新Co-host加藤さんは何者か
今回からGrowth RadioはCo-hostが交代し、シーズン2が始まりました。1年間続けてきた前任の清澤さんに代わり、immedioのメンバーである加藤紘太さんが加わります。
加藤さんは2009年に新卒でシャノンに入社して以来、一貫してSaaS業界を歩んできた人物です。当時はSaaSがASP ── アプリケーションサービスプロバイダーの略。ソフトウェアをインターネット経由で提供するサービス形態で、現在のSaaSとほぼ同じ中身を指す。2000年代半ばまで使われていた呼び方と呼ばれていた時代からのキャリアだといいます。
ASPの時代からずっとSaaSのキャリアでおりまして。今はインサイドセールスなんですけど、マーケやフィールドセールス、PdMの真似事、CSもやったりとか、いわゆるザ・モデルのものをいろいろ見させていただいていた経緯ですね。
浜田さんと加藤さんの接点は、加藤さんが以前EventHubに在籍していた頃までさかのぼります。当時のEventHubはimmedioのユーザーで、まだimmedioもローンチして間もない時期でした。
加藤さんはインサイドセールスの経験が長く、2017年ごろから携わってきました。日本でインサイドセールスが話題になり始め、まだ『ザ・モデル』も本として出ていなかった頃です。SDRから始まり、市場のトレンドとともにBDRやエンタープライズ開拓へとキャリアをシフトしてきたといいます。
カスタマーサクセスとは何か
シーズン2の初回テーマは「カスタマーサクセス」です。SaaS業界では当たり前になった言葉ですが、加藤さんは役割の定義に多くの変遷があった職種だと振り返ります。
浜田さんはまず、昔からあるカスタマーサポートとの違いを整理します。両方とも略すと「CS」になるため混同されがちですが、実際の役割は大きく異なると話します。
浜田さんによれば、もともと営業が自分でアポを取り、売り、サポートまで一人でやっていた仕事を分けたのがきっかけだといいます。アポ取りはインサイドセールス、クロージングは営業、そしてその後の継続利用支援や次の契約獲得はCSという分業です。
営業における後工程を切り出したみたいな感じですよね。サポートとは結構似てるんだけれども、実際の役割とかやってる人が全然違うのかなっていう気がしますね。
昔からある職種。顧客からの問い合わせに対応する受け身の役割
営業の後工程を切り出した職種。継続利用支援や次の契約獲得を担う攻めの役割
加藤さんは2017年ごろ、スタディストでカスタマーサクセスの立ち上げを経験しました。当初はカスタマーサポートの責任者がCSを担う切り口でしたが、やることが全然変わってくるため、どう立ち上げるか悩んだと振り返ります。
浜田さんも、Sansanで同時期にCSを立ち上げた山田久典さんがもともとPdM出身だったと紹介します。営業でもサポートでもなく、プロダクトの観点から利用促進をしていた人物です。CSの出自は営業、プロダクト、サポートと本当に様々だったと語ります。
CSはどこから生まれたのか
加藤さんが尋ねたのは、カスタマーサクセスの起源です。浜田さんは、営業の後工程という意味なら90年代から存在したという説がありながらも、今のCSの起点はSalesforceにあるのではないかと言われていると話します。
浜田さんによれば、2004〜05年ごろ、SalesforceのChurn ── 解約・離脱のこと。SaaSでは既存顧客が契約をやめてしまう割合を解約率として重視するが非常に高く、月次のChurnが8%だったといいます。単純計算すると年間ではその12倍にあたり、これはまずいという危機感が起点でした。
そこで生まれたのが、カスタマーサポートではなく「SVP of Customer Retention」という契約維持を担当する役職でした。顧客をサクセスさせなければ契約が続かない、という発想が2005年ごろに動き出したのです。
一方で、CSが新しい注目の職業として世に広まったのはGainsight ── カスタマーサクセス向けソフトウェアを提供する米国企業。CSという職種のラベリングやコミュニティ形成を牽引したの存在が大きいと浜田さんは指摘します。GainsightのニックさんがCSという仕事をラベリングし、PULSEというカンファレンスを開催し、2016年には書籍も出版しました。
SaaSバブルとCS隆盛の時代
日本国内でも、この頃からCSのコミュニティができ、活性化していきました。浜田さんは、2010年代後半にCS向けソフトウェアや書籍が増え、CSがめちゃくちゃ盛り上がっていた印象があると振り返ります。
加藤さんは、この盛り上がりがインサイドセールスの隆盛とほぼ同じタイミングだったと指摘します。浜田さんも、いずれもSaaSの盛り上がりと同期していたと応じます。
浜田さんの説明では、2010年代後半にクラウドが便利になり、低金利でスタートアップに資金が流れ込む中、SaaSが優れたモデルとして注目されました。ただしSaaSはサブスクリプションのため、契約を取って終わりではありません。そこでCSが必要とされ、「SaaSは盛り上がっているのにCSが足りない」という状況が生まれたのです。
CSの重要性は、Salesforceの解約率8%という例からも明らかです。浜田さんは、今では解約率が1%を切らないと始まらないという感覚すらあると話します。
よくあの穴の開いたバケツに例えられるようなところですよね。
浜田さんは、調達で関わったSaaSに強いVC・DNXとの会話を紹介します。SaaSは後ろから固めていくのが定石で、まず開発でよいプロダクトを作り、次にCSでChurnがない状態を作り、それができてから営業する、という順序だといいます。
Churnする状態で営業してもマジでバケツ穴開いてるみたいな感じで。だから会社からすると営業より先にCSが必要なくらいなんですよね。でも一方でそんな人はいないみたいな。
開発
まずいいプロダクトを作れるようにする
CS
Churnがない状態を作る
営業
Churnがない状態を作ってから営業する
CS人材が広がりを持つ理由
加藤さんは、CSには新規営業も得意な人が多いと指摘します。浜田さんも、immedioのCSメンバーには営業出身者が多く、活躍していると応じます。
加藤さんによれば、お客様の価値や成功を導くというマインドセットは、どのポジションに行っても通用しやすいものだといいます。
浜田さんは、CSがプロダクトとの連携も持つため、PdMやPMMになる人も多く、顧客理解という意味でマーケティングにも通じると語ります。CSは広がりのある職業だという見方です。
SaaSバブル後のCS受難の時代
加藤さんは、初期からの役割の変遷をたどったうえで、今後CSの役割がどう変化するかを尋ねます。浜田さんは、CSの隆盛が盛り上がったあと、SaaSバブルが弾けてからの数年はCS受難の時代だったと振り返ります。
浜田さんの説明では、もともとCSはARR ── Annual Recurring Revenueの略。年間の継続的な収益。SaaSの事業規模を測る代表的な指標1ミリオン、つまり1億円あたり1人が必要と言われていました。しかしコストが重いとして、2ミリオンに1人でよいのではないかとCSを減らす議論が出たといいます。
一方で、CSをプロフィットセンターとして位置づける動きも出てきました。背景にあるのがNRR ── Net Revenue Retentionの略。既存顧客からの売上が1年後にどれだけ維持・拡大したかを示す指標。解約と利用拡大を差し引きした純増率の重視です。今いる顧客の売上が100から解約で90になるのか、利用拡大で110になるのかがクリティカルだという発想です。
この売上を110にする役割をCSに担わせればいい、という形でCSを営業として使う動きが生まれました。浜田さんは、これがCSにとって難しい局面をもたらしたと話します。
もともとはサクセスに向けて並走する役割だったのが、結構ちゃんとお金もいただかなきゃいけないっていう、まあ対立までしなきゃ難しい立場になっちゃうみたいな感じで。自分のやりたかったCSじゃないみたいな感じ方も結構現れたんじゃないかなと思っていて。
人数を減らし、サクセス支援に特化してもらう
同じ人数で、解約防止に加えエクスパンションもCSが担う
アップセルは誰がやるのか問題
浜田さんは、アップセルを誰がやるかという議論はアメリカでも結論が出ていないといいます。CSがやるケース、アカウントマネージャー ── 既存顧客を担当する営業職。契約後の関係維持や追加提案を担うという既存営業がやるケース、さらに営業本人が見るケースなど様々です。
浜田さん自身が難しいと感じているのが、エンタープライズが増えたときの構図です。営業にはランドアンドエクスパンド ── 最初に小さく契約を取り、そこで成功したら大きく契約を広げていく拡販の考え方の発想を持つ人が多く、最初に苦労して扉を開けた顧客のエクスパンションを他部署に取られるのは面白くない、という心理があるといいます。
最初に扉開けるの俺が超苦労したのに、これをそっちが持っていくわけみたいになるんで。エンプラを攻めれば攻めるほど、エクスパンションは営業の仕事になりがちみたいなのはありますよね。
加藤さんも、AEにとってはまさにその領域が醍醐味だという人が多いと応じます。役割の線引きは、攻める市場によって変わってくるという整理です。
AI時代のCSはFDEへ向かうのか
加藤さんは、ザ・モデルの役割が溶け合う中で、AI時代のCSがFDE ── Forward Deployed Engineerの略。AI企業などがエンタープライズ顧客の現場に送り込む、導入や個別開発を担う技術者との境界も含めてどうなるかを尋ねます。
浜田さんは、5月に参加したSaaStrというカンファレンスで、FDEをテーマにしたセクションに登壇した人たちの肩書きがほとんどVP of Customer Successだったと明かします。
浜田さんは、攻めている企業のCSにはFDE化しなければという危機感が強いのではないかと見ています。FDEはAI企業がエンタープライズでの利用に対し、現場に人を送り込んで個別開発もしつつ、しっかり対価をもらってやっていく役割です。購入後のサポートという点は同じでも、やっていることは全く違うといいます。
加藤さんは、FDEはPOCなど前工程で入るイメージがあったと述べます。浜田さんは、入り口はその通りだとしつつ、そこも含めてCSの人たちで取っていく流れだと応じます。
うちのCSチームは強くてっていうよりも、いや、うちのFDEは強くてって言った方が調達とかもいろいろやりやすいんだと思うんですよね。
ただし、CSの人がそのままFDEになれるかというと、エンジニアリングの部分は難しいと浜田さんは指摘します。そこで注目するのが、FDEの方向性を決めるコンサル的なポジションであるデプロイメントストラテジスト ── FDEの導入方向性を決めるコンサル的な役職。エンジニアリングそのものではなく、活用戦略を担うです。この役割はCSと近く、CSがDSへ進化していく道は十分ありそうだと語ります。
日本のCSはこれからどこへ向かうか
加藤さんは、二社目のシャノン時代を思い出します。2009年ごろは、プリセールスのエンジニアと導入コンサルタントのようなビジネスサイドの人が一緒に顧客を訪問する形が多かったといいます。浜田さんも、パッケージのSaaSになったあと、また一周回って揺り戻しが起きているようだと応じます。
日本でのCSの進化について、浜田さんはimmedioでうまくいっている点を挙げます。営業人材がCSとしても活躍しており、マルチプロダクトゆえにアップセルの余地が大きい中で、CSが営業スキルを持っているとめちゃくちゃいいというのです。
逆に、新規を追い続けるより顧客に並走したいという営業や、既存顧客との並走が多い大企業の営業は、そもそもCSに近いと浜田さんは言います。そうした人がソフトウェア業界に入る第一歩としてCSを選ぶことも多いといいます。
浜田さんは具体例として、SmartHRがカスタマーサクセス専属のインサイドセールスやカスタマーマーケティングを置いていることを挙げます。Sansanも既存担当のインサイドセールスや営業チームを持っており、マルチプロダクトでNRRが勝負になる中で、既存顧客を攻めることに特化した人たちが出てきているといいます。
加藤さんは、前工程側のプロダクトを扱うimmedioも、CSが営業職として強まる流れの中で、ISやCSと根っこの部分で一緒になってきそうだと述べます。浜田さんも、従来ははっきり分かれていた新規と既存が、また入り交じってくるだろうと応じます。
シーズン2のこれからと公開収録の案内
加藤さんは、シーズン2初回としてカスタマーサクセスを解説してもらったと締めくくります。浜田さんは、今後も用語解説や海外スタートアップ解説、名著再読などを続けていきたいと話します。
リスナーからの感想や取り上げてほしいテーマは、概要欄のフォームから投稿できます。また、収録型のほかに公開収録も実施しており、8月4日には弥生のPMMかつAI BizOpsを担う北さんを招いた回が予定されています。
毎回私も現場にいさせていただきますけど、毎回盛況でいいですよね。収録とは違って活気があっていいですよね。
まとめ
カスタマーサクセスは営業の後工程を切り出した職種として生まれ、SaaSの隆盛とともに脚光を浴びました。バブル後の受難を経て、今はAI時代のFDE化や営業との融合という新たな局面に入っています。
- CSは営業が分化して生まれた職種で、問い合わせ対応中心のカスタマーサポートとは役割が異なる
- 今のCSの起点はSalesforceの高い解約率対策にあり、Gainsightが職種として広めた転換点になった
- SaaSバブル後はコスト削減とプロフィットセンター化の両方向にCSが引っ張られ、難しい局面を迎えた
- AI時代にはCSがFDEやデプロイメントストラテジストへ進化する動きがアメリカで見られる
- 日本でも営業とCSの境界が薄まり、既存顧客の価値提供に特化した役割が増えていくと見られる






