公開収録第一回、ゲストはビジネスMC富家翔平
Growth Radioにとって初めての公開収録に、株式会社AiKAGIの代表でビジネスMCの富家翔平さんが登場しました。普段はホスト2人で収録している番組が、リアルの場に踏み出した回です。
富家さんは、これまでBtoBマーケターとして10年ほど活動してきましたが、その肩書きを引退し、2025年4月からビジネスMCへ専念していると話します。
ビジネスイベントとかビジネスコンテンツの専業のモデレーターですね。として今活動しております。
今回のテーマは「なぜBtoBイベントは退屈になるのか」です。富家さんは冒頭から、このセッション自体が退屈だったら本末転倒だと、会場に笑いや拍手を促しました。
マーケター引退の宣言は、Xでも反響を呼んだといいます。
大きなものを掴もうと思うと、これまで今まで一番大事にしてたものを捨てるところからでしょうということで。捨てました。
浜田さんは、AIであらゆるものが自動化する中で「会う価値」やイベントの重要性が語られる一方、そのイベントが本当に価値あるものになっているか、という問いこそ重要だと位置づけました。
退屈の正体は「情報不足」ではなく「感情不足」
浜田さんが「イベントは大体退屈では」と切り出すと、富家さんは体感で8割ほどは退屈だと応じます。その原因を、情報ではなく感情に見立てました。
富家さんによれば、情報に感情が乗ることで、初めて一次情報としての価値が上がり、聞いて楽しいものになります。伝えている側が楽しそうに喋っているイベントに出会える確率は、2割もないといいます。
自分が5、6年ほど登壇の場に呼ばれてきた理由も、いいことを言っているからではなく、楽しそうに喋っているからだと富家さんは振り返ります。だから際立ち、目立ちやすかったのだと分析しました。
ただし、感情だけを出せばいいわけではないと釘を刺します。感情が暴走した登壇者に出会うことも多いといいます。
- 言葉が荒いだけで、荒ければいいと思っている人
- 面白くない冗談を擦り続ける人
- テンションだけで場を誤魔化す人
- 過激さのために他者を過度に攻撃し始める人
感情はあくまで免罪符にしてはいけない、と富家さんは整理します。情報に感情が乗った一次情報をどれだけ提供できるかが、良し悪しの分岐点だと話しました。
楽しそうに話す技術と、感情を引き出す問い
浜田さんが、楽しそうに話すのは天性か技術かと尋ねると、富家さんは即座に「技術」だと答えました。普段はむしろ静かで、飲み会の後は改札を抜けた瞬間にイヤホンをつけて無言で帰るほどだといいます。
家でもほとんど妻とも会話をしないですし、飲み会では楽しかったです、ありがとうございましたって言った後に改札くぐったらもう瞬殺。
富家さんは、ビジネスの場で感情を出すのは御法度だと教育されてきた人が多いと指摘します。だからこそ、これからは適度に感情を外に出せるかどうかがポイントになると話しました。
企画側にとって重要なのは、登壇者の感情をいかに引き出す問いを投げられるかだと富家さんは言います。成功事例を聞くときも、何をして何の成果が出たかだけでなく、その時何ができて何が嬉しかったのか、何が悔しかったのかを尋ねるべきだと具体例を挙げました。
浜田さんはこれを「自分を主語にした回答を引き出すこと」と言い換え、富家さんもうなずきました。
この考え方の背景には、AIの登場があります。かつては情報そのものに価値があり、退屈でもその場にいる必要がありました。しかし今は、AIに問いを投げれば欲しい形で情報が返ってきます。
だからこそ、感情を交えて楽しそうに喋る様子を見て自分も楽しいと感じられなければ、そもそも足を運ぶ理由がなくなっていると富家さんは言います。わざわざアクセスする必要がなくなっているという危機感です。
これはテキストのコンテンツでも同じだといいます。かつては何万文字もの構造化されたガイドに価値がありましたが、今は短くても一人称目線で切り取られたコンテンツのほうが価値が上がっている、という対比で説明しました。
皆さん情報が欲しいんじゃなくて、何かその人のその手触り、肌感みたいな、そういうのを欲しがってるなっていう感じはしますね。
ビジネスMCという、ありそうでなかった職能
浜田さんが「ビジネスMCという肩書きはあったようでなかった」と話すと、富家さんは今検索しても自分のnoteやサイトしか出てこないと答えます。新しいカテゴリーを作ろうと挑戦している最中だといいます。
背景には、PIVOTやReHacQといったビジネスコンテンツがYouTubeに増え、話す人の話を聞きたいという需要が一気に高まっていることがあります。しかし、その需要に対して供給が足りていないと富家さんは指摘します。
現状、MCと呼ばれる人の多くは、アナウンサーからフリーに転身した人だといいます。一方、ビジネスイベントのモデレーターは、普段は実務をしていて教育も受けていない人が、見よう見まねで引き受けているケースがほとんどだと富家さんは説明しました。
アナウンサー出身で話すプロだが、ビジネスの解像度は必ずしも高くない
ドメイン知識は豊富だが、モデレーターの教育を受けておらず見よう見まね
富家さんの強みは、ビジネスの解像度が高く、モデレーター経験も豊富という2つを併せ持つ点にあります。そういう人材が市場にほとんどいないタイミングで、ビジネスMCを名乗り始めたのだと語りました。
需要が高まっているおかげで依頼は途切れず、この日も朝から3本目の収録だといいます。タレントのようなスケジュール感になりつつも、事務所には所属せず、ギャラ交渉まで自分で担っていると明かしました。
企画から当日運営まで、ビジネスMCの仕事の範囲
浜田さんが、富家さんに依頼するとどこからどこまでやってくれるのかと尋ねます。富家さんは、事前の企画から当日の台本作り、当日の運営まで全部やると答えました。
むしろバリューを発揮しにくいのは、企画も台本もすべて決まっていて「進行だけお願いします」というケースだといいます。介在価値が最も低くなる場面だと富家さんは話しました。
一番の強みは、事前準備にかける時間だと富家さんは言います。取材相手の最近の発信やラジオを聴き込み、その人が今言いたいことや人間性を探ったうえで中身を作るといいます。
浜田さんそうやって言ってますけど、なんか失敗したことだってあるはずですよね。例えばこんなこと教えてくださいよみたいなのは、キャラクターも含めて踏み込んでいかないといけない。
一方で、ビジネスMCがいらないケースもあると富家さんは正直に整理しました。
- 一人で話し慣れている登壇者のとき
- 台本がかっちり決まっていて、その通りに進める必要があるとき
- そもそも企画自体がイケていないとき
逆に活きるのは、パネルや対談形式で、登壇者に熱量や情報はあるが話すプロではない場面です。経営者や事業責任者が思いはあってもうまく構成できないとき、話し相手がいるだけで場がまとまると富家さんは説明しました。
じゃんけん大会から事例大会まで、依頼者が買っているもの
イベントと言ってもセミナー、カンファレンス、ウェビナー、さらに社内イベントまで幅広くあります。富家さんは、夜のイベントのじゃんけん大会まで引き受けたことがあると笑いを誘いました。
総合MCとして全体を回す仕事もあれば、複数セッションのモデレーターを兼ねる仕事もあるといいます。中でも多いのが、対談経験のない顧客を招いた事例大会で「不安だからお願いします」という依頼だと富家さんは話します。
社内では、モデレーター役が罰ゲームのように持ち回りで割り振られ、皆が出たがらないことも多いといいます。そうした場面で「じゃあ富家さんお願いします」という依頼が増えているのだそうです。
なぜ退屈になるのか、BtoBイベントの構造的な2つの課題
浜田さんが、熱量の高いイベントにしたいときの一手が富家さんなのかと確認すると、富家さんはそもそもBtoBイベントが退屈になる構造を無視してはいけないと切り出しました。
1つ目の課題は、キャスティングの基準です。多くの企画は肩書きや企業名、タイトルとのマッチで登壇者を選びますが、本来あるべき「熱量」という基準が劣後しがちだと富家さんは指摘します。
熱量で登壇者を探そうとしても、熱量を持って話せる人と企画サイドが接点を持てない、という構造的な空白があるといいます。共催もドメインマッチで組まれがちで、価値を届ける核である登壇者を熱量で選べていないと富家さんは話しました。
2つ目の課題は、話す力へのフィードバックや教育の機会がないことです。海外ではパブリックスピーキング ── 人前で話すスキルのこと。欧米では教育やビジネスで重視される要素とされ、話し方そのものが独立した技能として扱われますが重要視されますが、日本では会社の代表が話し方を教わらないまま外に送り出されている、と富家さんは言います。
キャスティング
熱量ではなく肩書き・企業名・タイトルで登壇者を選ぶ
教育の欠如
話し方を教わらないまま登壇者が送り出される
結果
情報に感情が乗らず、退屈なイベントになる
なお富家さん自身も、話し方の研修依頼をすでに受けていると明かしました。ただ、自分は人前で声が出ない人の気持ちがわからないかもしれず、教えられるものになるかは検証中だと率直に語っています。
話せない人の気持ちわからないとか教えられないとか真似できないんじゃないですかって。
登壇者は熱量で選ぶべきか、企画側が磨くべき解像度
浜田さんが、登壇者は熱量を持って喋れるかで選ぶべきなのかと踏み込みます。富家さんは、基本は熱量で選ぶべきだとしつつ、企画を成立させるロゴパワーや肩書きのマッチも現実には必要だと答えました。
そのうえで富家さんは、企画側が問い直すべき前提を挙げます。想定する来場者が何を聞きたいのかを、どれだけ解像度高く登壇者に伝えられているか、という点です。
BtoBは、普通に仕事をしているだけでは商材理解や顧客理解がどんどん遠のいていく市場だと富家さんは言います。だから「どんな人が来るのか」を役職や業界のグラフでは語れても、具体的に何を知りたくて来るのかは答えられないことが多いと指摘しました。
その結果、話す人も誰に向けて話していいかわからないまま登壇してしまう状態が生まれると富家さんは語りました。
熱量あるイベントのKPIは「登壇者の笑顔の総量」
浜田さんが、熱量の高いイベントができると成果として何が変わるのか、満足度なのか受注なのかと尋ねます。富家さんの答えは明快でした。
楽しそうに話している人の話は楽しい、というのがその理由です。富家さんは、それがビジネスの成果につながるのかという問いを逆から考えるべきだと言います。
そもそも退屈だったなって思わせている時点で、コミュニケーションは絶対届いてないですよ。
楽しかったという体験は、もはやオプションではなく、ビジネスが成立する前提条件になっていると富家さんは位置づけます。これはイベントに限らず、商談や会議も同じだといいます。
さらに富家さんは、これからの時代のキーワードとしてモチベーション ── 目標に対して、達成すればインセンティブがあるから頑張ろうという、目標への意欲を指す考え方とエンゲージメント ── どこに属し、何のために頑張るのかが腹落ちして生まれる帰属意識。目標への意欲であるモチベーションと対比される考え方を対比しました。
情報や体感が世の中に出回りすぎ、モチベーションだけでは人をマネジメントできなくなっていると富家さんは言います。だからこそ、楽しい時間を作りながら真面目に仕事に向かうバランスが、イベント以外の場面でも前提条件になりつつあると語りました。
一番難しいウェビナーで、どう熱量を作るか
浜田さんが、リードを集めやすい一方で熱量を作りにくいウェビナーについて尋ねます。富家さんは、ウェビナーは確かに難しいとしつつ、意外な見方を示しました。
ウェビナーは参加者のリアクションが見えないため、究極的には自分自身を騙せば楽しそうに話し続けられる、という点でむしろ有利だといいます。リアルの場では、聴衆が携帯を触っていると話し手のテンションが下がってしまうためです。
ウェビナーそのシーンは見れないので、究極ウェビナーが一番難易度が低いんじゃないかなと僕はちょっと思ったりはします。
一方で富家さんは、集めることに企業のインセンティブが向く力学も指摘します。スポンサーがつくイベントでは、提供するリードの数が評価されるため、当日の体験価値まで発想が回りにくいといいます。
集めることを優先すると、コンテンツが最大公約数を意識し始めます。テーマが抽象的になり、想定視聴者もバラバラになり、誰に向けて熱意を持って話せばいいかがふわふわする、という悪循環に陥ると富家さんは説明しました。
だから誰に向けて熱意を持って話せばいいのかがふわふわしがちになると、全員が不幸っていうのが今起こってることかなと思いますね。
明日から見直せる、感情を引き出す問いの立て方
浜田さんが、マーケターが明日オフィスで何を見直せばいいかと尋ねると、富家さんは問いの立て方を挙げました。どういう質問をすればこの人の感情を引き出せるか、という観点でセッションテーマを決めてほしいと話します。
具体例として、成功事例を聞くときに「何をしたんですか」ではなく「なぜそもそもそんなことを社内で始めたんですか」と尋ねる違いを挙げました。後者のほうが感情が乗り、その人自身の話に踏み込めるといいます。
さらに「最初のハードルになったのは誰か、どういうことか」と重ねると、上司との関係などその人の景色が引き出されていきます。富家さんは、情報ではなくその両目から見えている景色を引き出すことが大切だと語りました。
見えている景色を引き出すと、聞いてる人も頭の中でイメージができるようになってくるので、話が中に入ってくるっていうのがあるんですよ。
浜田さんは、ビジネスMCとは何か、イベントはなぜ退屈になるのか、それを熱量の高いイベントにするにはというテーマを振り返り、前編を締めくくりました。後編ではよりカジュアルな話へと続きます。
まとめ
BtoBイベントが退屈になるのは、情報ではなく感情が足りていないから――ビジネスMC富家翔平さんは、AIが情報を担う時代に人が集まる意味を「感情の乗った一次情報」に見出します。企画側の解像度と問いの立て方が、その熱量を左右すると語られた前編でした。
- イベントの退屈さは情報不足ではなく感情不足であり、情報に感情が乗って初めて一次情報の価値が生まれる
- ビジネスMCは、ビジネスの解像度とモデレーター経験を併せ持ち、企画・台本・当日運営まで担う新しい職能
- 退屈の構造は、熱量ではなく肩書きで選ぶキャスティングと、話し方を教育しないまま登壇者を送り出す点にある
- 熱量あるイベントのKPIは「登壇者の笑顔の総量」であり、楽しかった体験はビジネス成立の前提条件になっている
- 明日からできる一歩は、「何をしたか」ではなく「なぜ始めたか」を問い、その人の見ている景色を引き出す問いを設計すること




