Clay Japan唯一の社員とは何者か
今回のゲストは、Clay JapanでGTM Repとカスタマーサポートを務める服部摩耶斗さんです。浜田さんは「知る人ぞ知る存在」と紹介します。
服部さんは、日本のGoToMarketの市場進出支援と、アメリカのエンタープライズ顧客のサポートを兼務しています。顧客にはAnthropic、OpenAI、Notionといった、海外で伸びているIT企業が名を連ねます。
日本でClayをこういう風に使ってみたいんだけどというご相談をいただければ、カスタマーサクセスのお仕事などもさせていただいております。
服部さんは、東アジア地域でただ一人のClay社員です。全体で約500名の社員がいるものの、アジアではインドを除いて服部さんしかいないといいます。
そもそもClayとは何をするツールなのか
Clayは創業7年目ほどの会社で、プロダクトとしてはGoToMarket ── 製品やサービスを市場に投入し、顧客に届けて売上をつくるまでの一連の活動や戦略。営業・マーケティング・カスタマーサクセスなど収益に関わる部門を横断する概念ですチームの成長のアイデアを実現するための「GTMインフラ基盤」と位置づけられています。
Clayの狙いは、営業やマーケティング、カスタマーサクセスといった収益に関わる担当者が持つ「これを使えば成長できそう」というアイデアを、ツール上で仕組み化することにあります。
Clayのツールを使って売上を上げるためのプロセスを仕組み化して、それを一個人の社員の方から全社員に波及させていただくことができるツールになっています。
浜田さんが「何かに例えられるか」と尋ねると、服部さんは創業者カリームさんの言葉を引きます。エンジニアにとってのIDE ── プログラムを書くための統合開発環境。コードを書く、実行する、修正するといった作業を一つの画面でまとめて行えるソフトウェアを指しますがプロダクトを作るものだとすれば、Clayはビジネスサイドで売上を作るツールだという説明です。
では、具体的に何を「作る」のか。服部さんは、営業の売上づくりのプロセスを3つのステップに整理します。
データを集める
リードやリードに関する情報など、必要なデータを集める
考える・仮説を立てる
どの顧客にどうアプローチすべきかを考え、仮説を立てる
実行する
立てた仮説を現場のアクションに落とし込んで動かす
このデータを集めて、考えて、動かすという3ステップを、Clayのプラットフォーム上で実現しているといいます。ファーストパーティーとサードパーティーのデータを統合したり、AIで処理したりして、SlackやCRM、ChatGPTなど現場の担当者に届く仕組みまで作るイメージです。
SaaSバブル後の数少ないユニコーンとその競合
浜田さんは海外セールステックを長く見てきた立場から、Gong、Outreach、SalesLoftなどが登場したSaaSバブル ── 2010年代後半から2020年代初頭にかけて、SaaS企業への投資と評価額が急拡大した時期を指す言い方。その後は市場が冷え込み、多くのセールステック企業が成長鈍化に直面しましたの後にできたセールステックのユニコーンは、ほぼClayだけだと指摘します。
そのうえで浜田さんは競合の有無を尋ねます。服部さんは、AIとワークフローとデータを統合するClayとまったく同じ動きをする会社は他にないと答えます。ただ、Clay導入のきっかけがデータのエンリッチメントであることが多いため、その入り口ではApolloやZoomInfoといったツールが競合になると説明します。
浜田さんは、自身のなかでのClayのイメージを「ZoomInfoキラー」だと語ります。ZoomInfoは売上こそ大きいものの株価が下がっており、使いやすくリーズナブルなClayが高額な企業データベースをディスラプトしているのではないか、という見立てです。
(ZoomInfoさんからの)乗り換えのケースは多いですね。
服部さんは、乗り換えの理由はコストだけではないと補足します。Clayは200以上のデータプロバイダーからデータを取り込めるため、自社でデータをソーシングするZoomInfoと違い、強みを持つプロバイダーごとに必要なデータを取得できる点を挙げます。
1件4円から──Clayのデータ調達モデル
浜田さんは、Clayのビジネスモデルで最初に「なるほど」と感じたのがデータ調達の仕組みだと語ります。
ZoomInfoのようなツールは、契約すればアメリカ中の数百万社のデータが使える代わりに、毎月数千ドルや1万ドルを払い続ける形が一般的だといいます。何社分のリストを作ったかは料金にほぼ関係しません。
一方Clayは、今アプローチしたい対象について複数のデータプロバイダーに問い合わせ、最新のデータを集めて、使った分のクレジットだけを払えばよい仕組みだと浜田さんは整理します。
そのコスト感を浜田さんが具体的に尋ねると、服部さんはコンタクトレベルのエンリッチメントで日本円にして1件あたり4円から8円ほどだと答えます。
浜田さんは、この単価をもとに試算してみせます。100社のCMOのメールと電話番号を、3つのデータプロバイダーから取得する場合を想定した計算です。
100社×3プロバイダーで300データポイント、そこに4円をかけて、最初におよそ1200円ほど。それで100社のターゲットパーソンの連絡先がそれなりに揃うかもしれない、という試算です。服部さんもこれに同意します。
(既存のデータベース業界からすると)これ結構やばいですよね。だいぶ革命的なサービスですね。
服部さんは、この背景にはClayの思想があると語ります。AIの時代には、良いデータを持っていること自体は競合優位性にならないという考え方です。
外部データが誰でも取れるようになり、データの価値が希薄化していくなかで、Clayが力点を置くのは、データを組み合わせて他社が作れない勝ち筋をどれだけ試行できるかという点だといいます。
浜田さんは、価値の源泉が「データ」から「データ×仮説を何回回せるか」へ移ったのがClayだ、と言い換えます。服部さんはさらに一歩進めて整理します。
データかける仮説かけるアクションですね。最終的にGTMのチームに仮説を実行するところまで落とし込みに行かないといけないので。
Clayはどこから生まれたのか
続いて話題はClayの生い立ちに移ります。創業者は、物理学を専攻していたカリーム・アミンさんです。
アイデアの起点は、営業やGoToMarketにおいて、顧客を見つけて成長させる仕組みを、プログラミングのようにツールで実装できないか、という発想だったといいます。売上を作るR&Dの仕組みをツール化する試みです。
カリームさんは実験好きで、まずデータのエンリッチメントツールを作り、それを創造性のある人たちに渡したら何が起きるかを試したといいます。そこで最初にフィットしたのが、コールドメールのアウトバウンドエージェンシーでした。
当時のコールドメール業界は、大量のリードに大量のメールを送ってコンバージョンを狙うのが主流でした。そこにClayが、ターゲットを絞ってパーソナライズしたメールを送れる仕組みを持ち込み、質の高いアプローチで差別化できるようになったことが最初のきっかけになったと服部さんは説明します。
浜田さんが、カリームさんの元々のバックグラウンドを尋ねると、服部さんはプロダクトのエンジニアサイドだったと答えます。今もClayは、エンジニア寄りのCEOと、ビジネスサイドでグロースを担うCOOという体制です。
本社はニューヨークにあります。浜田さんは、テック×AIの企業としては珍しいと指摘します。多くはサンフランシスコに集まるためです。服部さんによれば、これは戦略ではなく、たまたま創業者がニューヨークにいたことによるものだといいます。
(ニューヨークは)文化的にちょっとそういうアーティスティックな人が生まれやすいとかもあるかもしれないです。
浜田さんも、コンセプチュアルなClayは、シリコンバレーだけにいたら生まれなさそうなサービスだと応じます。HubSpotのボストンのように東海岸のサービスはあるものの、ニューヨークは珍しいという見方です。
資金調達と、健全な成長の両立
Clayの社員は約500名で、ニューヨークから始まり、シリコンバレーにオフィスを構え、今年3月にはヨーロッパへ進出しました。今はヨーロッパの営業組織を拡充している段階です。
浜田さんは、ベンチャーキャピタルの資金で急成長する組織かと尋ねます。服部さんは、資金調達もしているが、Clay自体が持続的な売上を立てている面も大きいと答えます。
浜田さんは、赤字を掘りながら伸びるのではなく、自力で売上を立てて大きくなっている健全な会社だと受け止めます。
資金調達の面では、昨年に評価額5億ドルで調達しています。株主には、Googleの親会社Alphabet傘下のキャピタルやOpenAIが名を連ね、初期のタイミングではセコイアキャピタル ── シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルの一つ。Apple、Google、NVIDIAなど多くの著名企業に初期投資してきた実績で知られますも出資しているといいます。
GTMエンジニアとは何をする人か
後半の本題は「GTMエンジニア」です。浜田さんは、この言葉は基本的にClayが作ったものだと認識していると述べます。日本でもLayerXがブログで採用に言及するなど、話題になり始めています。
Clayが提唱するGTMエンジニアとは何か。服部さんは、データとAIと業務プロセス、そしてGoToMarket全体のオペレーションを、一つのプロダクトのように捉える存在だと説明します。
各部門のファンクションを総合的に俯瞰的に捉えて、プロダクトサイクルのようにリーンに、AIとデータとワークフローを使って改善して、自社の売上を作る仕組みを作る方々ですね。
浜田さんは、「エンジニア」と書かれているが必ずしもプログラマーとは限らず、全体設計をする人のイメージが強いか、と確認します。
服部さんは、全体設計のシステム思考も必要だが、売上の成果に責任を持ち、実装まで自分でやる担当だと答えます。設計と実行の両方を兼ね備えている必要がある、という説明です。
エンジニアか営業か──GTMエンジニアの素養
浜田さんは、GTMエンジニアは「GTMがわかるエンジニア」なのか「エンジニアリングがわかるGTMの人」なのか、どちらのバックグラウンドが多いのかを尋ねます。
私の所感でいうと、ビジネスバックグラウンドの人が多いと思います。
服部さんによれば、海外でGTMエンジニアになっている人は、GTMのオペレーションやMOPS ── マーケティングオペレーションズの略。マーケティング活動を支えるツール、データ、業務プロセスを設計・運用し、施策を効率化する役割や部門を指します、グロースマーケターの出身者が多いといいます。学生時代にコンピューターサイエンスを学び、ビジネスサイドにいる人もアメリカでは珍しくないそうです。
実務ではAPIやWebhook、SQLの知識が必要になるものの、服部さんは、最初からこうしたハードスキルを持っている必要はないと語ります。
技術に対しても好奇心を持って貪欲に学べる、技術に対してもグロースマインドセットを持たれている方が、GTMエンジニアの適性が高いと思います。
加えて、どうすれば自社の売上が上がるのかを構造的に捉えて考えられることも、適性の条件だといいます。
浜田さんは、MOPSやRevOPSとGTMエンジニアの違いも尋ねます。服部さんは、あくまで独自解釈だと前置きしたうえで整理します。
自社組織のプロセスやオペレーションを効率化することにフォーカスする、いわば守りの役割。主にデータを使う
最適な顧客は誰で、どうアプローチすべきかの仮説を設計し売上を作る攻めの役割。外に向き、データとAIを使う
服部さんは、GTMエンジニアを「売上を創出するR&D部門のような存在」だと表現します。
最後に浜田さんは、GTMエンジニアの上司は誰なのかを尋ねます。Clay社内では、GTMオペレーションチームの上にCRO ── チーフレベニューオフィサーの略。営業・マーケティングなど収益に関わる部門を統括し、企業全体の売上に責任を持つ役職ですがいる形だといいます。一方で、Clayの顧客企業ではGTMエンジニアがマーケチームに所属するケースもあると服部さんは補足します。
前半はここで区切られます。浜田さんは、参加者の多くが「日本でどう使えるか」に関心を寄せていると触れ、Clayの日本での活用や事例は後半で扱うと予告します。
まとめ
前編では、Clayというツールの正体と、Clayが提唱する「GTMエンジニア」という職能の輪郭が語られました。良いデータを持つこと自体ではなく、データ・仮説・アクションを何度も試せることに価値を置くという思想が、ツールと職能の両方を貫いています。
- Clayは、データを集め・考え・実行するGTMの3ステップを仕組み化するGTMインフラ基盤である
- 200以上のデータプロバイダーから必要な分だけ取得でき、コンタクト1件4〜8円ほどでデータを調達できる
- Clayの価値は良いデータの保有ではなく、データ×仮説×アクションを何度試せるかにある
- GTMエンジニアはGTM全体をプロダクトのように捉え、設計から実装まで担い売上を作る職能である
- 多くはビジネスバックグラウンドで、ハードスキルより技術への好奇心と構造的思考が適性とされる




