そもそもGTM Engineerとは何か
今回のGrowth Radioで取り上げるのは、XのIT界隈でよく見かけるようになった「GTMエンジニア」という職種です。聞いたことはあるけれど、よくわかっていないという人がまだ多いテーマとして選ばれました。
そもそもGTMはGoToMarket ── どのセグメントの顧客をどう攻めるかを決める、市場参入の戦略設計。ターゲットの定義から、その相手にどうリーチするかまでを含みますの略です。清沢さんは、Sansanの上場前に事業企画の人が「GoToMarket戦略」という言葉を使っていたのを聞いて、そういう言葉があるのだと知ったと振り返ります。
浜田さんによると、GTMストラテジーは「この人たちがターゲットだ」と決めることと、その人たちにどうリーチするかを決めることを指します。以前のデマンドジェネレーション ── 見込み客の需要を掘り起こし、商談につながるリードを生み出すマーケティング活動の総称とそう変わらず、どこを攻めるかを含めて全体を設計する役割だと説明します。
このGTMエンジニアという概念は、以前この番組でも取り上げたClayという会社が定義した職種です。アメリカではすでにかなり広がっており、求人も数多く出ていると言われています。
基本、Clayが作った職種ですね。
売上をコーディングするとはどういう意味か
GTMエンジニアの定義について、浜田さんはまずClay自身の言葉を紹介します。ただ、その表現はかなり抽象的だと補足します。
Clay自身が言っているのは、「コードを書く代わりにレベニュー、つまり売上をコーディングする人」と。
売上をコーディングみたいな、すごい難しいこと言ってますけどね。
そこで浜田さんは、Clayがどんなサービスかから説明します。Clayは、何百万社ものデータが入った高額なデータベース、ZoomInfo ── 世界中の企業・担当者情報を保有する大規模な営業向けデータベースサービス。網羅性が高い一方で料金も高額とされますの競合になることが多いサービスです。
浜田さんによれば、ZoomInfoのようなデータベースは全データにアクセスできる代わりに月額100万円といった高額になりがちです。しかし実際の企業は、400万社すべてに行きたいわけではありません。
実際に欲しいのは、狙ったターゲット300社のキーマンのリストだけ、というケースが多いと浜田さんは言います。そこでClayでは、まず300社をリストアップし、そのキーマンのデータを安いデータベースに順番に聞きに行く形でリストを作れます。
この、1つずつデータソースに問い合わせてリストを組み上げるやり方をウォーターフォール式 ── 複数のデータソースに順番に問い合わせ、1つ目でヒットしなければ次へと進めて必要なデータを埋めていくデータ取得の方式と呼びます。1件あたりの単価が安いため、ZoomInfoを使うよりはるかに安くリストを作れる場合があると説明されます。
浜田さんは、こうした一連の設計を担う人こそがGTMエンジニアだとまとめます。ターゲットをどこにするか、どのデータベースに聞くか、その後のCRM連携といった後処理まで、すべてを設計する役割です。
戦略とエンジニアリング、両方の知識が要る仕事
清沢さんは、GTMエンジニアには戦略要素も必要だと指摘します。単にデータを集めるだけでなく、どこを狙うかという上位の判断も含まれるためです。
浜田さんは、必要なスキルを2つに整理します。1つは、どのリストを作るかを定義すること。これは営業やプロダクトマーケと一緒に進める作業です。
もう1つは、CRMのデータ構造を理解していることです。どこにどんな定義でデータを入れれば営業が実際に使ってくれるかまで理解している必要があると浜田さんは言います。
清沢さんが「そういう人はどこにいるのか」と問うと、浜田さんも、実際なかなかいないと認めます。一方で、ここ2、3年話題のRevOps ── Revenue Operationsの略。営業・マーケ・カスタマーサクセスにまたがる収益の仕組みを、データやツールで支え、最適化する役割とスキルセットはそう変わらないとも指摘します。
浜田さんによると、GTMエンジニアはRevOpsより戦略的な役割がある一方で、スキルセット自体は近いといいます。実際には、RevOpsやMarOps(マーケティングオペレーション)をやっている人がGTMエンジニアを兼ねるケースが多いそうです。
Clayがノーコードで民主化した領域
清沢さんは、スキルセットとしてSQLやPython、データ分析の初歩、API理解、さらにSalesforceのアドミンができれば強いと挙げます。
これに対し浜田さんは、Clayのようなツールを使えばSQLやPythonがなくてもフローを組めると答えます。Clay上には自然言語で指示するとキャンペーンを作れるエージェント機能もあり、マーケ側の知識さえあればできる仕事ではないかと話します。
清沢さんは、Clayがこの領域を民主化したと表現します。ノーコードで必要なデータにアクセスでき、購買シグナルの検知やエンリッチまで、すべてClay上でできてしまうためです。
購買シグナルを捉え、集まったリードに企業規模や業種といった情報を肉付けし、ロジックを作って最後のアクションまで設計する。清沢さんはこの流れが大事だとまとめます。
浜田さんは、Clayではそのままメール配信までできてしまう一方で、一番大事なのはちゃんとCRMのデータに落とし込むことだと強調します。ターゲット企業に営業できる状態にする人、という印象が強いと語ります。
清沢さんは、組織や顧客規模が上がるほど難易度も上がりそうだと指摘します。複数事業部やクロスセルが多い企業では、そもそもSalesforceのデータが正規化できていない問題もあり、そちらのほうが難しいと2人は話します。
RevOpsとの違いと、GTM Engineerが向く先
「結局RevOpsなのでは」という見方に対し、清沢さんはアメリカのメディアの分析を紹介します。GTMエンジニアの求人を調べると、責任範囲10項目のうち9項目はRevOpsと重なっていたそうです。
その一方で、清沢さんはGTMエンジニアは未来に向いている職種だと考えています。RevOpsが安定的にオペレーションを回す仕事だとすれば、GTMエンジニアはもう少し手前にあると整理します。
RevOpsは回ってる車輪を回し続ける仕事という感じで、GTMエンジニアはもう少し手前側にある印象がありますよね。
清沢さんは、市場の一歩先を行くために新しいものを作る発想や役割も必要だと補足します。
すでに回っている仕組みを、安定して回し続けるオペレーションの役割
戦略の手前で、市場の一歩先を行く新しい仕組みを作る役割
GTM Engineerはどう生まれたのか
GTMエンジニアがどう生まれたかについて、清沢さんはClay自体の急成長を背景に挙げます。Clayが伸び始めたのは2023年ごろからだと浜田さんは説明します。
浜田さんによると、Clayを活用する人としてGTMエンジニアが話題になり始めたのは2023年後半からです。『The Rise of GTM Engineers』という記事が2024年11月に出たことから、アメリカでもまだ1年半ほどの新しい概念かもしれないと語られます。
Clayの社内の人がいろいろClayをうまく使ってやってて、これなんかうまく打ち出したいねって言って、GTMエンジニアってなったって感じですね。
清沢さんによれば、Clayは2025年8月にシリーズCの調達を行い、AI GTMリーダーとしてカテゴリー創造を進めています。職種そのものを定義できることに、清沢さんは「かっこいい」と感想を述べます。
浜田さんは、カスタマーサクセスも同じような例だと挙げます。清沢さんは、元々はSalesforceがやっていたことを、GainSight ── カスタマーサクセス向けのツールを提供する企業。カスタマーサクセスを1つの職種・概念として世界的に押し上げた存在とされますがカスタマーサクセスという職種として世界基準に押し上げたと補足します。
なぜ今、日本でも注目されるのか
清沢さんは、GTMエンジニアが日本でも注目され始めた理由に話を移します。XでもよくGTMエンジニアという言葉を見るようになったと、2人は実感を語ります。
浜田さんは、理由の1つにコスト面を挙げます。調達環境が変わるなかで効率的に動く必要が高まり、的を絞っていいデータを作ることの重要性が増したためです。
もう1つは、さらに一歩先の変化です。以前はデータベースを綺麗にするところまでがGTMエンジニアの仕事でしたが、今ではAIを活用したアウトリーチもかなりできるようになっていると浜田さんは説明します。
この期待値があるため、採用が増えているのではないかと浜田さんは見ています。清沢さんは、いろいろな要素が絡み合ってこのタイミングで市場が盛り上がってきたのだと整理します。
成功例として、清沢さんはVercelを挙げます。浜田さんによれば、SaaStr ── 世界最大級のSaaS業界向けカンファレンス/コミュニティ。最新の経営・営業・マーケの知見が集まる場として知られますでも、AIでどれだけ効率化したかがテーマになり、Vercel、Anthropic、SaaStr自身などが発表していたそうです。
発表の多くはSDRの自動化がテーマで、それを仕掛けているのがGTMエンジニアだと浜田さんは言います。Vercelは10人が1人になったという話もあり、SaaStrでも話題のセッションだったと振り返ります。
GTM Engineerが向く企業と人
最後に、GTMエンジニアが向く企業と人について話が進みます。浜田さんは、GTMエンジニアは効率化の仕事なので、ある程度裾野が広い方がいいという印象を語ります。
浜田さんによると、超エンタープライズよりも、ターゲットが数千〜数万社あるミッドマーケット以下が向くといいます。そこにどれだけ効率的にアウトリーチするかがポイントになるためです。
フェーズについて浜田さんは、PMF ── プロダクトマーケットフィット。商品やサービスが市場に受け入れられ、確かな需要を捉えられている状態を指します前はリファラルや数社に絞った売り方が中心だと指摘します。むしろPMFして伸ばしていく段階で効率化が効くため、シリーズA以降が一番フィットするのではないかと話します。
清沢さんは、ある程度CRMが機能し始め、実験ができるようになったフェーズや文化も条件になりそうだと補足します。
向く人については、浜田さんはまずスキルセットがそのまま当てはまるマーケティングオプスの人を挙げます。CRMの構造も企業データの扱い方もわかっているためです。
もう1つは、インサイドセールスそのものだと浜田さんは言います。自身のnoteでも、インサイドセールスの次のキャリアとしてBDR型になるか、AIを使いこなしてSDRを自動化するGTMエンジニアになるかを書いたと紹介します。
SDRは、ターゲットの設定や購買のタイミングキャッチを日々自分でやっている人たちです。それをAIにやらせたらどうなるかを考えるだけでよいという意味で、インサイドセールスからGTMエンジニアへの移行はフィット感があると浜田さんは語ります。
清沢さんは、業務の現場感を理解しつつ、テクノロジーへの抵抗感がない人が合うとまとめます。さらにClayのガイドや求人票を見ると、実験気質が非常に大事だという共通項があると指摘します。
清沢さんによれば、ClayのGTMエンジニアには元起業家や元投資家、プロダクトマーケターやグロースマーケターが多いそうです。まず触ってみたい、まず試してみたいというフットワークの軽さと、スピーディーにPDCAを回して学習できることが向いていると話します。
公開収録第2弾はClay日本社員が登壇
最後に浜田さんから告知がありました。Growth Radioの公開収録は初回に続き、第2回の開催が決まっています。
第2回は7月14日の開催で、Clay日本の唯一の社員である服部さんが登壇します。今回さんざんGTMエンジニアを語ってきたが、本当は何なのかを第一人者の目線で語ってもらう回になると浜田さんは話します。
清沢さんは、Clayの日本人社員の話を聞ける機会はなかなかないレアな回だと紹介します。詳細は概要欄やX、社内のメールマガで案内されるとのことです。
まとめ
GTMエンジニアは、Clayが定義したAI時代の新職種で、ターゲットの定義からデータ取得、CRMへの落とし込み、アウトリーチまでを設計する役割です。RevOpsと重なる部分は多いものの、市場の一歩先を作る立ち位置と、AIによるSDR自動化への期待が、いま注目を集める理由になっています。
- GTMエンジニアは「売上をコーディングする人」で、マーケの知識とエンジニアリングの知識の両方が必要
- Clayがノーコードでデータ取得やアウトリーチを民主化し、マーケ側の知識があれば担える仕事になりつつある
- 責任範囲はRevOpsと大きく重なるが、GTMエンジニアはより手前で新しい仕組みを作る未来志向の役割
- ミッドマーケット以下でPMF後のシリーズA以降が最もフィットしやすい
- マーケオプスやインサイドセールス出身で、実験気質とフットワークの軽さを持つ人が向く







