問います。人間主導のザ・モデルより売り上げが上がるのか、少ない人数で回るのか、精度が上がるのか、という目的です。
一つは自分が好きだからですけど、ちょっとオタク領域なところがあるんですけども。
より真面目な理由として喜多さんは、会社が使える経営資源は限られており、その中で求められる成果を出さなければならない場面が必ずあると話します。弥生は9月決算で、今まさに来期の予算設計を進める中で、現状のマーケ・営業体制だけでは到達できない領域があると感じているといいます。
そこで喜多さんは、AIの力で仕組みを強化し、現場メンバーの重複業務や負荷を減らして本来やるべき営業・販促活動に専念できる環境を作ることが、生産性の最大化につながると述べます。
1ヶ月30件商談している人が1ヶ月50件商談できるようになったら、単純に売り上げの上がる可能性ってやっぱり20%とかになってくる。
浜田さんは、immedioを始めた時に考えていたことを重ねます。マーケティングはスケールするほど良いリードが枯れてCPAが上がる一方、目標は同じというギャップがあると話します。成長すればするほど利益を求められるのに、現場ではリードが枯れていくという構図の中で、AIでレバレッジをかけるしかないという認識です。
弥生でのimmedio活用とAI SDR
喜多さんは、弥生でもimmedioのサービスを活用していると紹介します。顧客が来やすい時間帯は必ずしも営業時間とは限らないため、最適なタイミングでコンテンツやサービスを提供できる場面は重要だといいます。
喜多さんは、immedioがAI SDRに近い領域で機能しているととらえ、CRMとの連携やクラウド上のエージェントを組み合わせることで、各担当がツールを使いこなして本来やるべきことに注力できる環境を作りたいと話します。
Opsの最大の価値というのは環境整備ができるかできないか、そこが重要なのかなと。
浜田さんは、弥生の事例では商談化率を最大3倍に上げられたと補足します。弥生の顧客は幅が広く、BtoBでも中小企業を中心に土日夜間に動く層がいたため、24時間動くAIと相性が良かった面があるといいます。
土日に寝ながらスマホ見てる時に、広告見て、ちょっとこれ気になるなと。そういうタッチポイントをいかに作っていけるか。
今どの領域に力を入れているか
浜田さんは、構想全体の中で今どの領域に着目しているか、弥生で効いてきそうな領域を尋ねます。
喜多さんは、本当は全部やりたいとしつつ、まず重要視すべきはAI SDRとクロージングの部分だと答えます。売り上げの目標を背負っているため、売り上げに一番ヒットするところから仕組みを作るのが絶対だといいます。
具体的には、パイプラインをエンリッチ化させて受注のところを紐解くことに力を入れており、そこができれば商談の成形やICP ── Ideal Customer Profile(理想的な顧客像)の略。自社の商品が最も価値を発揮する顧客の条件を定義したものですの掘り下げにもつながると話します。優先順位としてはエクスパンションが後ろ倒しになっているといいます。
まずは一番我々が求められているKPIにヒットするっていうところから着手していく。
時間の使い方は「ボールを持たない」
会場からの質問を受け、浜田さんは喜多さんが普段どう時間を使い、どこに一番投資しているかを尋ねます。PMMも実装も顧客解像度も、やることが無限にある中での質問です。
結論で言いますと、できるだけボール持たないようにする。
喜多さんは、ボールを持つと脳内リソースが取られてあれもこれも考えなければならなくなるため、日頃から製品や営業マーケの最新情報をインプットしておくといいます。電車移動の際にGeminiやChatGPTを会話相手として使い、情報収集をしていると話します。
さらに喜多さんは、ジムや運動が好きで夕方には帰ることもあると明かし、やる時はガッツリやり、体を動かす時は動かすというオンオフの使い分けを意識していると話します。
浜田さんは、企画や方針を出して実行は現場に任せる動き方かと確認します。喜多さんは、リーダー・責任者の立場もあり、できるだけボールを持たずにメンバーへ仕事を回し、1on1やスポットのミーティングで推進力を上げるマネジメントに時間を割いていると答えます。
明日からの一歩とボトルネックの見極め
ラップアップとして浜田さんは、ザ・モデルの弊害をカバーしたい、AIで生産性を上げたいと考える人が、まず何から始めればよいかを尋ねます。
喜多さんは、PMMやOpsをやっていくなら、まずお客さんを知る解像度を上げることが重要だといいます。手っ取り早いのはVOCを集めに行くことで、集めやすい仕組みづくりに変えていくことを勧めます。
もう一つ喜多さんが挙げるのが、ボトルネックの見極めです。前職でBizOpsをした際、営業は伸びているのに商談数が変わらず、受注率だけが上がっている時期があったといいます。同じ受注率のまま商談数が増えればもっと売り上げが上がる、と気づいた経験です。
結構シンプルなモデルの構図の話ではあるんですけども、それを分かりやすい形で見極めることができるかっていうところは重要。
喜多さんは、ボトルネックを見つけた上で、その1つをAIや身近なサービスで仕組み化できないか取り組んでみるとよいと締めくくります。
まとめ
弥生の喜多さんは、PMM組織の中にRevOps/BizOpsを立ち上げ、その延長として「AI BizOps=ザ・モデルの隙間をAIで埋める」という構想を語りました。まだ2人で取り組む構想段階ですが、限られた経営資源で成果を出すための現実的な打ち手として位置づけられています。
- PMMはプロダクト領域の専門家、RevOps/BizOpsは業務設計の担い手で、本来は別の役割。RevOpsを立てることで横だけでなく縦の視点も持てる
- AI BizOpsの中心はパイプラインの自動化。リードジェネレーション・SDR・クロージング・エクスパンションの4要素をAIで支え、受注予測の自動化を目指す
- 目的は生産性の最大化。現場の重複業務や負荷を減らし、本来の営業・販促活動に専念できる環境を作ることにある
- 担い手はビジネスの構造化力とITの両面を持つ人材が必要だが、日本では希少で、誰がやるかは課題として残る
- 明日からの一歩は、VOCを集める・ボトルネックを1つ見極める・それをAIで仕組み化してみる、の3ステップ




