なぜ「電話」でユニコーンが生まれたのか
今回のGrowth Radioで取り上げるのは、フランス発のクラウド電話SaaS「Aircall(エアコール)」です。加藤さんも浜田さんも、当初はまったく知らなかった会社だといいます。
浜田さんがAircallを知ったきっかけは、今年アメリカで参加したSaaStr ── アメリカ最大級のBtoB SaaS向けカンファレンス。展示会形式のスポンサーブースも並び、SaaS企業の最新トレンドが集まる場として知られていますというカンファレンスでした。会場で印象的だったのは、アメリカ以外の国の企業が数多くブースを出していたことだったといいます。
そのうちの1社がフランスのAircallでした。後から調べると、すでにARR2億ドルを超え、しかもアメリカがほぼ最大市場になっていたと浜田さんは話します。
いやでもこのフランスの会社イケてるやんって思って。
日本の企業が海外進出を考えるとき、市場規模の差や商習慣の違いが壁として意識されがちです。そのなかで、英語圏ではないフランスからアメリカ市場を取りにいった事例に、加藤さんは希望を感じると語ります。
英語圏ではないところからっていうのもまたなんか希望の光みたいなのありますよね。
Aircallとは何か──電話SaaSからAI電話へ
Aircallがどんな事業をしている会社なのか。浜田さんによれば、その姿はここ数年で大きく変わってきているといいます。
浜田さんがSaaStrで見たときに前面に出していたのは、AIが電話をしてくれるソリューションでした。複数の言語に対応し、APIをつなぐだけで使えるという打ち出しだったといいます。
一方で、Aircallの起源は2014年創業とかなり古く、当初はクラウド電話や交換機、いわばZoomPhone ── Zoomが提供するクラウド型のビジネス電話サービス。物理的な電話交換機を持たず、ソフトウェア上で電話の発着信を管理できるのが特徴ですのような電話プラットフォームだったといいます。
そこから、かかってきた電話の文字起こしをするソリューションを加え、最終的にはアウトバウンドもインバウンドも、人もAIも幅広く扱うAI電話の会社へと発展してきました。
電話っていうドメインでいろいろ発展してきたということですね。
スタートアップスタジオ発、「電話のSaaS化」という発想
Aircallの創業の背景も特徴的です。浜田さんによれば、パリのスタートアップスタジオ ── 起業家やアイデア、資金を集めて、複数の新規事業を組織的に立ち上げる仕組み。immedio自身もDelight VenturesというDNA系のスタジオから支援を受けたと浜田さんは話しますから生まれた会社だといいます。
浜田さんが2021年ごろに日本でスタートアップスタジオの支援を受けていた当時、日本ではスタートアップスタジオ協会ができるなど、まだ黎明期だったといいます。それに対しAircallはすでにフランスでスタジオがあった2014年に生まれています。
浜田さんは、日本はシリコンバレーを見がちだが、文化差も経済規模も違うためベンチマークとして意味が薄いと指摘します。そのうえで、非アメリカ市場でユニコーンを量産できている国としてフランスに注目すべきだと話します。
非US市場でユニコーン量産できてる国ってどこ?って言った時に結構フランスあるんですよ。
Aircallの創業者は、フランスの名門大学を出た後にBCGなどで働いた優秀なメンバーがチームを組んでいたといいます。企業のインフラになるツールを次々にSaaS化していくなかで、電話に目をつけたのがはじまりでした。
オフィスにあるものをSaaSプロダクト化する何かみたいなことを探していてみたいなことなんですかね。
浜田さんは、タイミングの良さも大きかったと補足します。Aircallは通信インフラのTwilio ── 電話やSMSなどの通信機能を、開発者がAPI経由で自社サービスに組み込めるようにするアメリカの通信プラットフォーム。多くのアプリの裏側で使われていますなど既存のインフラを活用しており、その上のレイヤーをヨーロッパで提供することに価値があったといいます。
すべての起業家が通る「電話」というインフラ
浜田さんは、電話が事業をディスラプトしやすい領域だった理由を、自身の経験から説明します。会社を創業すると、電話をどうするかは早い段階で必ず直面する問題だといいます。
スマホの番号載せてもいいけど、なんか全部スマホかかってきても困るしなみたいな。
浜田さんは、bitFlyerでアメリカ拠点長を務めた際にはRingCentral、immedioを立ち上げた際にはIVRyと契約し、受電をまとめたといいます。電話はオフィスや銀行口座の次くらいに必要になるものだと振り返ります。
つまり、電話はすべての起業する会社が必ず通る領域です。しかも起業直後の忙しい時期に、税務署や電話局を回るような手間はかけたくないものだといいます。
その手続きをネット上で申し込み、セルフサービスで完結できる点に、市場性とディスラプトのしやすさがあったと浜田さんは分析します。
電話は軽視できない領域でもあります。浜田さん自身、普段は営業電話が多いなかで、銀行から資金調達に関わる入金確認の電話がかかってきた経験があるといいます。
結構電話はね、あの無視できないんですよね。
SMB特化と250以上の連携エコシステム
Aircallがどのように事業を軌道に乗せたのか。浜田さんは、SMB ── Small and Medium Business。中小企業を指す言葉。大企業向けのエンタープライズ市場と対比され、導入のしやすさや価格が重視される傾向がありますの顧客をうまく取れたことと、外部アプリとの連携を徹底的に頑張ったことを挙げます。
Aircallは、Salesforce、HubSpot、Zendeskといったツールとの連携アプリを数多く作り込みました。たとえばSalesforceのリードからワンクリックで電話をかけられるような機能です。
連携の数は、2019年のアプリマーケットプレイス立ち上げ時点で50、現在は250にのぼるといいます。加藤さんは、どのツールでも使えるとなれば第一想起として思い出されると評価します。
二千十九年にもうローンチ時五十あって、今二百五十連携があるみたい。
創業2年でアメリカへ──CEO自らの移住戦略
Aircallの転換点として浜田さんが挙げるのが、アメリカ市場を取りにいった動きです。時系列で見ると、その決断のスピードが際立ちます。
浜田さんは、この動きが日本のメルカリやスマートニュースに近いと指摘します。創業から2年でCEOが渡米し、現地でキーパーソンを雇い、それをやりきって成功した会社だといいます。
フランスは自国市場も大きく、ユーロという共通通貨でヨーロッパ全体を狙えるため、本来は域内展開の方が効率的だったはずだと浜田さんは言います。それでも早期にアメリカへ出た点に意味があると考えられます。
浜田さんは、早く海外に出ることでプロダクト自体がグローバル前提になる利点を挙げます。番組の初回で扱ったSalesforceも、創業から2、3年でヨーロッパや日本に拠点を開き、初期から言語を入れ替えられる仕組みを持っていたといいます。
加藤さんは、国内に特化してしまうと、ローカライズされたものを後からグローバル化する段階で苦戦すると応じます。初期からの設計が後の展開を左右するというわけです。
Aircallはなぜ勝てたのか──ポジショニングとAIシフト
改めてAircallが勝てた要因について、浜田さんはまずポジショニングの巧みさを挙げます。
Twilioのようなインフラをうまく使いながら、RingCentralやZoomPhoneがエンタープライズを狙う市場のなかで、Aircallはあえて中小企業を取りにいったといいます。
もう一つの要因が、AI戦略の巧みさです。浜田さんによれば、RingCentralのような電話インフラはその後あまり進化せず、AIをやっていないために株価の評価倍率が低い「安い銘柄」になっているといいます。
一方でAircallは、文字起こしやAIコールへとしっかりAIシフトができています。創業10年以上を経てもAIシフトをやりきっている点が強みだと浜田さんは話します。
インフラかアプリか──音声AIの線引き
AIシフトのなかで加藤さんが注目したのは、Aircallが自社モデルではなく外部のものを活用している点です。
浜田さんによれば、AircallはLLMも外部を使っており、Azureを利用していると公表しているため、OpenAIやMicrosoft系を使っているとみられます。あえてインフラ側には踏み込まず、アプリケーションレイヤーで勝負している構図です。
加藤さんが、この線引きの判断は悩ましいと問いかけると、浜田さんも本当に難しいと応じます。推論モデルやLLMはすでにコストをかけても差がつきにくい領域になりつつあるといいます。
一方で音声は、まだ残されたフロンティアだと浜田さんは見ています。ElevenLabsのようなプレイヤーはいるものの、キープレイヤーが少なく、アメリカで巨額を調達したラボが軒並み音声に取り組んでいる状況だといいます。
その戦いに加わらないっていう。
浜田さんは、音声でも強いプレイヤーが良いアプリケーションを出せば「Aircallいらなくね?」となる可能性もゼロではないと率直に語ります。SaaS全体を揺るがしたアンソロピックショックと同じ構図が音声でも起こりうるという見立てです。
それでも、連携をすべて作り込むといった細部を磨き込むことで、AIにまくられない体制を作っているのではないかと浜田さんは分析します。
日本市場への示唆──MiiTelやIVRyとの比較
話題は日本市場に移ります。まず加藤さんが、Aircallのようなプレイヤーとして日本にどんな企業がいるかを尋ねます。
浜田さんは、電話回線のレイヤーではIPフォンから手がけるMiiTel、電話のレイヤーに深く入っているプレイヤーとしてIVRyなどを挙げます。日本でも音声や電話をかけるAIは非常に熱い領域だといいます。
加藤さんは、MiiTelが比較的早くから存在しつつ、その後プレイヤーがどんどん増えてきた市場だと振り返ります。浜田さんも、MiiTelはインドネシアやアメリカにも展開しており、Aircallと考え方や戦略が近いと応じます。
海外進出は「輸出」ではなく「移住」
日本の音声AIやセールステックが海外に進出する際の勝ち筋について、浜田さんは今回の学びから複数のポイントを挙げます。
一つは、やはり創業者の移住です。今回もCEOが移住しており、メルカリの山田さんも自らアメリカに行っていたことに触れつつ、その気概がなければ番頭に任せても難しいといいます。
もう一つが、現地のアクセラレーターやVCと組むことです。Aircallは500 Startups ── YCombinatorと並び称されるアメリカのアクセラレーター兼VC。スタートアップに出資し、事業の立ち上げや成長を支援しますから出資を受け、そこでアメリカの戦い方を身につけていったといいます。
最近は日本からYCombinatorに入る会社も増えており、現地のVCやアクセラと組むことが海外進出で重要になりそうだと浜田さんは話します。
短期で乗り込んでもみたいなところもやっぱりありますからね。
さらに浜田さんは、Salesforceのアプリ連携の仕組みそのものがグローバル展開の追い風になると指摘します。SansanでSalesforce連携をした経験から、Salesforceのアプリ配信の場であるAppExchange ── Salesforceの拡張アプリを公開・入手できるマーケットプレイス。連携アプリを登録することで、Salesforceを使う世界中の企業に自社サービスを届けやすくなりますには、グローバル版と日本版しかないと明かします。
日本だけが言語などの理由で特殊なだけで、アメリカでもヨーロッパでも同じものが使われているといいます。つまりそこに入れば、ある意味強制的にグローバルにも出てしまう構造になっているというわけです。
そこに入っていけば、ある意味強制的にグローバルにも出ちゃうみたいな感じ。
まとめ
Aircallは、枯れた領域とされる電話をSaaS化し、SMB特化と豊富な連携、そして早期のアメリカ移住によってユニコーンへと成長しました。海外進出を「輸出」ではなく「移住」と捉える姿勢が、日本の音声AI企業にも示唆を与える回でした。
- Aircallはフランス発のクラウド電話SaaSで、ARR2億ドル超・アメリカが最大市場のユニコーン
- Twilioなどのインフラを活用し、SMB特化と250以上の連携エコシステムで勝ち筋を築いた
- 創業2年でCEOがアメリカに移住し、初期からグローバル仕様のプロダクトを作り込んだ
- LLMは外部を使いアプリケーションレイヤーで勝負しつつ、連携を磨き込んでAIに置き換えられない体制を作っている
- 日本企業への示唆は、創業者の移住・現地アクセラとの連携・グローバルなアプリ連携の活用





